ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

若者が高い能力を存分に発揮するには 第5回 個人の取れる行動

2019-10-28 10:32:35 | 社会

今回は、若者が経済の中心になる時代に個人の取るべき行動について考えてみる。トップ人材の若返りの話題は今回で打ち止めにするつもりである。

企業の幹部は前回書いたような企業を若返らせて競争力を高める行動が必要だが、一般会社員は自分の将来を考えてどういう行動をとるかを考えることになる。世の中はそんなに急には変わらないだろうから、現在、50歳以上の人は今から新しい人生設計をするよりも、今見えているモデルをどう微調整するかを考えることになるだろう。40歳くらいの人は、終身雇用制が崩れることを意識するべきだと思う。

政府は定年を延長する方向だが、個人で見ると収入がピークとなる年齢が下がってくる。現在、55歳くらいが収入のピークなのが50歳になり、45歳になり、と若返る。つまり早い段階から年収が減り始める、ということが起こると私は思っている。日本企業は能力や業績を評価して給与を下げる、というようなことが苦手なので、一定年齢になると自動的に給与を下げる、というような逆年功序列制を取る企業が増えるものと思われる。HuaweiやSamsungはそのような体制になっているようである。

そこで「どこまで現在勤務している企業に付いて行くか」は40歳くらいの人は考えておく必要があるだろう。20歳くらいの人は自分のキャリア設計をどうするかについて親の世代とはかなり異なる考え方をする必要が出てくると思う。

今年の夏、囲碁プロ棋士の坂井秀至八段(46歳)が、9月から無期限休業すると宣言した。坂井氏は京都大学の医学部を出て医師免許取得後に、囲碁のプロ棋士になった人で、今後、囲碁棋士としての活躍の場は減る一方だと考え、医師としてのキャリアを目指すという。大学を卒業してからプロ棋士になった人はかなりの人数いるが、坂井氏はその中では最も囲碁棋士として強い棋士になった。プロの囲碁棋士で坂井氏ほどの実績を上げた人が囲碁棋士を止めて別の道を目指すというのははじめてだと思う。他の棋士は勝てなくなっても囲碁の指導や普及と言った囲碁に関わることで生計を立て続けている。

棋士としてのピークの年齢が若くなると今後は坂井氏のようなキャリアを歩む人が増えてくるのではないかと思う。9月15日の記事で、現在の日本の棋士のベスト3は井山、一力、芝野の3氏だと書いたが、私は一力氏は坂井氏のようなキャリアを歩む可能性があると思っている。井山氏と芝野氏は囲碁一筋、という感じだが、一力氏はプロ棋士になった後で早稲田大学に進学しており、現在もまだ大学生である。中国のトップ棋士も彼らの中から実業界で活躍するような人が出てくるのではないかと思っている。

今回の一連の記事はトップになる人材について書いたものである。どんな分野でもトップになれるのはごく一部の人なので、目指したけれども途中であきらめる人が普通である。20代歳である分野のトップを目指したとしても大部分の人は成功せずに別の道で生きる必要が出てくる。その意味で新しいことにチャレンジする気持ちをいくつになっても失わないことが非常に重要になるだろう。

個人の哲学で最初から企業のトップを目指さないで特定分野のエキスパートを目指す人も多いだろう。但し、どの分野がAIに負けずに長持ちするかは良く考えておく必要がある。巷で言われている「単純労働はAIに負けるが、複雑な仕事は負けない」は間違っていると私は考えている。

現在の社長の談話などで「経営者を目指してはいなかったのだが、頑張っているうちに気が付いたらトップになっていた」というような話が時々出るが、このような事例は今後激減するだろうと思う。



若者が高い能力を存分に発揮するには 第4回 企業の取れる行動

2019-10-25 08:32:20 | 社会

今回は高い能力を持つ若い人物をトップに据えるために企業の取れる行動について考察してみる。

一番自然な手法は20歳代の若者が起業した企業が大きくなって世界的な存在感を持つような大企業に成長することである。米国のGAFAや中国のBATやHuaweiなどはこのパタンで、殆どの従業員は起業者よりも若く、トップが20歳代、30歳代でも社内的には何の軋轢もない。GAFAやBATに関しては起業家が高齢者に差し掛かってくる時期に来ており、活力が失われて他の会社に負けていくのか、何らかの手法で活力を維持していくのかが今後重要な問題となっていくだろう。

良く知られているように日本ではこのような若い起業家が作った企業が急速に大きくなっていくことができない。それは日本社会では主に高齢者が牛耳っている抵抗勢力が政府の委員会などを抑えており、新しいビジネスモデルを受け入れ難い社会になっている点が本質だと私は認識している。人工知能のプリファードネットワークスなどはアメリカや中国なら既に大企業になっていただろうが、日本の企業なのでいまだにベンチャー企業である。

しかし、トップの若返りによってパフォーマンスが上がるのなら、個別企業でもその手法を採用したところは業績が上がるはずである。以下では、現在高齢者が牛耳っている日本の大企業がどうしたらトップを若返らせることができるのかについて考察する。

・職位と個人の価値の分離
日本の企業では職位が上の人を「偉い人」と呼び、あたかもその人が全人格的に上位にあるように扱う雰囲気がある。これを「職位は単なる企業内の役割」と認識する風土を育成する必要があると思う。「さん」付けでお互いを呼び合うなどがまず手を付けるべきことだと思う。

・合議制の人事評価
もう一つ重要だと思うのは人事評価を必ず合議制で行うことである。会社員である以上、人事評価は極めて重要で、それを特定の個人に握られているとどうしても頭が上がらなくなる。私の経験では多くの日本企業で若い人の評価は合議制で決めているのだが職位が上がるにつれて合議制が少なくなり、次期社長の指名などは現社長が決めることが多いように思う。そうなると「能力」よりも「態度」が重視されることが増えてしまう。

・トップとしての能力評価
トップ人事を決めるには実績よりも能力評価が重要である。実績はどのような分野を担当しているかという運に左右される面が大きいので、そうではなく「どのような判断をしたか」を見てその人の能力を評価すべきである。それも一人の評価ではなく複数の人が「あの人は能力が高い」と評価するような人がトップとして選出されるような仕組みが必要である。そのための仕組みとして私は「合宿」が有効であると思っている。社長を選ぶには年に2回程度の役員合宿を行って議論を尽くす機会を持つべきである。2時間の会議だと、部下に命じた資料で乗り切れることが少なくないが、合宿となるとどうしても本人の考えが出てくると思う。

・社内を動かす力よりも判断力
前回書いたように社内を動かす力はどうしても経験の占める割合が大きくなる。それよりも判断力が優れた人をトップに選び、社内を動かすのは経験豊かな人が周りでサポートするべきだと思う。このような価値観は現在の社長がその気になれば社内で定着させることができるように思う。

このブログの読者に現在の役員や社長は殆どいないと思うが、そこそこの地位にある人はいるのではないかと思う。周囲と議論してみてはいかがだろうか?



若者が高い能力を存分に発揮するには 第3回 能力と年齢の関係

2019-10-21 14:11:26 | 社会

最近、私は人間の能力のピークは20歳代であるという思いを強めている。スポーツの世界ではこれが事実であることは既に認知されていると思うが、私の論点は頭脳活動においてもやはり20歳代がピークであると言う点である。日本社会も能力の高い人が責任ある仕事をできるように変えていく必要があると思う。これまで思いつくままにブログを書いていたのだが、このテーマでいろいろな側面を考えたほうが良いと考え、今回をこのテーマの第3回としたい。これまでの2回の内容は下記である。

第1回の9月15日の記事では、囲碁のプロ棋士の若返りを例にとって思考力も20歳代がピークであることを書いた。ちなみにその時取り上げた囲碁の名人戦では19歳の名人が10月8日に誕生した。

第2回の10月6日の記事では、社会で活躍するピーク年齢を若返らせるには高校や大学の教育を、卒業後社会の即戦力となるような人材を育成する必要があると書いた。

今回を第3回として、どのような能力が若年層に有利でどのような能力が中高年に有利かについて書いてみたい。

・記憶力: これは若い時がピークであることは疑いない

・記憶の総量: これには個人差が大きいが、全般的には40代後半がピークではないかと思う。但し、特定の分野では、トレーニングを積めば20歳代でピークに達することができると私は思う。

・思考力: これは脳内シミュレーションを行う能力である。これが判断力に直結していると思う。知識量に差がなければ20歳代がピークであることは間違いないだろう。但し経営のような複雑な問題のシミュレーションには非常に幅広い知識が必要で、おそらく40歳あたりがピークではないかと思う。

・フィルタリング能力: これは不要な知識は忘れて、必要な知識のみを留める能力で、この能力が高いと短時間で良い判断をすることができる。この能力は、使い続ける限り改善可能で、高齢者ほど高くなると思う。芸術のような分野で高齢者が高い能力を発揮するのはこのおかげだろう。但し「良い」ものが変化しないという前提条件が必要である。経営上の価値観などは10年、20年では変化していくので、高齢者が有利とはいえない

・人を動かす力: 立場上、命令できる立場に立てば人を動かすことはできるが、命令を受ける側が「この人のために頑張ろう」という気持ちになれるかは別物である。企業などでは対外的には論理が優先するが、企業内では、高い評価を得るには時間がかかる。

以上を総合して50歳代から60歳代が企業のトップとして動かしているのが日本企業の現状だと思うが、私は最も重要なのは思考力だと考えており、40歳あたりのトップを、50歳代、60歳代の優秀で経験豊かな人がサポートするのが、本来の望ましい姿だと思う。もちろんトップは最低10年程度の経営経験を積んでいることが前提である。



ジャズピアニスト 上原ひろみ

2019-10-13 13:01:21 | 生活

昨日の台風は強かった。私の家は水害は考えらればい場所にあるのだがそれでも午後8時頃の風の強さには「窓ガラスが割れるのではないか」と心配になった。今日は台風一過、雲一つない晴天で気持ちが良い。

最近、2度ほどラジオでジャズピアニスト、上原ひろみの小特集があり、この人のピアノ演奏にすっかり魅せられてしまった。アップテンポの元気の良い曲も、しっとりしたバラードもどちらもセンスの良さを感じさせる気持ちの良い演奏だった。日本人のジャズピアニストには、山下洋輔、秋吉敏子、菊池雅章など様々な名手がいるのだが、私の感じでは上原ひろみはその人たちを超えて歴代最高のジャズピアニストだと思う。その特徴は感性の広さにある。ある時は激しく、ある時はしっとりと、曲によって様々な異なった感性を見せてくれる。

今朝の日経新聞に出ていたのだが、彼女のピアノ魂に火をつけたのは女子校生の時のチックコリアとの共演だという。当時のチックコリアは世界トップレベルのジャズピアニストで、特にアルバム「ケルンコンサート」に代表される「100%Improvisation」の演奏が有名である。ケルンコンサートでは曲名は無く、その場で彼が思いついたメロディをピアノソロで弾いて、それが見事なコンサートになっている。このアルバムは私も持っているが実に感銘深い。そのチックコリアが、まだ無名の上原ひろみに眼をつけ、来日公演で共演した。その時の上原ひろみの感想は「何とかこなせたけれど、完全にチックコリアに導いてもらった」ということである。ジャズでは本番の掛け合いで演奏者同士が演奏で会話するのだが、そのような感じを持ったそうである。彼女は「自分もあのレベルになりたい」と強く思って、バークリー音楽学院に留学するなどして感性を磨いた。そして、最近20年ぶりにチックコリアと共演したときには「十分に音楽上で会話できた」という感想を持ったそうである。

私はコンサートなどには殆ど行かないのだが、この人のコンサートには行ってみたいと思っている。但し、米国在住で日本にはあまり来ないのでチケットがなかなか取れないそうである。


20歳代で世界トップレベルの社会人を育成するには

2019-10-06 17:21:41 | 社会

少し前に囲碁の世界トップ棋士の年齢は20歳代であると書いた。多くの人は「囲碁は特殊な世界だ」と考えているだろうが、私はそうでもないだろうと思っている。囲碁の世界でも30年前くらいまでは40歳くらいがトップと考えられていた。それが急激に若年化したのは勉強方法が変わったからである。つまり、勉強や経験を積み上げる方法を改良していけば、思考能力は運動能力と同じように20歳代が最大だと思っている。

現在の日本の社会システムでは大学を卒業した22歳か収支を卒業した24歳からキャリア経験を始め、プロになるのが30歳台になってからである。専門家としては30歳代が働き盛りで、40歳代になると管理職になり、専門的能力よりも判断力と折衝力が重要になる。専門職として能力を発揮し、管理能力の優れた人が50歳代になると幹部になる、その中で一人が60歳代で社長になる、というのが大部分の日本企業だろう。つまり日本企業では、かなり能力の落ちた人が采配を振るっている。

これを早めて、能力のある人には20歳代から判断力と折衝力を鍛え、30歳代前半から中核的な管理職として活躍できるような育成体制を取らないと日本企業は今後世界と戦っていけないのではないかと私は考えている。

囲碁のトップ棋士になるような人は、ほぼ例外なく10歳くらいから本格的にプロ棋士の訓練を始める。つまり20歳では既に10年間の専門家としてのトレーニング経験があるのである。私はほかの分野、例えば経理や研究開発、営業、経営といった分野でも10年も真剣にやれば、20年経験した人と同レベルに達することができると考えている。

若い経営者を育成するには、現在の日本の教育システムでは無理で、大卒、更に言えば高卒で即戦力となるような教育が必要だと思う。そのためには企業が投資した高校・大学というようなもので成功例を作るしかないと思う。全体的な教育システムを改革するには20年、30年かかるだろう。

そのような例は出てきている。高校で言えば角川/ドワンゴが始めたN高であり、大学は日本電産の永守氏が始めた永守学園である。いずれも、現在の日本の教育システムに合わせながらも即戦力となる卒業生の排出を狙っている。このような高校・大学が輩出した新人が活躍し始めて、似たような動きが多くの企業に広がるところからしか日本の教育は変わらないだろうと思う。