20年くらい前に私が会社勤めをしていたころ「あの人は技術に関しては外さないからねー」というような話を同僚としたことがある。最近、企業内でこういう話がされているのだろうかと感じている。
どういう場面でこの話をしたかというと、これを言ったのは同僚で「ある人」の意見が今一つ腹落ちしていないのだけれど、過去の実績から外れていることは少ない、という意味合いで使われていた。私も同意した。私自身の専門技術分野からは若干ずれた分野だったので自分では判断できなかったが「あの人」の言うことは信用してよいだろうと感じていた。自分の専門分野では周囲の人にこう言われたいものだと思っていた。
何気ない言葉だが結構重要な意味合いを含んでいると思う。まず、「外さない」というのは「詳しい」というのとは違う。「技術に詳しい」人は結構たくさんいるのだが、大部分の人たちは現状どうなっているかについて詳しいのであって、将来どうなっていくかについてはあまり読めない。「外さない」というのは先が読めて、その読みが当たるだろうと信用されているということである。
「技術に関しては」というのも重要だと思う。できる人だが、その人の意見を全面的に受け入れるわけでは無い。技術的洞察力が優れていると評価していて、その部分を信用している、ということである。日本社会では「誰かに付いて行く」と決めるとその人の言うことを何でも受け入れる、というような風土があるが、万能の人はめったにいない。優れている部分を見つけ出し、その分野では信用する、というような姿勢が重要だと思う。
カリスマ経営者と言われる人はこういった人の能力を見抜く眼が優れていて、「この分野ではこの人」と決めて、意見を聞き、判断をしているので短時間に次々と決断をしていくことができるのだろうと思っている。CTOとかCFOとかいう言葉は、そういった人物を探し出して任命することを意味していると思うが、日本では組織として探し出す仕組みはできておらず、適任者がいなくても役職の一つとなって、誰かをその業務に割り当てるということになっていると思う。
洞察力のある人を見抜くことも重要だが育成することも重要である。そのためには、普段から将来どうなるかについて意見を戦わせることが大切である。意見を言いにくいような企業風土は論外だが、言いやすい風土でも目先の議論はしても少し遠い先のことになるとあまり議論しないし、議論したとしても後になると忘れてしまうことが多い。日本では部下が上司の見識を知る機会は結構あるが上司が部下の見識を知るチャンスは少ないように思う。これを意識して引き出すようにする必要があるだろうと思っている。
現状では個人の経営者で部下の能力を見抜く眼を持っている人がたまにいて、その時はうまく機能するが、経営者が変わるとCTOなどは形骸化することが多い様に感じている。