ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

囲碁AIプログラムが教えてくれること

2018-10-14 07:39:17 | 囲碁

現在、囲碁の名人戦挑戦手合いが進行中で、先日第4局目が行われ、井山名人が挑戦者の張栩9段に対して3勝1敗とリードした。この碁の解説を名人戦のスポンサーである朝日新聞のサイトで関西棋院の坂井8段がFacebookのAIの読み筋や判断を加えて解説していたのだが、そのAIの内容が印象的だった。

囲碁のAIプログラムと言えばGoogleのAlpha Goが有名で、おそらく今でも一番強いのだろうが、Googleは読み筋などは公開していない。FacebookのELFという囲碁AIは形勢判断や、読み筋を公開してくれるので解説に使える。日本のDeep Zenなども同様である。形勢判断は黒から見て勝つ確率をパーセントで表示している。

今回の名人戦第4局に関していうと、序盤の30手くらいで黒番の張栩挑戦者の勝つ確率が80%になった。しかし、1日目の終わりの頃には50%くらいに戻していた。2日目に入って午前中に張栩挑戦者が失敗して井山名人が80%以上有利になり、90%を超えるところまで確率は上がっていった。どちらが有利かという判断は人間のプロ棋士の判断もだいたい一致しているのだが、人間はなかなか80%有利と言った判断はしない。坂井8段によると1目損をすると10%確率が変化する、ということで、70%くらいといっても2目差、というレベルだそうである。私はアマチュア高段者のレベルであるが、序盤の2目差は全く判断できず、自分なら好みの判断が優先しそうである。プロの坂井8段でも「ELFの判断を全面的に信用しているわけでは無いので70%くらいまではあまり気にしない」と言っていた。それよりも確率がある一手を境に大きく変化することがあり、そのような場合には「この手は悪いのではないか」と考えて自分でも深く検討するようにしているそうである。

ELFは次の1手のお勧めの手を出しており、それはなかなか正確である。坂井8段もそう言っているし、今回の名人戦で控室で検討していたプロたちの意見も一致していた。ある局面で、控室の棋士が気づかなかったうまい手を井山名人が打った時に「さすが井山」という声が上がったそうである。朝日の記者が「今は名人がコンピュータと同じ手を打つと「さすが」と言われるのですね」と言っていた。

ELFは読み筋も公開している。次の1手のお勧めの手をまず示し、その時の勝つ確率を表示する。私はネット放送で画面を見ていただけなのだが、読みの進め方としては、一手目に対する相手の手、その次の自分の手、と次々と読んで行って、数10手先まで読んでいるようである。そのたびに確率は微妙に変化する。二手目、三手目も適当に選んでいるのではなく、良さそうな手から選んでいる点が優秀である。ある程度まで行ったところで、2番目のお勧めの手に関して同じようなことをする、というやり方に見えた。最優先のお勧めは前の段階で読んでいたものなのでそう大きく外れることはない。これは人間の読み方と非常によく似ており、読みを進めるエンジンはコンピュータのほうがはるかに強力なので、人間は勝てないということになる。GoolgeのAlpha Goも同じようなアルゴリズムなのだろうか? 私は少し違うような気がしていて大変興味を持っている。

坂井8段はELFには殆ど勝てず、「師匠」として研究用に使っているそうである。このような状況で10年後、20年後もプロ棋士という職業は続くのだろうか? 気になるところである。

ELFはOpen Sourceで自分でプログラムを書き換えることもできるそうである。単に囲碁を強くするだけでなく、AIの考え方を人間に解説する、という観点で今後、研究が進むことを期待している。


囲碁の井山裕太7冠への国民栄誉賞はまだ早い

2017-12-14 10:25:25 | 囲碁

将棋の羽生善治氏が竜王戦挑戦手合いで勝って竜王位につき、これで全てのタイトルで永世竜王となることが決まり、政府は囲碁で全てのタイトルを独占している井山裕太7冠(羽生氏は現時点では2冠)と合わせて、国民栄誉賞を与えることを検討している、と発表した。囲碁ファンとして大変うれしいことだが、私は井山氏の国民栄誉賞は「まだ早い」と考えている。

羽生氏の国民栄誉賞に対しては諸手をあげて賛成である。永世のタイトルは棋戦によって条件が異なっており、名人は通算5期、竜王は連続5期または通算7期などとなっている。要するに一時的に調子が良いからタイトルを取ったということではなく、歴史に残るタイトル保持者として認定された、ということである。羽生氏は数々のタイトルを獲得しているが、年齢的にピークを過ぎており(47歳)、今回の竜王位獲得も本人も「ラストチャンスかもしれない」と言っていた戦いを勝ち取り、永世竜王となったことで全棋戦で永世タイトルを獲得した。大きな区切りだと思う。

一方、井山7冠のほうもすごい。昨年春に、全タイトルを制覇し、7冠保持者となったのが、秋の名人戦で高尾氏に敗れ6冠に後退した。そして1年間、他の棋戦で全ての挑戦者を退け、名人戦でリーグ戦を勝ち抜き再び挑戦者に名乗りを上げて高尾名人を破り7冠に復帰した。その後、王座戦と天元戦でも挑戦者を退けている。あの羽生氏でさえ、一度は7冠を制覇したものの一度7冠が崩れてからは、再び7冠制覇は実現できていない。ある意味で羽生氏よりもすごいということができる。

それにも拘らず、私が「井山氏に国民栄誉賞はまだ早い」と思う理由は、井山氏はまだ成長途中だからである。井山氏はまだ28歳で、本人も「まだ強くなれる」と思って修行をしている最中だと思う。井山氏は日本国内では無敵だが、中国、韓国には負け越している相手がたくさんいる。テニスの錦織圭のような立場である。そして本人がまだ上を目指している最中に、人生で一度しか与えない国民栄誉賞を与えようというのは本人の向上心をそぐような意味もあるのではないかと思う。

野球のイチローが国民栄誉賞を与えられようとしたときに「まだまだ業績を伸ばすつもりなので、賞はいただきたくない。私が現役を引退するときに国民栄誉賞にふさわしいと思ったらその時考えてほしい」と言って辞退した。私はこのイチローの態度が非常にすがすがしいと感じており、「井山氏もこのような態度を取ってくれると良いな」と思っている。もっとも、受けたからと言って井山氏を非難するつもりは毛頭ない。本来的には与える側が考えるべきことだと思う。

 


人間の知恵とAIの知恵ーアルファ碁から考える

2017-11-12 20:01:48 | 囲碁

囲碁の分野でグーグルが開発したアルファ碁が人間を超えたことは既に有名である。そのアルファ碁は今年の初めに世界のプロ棋士の強豪を相手に60連勝以上して、その後世界最強と言われる中国の棋士に3連勝した後は「もう人間とは対戦しない」と宣言していた。そのアルファ碁が最近Alpha Go Zeroというのを開発して更に進化した、と発表した。

これでグーグルの開発したアルファ碁はAlpha Go Lee、Alpha Go Master、Alpha Go Zeroと3バージョンになった。Alpha Go Leeは昨年春に韓国のトップ棋士を4勝1敗で破って人類を驚かせたバージョン、Alpha Go Masterは今年の初めに世界のプロ棋士を総なめにしたバージョンである。これらは人間の棋譜を与えてある程度強くした後で、コンピュータ同士の強化学習で強くしたものである。そしてAlpha Go Zeroは人間の棋士の棋譜を与えず、コンピュータ同士の対戦のみから学習させたバージョンである。Alpha Go ZeroはAlpha Go Leeに100戦100勝、Alpha Go Masterには100戦90勝程度だという。そしてバージョンの異なるアルファ碁同士の対戦の棋譜を公開した。それが「棋譜う」というサイトにいくつかアップされている。

棋譜を見るとAlpha Go ZeroとAlpha Go Leeの間にははっきりとした実力差があることが分かる。Alpha Go ZeroとAlpha Go Masterの実力差は私には分からなかったが、結果としてはAlpha Go Zeroがほとんど勝っている。過去の人間の知識が、最適解を見つける際の妨げになっていることが分かる。

Alpha Go ZeroとAlpha Go Masterの対局では「アルファ碁定石」とでも呼べるような同じパタンが何度も出てくる。アルファ碁は次の候補手を得点化して最も得点の高い手を選んでおり、点差が小さいときには乱数を使って着手を選んでいるはずだから、同じパタンが繰り返し出てくるということは、他の手との得点差があるということだろうと思う。

興味深いのは白がA、黒がBという形になる定石が出来た場合に、Alpha Go Zeroは白でも黒でもAの形を選び、Alpha Go Masterは白でも黒でもBの形を選んでいる点である。つまりAlpha Go ZeroはAが有利、Alpha Go MasterはBが有利と考えているようである。学習は通常、初期段階では乱数の要素を大きくしていろいろな手を試し、成熟してくると乱数の要素を小さくするものだから、学習は相当に成熟段階にきていると見てよいだろう。

このことから、過去の人間の着手はかなり良い着手ではあるが、最善ではない。そして、かなり良い手であるがゆえに、Alpha Go Masterは人間の呪縛から抜け出せない、ということだと推測している。

一般的な人間の常識にもこのようなことが多々あり、これからコンピュータに教えられることが増えてくるだろうと思う。



囲碁界の注目すべき話題

2017-10-20 07:44:22 | 囲碁

囲碁ファンでない方は殆ど気にしないかもしれないが、最近気になる囲碁の話題が3つほどあった。

一つ目はグーグルのアルファ碁に関するもので、これまでアルファ碁は世界最強プロ棋士たちを圧倒的に打ち負かしていたのだが、グーグル内の新規開発で過去の人間の棋譜を学習させたバージョンが、予備知識なしで自己対局のみで学習させたバージョンに100連敗した、という話である。これは、これまで人間が延々と積み上げてきた知識は正しくない、少なくとも最善ではない、ということを意味するのだろうか? アルファ碁はいわゆるシンギュラリティの領域に近づいたということかと私は受け止めている。

二つ目は名人戦で挑戦者の井山九段が高尾名人に勝って7冠の全冠制覇したということである。井山氏は昨年7冠持っていたのを高尾氏に敗れて6冠に後退していたのだが、この1年間に6冠すべて防衛して、名人戦でも挑戦者になり再び7冠になったというニュースである。すべてのタイトルを取るということは相当の力の差がないとできないことで、2番手以降とはかなりの差があるとみてよいだろう。私は井山7冠の戦いの仕掛け方が好きで、応援している。

三つ目は18歳の六浦三段が、早碁ではあるが全棋士が参加する棋戦で優勝して一気に7段になったというニュースである。井山氏も同じ棋戦で優勝して四段から七段に上がったのだが、この頃このような飛び越し昇段が多いと思う。井山氏のようなめったに出ない特別な人は良いが、最近はこのような例が続出している。それは、大きな棋戦の挑戦者を争うリーグ戦に入れば七段にするという規定があるからなのだが、入団して3年くらいの若者が三段から七段に上がる例が続出している。これは昇段規定が甘すぎるのだと思う。

囲碁界では段位が下がることはなく、弱くなっても九段を続けられる。将棋界では段位が下がることは無いのだが、順位戦というリーグ戦で負け続けるとどんどん下位リーグに落ちていき、一番下位のリーグでも負け続けると引退を余儀なくされる。テレビによく出る加藤一二三九段がこのシステムで引退を余儀なくされた。囲碁界にはこのような仕組みもないので弱い九段がたくさんいて、九段と三段が戦って三段が勝つ方が普通という状態になると段位の権威が失われる感じがするので飛び越し昇段するのだろう。実際、飛び越し七段が年配の九段に負けることは殆ど無い。規定を見直す必要がある気がする。

若者がすぐに強くなるようになったのは囲碁AIの影響が大きいと私は考えている。人間が強くなるのは自分より強い人と戦って相手の打ち方から学ぶのが基本である。アルファ碁が出てきて自分より強い相手と戦う機会が増えてきて、若者がそれを吸収し強くなるのが早くなったと私は考えている。従って年配者が引退しないとすぐに皆が九段になってしまい、大部分が九段ということになってしまうと思う(今でも九段が一番多い)。若者が強くなるのは良いことだが、日本棋院の体質は改めるべき点が多いと思う。




名曲だった囲碁名人戦第3局

2017-09-23 14:32:13 | 囲碁

現在、囲碁名人戦が進行中である。高尾名人に井山6冠が挑戦しており、井山氏は勝てば2度めの7大タイトル全冠制覇となる。地力から見れば4勝2敗で井山氏がタイトル奪取、というのが相場だろうが、高尾名人が「今までと違う打ち方を見せる」と意気込んでおり、これまで内容の濃い名人戦になっている。第1局目は井山挑戦者が攻めてきた石を高尾名人がうまく取らせて、石が取られて時点で打ちやすい碁になった。その後、井山氏が様々な技を繰り出したが、高尾名人がかわし続けて逃げ切った、という印象だった。第2局は順当に井山挑戦者が勝った印象だった。9月21,22日に打たれた第3局は歴史に残る名局だったと思う。

1日目から双方が最強の手を繰り出し、一つ読み間違えればつぶれてしまうようなぎりぎりの戦いと続けながらどちらが有利ともいえない状態が続いていく。2日目もぎりぎりの激しい戦いが続き、一段落したところで、大きな地を井山挑戦者が囲いに出て、高尾名人が反対側から減らしに出たのが失敗で、そこをチャンスとみて井山挑戦者が手を抜いて別の方面を囲いに出た判断が的確で、そのまま押し切った。「これで勝てる」と見た井山挑戦者が、それまで最強の手で戦いに出ていたのを、一転戦いを収める方向に出て押し切った見事な収束が光っていた。

しかしこの碁を名局に仕立て上げたのは、むしろ高尾名人の積極的な戦いぶりだったと思う。井山6冠は読みが深く戦いに強いのが有名で、井山挑戦者が戦いに引きずり込もうとするのに対して高尾名人はバランスをとりながらかわし気味に打つのかと思っていたが、この碁では高尾名人がむしろ自分から仕掛けるような感じで、双方が思いきり戦いぬいた印象だった。「今までと違う打ち方を見せる」とはこの事か、と思った。

私がここまで感心したのは昨夜帰宅してから見た朝日新聞の囲碁サイトにあった張栩九段の解説ビデオを見たからである。棋譜だけを見て感心していた私だが、張栩九段の深いレベルの解説と同時に、張栩氏自身が二人の戦いをぶりを見て興奮している感じがこちらにも伝わってきて、私自身も感動させられた。

名人戦は挑戦者の井山6冠の2勝1敗である。第3局のような名局はそう続くものではないと思うが、どちらかが4勝して決着がつくまで、両者力いっぱいの戦いを期待している。


囲碁文化を育てた徳川幕府

2017-04-08 08:04:08 | 囲碁

トランプ大統領がシリア政府軍を攻撃した。私はこの行為を肯定的に捉えているが、不十分な情報でコメントすることは差し控えて、今日の本題の囲碁の話にしたい。

 最近、日本、中国、韓国の囲碁トッププロと日本の人工知能Deep Zen Goを含めた4者の大会が行われた。日本の参加者は日本の囲碁プロで圧倒的強さを示している井山6冠だったが、優勝は韓国、2位中国、3位人口知能で、日本の井山氏は全敗、という結果だった。Googleのアルファ碁には世界の誰も勝てない、というのは明らかになっていたが、日本の人工知能であるDeep Zen Goにも井山6冠でも勝てなかった。半年前にDeep Zen Goは過去の名人趙治勲と戦って負けているが、この時と比べて明らかに強くなっていた。中国、韓国の棋士はDeep Zen Goには勝ったのだがそれもぎりぎりの勝ち方だった。

40年数年前、私が大学の囲碁部で本格的に囲碁を始めた頃は日本が圧倒的に強かった。しかし、韓国に抜かれ、中国に抜かれ、最近では人工知能にも抜かれている。しかし今日は日本のプロが世界に通用しなかったことを嘆くのではなく、囲碁がここまで国際的に楽しまれるゲームとして発展したのは徳川幕府の影響が大きかったことを指摘したいと思う。

囲碁はおそらく2000年くらい前に中国で発明され、朝鮮半島を経て日本に伝わってきた。平安時代の紫式部や清少納言が囲碁をたしなんでいたことは知られているが、プロとして囲碁で生計を立てるような人は居なかった。プロ棋士が成立したのが江戸時代である。

徳川家康が囲碁が好きで、本因坊算砂を重用したのが囲碁のプロ棋士の始まりと言われているが、続く秀忠、家光も囲碁が好きで、三代将軍家光の時代に江戸城で将軍の前で家元の代表同士が囲碁を打つ、「お城碁」が定例化されて、4家の家元をベースとした囲碁のプロという職業が確立されたと言えるだろう。

囲碁は日常生活に役に立つわけでは無い芸能の一種なので、プロが生活できるためには「旦那」と呼ばれるスポンサーが不可欠である。しかし、スポンサーを得るのは容易ではない。囲碁は落語や歌舞伎のような芸能と違って素人が見て面白いものではなく、囲碁の面白さを理解するには見るほうにもそれなりのトレーニングが必要である。歴代の徳川の将軍が、囲碁を鑑賞できるレベルにまで勉強したからこそ、「お城碁」という制度が確立されたのだと思っている。そして囲碁の技術は江戸時代に長足の進歩を遂げ、中国や韓国を圧倒した。プロとして囲碁で生計を立てることができる仕組みがあれば発展するのは当然と言える。

囲碁はゲームとして良くできているので民間にも楽しむ人は少なからずいる。トッププロ同士の対戦経過が公開されるにつれ、それを「すごい」と感じる人が増えてきて囲碁のすそ野が広がり、民間にも「旦那」になる人が出てきた。徳川幕府が倒れて明治時代に入るとスポンサーであった徳川幕府が無くなり、プロ棋士たちは生活に困る状況が続く。この時期を支えたのは一部の民間の「旦那」達だった。棋士たちは独自の団体を作ったり、徳川時代の家元の元に集まったりして、組織的なプロ棋士育成システムはうまく機能しない時代が続く。次第に情報産業として確立されてきた新聞社をスポンサーとして頼るようになり、大正時代に「日本棋院」が設立される。だが一枚岩ではなく、「棋正社」や「関西棋院」などが分離して独立した。「棋正社」は事実上消滅したが「関西棋院」はいまでも多くの棋士を抱えている。現在は「日本棋院」も「関西棋院」も現在は「公益財団法人」になっているが、腫瘍スポンサーは新聞社で、政府から援助資金が出ているのかどうかは分からない。

最近は新聞社の経営は悪化してきており、インターネットの企業がスポンサーをする場合も増えてた。先日の日本、中国、韓国に人工知能を加えたワールド碁の対戦もDeep Zen Goを開発したドワンゴが動いてスポンサーを集めた。今後、囲碁のスポンサーは新聞社からインターネットを含めた広い意味でのメディア企業に移行していくのだろうが、「文化」と捉えて政府の援助があっても良さそうに思う。

囲碁のように一見とっつきにくいが奥の深いゲームをサポートし、文化として育てた初期の徳川幕府将軍の見識は「和算」という独特の数学を発展させたことと合わせて高く評価するべきことだと思う。


将棋ソフト不正利用疑惑、「ごめん」で済む話ではない

2017-01-18 13:59:11 | 囲碁

日本将棋連盟が将棋ソフトを不正に使った疑いがあるとして、三浦九段を3か月ほど出場停止にした。三浦九段は「濡れ衣だ」と主張して、将棋連盟は第3者委員会を立ち上げた。最近結果が出て、結論は「シロ」だった。疑惑を主張した渡辺竜王は謝罪のコメントを出し、谷川将棋連盟会長は辞任を表明した。将棋連盟がもし、これで済ませるつもりなら社会常識を大きく欠いた動きだと思う。

三浦九段は竜王戦の挑戦者に決まっていた。三浦九段は出場停止の決定のおかげで挑戦権をはく奪され、替わりに丸山九段が挑戦した。竜王戦の賞金額は4320万円でタイトル戦中最大である。三浦九段が挑戦していたら1/2の確率でタイトルを取る可能性があり、仮にタイトルを取ったとすると1/2の確率で翌年防衛する可能性がある。更に翌年・・・と加算していくと期待賞金額は1年分の賞金である4320万円になる。これに加えて他の棋戦にも出られなかったので、対局料だけで5000万円程度の損失を与えている。更に、「悪人」のイメージを与えたブランド価値を加算したくらいの賠償金を払うべきであると考える。

谷川会長は辞任するにしてもこの処理をしてから辞任するべきだったと思う。谷川会長は一時無敵であった将棋の強さに加えて、人格者で知られており、それだから連盟の会長に推挙されていたのだと思うが、一連の「ソフトカンニング問題」に対する将棋連盟の対応はお粗末以外の何物でもない。やはり、棋士としての能力と、連盟という組織を運営する能力は全く異なったものだと考えるべきだろう。

囲碁の日本棋院のトップは理事長と呼ばれているが、棋士が勤めることもあるが、財界などからの人がトップを務めることのほうが多い。現在の理事長も棋士ではない。やはり経営とプレーヤーは分けて考えるべきだと思うので囲碁界のほうが健全な体制になっていると思う。

大相撲も、大相撲協会の役員は全て力士で占められているので将棋界と同じ問題があると思っている。相撲界で八百長疑惑などの問題が出た時の対応がしっくりしないのも、横綱として実績はあったかもしれないが、組織運営に関しては素人の人が運営しているからだと思う。他の日本の伝統芸能も同じような問題を抱えていると想像する。これを機会に体制を再検討するべきだと思う。


和製AI囲碁、元名人に1勝2敗

2016-11-24 07:25:50 | 囲碁

日本製のDeepZenGoが趙治勲元名人と対局し、ハンデなしの3番勝負で1勝2敗だった。私は昨日行われた第3局をニコニコ動画で見たのだが、非常に面白い中継番組だった。

DeepZenGoの実力は今年3月のに韓国のイ・セドル九段に勝ったGoogleのアルファ碁と比べるとまだ弱いと感じた。人間側の趙治勲名誉名人はまだ現役のプロ棋士として対局しているが、タイトル戦の挑戦者にまでは出てこられず、その一歩手前のところで負けるくらいの実力で、イ・セドル九段にはなかなか勝てないだろう。現在のDeepZenGoとアルファ碁が戦えば半年前のアルファ碁に対しても10回に1回勝てるかどうか、というレベルだと思う。

しかし、ニコニコ動画の中継は非常に面白く、番組としては大変良かったと思う。ニコニコ動画を配信しているドワンゴがDeepZenGoの開発に関与しているので、読み筋や形勢判断を一部公開しており、DeepZenGoがどのような考え方になっているかをうかがい知ることができたからである。中継は解説井山裕太6冠、吉原由香里女流棋士(ゆかり先生)が聴き手という囲碁界としては最高のキャストで行われ理解を助けてくれた。二人ともプロ棋士であるが、更に囲碁が強いAI技術者が加わっていたらもっと面白かったと思う。

序盤のDeepZenGoは強い。アルファ碁と互角だと思う。アルファ碁は「人間の目から見ると疑問」、と思えるような手をいくつか打っており、それが後になって悪くはなかった、という感じになってその後の人間のプロ棋士の研究材料になっているのだが、DeepZenGoにはそのような手はなかった。人間の名人(井山6冠)から見ても妥当と思える手が続いており、趙治勲相手にも互角以上の戦いをしている。トッププロと互角とみてよいだろう。互角以上かもしれない。

しかし、中盤になると弱点が見えてくる。石数が増えてくると、部分的な形ではなく全局的な判断が必要になる。どこから仕掛けて局面を動かすか、といったあたりの判断は、低段者であっても殆どのプロ棋士のほうが上だろうと思う。部分の読みはしっかりしているのでアマチュアよりも強いので大きく崩れることは無いが徐々に損をする感じである。3局とも途中で投了で終わったので終盤の強さはよくわからないが、プロ棋士と互角以上に強いだろうと思う。このようなアンバランスが分かってくると、人間のほうが勝ちやすくなるので、今回は趙治勲の2勝1敗だったが、10番勝負を行なえば趙治勲の8勝2敗くらいになるだろうと思う。

アルファ碁はあまり人間の囲碁に対する知見を入れずに、コンピュータの学習によって強くなったのでプロ棋士にとっても新しい発見があるような手を打つが、DeepZenGoは人間の囲碁の知識がDeep Learningにかなり取り込まれており、そのおかげで人間には分かりやすいが驚きも少ないという打ち方になっている感じがしている。

面白かったのは形勢判断で、形勢判断の仕方は人間と大きく異なっている。人間は「ここは白地」、「ここは黒地」というようにはぼ分かる点をカウントし、はっきりしない個所は勘でカウントしているのだが、DeepZenGoは盤面全体をそれぞれ「黒の確立80%」というように確率付けして、その合計をカウントしている。DeepZenGoはかなり自分が有利なようにバイアスがかかった形勢判断をしている。これはおそらくプログラマーが意識的にバイアスをかけているのだろうと思う。

これは「自分が不利」と判断したときの考え方が整理できていないからだろうと私は想像している。人間ならば不利な時にも負けの数が最も少なくなるようにする場合と、逆転を狙って、大きな勝負に出る場合とを組み合わせて考えるのだが、まだこの逆転を狙う考え方がプロクラムとして出来上がっておらず、人間の目から見ると全然つまらない手を「逆転を狙って」打つことが多く、かえって損をする。この点はアルファ碁でも同じだったので、今後の大きな課題だと思う。

解説の井山6冠と聴き手のゆかり先生は非常に良いコンビで、手の読みもしっかり解説してくれたし、DeepZenGoの機能も適切に紹介されていた。井山6冠に対する適度の突っ込みも感じが良く、ゆかり先生の頭の良さを改めて感じさせられた番組だった。

しかし、産業としての人工知能の活用を考えるときには、日本の人工知能のレベルはまだまだGoogleとはかなりの差があると感じさせられた。


囲碁名人戦、井山名人破れ全冠制覇崩れる

2016-11-04 18:54:57 | 囲碁

井山名人に高尾九段が挑戦していた囲碁の名人戦を、高尾九段が4勝3敗で制し、名人位を奪取した。これまで井山名人は一人で全タイトルを独占していたがその独占が崩れた。

挑戦手合いの7番勝負は最初に高尾九段が3連勝した。この時の井山名人の負け方は優勢になったのだが決め所を間違えて逆転されたという印象が強かった。そこから3連勝してタイに持ち込んだのだが、その時の勝ち方は一枚上手と感じさせる強さだった。しかし、11月2,3日に行われた第7局目に高尾九段が勝利して高尾名人が誕生することになった。

この第7局目は高尾九段の完勝だったと思う。序盤で井山名人が仕掛けたのだが高尾九段が適切に応じて、1日目の終わりには相当に井山名人にとって勝ちにくい碁になっていたと思う。高尾九段が特にうまい手を打ったという感じではなく、井山名人の仕掛けが無理気味だったという感じである。2日目はかなり肉薄していた感じだったが逆転には至らなかった。井山名人が優勢になった局面はなかったと思う。

これで全タイトル独占が崩れたわけだが、それでも将棋の羽生氏の全タイトル独占よりは長い期間だった。しかし、第7局目の負け方は気になる負け方でこれから井山氏は不調になるのではないかと私は感じている。井山氏は現在王座戦と、天元戦という二つのタイトル戦を並行して戦っており、この二つは勝ちそうだと思っているが、冬に行われる棋聖戦が危ないと思う。

棋聖戦の挑戦者はまだ決まっていないが張栩九段が有力である。私は3年ほど前に「張栩の碁が荒れている」と書いた。当時は高い勝率だったのだがこのようなやり方をしていると遠からず不調になるだろうと感じていたのである。実際、彼は不調になって、住居を母国の台湾に移して勉強し直してきて、今年に入って再び住居を日本に移した。最近の碁を見ると以前の鋭さが戻ってきている感じがする。

棋聖戦の挑戦者は張栩九段か河野九段になるのだが、張栩九段が出てくると井山6冠も危ないのではないかと思っている。張栩対井山のタイトル戦を見たいものだと思っている。


名局だった本因坊挑戦手合い第2局

2016-05-25 09:47:55 | 囲碁

5月23,24日と井山7冠に高尾九段が挑戦する本因坊戦の挑戦手合い第2局が行われた。第1局目は序盤で高尾九段が優位に立ち、そのまま押し切った感じだったが、この2局目は序盤から激しい戦いが続き大きな変化を繰り返しながらもどちらが優勢か分からないような状況が続いていた。後半、井山名人がやや有利の感じになったがその後も難しい戦いが続き、最後は井山名人が鮮やかに決めた、という印象だった。

私は23日はウィトラのオフィスでネット中継を見ながら仕事をしていた。囲碁は長考するときは30分以上局面が動かないときがあり、その間に仕事をして時々局面を見に行く。「自分だったらどう打つか」を考えながら見ていて、外れるとどうして外れたのかを考える、これが参考になる。1日目の序盤から激しい戦いで私の予想はなかなか当たらなかった。大きな石を捨てたりする大胆な戦い方を繰り返しながら、どちらが優勢か分からないような均衡状態が続いていた。

24日は一日外出していたのでネット中継を見ることはできなかったが夜、帰宅してから棋譜を見て、激しい戦いが最後までずっと継続していて、最後に井山名人が押し切った感じだった。囲碁では根を詰めて先を読まないと一気に負けになってしまう緊迫した局面と、大体このあたりが相場で、アマチュアが打ってもプロが打ってもあまり差が出ない局面がある。昔の碁はプロ同士の対局でも勝負どころは1回か2回くらいが普通だったのだが、この碁は勝負どころがずっと続いてきた感じだった。そうなると常に緊迫した状況で読み続けなくてはならず、体力が問題になってくる。若い井山名人が体力的に勝ったということではないかと思っている。

私は中国、韓国の碁をそれほど見ているわけではないが、中国や韓国ではこのような「疲れる」碁が多いので、若い人が勝つことが多いのだと思っている。戦いを仕掛けるには戦いを仕掛けるテクニックがあって、うまく仕掛けないとたちまち不利になってしまう。日本の歴代の第1人者はこの戦いを仕掛けるテクニックが優れている人が多く、形勢が不利な時は次々と戦いを仕掛けてチャンスをつかんでで逆転する、逆に自分が有利な時には戦いを仕掛けないでさらさらと打って終わらせてしまう。従って見るほうとしては、第1人者が負けた碁や負けそうになった碁が面白い、というのが従来のパタンだった。

今、中国では戦いを仕掛けるテクニックを身に着けた人が多く戦いの連続になって、日本のプロ棋士は勝てなくなっていると私は思っている。日本でも若い人で戦いを仕掛けるテクニックを身に着けた人が増えているので、今回のような面白い碁ができる。挑戦者の高尾九段は戦い続けて勝ちきるにはやや年齢が高い(39歳)が戦い続けているのは立派だと思った。