昨日の夜のNHKでドイツの高校における政治教育の状況を紹介していた。これは今年から選挙権を18歳以下に引き下げたことに対応する特集である。ドイツでは既に18歳以上に選挙権を与えているが若者の投票率は高いという。その秘密が高校教育にあるという。テレビで紹介された場面では、移民問題を扱っていた。移民受け入れの良いところ、問題点を教師が説明し、高校生が様々な意見を述べる。そして教師が政党Aはこっち寄りの意見、政党Bはこっち寄りの意見、といった説明を最後に行う。
この番組を見て、「日本とドイツの差は今後開くだろう」と私は感じた。あのレベルの授業は日本では10年は無理だろうし、下手をするといつまでたっても到達しないかもしれないと思う。まず、教師が教えることができない。まず、日本人の教師はそのような政治的問題に対して教育しないように言われている。そこを変えることが出発点である。こういう政治的に微妙な問題を取り上げて良い、あるいは取り上げるべきだ、となったとしても教師に教育する能力がないと思う。教師に限らず、日本人の大人で、あのような意見が割れている問題に対して、きちんと問題点を把握して分析できている人はごく稀である。自分が分かっていないことを教育テーマとして取り上げることは非常に難しい。
更に日本では「教師は生徒に教えるもの」という上下関係の意識がこういった授業では大きな障害になると思う。このような問題では生徒のほうが教師の視点になかったポイントを指摘することもあり、それは受け入れなくてはならない。一方、生徒が誤解して発言しているときもあり、それは正さなくてはならない。このためには教師の側にかなりに知識と度量が必要である。今から政府が教師を教育したとしても10年はかかると思う。
更に政党の意見もあいまいである。日本で言うとTPP問題や憲法改正問題が大きな問題だと思うが、それぞれに対する政党の意見はあいまいで、同じ政党の中にも色々な意見の人が居て割れている。自民党は安倍総理が全体をまとめているが、民進党は政党の意見そのものがあいまいであり、選挙に勝てそうな意見に流れる、という雰囲気がある。このあたりをきちんと説明するのはよほど政治を深く勉強している人でないと無理だろう。要するに政党に政策の軸がないので、仮に政治問題に対する意見を議論できて高校生が意見を持てたとしても、投票とどうつながるかは不透明である。
更に、私が感心したのはドイツにおける教師の説明仕方が問題の本質を説明し議論している点である。つまり、移民を受け入れるとこういう良いことがある一方で、こういう問題点がある、ということを多面的に説明し、政党の意見はこちらの側面を重視している、という言い方をしていた点である。日本なら池上彰さんのような高いレベルの人でも「こっちの政党がこういう意見、あっちの政党はこういう意見」という紹介の仕方をするように思う。一般的に、日本人で政治的にはっきりした意見を持っている人は大部分が自分で考えた人ではなく、共産党のように集会などで教育されている人だと私は思っている。従って勉強してきた意見を言っているのであって、自分で考えて意見を言っている人はごくまれだという感触を持っている。
私が出ていた技術の国際標準を作る会議などでも、日本人が頑張るのは上司から「この意見を通してこい」と指示された場合で、自分の頭で全体のために何が良いか」、それと自分の企業には何が良いかを自分で考えて調整しているような人はごく稀だったと思っている。人工知能の発展で言うべきことが決まっているような発言にはどんどん人工知能が入ってくるだろう。全体として日本人の地位は下がっていく感じがしている。