ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

札幌で学会に参加してきた

2016-09-23 07:53:51 | 生活

北大で行われた学に参加するために2泊で札幌に行ってきた。

2日の夕方の便で札幌に入り、昨夜帰ってきた。行きは台風で羽田は大雨だったが、千歳空港は晴れていた。水、木ともに札幌は気持ちの良い晴れだった。

ホテルはユニゾインホテルという時計台の近くにある小さなホテルだったが清潔で気持ちが良かった。北大博物館を見てきたが、北大は北海道の中では特別な存在であることが強く感じられた。

学会は、発表は無くIoT関連を中心に聴講してきた。最も興味深かったのは内閣府の発表で、Society 5.0というコンセプトの発表だった。内閣府の科学技術・イノベーション会議でSociety 5.0というコンセプトを打ち出して、将来の情報通信技術を使った社会の革新を狙っている。ドイツのIndustry 4.0に対抗して、向こうが4.0ならこちらは5.0という感じのノリでつけた言葉のようである。コンセプトとしては単に産業振興を狙うだけでなく、未来社会構築に役立てよう、様々な社会問題をIT技術を使って解決しよう、という狙いである。

具体的にはまだ現在の世界のIoTの流れから大きく踏み出すものではなく、今のIoTの進展を日本としてどう取り組むか、という話に見えるが、総理大臣直轄組織でこういったことが議論されるのは好ましいことだと思っている。ただ、私が気になっているのはIoT関連に関する政府のこれまでの取り組みは「日本で何とかしよう」という色彩が強い点である。今の状況は日本だけで何とかできる実力は無く、世界の有力プレーヤーを巻き込むことが不可欠だと思っている。その点を質問すると、「そういう問題意識は持っている。但しまだ具体的な解決方法は見つかっていない。」という回答だったので、「これは期待ができる」と感じた。

今後、政府内でSociety 5.0を深堀していくのだろうが、内閣府が動けば縦割り行政の枠を超えて複数の省庁を動かすことができるので、これまでとは一味違う動きが出るのではないかと期待している。

札幌には私自身住んでいたこともあり、知人も何人かいるのだが、今回は時間がなく、そうした人達と会うことはできなかった。次の機会にゆっくりと行きたいものだと改めて感じた。


豊洲市場のおかしな決定に見る組織の脆弱さ

2016-09-15 11:24:35 | 社会

築地市場の移転先である豊洲市場の環境対策がこれまでの発表と異なっている、と言って大騒ぎになっている。これを聞いてすぐに情報公開した小池新都知事は、良い仕事をしていると思う。就任2か月にならないうちに前任の舛添知事の2年以上の仕事に匹敵するくらいの存在感がある。なぜ豊洲市場の建物の下が空洞になっているのか、化学工場の跡地なので盛り土をしないと行けないということは良く知られていたことのはずであり、大部分の人がおかしいと感じている。東京都が勝手に決めたらしいが東京都の職員だってそれなりの良識は持っているはずである。誰が推進したのかはそのうち明らかになってくると思うが、ここで私が指摘したいのは「おかしな決定」がそのまま通ってしまう日本の組織の脆弱さである。上のほうからの指示だとしても、土壌汚染を議論する専門委員会に情報を入れればその時点で問題化されてストップがかかったと思うのだが、それさえも行われなかった。それは理屈上おかしな決定でも「理にかなわない」と言って声を上げる人が非常に少ない、という体制の弱さを意味している。

私が所属している電子情報通信学会でも「明らかにおかしい」と思える決定があった。それはI-Scoverという技術用語の辞書を学会で作ろうという動きである。今時技術用語辞典などはGoogle検索やGoogle ScholarというGoogleのサービスが広く使われており、日本の学界で作った辞書などはほとんど使う人が居ないと思う。ところが、ある時の会長がこれを強力に推し進めると、取り巻きが「すでに決まったことだ」という感じで周りにアナウンスをして具体的な用語集の作成作業を割り振る。それだけでは済まないのでシステム作成を外部に依頼して、学会の会計は赤字になる。仮に一時的にまともなものができたとしても継続的に更新していかないと使える状態は維持できるわけはなく、Googleに対抗できるものになるとはとても思えない。出来立ての今でも使っている人は少なく、数年たつと見向きもされないものになると私は思っている。学会は良識の府であり、大部分の教授たちが「うまくいくわけがない」と思ったはずである。しかし、実際には実行されて大学教授たちの多大な時間がこのために費やされた。これは学会がシステム構築のために支払った金額の100倍くらいのコストになると思うがボランティアのため、目に見えないコストになっている。

要するに、日本の組織では殆どの人が「おかしい」と思うようなことでも、一旦動き始めると実行に向けて突っ走ってしまうことが多いということである。自衛隊の海外での武力行使に関しても、仮に政府が突っ走ろうとしても「野党がいるから大丈夫」、「マスコミがいるから大丈夫」、と今の我々は2重3重の保険がかかっているように感じているが、この保険は案外脆弱で、走り始めると止められないという性格を日本の社会は内蔵しているということを今回の出来事で改めて感じた。


ソフトバンクがIoTの無線方式としてLoRaを採用

2016-09-08 09:39:17 | 経済

今朝の日経新聞にソフトバンクがLPWAサービスを来春開始するというニュースがあった。方式はLoRa方式のようである。ここ1,2年でLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークと呼ばれる通信方式が台頭している。過去何十年も高速化を目指して進めてきた通信方式を、一転して低速化を目指し、乾電池一本で10年使えるような通信方式を開発し、IoT用に使おうという考えである。低消費電力の無線方式では、従来からZigbee、Bluetoothといった方式が使われていたのだが、これらの方式は1Mbps程度まで使える低電力方式である替わりに伝送距離はせいぜい数百mまでだった。それを徹底的に速度を落とし、低消費電力化を図ることによって、同じくらいの消費電力で10倍程度(数Km 程度)飛ばそうというのがLPWAの発想である。周波数帯は日本で言うと特定小電力(900MHz帯)という免許不要の周波数帯を使用する。主な用途としての狙いは電力やガスなどの検診の情報を自動で集めるスマートメータだと私は考えている。これは1時間に1回程度メータの情報を送れば良いのでトラヒック量としてはごく少ない。周波数も、電池もごく少量の消費で済む。LPWAはベンチャー企業が独自開発したようなものが多く、方式はLoRaと呼ばれる方式とSigfoxと呼ばれる方式が欧米で導入が進んでいる。

日本では電力のスマートメータ用のWiSunと呼ばれている方式が標準として採用されているが、東芝が東京電力のシステム構築を請け負って大失敗し、不正会計操作発覚の一因となっている。WiSunはやはり伝送距離数百メータなので、かなりの数の中継基地局を置く必要があり、LPWAと比較するとかなり高価なシステムとなる。スマートメータ出直しの際にはLPWAになるだろうと私は考えている。

モバイルオペレータにとっては無線通信によるIoTのデータ収集は将来ビジネスの大きな要因と考えているので、対抗してLTEをベースとした超低消費電力伝送NB-IoTという方式を3GPPで標準化している。おそらく数年もすればLTE基地局でNB-IoTにも対応した基地局が出てきて、これで置き換えていけば自然にIoTに対応できるようになると思うのだが、なぜ、ソフトバンクはLTEと互換性のないLoRaでのLPWAを始めることを決めたのだろうか?

おそらく、NB-IoT対応の機器が出てくるまでには2-3年かかるので、今すぐ使えるLoRa方式にしたというのが最大の理由だろう。ドコモとKDDIがNB-IoTにするなら時期的には明らかに先行できるので初期マーケットをつかむことができる。そこでブランドイメージを確立できることは間違いないだろう。ただ、この方式は特定小電力を使っているのでユーザ企業(例えば東京電力)が独自にネットワークを構築することもできる。東京電力は鉄塔などをたくさん持っているので、それを使って独自網を組んでしまえば、利用料金は払わなくて済む。ソフトバンク側からするとかなり料金を下げないと使ってもらえない、という薄利のビジネスになると思う。

ソフトバンクはモバイルオペレータらしくない発想でIoTに取り組んでいる。この点がどうなるか、興味深く感じている。