真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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東京裁判NO12 キーナン検事の東条尋問③

2020年08月13日 | 国際・政治

  キーナン検事のハル・ノートに関する東条の尋問によって、当時の日本の方針や東条被告の考え方がわかります。ハル・ノートは、日本の北部仏印進駐や日独伊三国同盟の締結、また汪兆銘新政府(「梅機関」の工作により樹立されたといわれています)の承認などに対抗する、アメリカの対日方針を示したもので、1941年十一月二十六日、野村・来栖-ハル会談で手交されたといいます(下記資料1)。文書には「合衆国及日本国間協定ノ基礎概略」とありますが、アメリカ側の当事者であったコーデル・ハル国務長官の名前からハル・ノートと呼ばれているようです。
 このハル・ノートは覚書で、正式の文書ではないということですが、この文書が日本では最後通牒と受け止められ、開戦にいたったという意味で、極めて重要な文書だと思います。
 「機密戦争日誌」には、次のように記されているといいます
 果然米武官ヨリ来電、米文書ヲ以テ回答ス、全く絶望ナリト。曰ク
1、四原則ノ無条件承認
2、支那及沸印ヨリノ全面撤兵
3、国民政府(汪精衛政府・汪兆銘政府)ノ否認
4、三国同盟ノ空文化
 米ノ回答全ク高圧的ナリ。而シテ意図極メテ明確、九国条約ノ再確認是ナリ。対極東政策ニ何等変更ヲ加フルノ誠意全クナシ。
 交渉ハ勿論決裂ナリ。之ニテ帝国ノ開戦決意ハ踏切リ容易トナレリ。
   「戦史叢書 大本営陸軍部 大東亜戦争開戦経緯<5>」防衛庁防衛研究所戦史室著(朝雲新聞社)

 キーナン検事の尋問に答える東条被告の主張は、九ヶ国条約(下記、資料2)を蔑ろにして、中国に関わって来た日本の立場を示していると思います。
 キーナン検事の”一切の国家の領土不可侵の厳守”に関する問いに、東条被告は”それは日本は尊重してきました”と答えていますが、現実にはなんだかんだと言いながら、百万を超える軍隊を送り込んでいたため、”東亜の諸国がそれ自体の国でいろいろ分裂作用を起こす”とか、”満州国がその土地の住民の意思によって独立国家となった”りするので、関わらざるを得なかったかのような言い方をして、不可侵の厳守をしなかった言い逃れをしているように思います。
 また、 ”各国の国内問題に対する不干与の原則”も、”原則は支持されました”と言いつつ、”しかしたとえば日華事変という特殊の事態が発生”したので、関与せざるを得なかったかのように言っています。
 さらに ”第三の原則、商業上の機会、待遇の均等”についても、日本には特別の事情があるかのような言い方をしています。

 重要なのは、キーナン検事の”これらの原則を日本に要求することによってなにか理不尽なことを要求していたことになるのか”という問いであり、それに対して東条被告が”そうは申し上げたくない”と答えざるを得なかったことです。でも、それに加えて、”ただ東亜に起ったところの九ヶ国条約締結以後の変化、これの認識が足りないので、それからすべての喰い違いがくるのです”というのですが、その”変化”は、満州事変や日華事変を含め、日本が九ヶ国条約を蔑ろにして起こした”変化”ではないかと思います。だから、言い訳にはできない”変化”だと思います。

 それは、1937年十二月二十四日、蒋介石がルーズベルトへ宛てた手紙のなかに、
われわれはわれわれ自身を守るとともに、条約の精神の尊厳を守るために、とりわけ九ヶ国条約にうたわれた中国の主権と独立および領土的・行政的一体性が、日本および他の調印国によって尊重されるために戦っているのです。
 われわれは野蛮な日本軍に降伏などいたしません。日本政府がその侵略政策をやめるまで、中国の国政がわれわれの手にもどるまで、そして国際条約における領土不可侵の理念が守られるまで、われわれは抵抗しつづける覚悟です。
 とあることによってもわかると思います。

 日本には、戦後まもないころから、東條被告と同じような考え方で、”あの戦争を侵略戦争というのは間違っている”とか、”大東亜戦争は自存自衛の戦争であった”とか”大東亜共栄圏解放の戦争であった”というようなことを主張する人がいますが、キーナン検事の問いに対する東条被告の苦しい言い逃れが示しているように、日本の対中政策は、どう考えても、九ヶ国条約違反であったと思います。確かにハル・ノートは、日本が着実に中国で手にしてきた数々の利権を、すべて手放すことを要求するような内容であり、日本の軍部や政治家にとっては、最後通牒に等しいものであったとは思いますが、九ヶ国条約を踏まえれば、当然の要求であり、不当でも、高圧的でもなかったと思います。

  下記は、「東京裁判 大日本帝国の犯罪 上」朝日新聞東京裁判記者団(講談社)から「歴史的な大尋問」題された文章のなかの「ハル・ノートに異議あり」から抜粋しました。
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             第二十二章 白熱 東条尋問録

                歴史的な大尋問

 「ハル・ノートに異議あり
 問「あなたは口供書で十一月二十六日のハル米国国務長官より日本大使野村にあてたメッセージに言及している。(ハル・ノートの写しを見せる)それを見たことがあるか」
 答「(感慨深げにしばし見入る)「一生涯忘れませんッ」
 問「さてこの文書はあなたの知っている限り、非常に威厳のあるやり方で、米国国務長官より、自ら日本大使野村および来栖に手渡された。そうですか」
 答「形においてしかり。内容においては少しも互譲の精神のないものです」
 問「しかし実際問題としてこの文書は日本の大使が当時ワシントンに在って最上の礼遇を受けて、もし自分で望むならばいつでも国務長官にも大統領にも面会ができる特権を与えられていた当時に手交されたのは事実ではないか」
 答「それは事実である。なんらこの内容とは関係ありません」
 問「あなたはハル・ノートの内容に対して異議をもっていたといったではないか」
 答「大いに異議あります」
 問「ハル・ノートは長いものでないから、いまその異議はどこの点であるかを発見したい。読み上げます。さてひとつ、一切の国家の領土不可侵の厳守」
 答「それは日本は尊重してきました。九ヶ国条約にもこの文句はあったと思います。しかし東亜の諸国がそれ自体の国でいろいろ分裂作用を起こすということを、この中には含まれて考えられないと思っておりました。たとえば満州国がその土地の住民の意思によって独立国家となるということは、このうちには含まれておらないと解釈しておるのです。その意味で日本と米国の間に解釈の相違がありました」
 問「二つ、各国の国内問題に対する不干与の原則、これは日本によって支持されたものか、されなかったものか」
 答「原則は支持されました。しかしたとえば日華事変という特殊の事態が発生している。それに関連して影響している部分も出て来ました」
 問「第三の原則、商業上の機会、待遇の均等、これは日本の政策と反対であったか」
 答「これは条件があります。この政策が全世界に適応されればもちろん同感です。日本のすべての商業もこの趣旨で、全世界から締め出しを食っている現実のような事態にならないように、この原則の中に含まれることを希望していた」
 問「ハル・ノートに含まれていた三原則はすべて1922年に署名された九ヶ国条約に含まれていたのではないか。これは日本、中国およびアメリカが全部締約国であった」
 答「九ヶ国条約にこの通りのものがあったかどうか記憶していないが、こんなことがあったことを記憶します」
 問「これらの原則を日本に要求することによってなにか理不尽なことを要求していたことになるのか」
 答「そうは申し上げたくない。ただ東亜に起ったところの九ヶ国条約締結以後の変化、これの認識が足りないので、それからすべての喰い違いがくるのです」
 
 休憩ののち午後三時再開、キーナン検事の問いに東条は、首相になって太平洋戦争開始にいたるまでの間、九ヶ国条約に拘束されていたことを答える。キ氏質問を転じる。
 問「真珠湾無警告攻撃はあなたの同意なしにおこなわれたのか」
 答「私は意図したことはない」
 問(ここでくるりと体を東条の正面に向け、声を改めてまっ向から!)「首相として戦争を起こしたことを道徳的にも法律的にも間違ったことをしていなかったと考えるのか。ここに被告としての心境を聞きたい」
 答(左手を机上に突っ張り、胸を張ってキーナン氏に向い)「間違ったことはない、正しいことをしたと思う」と(声高く言い切る)
 問「それでは無罪放免されたら、同僚とともに同じことを繰り返す用意があるのか」
 と追いかければブルウエット弁護人、すかさず発言台にかけ寄り、
「これは妥当な反対尋問ではない」
 と異議を申し立て、ウエッブ裁判長その異議を容認し、キーナン氏の質問を却下。憤然たる面持ちのキーナン検事は、反対尋問を以上で終了するむね宣言、検事席にも座らず、書類を抱えてさっさと退廷してしまった。

 ウエッブ裁判長の尋問・天皇に開戦を進言した三人男
 1948年一月七日、ウエッブ裁判長が自ら各判事を代表して東条証人の尋問を開始した。この日東条は、前日までのキーナン尋問の場合とは打ってかわってもの静かな態度で応答した。
 裁判長は突如、だれが天皇に対し開戦に関する最後の進言をしたのかと質問に入ぐる。
 問「証人以外のなにびとが天皇に対し米英と宣戦するようにということを進言したか」
 答「(ちょっと首をかしげて)「複雑な問題を含んでいるいるがお答えしましょう。日本が開戦に決定したのは、連絡会議、御前会議、ならびに重臣会議、軍事参議官会議で慎重審議した結果、戦争をしなければならん、という結論に達した。そこで最後の決定について、陛下にお目にかかって申し上げたのは私と両総長(杉山参謀総長と永野軍令部総長)であった。私と両総長は『日本の自存を全うするため、ひらたくいえば戦争以外には生きる道はありません』と申し上げた。そして御嘉納をいただいたのです」
 天皇に開戦決定を進言したの三人の男のうち杉山、永野両氏はすでに亡く、いまはこのときの真相を知るただ一人の当事者としてこの法廷に立った東条の口から、いままで秘められていた「進言の内容」がこの日はじめて明らかにされた。
 東条被告に対する尋問は終わり、一月七日午前十一時十三分、ブ弁護人は、東条証人が被告席に帰ることを申請。
 東条はコップの水をごくりとのみほして、静かにイヤホーンをはずし、証人台からゆっくりおりて、法廷を横切り、中央被告席に帰った。十二月二十六日以来つづいた東条部門は、ここにまったく終了した。  
資料1ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
            「合衆国及日本国間協定ノ基礎概略」

第一項政策ニ関スル相互宣言案
 合衆国政府及日本国政府ハ、共ニ太平洋ノ平和ヲ欲シ、其ノ国策ハ太平洋地域全般ニ亙ル永続的且廣汎ナル平和ヲ目的トシ、両国ハ右地域ニ於テ何等領土的企図ヲ有セス、他国ヲ脅威シ又ハ隣接国ニ対シ侵略的ニ武力ヲ行使スルノ意図ナク、又其ノ国策ニ於テハ、相互間及一切ノ他国政府トノ間ノ関係ノ基礎タル左記根本諸原則ヲ積極的ニ支持シ、且之ヲ実際的ニ適用スヘキ旨闡明ス。
  (一)一切ノ国家ノ領土保全及主権ノ不可侵原則
  (二)他ノ諸国ノ国内問題ニ対スル不関与ノ原則
  (三)通商上ノ機会及待遇ノ平等ヲ含ム平等原則
  (四)紛争ノ防止及平和的解決並ニ平和的方法及手続ニ依ル国際情勢改善ノ為メ国際協力及国際調停尊據ノ原則
 日本国政府及合衆国政府ハ、慢性的政治不安定ノ根絶、頻繁ナル経済的崩壊ノ防止及平和ノ基礎設定ノ為メ、相互間並ニ他国家及他国民トノ間ノ経済関係ニ於テ左記諸原則ヲ積極的ニ支持シ、且実際的ニ適用スヘキコトニ合意セリ。
  (一)国際通商関係ニ於ケル無差別待遇ノ原則
  (二)国際的経済協力及過度ノ通称制限ニ現ハレタル極端ナル国家主義撤廃ノ原則
  (三)一切ノ国家ニ依ル無差別的ナル原料物資獲得ノ原則
  (四)国際的商品協定ノ運用ニ関シ消費国家及民衆ノ利益ノ充分ナル保護ノ原則
  (五)一切ノ国家ノ主要企業及連続的発展ニ資シ且一切ノ国家ノ福祉ニ合致スル貿易手続ニ依ル支払ヲ許容セシムルカ如キ国際金融機構及取極樹立ノ原則

第二項合衆国政府及日本国政府ノ採ルベキ措置
 合衆国政府及日本国政府ハ、左ノ如キ措置ヲ採ルコトヲ提案ス。
一 衆国政府及日本国政府ハ、英帝国、支那、日本国、和蘭、蘇連邦、泰国及合衆国間多辺的不可侵条約ノ締結ニ努ムヘシ
ニ 両国政府ハ米、英、日、蘭及泰政府間ニ、各国政府カ仏領印度支那ノ領土主権ヲ尊重シ、且印度支那ノ領土保全ニ対スル脅威発生スルカ如キ場合、斯ル脅威ニ対処スルニ必要且適当ナリト看做サルベキ措置ヲ講スルノ目的ヲ以テ、即時協議スル旨誓約スべキ協定ノ締結ニ努ムベシ。
 斯ル協定ハ、又協定締約国タル各国政府ガ、印度支那トノ貿易若ハ経済関係ニ於テ特恵的待遇ヲ求メ、又ハ之ヲ受ケサルヘク、且各締約国ノ為メ仏領印度支那トノ貿易及通商ニ於ケル平等待遇ヲ確保スルカ為メ尽力スヘキ旨規定スヘキモノトス
三 日本国政府ハ支那及印度支那ヨリ一切ノ陸、海、空軍兵力及警察力ヲ撤収スベシ
四 合衆国政府及日本国政府ハ、臨時ニ首都ヲ重慶ニ置ケル中華民国国民政府以外ノ支那ニ於ケル如何ナル政府若クハ政権ヲモ軍事的、政治的、経済的ニ支持セザルベシ
五 両国政府ハ外国租界及居留地内及之ニ於ケル諸権利及権益及之ニ関連セル諸権利権益並ニ一九○一年ノ団匪事件議定書ニ依ル諸権利ヲモ含ム支那ニ在ル一切ノ治外法権ヲ抛棄スベシ。
 両国政府ハ外国租界及居留地内ニ於ケル諸権利並ニ一九○一年ノ団匪事件議定書ニ依ル諸権利ヲ含ム支那ニ於ケル治外法権方ニ付、英国政府及其他ノ諸政府ノ同意ヲ取付クベク努力スベシ。
六 合衆国政府及日本国政府ハ、互恵的最恵国待遇及通商障壁ノ低減、並ニ生糸ヲ自由品目トシテ据置カントスル米側企図ニ基キ合衆国及日本国間ニ通商協定締結ノ為メ協議ヲ開始スベシ。
七 合衆国政府及日本国政府ハ、夫々合衆国ニ在ル日本資金及日本国ニアル米国資金ニ対スル凍結措置ヲ撤廃スベシ。
八 両国政府ハ円弗為替ノ安定ニ関スル案ニ付協定シ、右目的ノ為メ適当ナル資金ノ割当ハ半額ヲ日ベ本国ヨリ半額ヲ合衆国ヨリ供与セラルベキコトニ同意スベシ。
九 両国政府ハ其ノ何レカノ一方カ第三国ト締結シオル如何ナル協定モ、同国ニ依リ本協定ノ根本目的、即チ太平洋地域全般ノ平和確立及保持ニ矛盾スルガ如ク解釈セラレザルベキコトヲ同意スベシ
十 両国政府ハ他国政府ヲシテ、本協定ニ規定セル基本的ナル政治的経済的原則ヲ遵守シ、且之ヲ実際的ニ適用セシムル為メ其ノ勢力ヲ行使スベシ
   「戦史叢書 大本営陸軍部 大東亜戦争開戦経緯<5>」防衛庁防衛研究所戦史室著(朝雲新聞社)

資料2----------------------------------------------

      公文書にみる 日米交渉 ~開戦への経緯~ (アジア歴史資料センター)

 九ヶ国条約
 九ヶ国条約とは、大正11年(1922年)のワシントン会議において、アメリカ・ベルギー・イギリス・中国・フランス・イタリア・日本・オランダ・ポルトガルの各全権委員により調印された、条約締結国における対中国政策の原則を規定した条約です。正式には「中国に関する九国条約」といいます。
 九ヶ国条約が締結された理由については、条約文の中で「極東ニ於ケル事態ノ安定ヲ期シ支那ノ権利利益ヲ擁護シ且機会均等ノ基礎ノ上ニ支那ト他ノ列国トノ交通ヲ増進セムトスルノ政策ヲ採用スルコトヲ希望シ 右ノ目的ヲ以テ条約ヲ締結スル」と述べられています。
 九ヶ国条約の第1条に規定されている4つの項目は、「ルート4原則」「対中国4原則」と呼ばれるもので、条約の加盟国が中国の主権や領土を尊重する事などを定めており、日米交渉における中国に関する諸問題に関係する条項でした。

第1条
 支那国以外ノ締約国ハ左ノ通約定ス
(1)支那ノ主権、独立並領土的及行政的保全ヲ尊重スルコト
(2)支那カ自ラ有力且安固ナル政府ヲ確立維持スル為最完全ニシテ且最障礎ナキ機会ヲ之ニ供与スルコト
(3)支那ノ領土ヲ通シテ一切ノ国民ノ商業及工業ニ対スル機会均等主義ヲ有効ニ樹立維持スル為各盡力スルコト
(4)友好国ノ臣民又ハ人民ノ権利ヲ減殺スヘキ特別ノ権利又ハ特権ヲ求ムル為支那ニ於ケル情勢ヲ利用スルコトヲ及右友好国ノ安寧ニ害アル行動ヲ是認スルコトヲ差控フルコト

第2条
 締約国ハ第1条ニ記載スル原則ニ違背シ又ハ之ヲ害スヘキ如何ナル条約、協定、取極又ハ了解ヲモ相互ノ間ニ又ハ各別ニ若イハ協同シテ他ノ一国又ハ数国トノ間ニ締結セサルヘキコトヲ約定ス

第3条
 一切ノ国民ノ商業及工業ニ対シ、支那ニ於ケル門戸開放マタハ機会均等ノ主義ヲ一層有効ニ適用スルノ目的ヲ以テ支那国以外ノ締約国ハ左ヲ要求セサルへク又各自国民ノ左ヲ要求スルコトヲ支持セサルヘキコトヲ約定ス
(イ)支那ノ何レカノ特定地域ニ於テ商業上又ハ経済上ノ発展ニ関シ自己利益ノ為一般的優越権利ヲ設定スルニ至ルコトアル
(ロ)支那ニ於テ適法ナル商業若ハ工業ヲ営ムノ権利又ハ公共企業ヲ其ノ種類ノ如何ヲ問ハス支那国政府若ハ地方官憲ト共同経営スルノ権利ヲ他国ノ国民ヨリ奪フカ如キ独占権又ハ優先権或ハ其ノ範囲、期間又ハ地理的限界ノ関係上機会均等主義ノ実際上適用ヲ無効ニ帰セシムルモノト認メラルルカ如キ独占権又ハ優先権

 本条ノ前記規定ハ特定ノ商業上、工業上若ハ金融業上ノ企業ノ経営又ハ発明及研究ノ奨励ニ必要ナルヘキ財産又ハ権利ノ取得ヲ禁スルモノト解釈スヘカラサルモノトス
 支那国ハ本条約ノ当事国タルト否トヲ問ハス一切ノ外国ノ政府及国民ヨリノ経済上ノ権利及特権ニ関スル出願ヲ処理スルニ付本条ノ前記規定ニ記載スル主義ニ遵由スヘキコトヲ約ス

第4条
 締約国ハ各自国民相互間ノ協定ニシテ支那領土ノ特定地方ニ於テ勢力範囲ヲ創設セムトシ又ハ相互間ニ独占的機会ヲ享有スルコトヲ定メムトスルモノヲ支持セサルコトヲ約定ス

第5条
 支那国ハ支那ニ於ケル全鉄道ヲ通シ如何ナル種類ノ不公平ナル差別ヲモ行ヒ又ハ之ヲ許容セサルヘキコトヲ約定ス殊ニ旅客ノ国籍、其ノ出発国若ハ到達国、貨物ノ原産地若ハ所有者、其ノ積出国モシクカ若ハ仕向国又ハ前記ノ旅客若ハ貨物カ支那鉄道ニ依リ輸送セラルル前若ハ後ニ於テ之ヲ運搬スル船舶其ノ他ノ輸送機関ノ国籍若ハ所有者ノ如何ニ依リ料金又ハ便宜ニ付直接間接ニ何等ノ差別ヲ設ケサルベシ
 支那国以外ノ締約国ハ前記鉄道中自国民カ特許条件、特殊協定其ノ他ニ基キ管理ヲ為シ得ル地位ニ在ルモノニ関シ前項ト同趣旨ノ義務ヲ負担スヘシ

第6条
 支那国以外ノ締約国ハ支那国ノ参加セサル戦争ニ於テ支那国ノ中立国トシテノ権利ヲ完全ニ尊重スルコトヲ約定シ支那国ハ中立国タル場合ニ中立ノ義務ヲ遵守スルコトヲ声明ス

第7条
 締約国ハ其ノ何レカノ一国カ本条約規定ノ適用問題ヲ包含シ且右適用問題ノ討議ヲ為スヲ望マント認ムル事態発生シタルトキハ何時ニテモ関係締結国間ニ充分ニシテ且隔意ナキ交渉ヲ為スヘキコトヲ約定ス

第8条
 本条約ニ署名セサル諸国ニシテ署名国ノ承認シタル政府ヲ有シ且支那国ヲ条約関係ヲ有スルモノハ本条約ニ加入スヘキコトヲ招請セラルヘシ右目的ノ為合衆国政府ハ非署名国ニ必要ナル通牒ヲ為シ且其ノ受領シタル回答ヲ之ヲ締約国ニ通告スヘシ別国ノ加入ハ合衆国政府カ右ノ通告ヲ受領シタル時ヨリ効力ヲ生スヘシ

第9条
 本条約ハ締結国ニ依リ各自ノ憲法上ノ手続ニ従ヒ批准セラルヘク且批准書全部ノ寄託ノ日ヨリ実施セラルヘシ右ノ寄託ハ成ルヘク速ニ華盛頓ニ於テ之ヲ行フヘシ合衆国政府ハ批准書寄託ノ認証謄本ヲ他ノ締約国ニ送付スヘシ  本条約ハ仏蘭西語及英吉利語ノ本文ヲ以テ共ニ正文トシ合衆国政府ノ記録ニ寄託保存セラルヘク其ノ認証謄本ハ同政府ヨリ他ノ各締約国ニ之ヲ送付スヘシ                 

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