今は円高だと言って皆が騒いでいる。もっと円安に誘導しないと大変なことになると多くの人が言っている。今が本当に円が実力以上に高く、それが投機的な動きで支えられているのなら、いずれ修正が入るだろうと私は考えていた。しかし、なかなかそうはならない。ユーロが危ないからだと皆思っているだろうが、本当にそうなのかを考えてみたい。
2007年頃、1ユーロは160円くらいだった。1ポンドは250円くらいだった。当時私は良くヨーロッパに出張していてポンドは明らかに高いと感じていた。物価が全て高い感じなのである。良くこれでイギリス国内で問題にならないものだと思っていた。考えてみるとイギリス国内には製造業は殆ど無く、強いのは金融や資源関係なので問題になっていないのかと思っていた。ドイツも物価が高いと思っていた。それでもドイツの大幅な輸出超過で、私は不思議に思っていた。
今はポンドは120円くらい、ユーロは100円くらいである。今ヨーロッパに行けば物価が安いと感じるだろうか? 少なくとも2010年末くらいまではヨーロッパに行っていたのだが特に物価が安いとは感じなかった。高かった物価が調整されて同じくらいになった、という印象である。従って、投機的な動きを別にすると、このままの状態で行くのではないかという気がする。
加えて日本はデフレで物価が下がっている。これが続けば日本の物価は割安になり数年後にはまた円高に向かうことも考えられる。デフレが問題だということは多くの人が言っている。基本的には国民が物を買わなくなっているからだ。なぜ物を買わないかというと、経済的先行き不安と、高齢化して物を必要とする人口が減っているからだ、ということだと思う。後者は今後50年くらい変わりようがないので前者に対する対策をかなり抜本的に打たなくてはならない。
民主党政権は年金・社会福祉を抜本的に改革してこの先行き不安を払拭しようとしたが無理だと分かり、増税に転じた。しかも今回決まった内容では社会福祉のほうの改良は小さなことなので先行き不安は一層強まるだろう。
なぜ、先行き不安があるかというと企業の業績が良くないからである。もともと日本企業の利益率は低かったのに円高に見舞われたので輸出企業の業績は大幅に悪化した。それを人件費を減らすことでしのいでいるので業績は回復しても、社員は先行き不安になっている。
日本人の給与は21世紀に入って下がり続けていると言われているが、欧米先進国と比べて安いというレベルではなくほぼ同レベルだろう。一方で日本の工場労働者の品質や効率は世界でトップレベルに高いと言われている。それなのに、なぜ利益は出ないか?
いわゆる6重苦という問題が足を引っ張っているのだと思う。税金や、運輸、交通と言った社会インフラが効率が悪い。この悪い部分の改善が遅々として進まない一方で海外企業の生産効率はトヨタ方式を真似たりして着々と改善している。それで輸出型企業が苦しんでいるのだと思う。内需型企業、(例えば電力会社のような会社)は国際競争にさらされていないので余り円高の影響を受けない。しかし本来ならこういった企業は最高益になるはずである。それがそうならないのは、問題が起こらなければそこに安住する(更に高みを求めようとはしない)という性格と、極端な安全を求める国民性にあると思っている。従って、内需型企業の国際競争力低い。
製造業が人員削減を含め国際競争力を維持することで円高を継続してきた。しかしそれにも限界が来ており、遠からず輸入超過になるだろう。そうなれば円安に向かうはずである。そして一度その方向に向かい始めると相当に長期間続くだろうと思う。一度失った製造業の強みはそう簡単には取り戻せないような感じがするからである。