ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

最近の経産省の動きに対するFTの分析

2016-03-31 14:59:06 | 社会

日経ビジネスの最新号に最近の経産省の動きに関してFinancial Timesの興味深い分析があった。1970年代に日本が驚異的な経済発展を遂げた裏には当時の通産省の戦略が大きく貢献していた、という評価は既に固まっている。その典型的成功例が半導体研究組合である。しかし、90年代のバブル崩壊後、経産省はうまく対応することができずに、経産省の権限は低下してきた。それが東日本大震災と、アベノミクスで再び強化されている、というのがFTの見方である。その動きは様々な国内の企業再編(出光と昭和シェルの経営統合、新日鉄住金の日新製鋼子の会社化など)にみられるという。しかし、鴻海によるシャープ買収は経産省の目論見とは違った結果であり、これからは経産省の目論見は必ずしもうまくいかないだろうとFTはコメントしている。

経産省内部は2派に分かれているそうである。一つは欧米の経済学やガバナンスの考え方に沿って自由貿易を促進していこうというグループ、もう一つは過去の成功パタンのようにオールジャパンで頑張ろうというグループである。FTは経産省はソフトウェアを管理するグループが弱いのでこれからはなかなかうまくいかないだろう、というトーンで最後を締めている。

私も全く同感である。特に感じるのは最近のIoTや人工知能の流れに対する「新産業部会」の検討内筒である。現状分析は欧米の自由貿易主義者の観点でまとめられ、アクションプランはオールジャパン主義者の観点でまとめられている気がする。オールジャパン主義者の手法は古く、ソフトウェアがイノベーションの中心になってきている現在では、うまくいかないだろうと思う。この状況が10年も続けば日本の国際競争力は相当に下がるだろうと懸念している。


白鵬の優勝に対する後味の悪い報道

2016-03-28 14:16:53 | 生活

大相撲で横綱白鵬が久々の優勝を果たした。しかし、千秋楽で白鵬が日馬富士の突進を交わして日馬富士が勝手に土俵から飛び出してしまったことで後味の悪い幕切れとなった。ファンも起こっており優勝インタビューの間もブーイングが入り感じが悪かった。

NHKのアナウンサーも、解説の北の富士も、舞の海も一様に逃げた白鵬を非難していた。会場でもこの放送を聴きながら見ていた人は多いはずで、放送陣は会場のヤジをあおったという側面は否めないと思う。

私は白鵬が悪いのではなく放送関係者が悪いと思う。体をかわすことを非難するのはテニスで言えば「ドロップショット」を「卑怯」と非難するのと同等だと思う。もちろん見ている者として簡単に終わってしまうのは面白くない。しかし、簡単に終わった原因は勝った白鵬よりもむしろ負けた日馬富士のほうにある。本来横綱は体をかわされたら自分で飛び出してしまうようなぶつかり方をするものではない。それはずっと下位の力士が横綱に挑戦したときに戦う戦い方で、横綱は相手の出方に対して対応できる余裕を持って動くべきである。しかし、昨日の日馬富士はそういった横綱相撲ではとても白鵬に勝てないと思っていたのだろう。乾坤一擲、思い切りぶつかったのであのような結果になった。ここ数日の両社の戦いぶりを見れば、日馬富士があのような戦い方をしたのもうなづける。白鵬にとってもかわすのはリスクの高い戦法である。日馬富士に読まれたら簡単に負けてしまう。白鵬が初日に負けた一敗はそんな感じの負け方だった。

問題は報道関係者である。上記のような勝負のあやを一切解説せず、「かわしたのが悪い」といったトーンに終始した。相撲は力と力のぶつかり合いという固定観念があるからだろう。それともう一つ感じられるのは「白鵬に負けてほしい」という願望が放送陣の中にあったのではないかということである。白鵬が負ければ日本人力士の稀勢の里との優勝決定戦になる。それを望んでいたというある種の人種差別的感覚が感じられて、私はますます気に入らなかった。


アルファ碁の勝利の人類の将来への意味

2016-03-17 09:46:23 | 社会

グーグルの人工知能アルファ碁対韓国のトップ棋士イ・セドル九段の5番勝負はアルファ碁の4勝1敗で終わった。イ・セドル9段は「人類が負けたのではなくイ・セドルが弱いのだ」というコメントを残しているが、アルファ碁に勝てる人間はいないとみるのが普通だろう。テニスで言うとイ・セドル九段はジョコビッチやフェデラーレベルであり、日本で無敵の井山名人は甘めに見て錦織圭レベルである。

私は急きょ「人工知能は人間を超えるか」(松尾豊)という本を買って勉強したのだが、アルファ碁がイ・セドル九段に勝ったというのは将棋のプログラムが人間に勝ったのとは質的に大きな違いがある。将棋のプログラムの場合にはそれぞれの局面に対して優勢・劣勢を判断する基準(形勢判断)するプログラムを用意していてミニマックス法という方法で手を決めている。例えば2手先まで読むとすると、自分のあらゆる手に対して、相手のあらゆる手を想定し、相手の最善手の結果が自分に最も有利になるような手を自分の手として決定する。終盤ではモンテカルロ法という手法を使う。モンテカルロ法は、判断を加えずにランダムな手を選んで終局まで進める。これを何百万通りも進めて最も価値につながった確率の高い手を次の手として選択する。

将棋の場合にはミニマックス法において局面が有利か不利かというのを、駒の損得、玉の安定度、駒の働きなどを数値化してその数値が最大の局面が最も優勢であると判断する。例えば飛車は10点、角は9点、歩は1点というような重みづけである。このようなアルゴリズムは人間が決めている。囲碁のプログラムも従来の物は将棋と同様の方式だったのだが、囲碁の場合には、優劣の判断のアルゴリズム化が極めて難しく、まだ当分人間にはかなわないだろうと思っていた。例えば弱い人は黒字20目と数えるところを強い人は黒字10目と数える。強い人が少なく数えるのはこのころ時にはまだアジが残っていて減らされる可能性があるとみるからである。あるいは地としては数えられないが「厚み」と呼ばれる将来何らかの役に立つだろうという形があり、これを何目と数えるかはプロの間でも意見が分かれる。これが「囲碁ではまだ10年は人間にコンピュータが勝つことは無いだろうと言われていた」理由である。

アルファ碁はディープラーニングの技術でこの問題を克服した。松尾氏の本は昨年2月に発行されており、アルファ碁には触れていないので以下は私が松尾氏の本から勉強したディープラーニングに対する私の理解である。アルファ碁は大量の棋譜を学習しどういう形が「勝ち」につながりやすいかという特徴抽出を行って、強い形、弱い形を判別しそれを数値化して形勢を判断している。人間は長年の経験(江戸時代から何百年もかけて)で良い形、悪い形を判別し、形の急所をなどを学習しプロ棋士はそれをノウハウとして蓄積する。それを本などに書いて発行しているのだがあらゆる場合について書ききれるわけでもないので、本を読んだからと言って強くなるわけではなく、実線で試して失敗して経験し、人間は強くなる。アルファ碁は本を読まず(多少は人間が入力したかもしれないが)この良い形と悪い形を特徴として抽出し、自らの着手決定に使っているのである。松尾氏は隠れたルールを見つける機能を「特徴表現学習」と呼んでいるが、この機能が実現され、実際に人類の経験を超える能力にまで至ったことが大きな質的進歩である。

これはあらゆることに応用可能である。政治のように経済、外交、災害など極めて広範囲の事柄の影響を受けるものは難しいが、利用する情報が限定的なものは人間よりも人工知能のほうが得意になるだろう。医者が患者を診察してどういう検査を受けさせるか、はコンピュータにはなかなか難しいだろうが、レントゲン写真などの検査結果を見てどういう診断を下すかはコンピュータのほうが上になるだろう。税理士や公認会計士といった決まったルールに当てはめて適切な行動を決めることはコンピュータのほうが上になるだろう。IBMのワトソンは「この食材とこの食材は組み合わせが良い」などと判断して料理のレシピを自ら提案するようになっている。工場で大量生産するお菓子の成分の組み合わせなどもコンピュータがいくつかアイデアを出して、人間がそれらを試作し、最終的には社長とコンピュータが協議して決めるようになるだろう。

今書いたような仕事は、現在では知的な仕事として高い報酬をもらっている分野の仕事である。しかし、こういった分野では極めて創造的で全く新しい発想をするごく一部の人を除いてコンピュータにかなわなくなると思う。知的業務はソフトウェアだけで実現できるのでコストはどんどん下がる。従って、現在の高所得者は今後どんどん苦しい立場になっていくと想像する。むしろ肉体労働のほうが機械で実現するにはコストがかかるのでコンピュータで置き換えにくくなると思う。ただし機械で実現することは可能なので給料が上がるとロボットに置き換えられてしまうという、将来展望の開けない職種になる。

現在の中間層上位の9割は貧困層に没落し1割が大富裕層になる、その日は意外に近いと思う。

先日も書いたようにこれに対する抜本的解決策は私も思いついていない。ただ、教育システムなどはたとえごく一部でも上位層に登れる人を増やすような仕組みを作ることが重要だろうと思う。


第3次世界大戦への流れ?

2016-03-14 11:31:32 | 社会

最近、私は「後で振り返ると2016年が第3次世界大戦への流れの始まりではないか?」と思うことがある。その理由はアメリカのトランプ任期である。

現在の世界の国家の意識で言うと、日本を含む欧米と、中国・ロシア、そしてそれ以外の国々で意識がかなり違っていると感じている。欧米は民主主義・資本主義を前提として人道政策を取りながら経済競争力で強さを維持していこう、という姿勢だと理解している。どこの国でも、もちろん自国が一番大切なのだが、それをあまり露骨に表には出さず、少なくとも名目上は人類は平等、経済で競争しながらお互いに発展していこう、という姿勢である。これに対して中国とロシアは考え方が違うように私には煮えている。一言で言えば国家主義である。

中国もロシアも周りの国と小さな摩擦は起こしているが対立したいとは思っておらず、人道主義を前面に出している。しかしこれは、戦国時代の真田家ののように自国にとって対立すると損になるから人道主義を掲げているだけで、一番大切なのは自分の国だということをかなり露骨に表に出していると見えている。現状、欧米のほうが経済力が強く、実質的に世界を牛耳っているので大きな問題にはならなかった。

しかし、今のアメリカの状況は、「自分の生活が危ういのに他人のことをかまっておられない」と考える人が増えてきていることを示している。ヨーロッパもそうである。従来からこういう人はいたのだがそれを表に出すことははばかられていた。しかし、露骨にこれを言う人がアメリカでも現れ多くの人気を博しているということはアメリカの空気が変わってきていることを示している。現時点ではトランプ氏は中国を露骨に攻撃してはいないが、いずれ国家資本主義的な動きに反発する意見が出てくるのは明らかだと思う。

これは、欧米で(日本でも)貧富の差が拡大して将来に夢を見にくくなっている人が増えていることの結果であり、これを覆すのは難しいと思う。従って政治家がよほどしっかりしていないと国家間のいがみ合いは強まってくると思う。

私はアルファ碁の時にも資本主義の見直しが必要と書いたが、資本主義で行く限り、貧富の差の拡大は免れず、世の中は難しい方向に行くと思っている。つまり技術進歩により、10人の優秀な人を雇うほうが100人の凡庸な人を雇うよりはるかに利益を出せるようになるので、報酬は優秀な人に偏る。累進課税などで富の再分配をすることはできるが、世界一斉にやらないと累進課税をしない国に優秀な人材が流れていく。世界の政府で税率を合わせるのは極めて難しいだろう。過去の資本主義の問題は貧しい人のつけた付加価値を豊かな人が収奪していたので、組合を作るなどして付加価値に応じた富の配分にすればよかったのだが、これからの資本主義では付加価値そのものが大きな個人差がついてしまうので、格差解消は難しい。これが私が資本主義の見直しが必要だと思う理由である。

私自身、どうすれば良いかのアイデアは持っていない。一つ考えられるのは織田信長方式である。つまり文化を奨励し、由緒ある茶碗にものすごい高い価値を付けることである。これは茶碗自体に価値があるというよりも、社会貢献とか尊敬の証として金ではなく文化的なものを位置付ける、という方法である。競争政策を維持しつつ、富の平準化を図るにはこういった方法くらいしか思いつかない。


アルファ碁、トッププロに三勝一敗

2016-03-13 16:24:10 | 囲碁

囲碁の記事ばかりが続くが、注目のアルファ碁対イ・セドルはアルファ碁が3連勝した後で、イ・セドルが一勝を返した。5番勝負なのでアルファ碁の勝ちが決定した。

第3局は、イ・セドルが序盤から激しい戦いを挑んだがうまくアルファ碁にいなされて序盤からアルファ碁が優勢になった。優勢を築くまでは人間とあまり変わらないような手が続いた。優勢になってからの手堅い打ち方が印象的だった。アルファ碁はこのプロ棋士のような形勢判断を行っていることが明らかになった。かなり早い段階で優勢になったので最善手よりも簡明に終局に向かう手を目指していることが明らかになった。勝つ確率の高い手を目指すという意味でプロの形成判断に相当する行為を行っているとすれば、これはまた新たな発見である。

囲碁のプロ棋士は形成判断をするが、この判断には2種類ある。一つは着手を決めるためにどの手が一番有利になるかを判断する形勢判断である。グーグルはこの判断のプログラムの良いものを開発したと言っている。しかし、プロ棋士が形成判断というのは少し違っていて、全体として優勢かどうかを判断して、優勢なら多少損をしても手堅い手を打つ。劣勢なら挽回しようとして難しい手を打つ、というように勝ちに持ち込むテクニックの一つである。

昭和の名棋士、趙治勲は大先輩の高川格氏に対して、「無理な手を打たずに常に5分の別れになるので、常に形勢判断をしている」と評している。一方、同時代の坂田栄男氏に関しては、「優勢でも常に最善の手を目指しているので普通の意味で形勢判断をしているとは思えない」と評している。趙治勲自身は基本は最善手を目指して読みの判断を行っているのだが、終盤で優勢だと思うとモードを切り替えて勝ちきりを目指す。この時は多少損でも手堅い手を打ち、このモードに入ってからは逆転負けは見たことがない。普通の人間の棋士は割りに早い段階で優勢を意識して戦いを避けて逆転負けを期することがあるのだが、趙治勲はやや優勢くらいの時は最善手を目指して強い手を打つので、逆転負けをする時は戦いで逆転負けをする。コンピュータはこのモード切替が柔軟にできるのだろうか?

第4局は、イ・セドル9段が勝った。アルファ碁が黒だったのだが中央に大きな黒字ができそうになって、「また、アルファ碁の勝ちか」と思ったのだが、イ・セドル9段が妙手を打って黒地が破れて明らかに白が優勢になった。コンピュータは読みが強そうだが、広い範囲が関係する複雑な読みでは今一つなのかもしれない。興味深かったのは、この黒地が敗れた直後に、これまでのアルファ碁とは思えないような意味不明の手を何手か打ったことである。まるで人間が動揺したような感じだった。しばらくするとアルファ碁は気を取り直したように、またまともな手を打ち始めた。アルファ碁は形勢が悪くなるとおかしな碁を打つようである。

 


グーグルのアルファ碁がトッププロに2連勝

2016-03-11 09:10:10 | 囲碁

Googleの人工知能 Alpha Goが韓国のトッププロであるイ・セドルに2連勝した。今日の記事は囲碁の技術的な観点でのAlpha Goに対して人間と違うと感じた手に関する印象である。

第1局の時にはそれほど珍しいと思った手は無かったが、第2局目は人間のプロ棋士なら打たないだろうという手がいくつか出た。

最初は15手目の右下の定石からできた白石に対してのぞいた手である。序盤の何もないところでのぞく手は良くないとされているが、Alpha Goは続く左下隅の定石と関係して悪くないと判断したのだろう。解説の溝上九段も驚いていた。これが良い手だったかどうかは疑問だが後の打ち方で悪い手になっていなかったことは確かである。

2番目は37手目の4線に開いた白石に対して5線目から肩をついていった手である。これは人間のプロ棋士でも打つ人はいるだろうが珍しいだろう。溝上九段も「珍しいが良い手のようだ」とコメントしているし、実際良い手だったと思う。

3番目は41手目の左下の白石に肩をついて言った手である。この手は後で取られそうな石になるのであまり人間のプロは打たない。溝上九段も否定的なコメントを書いている。後の分かれで15手ほど後に実際に取られるのだが、取られても働いている。実際、68手目に白は地にならない手で一手かけて守っており、黒が優勢になった原因であると私は思っている。

4番目は81手目の左辺の黒をつながりに行った手である。その前の80手目に白が打ち込んできたところなので、その石を攻めたいところだが自分にも弱点があるので先に守った手である。これも人間にはなかなか打てない良い手だと思う。

5番目は93手目の上辺の白の間を突き出した手である。これは切れないところを出た手で俗筋の典型と言われている弱い人が打つような手である。しかし、Alpha Goは続いて打った97手目ののぞきに対して白が継げないことを見越してこの手を打っている。打たれてみれば継ぐとまとめて取られそうなことはある程度の打ち手なら読めるのだが、人間は「筋が悪い」と思って読まないと思う。溝上九段はこの手を当然のように言っているが、コンピュータ独特の発想だと思う。98手目で継げずに白が守り、99手目で黒が白石を切って上辺をつながった地にしたことで黒の優勢が確定したと私は思っている。溝上九段は指摘していないが、黒93の出る手を軽視したのがイ・セドル九段の失敗で、警戒していれば別の打ち方があったと思う。

Alpha Goはたくさんの棋譜を勉強することで良い手・悪い手に関する独自のルールを築き上げている。大部分はプロ棋士の感性と一致しているが、一致していない部分もある。プロ棋士が「形が悪い」と思って読まなかった手がその先を想定すれば良い手もあるという点がいくつもあることが明らかになった。その意味で昨日の対戦は、プロ棋士にとっても大変勉強になったと思う。世界中のプロ棋士がこの碁を見て勉強し新しい知見を得るだろう。中国や韓国は集まってわいわい言いながら勉強するオープンイノベーションなのに対して、日本のプロ棋士は一人で勉強するクローズドイノベーションなので日本と中・韓のプロ棋士のレベル差はさらに開くと思う。

 


Googleの囲碁プログラムが世界最強棋士に勝った

2016-03-09 17:17:16 | 囲碁

今日、韓国のトッププロ棋士イ・セドル9段と、Googleの囲碁プログラムAlpha Goが対戦してAlpha Goが勝った。これで囲碁においてもコンピュータが人間より上に来たと言えるだろう。囲碁は世界的には中国と韓国が強く、日本のプロ棋士はめったに勝てない。イ・セドル9段は韓国のトッププロで、日本では無敵でタイトル7冠を全部ひとり占めしようとしている井山名人も、イ・セドル9段には殆どの対戦で負けているはずである。囲碁の世界ではテニスのプロのように世界ランキングを付けていないが、イ・セドル9段はかなり上のほうだろうと思う。

私は棋譜を見ていたが、歯が立たないという感じではなく、接戦という感じであった。今回の対戦は5回戦うことになっており、今後の成績が楽しみだが、半年もたつと人間はコンピュータにかなわなくなるのは確実だろう。

IBMはチェスのプログラムを作り、1997年に世界チャンピオンに勝ったが、IBMは遊びでプログラムを作っていたわけではない。世界チャンピオンに勝ったディープ・ブルーというコンピュータのノウハウは現在、IBMのワトソンという人工知能に引き継がれ、ワトソンは現在、同社のビジネスの核になってきている。Googleも遊びでやっているわけではなく、ビジネスシナリオを持っていることは間違いないだろう。日本人が作っている囲碁や将棋のプログラムは、囲碁や将棋を強くすることだけを目標にしている印象なのとは大きな違いである。今回のAlpha Goの特徴は、人間でも言語で記述できないようなノウハウをディープラーニングという手法で人間レベル以上に獲得できることを示している。Googleに囲碁のプロがいるわけでなくても学習させられるというのは、コンピュータにとって新しい境地を開いたと言えると思う。

2月25日に書いたように、現在、様々なことを判断することを仕事にしている、企業の管理職などの大部分がコンピュータに勝てなくなる日は近いと思う。ピケティの「21世紀の資本」で格差が拡大すると言われているが、あの本はこのような技術イノベーションをカウントに入れていない。格差拡大は一層進むと思われ、資本主義の見直しを急ぐ必要があると思う。


沖縄基地問題の裁判で和解に応じた安倍総理の好判断

2016-03-04 17:17:28 | 社会

沖縄の基地問題では国と沖縄県が互いに相手を訴えて複雑な訴訟になっていた。今日、安倍総理が裁判所の和解案を受け入れ、辺野古の基地建設工事を中止すると発表し、沖縄県も受け入れた。これは総理の好判断だと思う。これで工事を中止した後、普天間の飛行場をどうするかということになり、その交渉次第では再び訴訟になるが、その場合は双方が裁判所の判断に従うことになる、という。安倍総理としては「普天間をどうするか?」という議論になれば「辺野古しかない」という結論に落ち着くという自信があるのだろう。

実際、沖縄県の翁長知事は普天間をどうするかに対してのアイデアを持っておらず、ただ「沖縄から基地をなくせ、新たな基地は作るな」と主張していただけなので「普天間をどうするか?」が議論の焦点になれば困ってしまうだろうと思う。国側にとっては辺野古の基地建設は目的ではなく、普天間飛行場の返還を実現するための手段なのに対して、反対派は「辺野古を作らせない」ことを目的としているので、工事が中止されてしまうと、もはや何も言えなくなるだろう。何も考えていないので「無条件で基地を返せ」と言うしかなくなり、これは日本政府に対してではなくアメリカ政府に対していう言葉になる。日本の裁判で決定できないことは明らかである。つまり裁判所が沖縄県の意見を受け入れる可能性はほぼ無い。

そもそも、この構図は最初から明らかだった。沖縄県の仲井真前知事はこれを理解して辺野古を容認していたのに、反対派が「辺野古を作らせるな?」というマイナス思考で住民をあおったために今の状況が生じている。北朝鮮問題が緊迫している今の状況でアメリカに「無条件で普天間飛行場を返還せよ」といっても通らないのは明らかだと思う。沖縄県の住民にもこれを真剣に考えてほしい。今後沖縄県がどう出るか、県と一緒になって辺野古反対のトーンで報道してきた朝日や毎日がどういう報道をするかに注目したい。