オリンピックが終わった。厳密にはほぼ終わったというべきだが・・。普段は見ないようなカーリングやスノーボード、ノルディックスキー等の競技を見て楽しんだ。日本選手も私の予想以上に活躍した。特に、スノーボードの大回転で銀メダルを取った竹内智香選手は私は当日競技の模様がテレビで放映されるまで全く知らなかったし、スノーボード大回転という競技がオリンピック種目にあることすら知らなかった。事前の下馬評でも金メダル候補とは言われていなかったと思うが、実力は世界2位でいつも優勝した選手に決勝で負けていたようである。ワールドランキング第2位の強豪だった。
この競技は初めて見たが、二人並行して走る、しかも2本目はコースを入れ替えてリードした選手はリードタイム分だけ早くスタートするというやり方なので2本目の最後に這う悪ゴールしたほうが勝ち、という分かりやすさも魅力だし、技術も比較しながら見られるので気に入った。これから日本でもやる人が増えるだろうと思う。
今回、私が見た中でのベストシーンを上げてみよう。コンテンツ的にはスノーボードのハーフパイプの平野歩夢選手の演技である。カメラアングルの関係もあるのだろうが、青空にふわりと浮いた姿に「高い」と感じ、くるくると回転した姿に「凄い」と感じた。決勝の1本目でトップだったのが2本目に他の選手が次々と自分の最高点を超えたの見て、自分でも本番でやるのは初めてという大技に挑戦して成功させるあたり、あっぱれな若者、という感じを持った。
コンテクスト的にはスキージャンプの葛西紀明選手の試合後のインタビューである。飛距離ではトップを奪いながら惜しくも銀メダルだったラージヒルでは悔しさを「新たな目標ができた」と表現した。最年長の選手の発言に皆が驚いた。そして団体で銅メダルを取った時に個人の時はあれほど冷静だった彼が言葉を詰まらせ涙ぐんだのには驚いた。後で知ったのだが竹内選手は難病を抱えており、伊東選手はひざの痛みに悩まされていた。傷だらけのジャンプ陣でそれを押し隠してベストを尽くした若者たちに「俺がメダルを取らせる」という気持ちで大ジャンプを行い銅メダルが取れた。その気持ちが素直に表れていて見ているこちらも感動した。最初は背景を知らなかったので特に何も思わなかったが、背景を知って繰り返し放送されるたびに感動が伝わってきた。
選手が頑張ったのに対して、私がちょっと気にしているのは開会前のメダル予想である。期待と予想がごっちゃになって開会直前には金メダル5個とか7個とかいう予想になっていく。実際は金メダルの可能性のある競技が5個とか7個とかいう話で、本当にそんなに取れると思っている人はほとんどいなかったと思うが、マスコミは景気の良いほうの話にどんどんシフトしていく。スポーツ評論家などは内心は「そんなに取れるわけはない」と思いながらも否定的な意見は言えないような雰囲気は作り出されていく。これは危険な兆候ではないだろうか。過去に日本が危険な方向に突っ走っていった時を連想してしまう。結果は金メダル1個、メダル全体で8個でよくやったと思っている。
「たかがスポーツの予想で目くじら立てることはない」と言われればその通りなのだが、私はやはり、いろいろな意見が出ていて、産経は金7個の予想、朝日は金1個の予想、といったように予想がばらけて、後で振り返ってどの予想があっていたかを話題にするくらいのほうが健全だと思う。
ユリウスカエサルは「人は見たいものしか見ようとしない」と言い、孫子は「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言っている。正しい状況認識を語れないような雰囲気は抑えるべきだと思う。
数か月後にはサッカーのワールドカップがある。ここでも誰かが「日本は優勝だあ」と言ったら、一気に予想が優勝に流れるのではなく、「ベスト8で上出来」といった冷静な意見が最後まで残ることを期待したい。