今回は、若者が経済の中心になる時代に個人の取るべき行動について考えてみる。トップ人材の若返りの話題は今回で打ち止めにするつもりである。
企業の幹部は前回書いたような企業を若返らせて競争力を高める行動が必要だが、一般会社員は自分の将来を考えてどういう行動をとるかを考えることになる。世の中はそんなに急には変わらないだろうから、現在、50歳以上の人は今から新しい人生設計をするよりも、今見えているモデルをどう微調整するかを考えることになるだろう。40歳くらいの人は、終身雇用制が崩れることを意識するべきだと思う。
政府は定年を延長する方向だが、個人で見ると収入がピークとなる年齢が下がってくる。現在、55歳くらいが収入のピークなのが50歳になり、45歳になり、と若返る。つまり早い段階から年収が減り始める、ということが起こると私は思っている。日本企業は能力や業績を評価して給与を下げる、というようなことが苦手なので、一定年齢になると自動的に給与を下げる、というような逆年功序列制を取る企業が増えるものと思われる。HuaweiやSamsungはそのような体制になっているようである。
そこで「どこまで現在勤務している企業に付いて行くか」は40歳くらいの人は考えておく必要があるだろう。20歳くらいの人は自分のキャリア設計をどうするかについて親の世代とはかなり異なる考え方をする必要が出てくると思う。
今年の夏、囲碁プロ棋士の坂井秀至八段(46歳)が、9月から無期限休業すると宣言した。坂井氏は京都大学の医学部を出て医師免許取得後に、囲碁のプロ棋士になった人で、今後、囲碁棋士としての活躍の場は減る一方だと考え、医師としてのキャリアを目指すという。大学を卒業してからプロ棋士になった人はかなりの人数いるが、坂井氏はその中では最も囲碁棋士として強い棋士になった。プロの囲碁棋士で坂井氏ほどの実績を上げた人が囲碁棋士を止めて別の道を目指すというのははじめてだと思う。他の棋士は勝てなくなっても囲碁の指導や普及と言った囲碁に関わることで生計を立て続けている。
棋士としてのピークの年齢が若くなると今後は坂井氏のようなキャリアを歩む人が増えてくるのではないかと思う。9月15日の記事で、現在の日本の棋士のベスト3は井山、一力、芝野の3氏だと書いたが、私は一力氏は坂井氏のようなキャリアを歩む可能性があると思っている。井山氏と芝野氏は囲碁一筋、という感じだが、一力氏はプロ棋士になった後で早稲田大学に進学しており、現在もまだ大学生である。中国のトップ棋士も彼らの中から実業界で活躍するような人が出てくるのではないかと思っている。
今回の一連の記事はトップになる人材について書いたものである。どんな分野でもトップになれるのはごく一部の人なので、目指したけれども途中であきらめる人が普通である。20代歳である分野のトップを目指したとしても大部分の人は成功せずに別の道で生きる必要が出てくる。その意味で新しいことにチャレンジする気持ちをいくつになっても失わないことが非常に重要になるだろう。
個人の哲学で最初から企業のトップを目指さないで特定分野のエキスパートを目指す人も多いだろう。但し、どの分野がAIに負けずに長持ちするかは良く考えておく必要がある。巷で言われている「単純労働はAIに負けるが、複雑な仕事は負けない」は間違っていると私は考えている。
現在の社長の談話などで「経営者を目指してはいなかったのだが、頑張っているうちに気が付いたらトップになっていた」というような話が時々出るが、このような事例は今後激減するだろうと思う。
それは、「企業トップは誰が決めるのか?」、そしてその企業を「応援・支援するのは誰か?」という点です。
今の企業のトップに訴えても、簡単に企業トップの若返りは実現しない。それは今の企業トップが自分の行ってきた経営内容を否定してほしくないと考えているからでしょう。つまり、今の企業経営者が次の経営者の指名権を握っているからです。
この構図を変える事が出来れば、企業の若返りは比較的実現しやすいと思います。
私は、日本の市場で、この構図を変えるのは、投資家であり、顧客と思います。マスコミも大きな影響力を持っていると思います。
最近は、「モノ言う投資家」が増えてきました。投資信託や、そのアドバイザがそれで、連続2・3期減益が続いたら、サラリーマン社長は交代との原則ができれば、もっともっと経営者交代は進むと思います。この意味で株主総会に臨む経営者がもっと真剣になる様、株主の役割は大きいと思います。配当が悪くても、株価が低迷しても、持ち続けるような株主が多い会社は業績改善が伴わないのは当然でしょう。
私は、海外投資家を始め、日本の投資信託なども、もっと現在の経営陣を厳しく査定し、成績が上がらねば退陣を促す仕組みが確立する様に、マスコミ、投資家が行動するのが一番だと感じています。つまり、成績低迷する企業に外部刺激を与えるのが常道と考えます。
もう一つは、顧客です。顧客が商品、サービスを選ぶ時、同じようなサービス、品質、価格であれば「将来性のありそうな企業」の商品やサービスを選択することで、若い企業を応援する事です。
話題性が乏しいけれども伝統がある企業の商品やサービスを選ぶ領域もあると思います。一方では新興企業の方が魅力的と映ったら、それを応援する顧客がもっと増えれば伝統産業にインパクトを与える事が出来ます。
更にGAFAに見られる通り、振興の産業を将来性を「誰が査定して、リスクマネーを投入するか?」の点です。これは本当の金持ち(個人投資家)が不足している日本では或る程度仕方ない事です。
リスクマネーと割り切って投資できるのは、自ら目利きができるか、目利きを動員する事が出来る個人投資家です。日本ではまだまだこの分野は実績が乏しいです。官公庁や地方公共団体がバックアップしながらファンドの形態をとって新興企業を支援しようとしていますが、アメリカなどに比べると、どうしても「サラリーマン的な人間」が動く日本では、リスクを取り難いです。
寧ろ、大企業の中で、そんな活動を応援する企業内起業活動の方が現実的かもしれません。
私は、それぞれの企業が、若返りを図り、活性化できないと、市場から衰退・退出せざるを得ない仕組みをもっと厳しく導入することが結果的には日本の経済力を伸ばすことにつながると思います。30年前に伸び盛りであった多くのエレクトロニクス企業が現在は衰退しながらも市場で、相変わらず薄い利益水準でもまだまだ残っているのは、歯がゆい限りです。
投資家や顧客は経営者が高齢か若いかではなく、企業のビジョンや業績で判断するべきです。実際にそうしていると思います。業績の悪い企業が退出しないのは投資家のせいでも顧客のせいでもなく、むしろ社会の仕組み、それを作っている政府のせいだと思います。しかし、「政府が悪い」と言っても解決にはつながらないと思います。
企業にしても、「経営者を若返らせる」は目的とするべきではなく、「能力の高い人を経営者にする」ことを目的とするべきです。結果として若い人が経営者になるはずだ、というのが私の議論の進め方です。
その仕組みの一つに株式市場、モノ言う投資家が影響力を行使するのは私は望ましい事だと思います。投資家は、自分の投資した企業が収益を上げ、株価や配当でもって、其れに報いることを期待しています。
もし、その期待に添わなかったら、大口の投資家は直接意見を表明するでしょうし、小さな投資家は、その様子を見ても改善が期待できなければ、他の銘柄に移り変えるでしょう。その結果として株価が下がれば、それなりの影響力を経営陣に与えることになります。
私は、経営者を誰が判断するのかという点では、まず、①業績です。②そして業績が良ければ、それが持続するかどうかです。経営者の年齢云々は、あくまで、業績を維持できるかどうかだと考えます。
経営者が若い方が良いとの判断は、その会社を取り巻く業界の環境、将来性で判断するべきものです。特にハイテクと呼ばれるような業界で若い人による、新鮮な活動力とアイデアを伸ばし続けている企業が成長しているゆえに、若さが重要視されるのは納得がいきます。
でもそれを見抜く力、それを支える投資家、そして、それに応えた起業家があって初めて成り立つ構造です。だから私は、投資家の存在は、大きいです。「黙って金だけ出せ」では、投資家が付いてこないと思います。