何年振りかに「オール読物」を買った。色々な作家の小説が掲載されている月刊誌である。
その中に平岩弓枝氏の「新・御宿かわせみ」があった。連載作品である。「御宿かわせみ」は平岩弓枝氏のライフワークとも言うべき大作である。旅館「かわせみ」の若い女主人【るい】と与力の次男坊で冷や飯食いの【神林東吾】の恋を軸に、東吾の友人で八丁堀の定廻り同心【畝源三郎】を始めとし周りの人の生活を描きながら話が進んでいく、江戸末期の捕り物帳である。
江戸末期のいわゆる江戸情緒にあふれた生活スタイルの中で身分を考えつつ恋し合う【東吾】と【るい】の物語が軸になっているが、武士で剣の達人の東吾が、勝海舟の作った軍艦方に勤めるようになる。その間に源三郎も、東吾も結婚する、といった具合に、雑誌連載の中編の捕り物帳を繰り返しながら時代が江戸から明治に進んでいく様子を描いている。
私は文庫本で「御宿かわせみ」を16巻くらいまで読んでいたのだが(全体では30巻以上出ている)、今回の「新・御宿かわせみ」を読んで驚いた。
時代は明治に変わっている。これは作品の時間の経過からしても当然のことだろう。しかし、【るい】も【東吾】も【源三郎】も出てこない。話はすっかり彼らの子供世代に移っていて、登場人物は彼らの子供である。それもまあ時間の経過からすれば当然か、と思うのだが、話の中に親世代がまったく登場しないのである。旅館「かわせみ」は登場する。
時代が流れたとはいえまだ親たちが死んでしまうほどの時間は経過していないはずである。一体親たちはどうしてしまったのだろう、と気になった。もう一つ感じたのは、いわゆる生活の上でのイベントが出てこないことである。「御宿かわせみ」の楽しみの一つは、ひな祭り、こいのぼり、七夕、といった昔からの風習を小説の中にうまく組み込んでいて、当時の日本人の生活を描き出していたところにある。
今回読んだ「新・御宿かわせみ」では謎解きが中心でそういった生活描写が乏しかった。これが作者の作風の変化なのか、たまたま今回私が読んだ部分だけがそうだったのかは、もう少し読んでみないと分からない。
まだ買っていない残りの部分を買い揃えようと言うほどの情熱は無いので、日本版キンドルが発売されたらそれを買って、「御宿かわせみ」をキンドルで読んでみたいと思っている。