スティーブ・ジョブズについて書かれた本を読んだ。「スティーブジョブズの流儀」という本で2008年に発行されているので、iPodまでが中心でiPhoneについてはわずかしか書かれていない。
私はApple製品は何となく好きになれず、使ったことが無い。押しつけがましい感じがするのである。本を読むとその「押しつけがましさ」がジョブズの大きな特徴であり、利用者に受け入れられる押しつけがましさを徹底的に追求してきた結果、今のAppleがあるという感じがする。何かをするときに複数のやり方を認めない。可能な方法をいくつか候補に入れて徹底的に比較検討して最も使いやすい方法だけを使えるようにする。これがAppleのユーザインターフェイスの特徴だという。
複雑なものをそぎ落としてシンプルにする。シンプルな美しさを求めるのに多少の犠牲は厭わない、というのがジョブズのやり方で、これが受け入れられてきたのでAppleは成功した。Appleの製品は機能が多く十分複雑である。しかし細部にこだわって何度もやり直しをするには大きなチームでは機能しない。ジョブズは自分が直接口出しをして納得できるようにするためにできるだけ優秀な人材を集めて少人数のチームで開発を進めていたらしい。
これは日本人が得意と言われる「擦り合わせ」の手法ではないか。シンプルさに美しさを求めるというのも日本のわび・さびとつながっていると思う。ジョブズはアメリカ式分業体制の業界の中で日本式を押し通して成功してきたと言えるのではないかと思う。これなら日本企業にもできてよいはずである。なぜ日本企業にはこれができないのか?
一つはリスク分散の考え方だろう。携帯電話で言うと、販売台数がAppleに十分の一以下の日本のメーカーでも年間10機種位開発するのに対してAppleは本質的に年間1機種の開発である。失敗したら大変なことになる。会社としてそれが認められるのはCEOであるジョブズ自らがその機種にのめり込んで賭けているからだろう。
社長が画面上のボタンの配置や梱包の仕方にまで口を出す。これは日本では中小企業ではあり得るが大企業では考えられない。時価総額世界1の企業になってなおかつ中小企業的運営ができる、ここにApple成功の秘訣があり、大企業でも社長が個々の開発に思い入れを持ってのめり込むことができるような企業運営のノウハウを確立すれば、日本からAppleのような企業が出ることも不可能ではないだろうと思う。
もっともジョブズは開発に深入りしただけでなくマイクロソフトとの交渉や、会社の仕組みづくりといったところにも高い能力を発揮していて、そういったマルチタレントぶりが希有の存在と言われているのだが・・。