イギリスの国民投票でEU離脱が決まった。殆どの日本人が「予想していなかった」と言っているが、事前の予想が際どかったのだから、本来なら40%くらいは離脱を予想した人が居ても良かったはずである。
塩野七生氏が良く言う「人は見たいものしか見ようとしない」というユリウス・カエサルの言葉が日本人の姿勢として顕著に表れていると思う。実は私も残留を予想していたのだが、投票当日、ロンドンが大雨だと聞いて嫌な感じがしていた。
昨日、キャメロン首相が辞任を表明した。すぐに辞任するわけではなく、10月頃のようである。英国民は船出を決定した。船出の手続きは私がとるが、どこを経由してどこの港に向かうかは新しいリーダシップで決定すべき」という彼の言い分はもっともである。これはイギリスの今後の政治に大きな不安要素である。
これまでに私が見聞きしている限り、離脱派にまともな政治家がいるとは思えない。日本で鳩山首相や、菅首相のような状態のようになるだろう。もっともあの二人は外交ではほとんど存在感がなかったのだが、今度のイギリス首相にとっては外交対応がもっとも重要な課題になるだろう。イギリス人の政治家は実力がない人でも、日本の首相のように「存在感がない人」というよりは、ギリシャのチプラス首相のように「困った人」の可能性が高く、EUも苦労するだろうと思う。
多くの人が言っているように、EUも大変な時代に突入すると思う。それぞれの国の中での国粋主義者の台頭という問題もあるが、まとめ役としてのイギリスが居なくなる点が大きいと思う。私のこれまでのEUのまとめ方に関する見方は以下のようである。今の中心的存在である、ドイツとフランスには独特の頑固さがあり譲ろうとしない。一方、スペインやイタリアは快楽主義的で楽なほうに流れる傾向がある。そこを現実主義のイギリスが、妥協案を出してまとめてきたという感じである。そのイギリスがいなくなって妥協案を出しそうな現実主義者はスウェーデンやオランダに移る。しかしこれらの国は東京都程度の人口や財政規模で存在感に乏しい。当面の課題はイギリスとの条件闘争と、ギリシャへのさらなる支援であるが、このギリシャ対応でまとまらなくなる可能性があると私は危惧している。
アメリカで州が集まってアメリカ合衆国を作って成功したように、ヨーロッパもヨーロッパ合衆国を作ろう、という試みを私は高く評価しているのだが、この試みが最大の危機に瀕していると思う。アメリカ合衆国は国としての体制が未熟な州が集まってできたものなので比較的容易だったが、ヨーロッパはそれぞれの国がしっかり確立した後での合体なので、今度のイギリスのように反発も強く、難しい。しかし、成功して追加の離脱の仕組みが整備されれば「世界合衆国」にまで広がる可能性はあるのではないかと思っている。それが真の意味での世界平和を実現する手法ではないだろうか。
そのためには新規加入と離脱の仕組みを整備することは不可欠なので、今度のイギリスの動きは、より強いヨーロッパ合衆国への重要な一つのステップだとEU首脳には前向きに考えてもらいたいものだと私は考えている。