総務省が6月20日に「スマート・ジャパンICT戦略」を発表した。これはアベノミクス成長戦略の情報通信分野に相当するものと考えてよいだろう。総務省では「ICT成長戦略推進会議」でまとめた【ICT成長戦略Ⅱ】を国内の戦略、「ICT国際競争力強化・国際展開に関する懇談会」の中間報告書【ICT国際競争力強化・国際展開イニシアティブ】を国際戦略として合わせて『スマート・ジャパンICT戦略』として発表したものである。
「ICT成長戦略Ⅱ」はICTの将来の活用シーンを幅広く検討し、応用および技術を整理したもので戦略と呼べるような意思決定は特に含まれていないと思う。私が興味を持ってみたのは【ICT国際競争力強化・国際展開イニシアティブ】のほうであるが、国際競争力強化を謳いながら国際競争力強化の具体策が全くと言ってよいほど見えない点が不満である。日本企業の国際競争力は21世紀に入って下がり続けている。一時は世界1位であった半導体は見る影もなくなっているし、コンピュータ、通信の分野もほぼ全面的に海外事業に失敗し、国内でもじりじりとシェアを下げている。この点の分析の対策も見られない。どうすれば競争力低下に歯止めをかけ、競争力を再び向上させられるかという視点は全く見られず、戦略は官民一体でインフラなどの成功モデルを作り、それを海外輸出しようという考えである。
しかし、仮に国内のインフラにかかわるものでも入札にかけて公平に評価すればIBMやAmazonが受注してしまうだろう。そこには何らかの非関税障壁を設けようという意図が透けて見える。ICT分野は全産業の中で最も事業がグローバル化して国際競争が激しい分野である。その中で競争に勝ち抜くには個々の企業の競争力強化が不可欠である。護送船団方式に戻ろうという考えでは成功はおぼつかないと思う。
私が思うに、競争力強化のためには国内市場でも競争を強化することが不可欠である。市場を世界に開放して国内企業も含めて競争を強化するべきである。アメリカのNational Broadband Planなどを読むと「競争政策」が大きな柱の一つになっている。国内市場で競争環境を十分に作れているかが強い意識となっている。護送船団方式とは逆の方向である。しかし、国内市場も開放して本当に強い企業が勝ち残れるようにしなければ、衰退を遅らせるだけである。日本企業が世界的に勝てそうな分野が見つかれば意識してその市場を拡大するなどが競争戦略と言えるだろう。
競争が激化すれば勝ち組と同時に負け組も出る。市場を国際的に開放すれば負け組のほうが多いだろう。懇談会メンバーの当事者企業がこういうことを言い出すはずがない。企業以外のメンバーが言いださなくてはならないのだが、そういう人材が懇談会メンバーに含まれていなかったということだろう。
産業が落ち目になってきたからと言って保護すればますます弱くなる。日本の農業がその典型である。大胆に変われない企業は倒産や吸収されても仕方がない。その屍を乗り越える新しい力を育成しなくてはならない。日本の農業も農協をつぶして企業を参入させようとしており再生の兆しが見える。落ち目の当事者の意見を集約しても再生シナリオは出てこない。
技術的観点で私が最も気になっているのは日本企業のソフトウェア開発力の弱さである。これは経営の問題ではなく、技術の問題であり、今後付加価値はどんどんソフトウェアにシフトしていくのでこれは重大だと思っている。この強化のためには日本企業の給与体系を変える必要があると思っている。こういった点に全く言及がないのも寂しいことである。