真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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「従軍慰安婦」問題 マクドゥーガル報告

2012年04月10日 | 国際・政治
 日本の「従軍慰安婦」問題に対する世界の眼は、「女性の人権」意識の高揚と、それに反する日本政府の責任回避の姿勢を反映して、ますます厳しいものになってきているようである。それは、マクドゥーガル報告がクマラスワミ報告よりもさらに踏み込んで、日本軍や日本政府の加害責任を追及し、損害賠償や補償だけではなく、関係者の処罰やその報告さえ厳しく求めていることなどにあらわれているのではないかと思う。VAWW-NETJapan の松井やより代表によると、国連人権委員会の評価も、クマラスワミ報告の「留意」するが、マクドゥーガル報告では「歓迎」するに進んだという。その辺の事情を記述した部分を「戦時性暴力をどう裁くか」国連マクドゥーガル報告全訳(凱風社)「序にかえて」から抜粋した。

 また、マクドゥーガル報告からは、日本軍「従軍慰安婦」問題に関わるユス・コーゲンス(強行規範)の考え方に関する部分、および日本政府の「国際刑法の最近の研究成果は、過去の行為に遡及適用できない」とする主張や「”慰安婦”個々人には損害賠償請求権がなく」、「戦後締結された平和条約や国際協定によって、完全に解決済みである」とする主張に対する批判部分を中心に抜粋した。

 なぜなら「従軍慰安婦」問題にかかわらず、東京裁判でもニュルンベルク裁判でも「人道に対する罪」の適用が問題となったようであるが、「人道に対する罪」の適用については「”人道に対する罪”という新しい用語を使っているが、実際には新しい法を創り出し、適用したわけではない」したがって、新しい法を「過去の行為に遡及適用したものではない」という考え方や、「ユス・コーゲンス(強行規範)」の指摘が重要であると思うからである。

 さらに、この問題は「戦後締結された平和条約や国際協定によって、完全に解決済みである」と繰り返す日本政府の主張に対し、「条約が作成された時点では、強かん収容所(レイプ・キャンプ)の設置への日本の直接関与は隠されていた。これは、日本が責任を免れるためにこれらの条約を援用しようとしても、正義衡平法の原則から許されない」という指摘は厳しいが、そのとおりではないかと思う。
 だから、真摯な姿勢でこれらの報告を受け止め、一日も早く完全解決の道筋をつけるべきではないかと思うのである。

 なお、マクドゥーガルの4項目の勧告には厳しいものがあるが、④以外は項目のみを抜粋した。 
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国連人権委員会差別防止・少数者保護小委員会
第50回期暫定議題6 奴隷制の現代的諸形態

  武力紛争下の組織的強かん、
  性奴隷制および奴隷制類似慣行に関する最終報告書
  (E/CN.4/Sub.2/1998/13 1998年6月22日受理)

 第3章 性奴隷制および性暴力(強かんを含む)を国際法の下で訴追するための      法的枠組み

◆36
 性奴隷制と性暴力が、武力紛争中に行われた場合、一定の条件下では、ユス・コーゲンス規範の慣習法的違反と性格づけられうる。条約法に関するウイーン条約は、第53条でユス・コーゲンスを「
いかなる逸脱も許されない規範で、かつまた同一内容の一般国際法の規範の変更でしか修正できない規範であって、国際社会が全体として受け入れ、かつ認めた」規範と定義している。これに加えて、ユス・コーゲンス規範(違反?)は、国際社会全体の普遍的利益に対する不法行為と認められている。このため、たとえ加害者又は被害者にその国の国籍がなくても、また、犯罪の実行がその国の領土でなされたものでなくても、普遍的裁判管轄権に基づけば、すべての国家がユス・コーゲンス違反を適正に訴追できる。

◆37
 こうしたユス・コーゲンス規範の違反に相当する国際犯罪には、奴隷制、人道に対する罪、ジェノサイド、一定の戦争犯罪、拷問が含まれる。これらの犯罪は、国際慣習法に基づいて、
普遍的裁判管轄権の対象とされ、大半の場合訴追に対する時効はない。前政府を引き継いだ政府を含めて各国家は、これらの違反行為を犯した者を不処罰にせず、その国家内で訴追するか、別の国家で訴追するために引き渡して裁判にかける責務がある。戦争犯罪はその定義上、武力紛争と関連性があることが必要だが、奴隷制、人道に対する罪、ジェノサイド、拷問の各禁止は、すべての武力紛争、内紛、平時などあらゆる状況に適用される。
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 序にかえて
 マクドゥーガル報告は戦時・性暴力と闘う世界の女性たちの強力な拠り所に
         
  「慰安婦」問題で日本政府の責任を問い責任者の処罰と国家賠償を勧告
                        VAWW-NET Japan代表 松井やより
 「慰安婦」が問い始めた女性への戦争犯罪
 
  ・・・ 
 「クマラスワミ報告」、の日本政府の賠償責任を強調

 翌96年、ラディカ・クマラスワミ「女性に対する暴力」特別報告者がジュネーブでの国連人権委員会に提出した「戦時下軍隊・性奴隷制に関する報告」は、日本政府に法的責任をとることを求め、とくに被害者個人への賠償責任が日本政府にあることを強調した点で、画期的な国連文書であった。ただ、責任者の刑事責任については、日本政府に訴追する義務があるとしているものの、「時間の経過と情報の不足のため、訴追は困難だろうが、できる限り試みる義務がある」という表現にとどまっており、6項目の勧告の中でも最後の第6項に「犯行者をできるだけ特定し、処罰すべきだ」とあるだけで、その具体的実施方法などについては書かれていない。


 98年にクマラスワミ特別報告者が国連人権委員会に提出した「武力紛争下の女性への暴力に関する報告」では、「慰安婦」問題について二つのパラグラフが含まれているが、「日本政府が”慰安婦”問題で積極的な努力をしていることを歓迎する」と「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)設置を評価しているため、韓国、フィリピンなど被害国の女性たちは、日本政府から圧力があったため後退したのではないかと、失望したのだった。この報告書でもさすがに「日本政府は法的責任をとっていない」と指摘しているが、「日本政府は6つの”慰安婦”裁判の判決を待っているのだろう」と傍観者的に述べているだけで、加害者の刑事責任追及にはまったくふれていない。

 マクドゥーガル報告、日本政府は受け入れを拒否

 その数ヶ月後にマクドゥーガル報告が提出されたわけで、その内容は、被害者・支援団体から見て大きく前進したものだった。それだからこそ、日本政府はジュネーブで必死に採択阻止を試み、読売新聞はそれに歩調を合わせるかのように、わざわざマクドゥーガル報告非難の社説まで掲載した。右翼的な学者なども彼女をしきりにやり玉にあげている。しかし、小委員会はこの報告書を採択し、国際社会が支持する正式国連文書となった。96年のクマラスワミ報告が国連人権委員会で
「留意」する形での採択だったのに対して、このマクドゥーガル報告は小委員会で、「歓迎」するかたちで採択された。戦時・性暴力に対する国際社会の認識がそれだけ進んだことを示している。

 以下略
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           マクドゥーガル報告書 附属文書
             
 第2次大戦中設置された「慰安所」に関する日本政府の法的責任の分析 

はじめに
◆1
 1932年から第2次大戦終結までに、日本政府と日本帝国軍隊は、20万人を越える女性たちを強制的に、アジア全域にわたる
強かん所(レイプ・センター)で性奴隷にした。これらの強かん所はふつう、「慰安所」と呼ばれた。許し難い婉曲表現である。これらの「慰安婦」たちの多くは朝鮮半島出身者であったが、中国、インドネシア、フィリピンなど、日本占領下の他のアジア諸国から連行された者も多かった。この10年間に、徐々に、これら残虐行為の被害女性たちが名乗り出て、救済を求めるようになってきた。この付属文書は、第2次大戦中の強かん所の設置・監督・運営に対する日本軍当局の関与について、日本政府が行った調査で確定した事実のみに基づいている。日本政府が確認したこれらの事実に基づいてこの付属文書は、第2次大戦中に「慰安所」で行われた女性たちの奴隷化と強かんについて、日本政府が現在どのような法的責任を負っているか、を判定しようとするものである。責任を問う根拠はいろいろありうるが、この報告書は特に、奴隷制、人道に対する罪、戦争犯罪という最も重大な国際犯罪に対する責任に焦点をあてる。この付属文書はまた、国際刑法の法的枠組みを明らかにし、被害者がどのような賠償請求を提起できるか検証する。

 第1章 日本政府の立場

◆2
 日本政府は、第2次大戦中強かん所の設置・監督に日本軍が直接どの程度関与したかについて長年にわたって否定してきたが、1993年8月4日に内閣官房外政審議室が発表した「戦時『慰安婦』問題について」と題する公式調査と、同日の内閣官房長官談話で、「慰安所」設置に政府の関与があったことをやっと認めた。この調査は、戦時中の記録資料の調査と、軍関係者と元「慰安婦」双方に対する聞き取り調査が含まれていた。本論で以下に論じるとおり、1993年の政府調査では、「慰安婦」に人格と性の自己決定権が認められていなかったことや、女性たちがまるで所有物のように健康を管理されていたことが浮き彫りになっている。


◆4
 こうした謝罪や事実の確認にもかかわらず日本政府は、慰安所の「設置と運営」にかかわる日本軍の行為に対する法的責任を否定し続けている。特に、人権委員会のラディカ・クマラスワミ「女性に対する暴力」特別報告者による報告書に対し、日本政府はいくつもの実体的根拠をあげて法的責任を強く否定した。これらの根拠のうち最も重要なものは以下である。
(a) 国際刑法の最近の研究成果は、過去の行為に遡及適用できない。
(b)奴隷制犯罪規定は、「慰安所」によってできた仕組みにそのまま適用できるも   のではないし、また奴隷制の禁止は、第2次大戦の時点で適用可能な国際法
  の下(モト)での慣習規範としてはいずれにしても確立していなかった。
(c) 武力紛争下の強かん行為は、1907年のハーグ第4条約付属書〔以下ハーグ
  陸戦規則〕によっても、あるいは第2次大戦時に有効であった国際法の適用可
  能な慣習的規範によっても、禁止されていなかった。
(d) いずれにせよ、戦争法規は敵国民に対して日本軍が行った行為にのみ適用さ
  れるものであり、したがって、日本国民や第2次大戦当時日本に併合されてい
  た朝鮮半島の住民には適用されない。

 
◆6
 法的な損害賠償請求にかんして日本政府は、「慰安婦」個々人には損害賠償の法的権利がないと主張する。あったとしても日本政府は、これらの女性の損害賠償請求権はすべて、日本とアジア各国との間で戦後締結された平和条約や国際協定によって、完全に解決済みであると主張する。最後に日本政府は、第2次大戦中の強かん所に関する訴訟は民事であれ刑事であれ、すべて時効が適用されるため、現在では提訴期限が過ぎていて審理不可能であるとする。


 第3章 実体的国際慣習法における優越的規範

◆12
 「慰安所」が創設されるはるか以前から、奴隷制と奴隷売買が禁止されていたことに疑いの余地はない。第2次大戦後のニュルンベルク裁判は、「国際法に明記されていなくとも、たとえば……民間人を絶滅させたり、奴隷化したり、国外追放することは国際法違反であるという暗黙の了解がそれ以前からあったこと……を明文化してはっきり示した」にすぎない。実際、特に奴隷制の禁止は明らかにユス・コーゲン(強行規範)だと位置づけられている。したがって、第2次大戦中の日本軍のアジア全域にわたる女性の奴隷化は、当時でさえも、奴隷制を禁止する国際慣習法の明確な違反だったのである。


◆13
 19世紀初頭には、多くの国々が、既に奴隷の輸入を禁止していた。これに伴い、多くの国が奴隷制と奴隷売買を終結しようといくつもの国際協定を締結した。1855年の国際的裁定の事例ですでに、奴隷売買は「すべての文明国により禁じられており、国際法に背(ソム)くものである」としている。1900年までには、基本的な形の奴隷制は、大半の国々でほとんど根絶されていた。とりわけ日本は、1872年の段階で既に、ペルー人貿易業者たちを奴隷制犯罪を理由に敗訴としており、日本が歴史のなかで奴隷売買を禁じていると明言しているのは注目に値する。


◆14
 1932年以前に、奴隷売買・奴隷制、あるいは奴隷制関連の慣行を禁止する国際協定が少なくとも20締結されていた。さらに、1944年当時の国際社会を代表する国々を見ると、日本を含むほとんどすべての国家が自国の国内法で奴隷制を禁止していた。第2次大戦前には奴隷制に対する国際的非難が高まり、国際連盟で討議された1926年の奴隷条約は、奴隷制を「ある人に対して、所有権に伴う権能の一部または全部が行使される場合の、その人の地位、または状況」と定義した。したがってこの条約は明らかに、遅くとも第2次大戦前には国際慣習法になっていた。


◆15
 奴隷制禁止が慣習法であることは、戦争法規の中での民間人の取り扱いを定めた一連の法体系でも、等しく明白である。今世紀に採択された戦争法規のうちでも最も基本的な国際文書の一つである1907年のハーグ陸戦条約では、民間人と交戦者を奴隷化と強制労働から守るという重要な保護規定を組み入れた。そのうえ、第2次大戦後のニュルンベルク裁判でナチス戦犯に対して下された判決で、ハーグ陸戦条約は明らかに第2次大戦までに国際慣習法として確立していたと確認された。


◆17 
 奴隷制と同様、強かんと強制売春は戦争法規で禁止されていた。戦争法規に関する初期の権威ある法典で複数のものが戦時中の強かんや女性に対する虐待を禁じているが、そのなかでも最も傑出しているのは1863年のリーバー法である。さらに第2次大戦後、多くの者が強制売春や強かんの罪を含む犯罪で訴追され、このような行為の不法性がさらに明確になった。ハーグ陸戦規則はさらに、、「家族の名誉と権利は……尊重されなくてはならない」とした。既存の国際慣習法を成文化し、ハーグ陸戦条約にあった「家族の名誉」という用語をとり入れたとされるジュネーブ第4条約第27条は、まさに、「女性は、女性の名誉に対する侵害、特に強かん、強制売春その他のあらゆる形態のわいせつ攻撃から、特別に保護されるべきである」と明記している。強かんの性格づけが暴力犯罪としてではなく、女性の名誉に対する犯罪とされている点は残念であり、不正確だが、少なくとも「慰安所」が初めて設置された時期には、強かんと強制売春が国際慣習法で禁止されていたことは、十分に立証されている。


 第4章 実体法の適用

◆22
 「慰安婦」の処遇は、通常の意味での「奴隷制」と「奴隷売買」に相当し、「ある人に対して、所有権に伴う権能の一部または全部が行使される場合の、その人の地位または状況」とする1926年の奴隷条約の定義にあてはまる。前述のように、日本政府が自ら認めたところでも、これらの女性は「自由を奪われ」「意志に反して徴集された」。しかも、女性によっては金で買われており、したがって古典的な型の奴隷制に容易にあてはまる。しかし金銭のやりとりは、奴隷制の唯一の指標でもないし、最も重要な指標でもない。「慰安婦」はみな、自己決定権をほとんど奪われた体験があり、したがって、日本軍は彼女たちを所有物のように取り扱ったわけで、これらの犯罪行為に対しては実行者とその上官の双方に奴隷化の刑事責任があることは明らかである。繰り返すと、「慰安婦」の場合、日本政府の調査でも明らかになったように、女性たちは人格的自由を奪われ、軍隊や軍需物資とともに戦地との間を移動させられ、性的自己決定権を否定され、将兵を性感染症から守るために性と生殖に関わる健康を所有物のように取り扱う、おぞましい規則に従わされたのであった。


◆23
 日本政府は法解釈として奴隷制の定義が適用できないと主張する可能性のある少数の事例でさえも、「慰安婦」たちは明らかに、強かんされ、少なくとも「許される形態の強制労働」の定義にあてはまらない状態で戦地に拘束されていた。強制売春と強かんについて日本政府は、自国の行為は多くの女性たちの名誉と尊厳を深く傷つけたと認めている。女性たちに与えた損害は、明文では認めていないが、定期的な強かんなど性的行為の強制を含むことは明白である。したがってこうした行為は、戦争法規に違反する強かんと強制売春だと容易に位置づけられる。


◆24
 これらの犯罪が大規模に犯されたこと、これら強かん所の設置・監督・運営に日本軍が明らかに関与していたことから、「慰安所」に関与したり責任ある立場にあった日本軍将校に対しては、同様に、人道に対する罪の責任を問うことができる。その結果日本政府自身もまた、日本軍の行動によって苦しんだ女性や少女たちの受けた損害に対し、損害賠償を行う義務を負い続けている。


 第5章 日本政府の抗弁

 第1節 法の遡及適用

◆25
 ニュルンベルク裁判当時、被告側と一部研究者は、人道に対する罪はこの裁判の憲章で新たに定義された罪であり、したがって、被告人たちの行為は、行為の時点での国際法には違反していないため、人道に対する罪での訴追は合法性の原則(「法律がなければ犯罪なし」)に反すると異議を申し立てた。日本はアジア全域にわたって「慰安所」の奴隷化と強かんで国際慣習法に違反する行為を行ったとする元「慰安婦」たちの申し立てについて、日本政府も同様の主張をしてきた。


◆27
 奴隷制の国際慣習法による禁止は第2次大戦時までに明確に成立しており、第2次大戦後、刑事裁判の準備のために国際慣習法を明文化した東京・ニュルンベルク両裁判憲章に盛り込まれた。国際慣習法としての奴隷制の禁止は、戦争法規の下でも単独でも、武力紛争の性質のいかんにかかわらず、また武力紛争でない場合も、実体的違反行為を禁止する。


 第6章 救済措置

 第1節 個人の刑事責任

◆33 
 このような訴追の先例は古くからある。1946年インドネシアのバタビアでオランダ政府が開いた臨時軍事法廷では、9人の日本兵が、少女や女性たちを強制売春と強かんの目的で誘かいしたことで有罪となった。同様にフィリピン法廷も、日本軍将校1名を強かんで有罪とし、終身刑の判決を下した。ニュルンベルク・東京両裁判も国際慣習法を適用して、個々の将校や命令を下した上官、およびドイツと日本の政府に対し、戦争犯罪と人道に対する罪を犯した責任があるとした。国連総会は1946年12月11日の決議95(Ⅰ)号で、ニュルンベルク裁判憲章と東京裁判憲章に明示された国際法の原則は、国連加盟国があまねく認めた国際慣習法であると再確認した。


◆34
 そのうえサンフランシスコ講和条約第11条は、東京裁判と日本国内外の連合国戦犯法廷の判決を、日本は受け入れなければならないと規定している。これに加えてニュルンベルク裁判憲章では、「人道に対する罪」という新しい用語を使っているが、実際には新しい法を創り出したわけではないし、それ以前に国際慣習法で認められていた行為を新たに違法としたわけでもない。オッペンハイムによれば以下のとおりである。
 「戦争法規はすべて、その規定が国家を拘束するだけでなく、軍の構成員であるか否かを問わず国民を拘束することを前提にしている。この点で、1945年8月8日の合意書に付属する憲章に新しい要素は何もない。というのは、ヨーロッパ枢軸国の主要な戦犯は、戦争犯罪そのものと、いわゆる憲章が人道に対する罪と呼んだ行為について、個人に責任があるという判決に従って処罰され……」
 こうした前例がある以上、将校個々人は明らかに、自己の犯罪について処罰されうるし、また処罰されるべきである。

 
 第2節 国家責任と賠償責任

 (3)請求の処理に関する協定

◆53
 日本政府は損害賠償の支払い義務を否定する一方、損害賠償請求権はいずれにしても、戦争終結直後に日本政府が諸外国と締結した平和条約の結果、解決または放棄されているとも反論している。大韓民国の国民については、1965年の日韓協定第2条を根拠とする。この条文で両国は「協定締結当事国およびその国民(法人を含む)の所有財産、権利、権益に関わる諸問題、ならびに当事国およびその国民の間の請求権は、完全かつ最終的に解決された」と合意している。

 

◆55
 日本政府はこれらの条約を利用して責任を免れようとするが、それは以下の2点で成立しない。
 (a) 条約が作成された時点では、強かん収容所(レイプ・キャンプ)の設置への日本 
   の直接関与は隠されていた。これは、、日本が責任を免れるためにこれらの
   条約を援用しようとしても、正義衡平法の原則から許されないという、決定的    な事実である。
 (b)条約を素直に解釈すれば、人権法や人道法に反する日本軍の行為で被害を
   こうむった個人に、その損害賠償請求の道を閉ざすものではないことがわか
   る。


◆57
 日本政府はこうした犯罪への関与を長期にわたって隠してきており、そのうえ法的責任を否定し続けてきた。したがって、戦後処理協定その他の諸条約は「慰安婦」に関連したあらゆる請求権を解決するものであったと日本政府が主張することは、不当である。条約調印国は、当時日本軍と直接関連すると見られていなかった行為に対する請求権まで含まれていると予見できたはずはない。


 第3節 勧告

①刑事訴追を保証するための仕組みの必要性

②損害賠償を実現するための法的枠組みの必要性

③損害賠償額の妥当性

④報告義務
◆67
 最後に、日本政府は、「慰安婦」を特定し、補償し、加害者を訴追する状況がどのくらい進んでいるかについての詳細な報告を、国連事務総長宛てに少なくとも年2回、提出するよう義務づけられるべきである。この報告書は、日本語とハングルで準備され、日本国内外で、とりわけ「慰安婦」自身に対し、また彼女たちが現在居住する国で、広く配布されるべきである。



 一部漢数字をアラビア数字に変えたり、読点を省略、または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が 書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。「・・・」は段落全体の省略を「……」は、文の一部省略を示します。    

コメント (11)
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