ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

どうなる? イギリスとEU

2016-06-25 11:16:51 | 社会

イギリスの国民投票でEU離脱が決まった。殆どの日本人が「予想していなかった」と言っているが、事前の予想が際どかったのだから、本来なら40%くらいは離脱を予想した人が居ても良かったはずである。

塩野七生氏が良く言う「人は見たいものしか見ようとしない」というユリウス・カエサルの言葉が日本人の姿勢として顕著に表れていると思う。実は私も残留を予想していたのだが、投票当日、ロンドンが大雨だと聞いて嫌な感じがしていた。

昨日、キャメロン首相が辞任を表明した。すぐに辞任するわけではなく、10月頃のようである。英国民は船出を決定した。船出の手続きは私がとるが、どこを経由してどこの港に向かうかは新しいリーダシップで決定すべき」という彼の言い分はもっともである。これはイギリスの今後の政治に大きな不安要素である。

これまでに私が見聞きしている限り、離脱派にまともな政治家がいるとは思えない。日本で鳩山首相や、菅首相のような状態のようになるだろう。もっともあの二人は外交ではほとんど存在感がなかったのだが、今度のイギリス首相にとっては外交対応がもっとも重要な課題になるだろう。イギリス人の政治家は実力がない人でも、日本の首相のように「存在感がない人」というよりは、ギリシャのチプラス首相のように「困った人」の可能性が高く、EUも苦労するだろうと思う。

多くの人が言っているように、EUも大変な時代に突入すると思う。それぞれの国の中での国粋主義者の台頭という問題もあるが、まとめ役としてのイギリスが居なくなる点が大きいと思う。私のこれまでのEUのまとめ方に関する見方は以下のようである。今の中心的存在である、ドイツとフランスには独特の頑固さがあり譲ろうとしない。一方、スペインやイタリアは快楽主義的で楽なほうに流れる傾向がある。そこを現実主義のイギリスが、妥協案を出してまとめてきたという感じである。そのイギリスがいなくなって妥協案を出しそうな現実主義者はスウェーデンやオランダに移る。しかしこれらの国は東京都程度の人口や財政規模で存在感に乏しい。当面の課題はイギリスとの条件闘争と、ギリシャへのさらなる支援であるが、このギリシャ対応でまとまらなくなる可能性があると私は危惧している。

アメリカで州が集まってアメリカ合衆国を作って成功したように、ヨーロッパもヨーロッパ合衆国を作ろう、という試みを私は高く評価しているのだが、この試みが最大の危機に瀕していると思う。アメリカ合衆国は国としての体制が未熟な州が集まってできたものなので比較的容易だったが、ヨーロッパはそれぞれの国がしっかり確立した後での合体なので、今度のイギリスのように反発も強く、難しい。しかし、成功して追加の離脱の仕組みが整備されれば「世界合衆国」にまで広がる可能性はあるのではないかと思っている。それが真の意味での世界平和を実現する手法ではないだろうか。

そのためには新規加入と離脱の仕組みを整備することは不可欠なので、今度のイギリスの動きは、より強いヨーロッパ合衆国への重要な一つのステップだとEU首脳には前向きに考えてもらいたいものだと私は考えている。


アメリカの日中鉄鋼に対するダンピング課税

2016-06-23 11:31:33 | 経済

今週はイギリスのEU離脱の国民投票、参議院選挙の告示、大手各社の株主総会と話題が豊富だが、その中で私が気になっていた話題で中国の鉄鋼輸出に関するニュースがあったのでこれを取り上げたい。

アメリカ政府は日本と中国の企業の「冷延鋼板」と呼ばれる鉄鋼製品の輸出に対してダンピングであるとの認定を出し、中国製品には265%、日本製品には71%の反ダンピング課税を行うと決定した。注目すべきは中国製品に対してはこれに加えて輸出支援金相殺のための256%を課税するという点である。中国製品に対しては500%を超える課税となる。この輸出支援金というのは中国政府が国内の鉄鋼メーカーに対して輸出を奨励して支援金を出しているものである。つまり、中国の鉄鋼企業は通常の売価の1/3程度の価格で輸出できていたことになる。

私は以前、鉄鋼の価格低下は製鉄業を独占しようという中国政府の戦略ではないか、と書いたが、その形跡は明らかに認められていると思う。中国政府は公式には鉄鋼を減産するというようなメッセージを発しているが、その一方でこのような輸出支援金を出しているし、EUがアメリカと同様に鉄鋼のダンピングの調査を開始したときには対抗措置をちらつかせている。

本来は貿易は自由化されることが望ましいが、故意に価格を下げて市場を独占し、その後で一気に価格を高騰させる、というようなことを国家レベルで行う国があれば、対抗措置を取らざるを得ないだろう。新日鉄などの個別企業では対抗しきれない動きだと思う。中国は過去のレアメタルで成功して、次は鉄鋼分野を狙っているのだと思っている。

今回は一部の特殊な鉄鋼製品だけの適用であるが、中国政府の出方によっては適用製品は拡大して鉄鋼製品全体に及ぶ可能性もある。これに対して中国政府が対抗措置を発動するのか、静かにしているのかは不明だが、対抗措置を発動するとお互いの動きがエスカレートする可能性が高い。現在のところアメリカが先行しているがヨーロッパ、アジアと同様の動きが広がるのか、一部の国は中国側につくのかも不透明である。

日本政府は今のところ具体的な動きを見せてはいないが、先日の伊勢志摩サミットの議題に上った案件であり、基本的にはアメリカに追随する動きになると思う。イギリスのEU残留問題の結果に関わらず、経済のブロック化の芽がここにも出ていると思う。


舛添都知事の騒動が残したもの

2016-06-17 10:53:42 | 社会

舛添都知事が辞任に追い込まれた。最初の会見で「出張費が高すぎる」「公用車で毎週別荘に行っている」と言われた時には、「全く問題ない」と強気の発言をしていたのが、次々と小さな問題を暴かれて証拠になるようなことは示さないが誤るようになり、それでも辞任は拒否していた。それが都議会が全員一致で不信任案に賛成するようになり、自民党幹部も辞任を求めるようになり、辞任するに至った。「項羽と劉邦」に出てくる「四面楚歌」の状態そのものであった、という感じがする。

今回の舛添都知事の態度は良くなかったのは確かだが、私はマスコミに潰されたという印象を持っている。マスコミ(テレビ局)は視聴率が稼げるものだから連日この問題をテレビで取り上げ、選挙が近いので自民党も動かざるを得なかった、という感じがする。別に舛添氏を擁護するつもりはないが、小渕氏や、甘利氏と比べて犠牲が大きかったという印象は持っている。自分の利益のために極端な報道をするマスコミの姿勢には疑問を感じざるを得ない。

それとは別に今回の一連の動きで将来につながることが一点あったと私は思っている。それは「第3者による調査」である。舛添氏は「第3者による調査」を連発してそこに逃げ込んだ。しかし多くの人は「本当に第3者の調査が必要か?」「本当に第3者と言えるのか?」という疑問を持ったはずである。マスコミはこの点を指摘することができずに終わってしまったが、「第3者の調査」に対する不信感が高まり、今後政治家が問題を起こした時に、第3者を使いにくくなると思う。今回のケースは調査対象も単純で第3者の調査といってもほとんど本人の申告であり、実質はお抱え弁護士の整理と変わらなかったことが明らかだったので、今後同様な不祥事が起きて政治家が「第3者の調査」を言ったときに疑惑の目が向けられることになると思っている。

もっともこれもマスコミの体質によるもので、マスコミがその点はわざと追求しない可能性もあるが、どこかのマスコミが追及するのではないかと期待している。

 


18歳選挙権で大人が語るべきこと

2016-06-06 10:32:56 | 社会

国会が終了し7月10日に参議院選挙が始まる。今回の選挙では18歳から20歳の若者に選挙権が与えられ、その人たちの投票行動が大きな話題になっている。以前、ドイツの政治教育の紹介をして日本はドイツには及ばないだろうと言ったが、今回はそれとは違う切り口で考えてみたい。

政治に興味を持たないと選挙に行かないというのは確かに関係があるが絶対ではない。親が選挙に行き、一緒に選挙に行くように勧めればかなりの子供は選挙に行くだろう。この世代の大部分は親と同居しているだろうからである。従って親の投票行動が大きな影響力を持つ。

親はどうやって法表する人物を決めているのだろうか?

第1のパタンは特定の政党に肩入れしていて、政策とか人物とかに関係なく、誰に投票するかを決めているというパタンである。こういう人たちはたいてい特定の政党の党員になっており、家族だけでなく周りの人にも同じ人に投票するように勧める。特定の候補者と関係が強い人も同じような投票行動をとるだろう。公明党や共産党はこのパタンが中心だと思うが、他の政党にも少なからず、このパタンの人が居る。私が子供のころは大部分が最初から政党を決めている人たちで、一部、その時の情勢に合わせて投票する人たちがいてその人たちは「浮動票」と呼ばれていた。しかし今は浮動票のほうが過半数に達していると思う。両親ともが同じ政党の党員であれば、子供も同じ政党に投票する可能性は高いだろう。こういう子供たちに対しては、政治教育は「なぜこの政党が良いのか」を確認するきっかけになれば良いと思う。

第2のパタンは親が浮動票の場合である。この場合は親は子供に「自分で考えて投票しなさい」という可能性が高く、子供の政治的知識が重要になる。こういった子供に対する教育が特に重要といえるだろう。しかし、仮に子供が政治に興味を持ち、色々と見聞きするようになったとしても、どうやって「誰に投票するか」を決めるのは容易ではない。テレビの政見放送や、街頭演説は仮に聞いたとしても一方向の宣伝(自己アピール)であり、子供自身が興味を持った問題に対して候補者がどういう判断をするかは分からないのが普通だからである。私を含めて大人はどうやって投票する相手を決めているかと言うと大部分が候補者の所属或は推薦を受けた政党の考え方で投票している。

それでは、政党の考え方はどこで知ることができるか? これは選挙公約というもので知ることができる。しかし選挙公約もまた政党の宣伝文句であり、都合の良いことしか書かない。しかも選挙公約は選挙に勝つために作られた文章であり、実際に実現できるかどうかが怪しいものがたくさんある。最近は「マニフェスト」という言葉が出てきて、私はこれを選挙に関係なく、「もし自分の党が政権を取ったらこういう国の運営をする」という文書だと理解しているが、日本ではまだこの考え方は地についておらず、日本ではマニフェストも選挙公約と同じ位置付けだと理解しておいたほうが良いだろう。

従って政党の考え方を理解するのは日本では相当大変である。特に野党は多くの分野で考えを持っていないと思われるので理解しようがない。仮に理解できたとしても「この分野ではA政党のほうが良いと思うが、この分野はB政党のほうが良い」というようなことが出てきて、決めるのはなかなか難しい。結局、自分の思うように国を運営してくれそうな政党は無いので、「一番ましな政党に思える」政党に投票することになる。これが大部分の大人の投票行動だろう。

テレビで報道される政治教育などを見ると、安保法制、福祉問題、経済問題などを解説しており、それはそれで結構なことなのだが、それらを理解し、自分の考えを持ったとしても、ピッタリする候補者はおらず、水準をぐっと下げて「一番ましな政党から出ている候補者に投票するしかない」のが実態だ、ということを教えていないように感じる。まじめな若者ほど自分で考え、いざ投票になった時の情報ギャップに幻滅して、それ以降は投票しなくなるのではないかと危惧している。


消費増税再延期について

2016-06-02 09:23:46 | 社会

安倍総理が消費税の増税を再度、2年半延期することを決めた。このまま増税に走れば景気の腰折れが予想されるので仕方がない、というのが大方の見方だと思う。今がリーマンショック級の状態だというのは無理があるが、一部の人が言うように衆議院を解散をするべきだとは私は思わない。野党も消費増税には反対なので選挙の争点にはならないからである。麻生副総理も承知のうえで財務省向けに発言したのではないかと思っている。

総理は昨日の会見で2020年の財政健全化の旗は降ろさない、と言っている。しかしこれは無理なことは明らかだと思う。次回の増税時期である2019年10月が近づいてきたときには、おそらく増税しても財政健全化は無理で、消費税率15%とかに更なる増税をしないとプライマリーバランスがプラスにはならない状況になっていると思う。そして景気は今より良くなっていることは無いのではないかと予想している。

アベノミクスが成功か失敗かという議論が出ている。安倍総理は「アベノミクスを再度加速する」と言っており、野党は「アベノミクスの失敗が明らかになった」と言っている。私は「アベノミクスの限界が見えた」と思っている。アベノミクスは確かに一定の効果を生んだ。株価は上がり、企業の業績も良くなって税収も増えた。しかしこの1年ほどは停滞している。私はアベノミクス効果の殆どは金融緩和と財政出動による円安によるものだと思っている。円安の流れが止まると日本の景気も先行きが危ぶまれるようになった。

これ以上の円安は各国の政治問題もあり難しいだろうと思っている。日本人は皆将来に不安を感じているので内需拡大も難しいだろう。財政出動のさらなる拡大も難しいだろう。世界景気が一斉に良くなるような幸運がない限り、日本景気の拡大は難しいと思っている。

日本景気が難しいのは現在の資本主義社会における投機マネーの影響が大きくなっているからだと私は考えている。投機マネーは実体経済よりも将来の成長性を見て動く。日本は基本的に成長性が低いとみなされていると私は思っている。その理由は国際競争力が年々低下しているからである。これはエレクトロニクス産業の競争力の低下、特にソフトウェア開発の低さが影響しているというのが私の持論である。今後インターネット、IoT、ビッグデータ、人工知能などが速い速度で発展していくとそのソフトウェアの弱さの影響が全産業に拡大していくと思っている。

多くの人が成長戦略、構造改革、規制緩和などが大事だという。だが私は「この分野をこのように改革していけば日本全体が良くなる」という話で納得のいくものは聞いたことがないと思っている。規制緩和と言うと自動運転の規制緩和などが言われるが、日本の規制緩和はアメリカに比べればはるかに遅れている。大部分のものがそのような調子で、いま議論されているのは「実現したとしても世界から見れば遅れている」ような成長戦略、構造改革、規制緩和だと思っている。自民党は野党に比べればましなほうで、野党が政権を取ればもっとひどくなるだろうと私は思っている。

国に期待することはできない。日本は全体としては徐々に豊かさを失っていくのは避けられないだろう。国全体が落ち目でも個別の企業や個人にとってはやりようは色々ある。まずは個として成長することを目指すべき時期だと思う。