博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『PRIDE』その4

2006年08月15日 | 武侠ドラマ
(前回:その3

第19~30話まで見ました。
前回その3で、古龍作品では主人公と恋仲になったヒロインが無惨な最期を遂げることが多いというようなことを書きましたが、ホントにそういう展開になってきました(^^;) まず小魚児と恋仲になった小仙女は東廠のボス・劉岐に精を吸い取られて死に追いやられ、鉄心蘭も恋人の花無欠の命と引き替えに断腸崖から飛び降りてしまいます。

恋人が死んでやけっぱちになる小魚児ですが、彼に思いを寄せる女医・蘇桜の献身によって何とか立ち直ります。ここら辺で小魚児の育ての親である十大悪人が再登場し、また話が明るくなってきたなあと思いきや、今度は十大悪人のうち三人と小魚児の弟子・悪通天、そして娘の蘇桜や妻の蘇如是と再会を果たしたばかりの常百草も劉岐率いる東廠の襲撃に遭って亡くなってしまいます(T_T)

一方、ヒロインの一人・江玉燕は父親の江別鶴に裏切られたことがきっかけでダーク化していき、皇帝の妃となるはずだった異母姉の玉鳳を殺し、自分が替わりに入内することになります。一躍皇帝の寵姫となった彼女は劉岐と対抗するため、小魚児や蘇桜を皇帝の侍医として宮中に招き入れます。そして小魚児たちは意外な形で花無欠と再会することになり……

前半はコメディ中心で割とチンタラと話が進行していたのですが、後半になって急展開につぐ急展開です。シリアスな展開になったと思ったらまたコメディ調になるといった具合で、見てるこちらはすっかりバリー・ウォンの術中にはめられてます(^^;) 舞台も宮廷に移ったり、はたまた遊牧民が暮らす昆侖国に移ったりと、あちこち飛びまくります。しかし鉄心蘭が恋人のために岩に遺言を残して崖から飛び降りたり、複数いる主人公の師匠が次々と殺されたり、小仙女の師匠が「南海神尼」だったり、何となく金庸作品を思わせる要素があちこちに散りばめられてますね。
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Nスペ「日中は歴史にどう向き合えばいいのか」

2006年08月15日 | TVドキュメンタリー
昨晩はNHKスペシャル「日中は歴史にどう向き合えばいいのか」を見てました。
戦後の対中外交を振り返るインタビュー集と対談の二部構成になってましたが、この両方を通じて基本的に対中戦略が無い日本と対日戦略が明確にありすぎる中国、戦時中の中国の状況を直視しようとしない日本と戦後の日本の実情を直視しようとしない中国の対比が浮き彫りになってきたような気がしました。対談の中の、昨年の反日デモは反日というよりは反小泉なんだという指摘は面白かったです。

その小泉首相は本日靖国神社参拝を果たしたわけですが、一方で中国側も江沢民が歴史問題を永久に日本への圧力として利用し続けようと考えていたことが明らかになったわけで、↓
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060810i111.htm

日中関係をここまでこじれさせたキーパーソンは小泉首相と江沢民なんだなあとじみじみ思った次第です……
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『リプレイ』

2006年08月13日 | 小説
ケン・グリムウッド著・杉山高之訳『リプレイ』(新潮文庫、1990年7月)

ジェフ・ウィンストンは1988年現在43歳で、しがないラジオ局のニュース・ディレクターです。ある日心臓発作で突然死したと思ったらどういうわけか、1963年、まだ彼が18歳で大学生だった頃に時間が逆戻りしてしまいます。彼は前世の知識を生かしてギャンブルや株で大儲けし、セレブの仲間入りを果たしますが、前世と同じく1988年にやはり心臓発作で死んでしまい、再び1963年の世界に逆戻りしてしまいます。この「リプレイ」を繰り返しているうちに、彼は自分と同じリプレイヤーである女性、パメラと出会いますが……

以前『コミックバンチ』でこの小説の翻案『リプレイJ』を連載しており、それで原作のこちらの方も買ってみたのですが、長らく積ん読状態になっていて最近ようやっと読了したという次第です(^^;) 漫画の方は二回目のリプレイを果たした時点で連載終了となったのですが、本当はここからがミソだったんですね。 

個人的に印象に残ったのは、何回目かのリプレイで、主人公とヒロインのパメラが心ならずも合衆国の情報機関に前世での情報を提供することになった場面です。主人公がリビアのカダフィが危険人物になると発言すれば、早速カダフィが暗殺され、イランで革命が起こると言えば、革命が起こる前に合衆国がイランに派兵してしまいます。それでいて世界情勢が良くなるかと言えば、リビアではカダフィの残党がテロリスト集団を組織して合衆国内でテロを起こしまくったり、イラン革命に連動したりと一層情勢が悪化し、合衆国は戒厳令下に置かれることになります。

このあたりの描写がまるで9・11以後の世界情勢を予言しているようで、作者の洞察力に驚かざるを得ません。この作品が書かれた頃はまだ湾岸戦争も起こっていなかったのですが……
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『クローサー』

2006年08月10日 | 映画
さっきまでテレビ大阪の『クローサー』を見てました。
『ゲド戦記』を見て以来胸に支えていたものがすっきり吐き出されたような気分です(^^;) やっぱり理屈抜きで楽しめる部分がない映画なんてイカンのですよ!

中身は何となく『キャッツアイ』を思わせる内容でしたね。放映直前の番宣でやたらと生足を強調するのはどうかと思いましたが……

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『アジアの歴史』

2006年08月09日 | 世界史書籍
松田壽男『アジアの歴史 -東西交渉から見た前近代の世界像』(岩波現代文庫、2006年7月)

自然環境と東西交渉を軸に世界史の流れを見ていくというのが本書のテーマですが、ヨーロッパについても言及しているので、タイトルは『ユーラシアの歴史』でも良かったと思いますね。解説で山内昌之氏が「現在の学界の研究水準や問題意識に照らしても遜色はないのである。」なんて書いてますけど、正直今となっては杉山正明氏や上田信氏の著書と比べると、少しく見劣りがするような気がします(^^;) ただ、杉山氏にしても上田氏にしてもこの本からだいぶ影響を受けているのかもしれませんが。

この本の冒頭では、日本の世界史の教科書が中国史・西洋史・イスラーム史など各地の歴史を並べただけのもので、相互の関連性があまり考慮されていないと批判していますが、この状況は原著が出版された1971年とあまり変わっていないように思います……
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『「大きなかぶ」はなぜ抜けた?』

2006年08月07日 | 世界史書籍
小長谷有紀『「大きなかぶ」はなぜ抜けた?』(講談社現代新書、2006年7月)

表題となっているロシアの「大きなかぶ」や「ヘンゼルとグレーテル」、「桃太郎」など、世界中の昔話や伝説を様々な切り口から考察した本です。個人的には、インドでは『ラーマーヤナ』の読者が感じる疑問をQ&A方式で回答した本がベストセラーになっていて、「主人公のラーマが敵を騙し討ちにするのは道義的に問題があるのではないか?」「ラーマが女性や下位のカーストを差別するような発言をしているのはオッケーなのか?」といった疑問にまじめに答えているというのが面白かったです(^^;)

あとは、中国東北三省にくらす朝鮮族の間で神として信仰されている林慶業の話が興味深かったですね。林慶業は明の衰退と清の勃興にあたって、朝鮮王朝が今まで通り明に忠誠を尽くすのか、それとも新興の清に服属するのかという難しい判断を迫られている時期に、明と朝鮮王朝に忠誠を尽くそうとして非業の死を遂げた人物です。

この林慶業はお話の中では胡(清)の中国平定に力を貸したことになっているのですが、近年になって、彼が中国平定に手柄をたてた褒美として胡の王に「東北三省七百里」を要求し、これが原因で朝鮮に送還されて処刑されてしまったという一節が語られるようになり、東北三省があたかも本来は朝鮮(=韓国)のものだと暗示するようなこの伝承を中国当局が問題視するようになったとのことです。昔話や伝承の類も政治の動きに従って生々しく変化するものなのでしょうか……
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『ゲド戦記』見てきました

2006年08月05日 | 映画
さほど期待せずに見に行ったのですが、何というか普通につまらない作品だったなと。取り立てて見所もなく、かと言ってツッコミ所が満載というわけでもなく、100点満点でいえば45点か50点ぐらいのダメダメさといったところでしょうか。『ハウル』って何だかんだ言ってもまだ普通に面白いというレベルの作品だったんだなあと思った次第です。(同じく海外ファンタジーの映画化ということで、余計に比べたくなってしまいます。)

この作品は原作のシリーズ中、主に第三作をベースにしたということで、一作目や二作目を踏まえたと思われるセリフがチョコチョコと出て来て、金庸作品で言えば原作を全く読まずにドラマ版『神雕侠侶』を見たかのような居心地の悪さを覚えました(^^;) なぜ素直に一作目『影との戦い』を映画化しなかったのでしょうか。(テーマが一部『千と千尋』とかぶるからかもしれませんが……)

ちなみに原作の方ですが、私自身は昔知人から借りて三作目まで読んだはずなのですが、一作目の内容を何となく覚えているだけで後は記憶から抜けてしまったような状態です。
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『大福星』

2006年08月03日 | 映画
『大福星』(原題:福星高照、監督:サモ・ハン・キンポー、出演:サモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、1985年制作、香港)

5月か6月頃に深夜放送で放映されていたものですが、録画してたのをやっとこさ見ました。実は他にも録画を貯め込んでます……

ストーリーは、金を横領して日本に高飛びした元刑事を追ってジャッキーとユン・ピョウも来日。ところが追跡中にユン・ピョウが敵に捕まってしまいます。そこでジャッキーは幼馴染みで小悪党のサモ・ハンに救援を請い、サモ・ハンが美人刑事と4人の悪党仲間を引き連れて来日するというものです。

富士急ハイランドとか東京の地下鉄とか、日本でロケをしている割には画面から聞こえてくる日本語の発音が何だか不自然だったり(香港人のエキストラを使っているんでしょうか)、ラスボスの愛人の和服美人がなぜかボディビルダーだったり(西脇美智子という本職のボディビルダーが演じているとのことです)、ジャッキーが富士急ハイランドで敵に見つからないよう着ぐるみを着て追跡するのは良いとして、その着ぐるみがよりによってアラレちゃんだったりと、色々と妙な所ばかりが目に付いてしまいました(^^;)

実はこの作品、脚本が王晶(バリー・ウォン)なんだそうで。こんな所でこの人の名前を見ることになろうとは…… 放送では「香港B級映画の帝王」と紹介されてました。
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『PRIDE』その3

2006年08月02日 | 武侠ドラマ
(前回:その2

DVD-BOX1の最後である第18話まで見ました。

小魚児は名門慕容家の末娘である小仙女と恋仲となり、花無欠と鉄心蘭も互いを思い合うようになりますが、小仙女は純陰(陰の年、陰の月、陰の日、陰の刻)の生まれであったことから、東廠のボスである劉岐に目を付けられて官憲に追われる身となり、花無欠は師匠の邀月の策謀によって心蘭と過ごした日々の記憶を奪われ、逆に心蘭を憎むようになります。当初はコメディ調でしたが、古龍原作らしく段々ハードな展開になってきました! 

『陸小鳳』シリーズなんかだと、主人公に思いを寄せたヒロインが人知れず悪役に殺されたりするわけですが、この作品ではどうなるんでしょうか…… DVD-BOX2が届くのが楽しみであります。

以下、前半のまとめとして登場人物紹介を上げておきます。

【主役】

・小魚児: 赤ん坊の頃に燕南天によって悪人谷に連れられ、谷に住まう十大悪人を親代わりにして育った。口が達者で機転が利く。花無欠とは双子の兄弟だが、当人たちはその事を知るよしもない。
・花無欠: 邀月を師として移花宮で育てられ、クールな美剣士に成長。邀月に与えられた断愛絶情丹の影響で、女性に恋心を抱くと激痛に苦しめられる。

【ヒロイン】

・鉄心蘭: 武林盟主・鉄如雲の娘。侍女の小小とともに行方不明となった父を捜している。小魚児と義兄妹となり、花無欠とは相思相愛の仲になるが……
・小仙女: 名門慕容府の主・慕容無敵の末娘で、本名は慕容仙。南海神尼の弟子。気の強いお嬢様だが、満月の晩に発作がおこる持病を持つ。小魚児と相思相愛の仲になる。純陰の生まれであることから劉岐に狙われ……
・蘇桜: 女医として名高い蘇如是の娘で、優れた医術で小魚児や鉄心蘭の命を救う。小魚児に片思い。
・江玉燕: 江別鶴の隠し子。父親に引き取られるが、継母によって召使いの身分に落とされ、虐待される。大人しく従順な性格だが、狡猾な一面も。父親を慕い、花無欠に恋心を抱くが……
・江玉鳳: 江別鶴と正妻の間に生まれた娘で、南海神尼の弟子。小魚児に恋心を抱く。

【悪役】

・江別鶴: 武林盟主の座を狙う偽君子。「仁義無双」のあだ名を持つ。劉岐の娘を妻とするが、気性の激しい妻に圧倒される恐妻家。元の名を江琴といい、江楓に仕える書生であったが、主人夫妻を移花宮に売り渡した。
・劉岐: 東廠のボスで吸功大法を身につけており、宮廷のみならず武林でも権勢を振るう。移花宮に対抗するために隔空吸功を修得しようとし、功力の修得に必要な五人の純陽の生まれの男と二人の純陰の生まれの女を捜索させる。
・邀月: 女性のみからなる移花宮宮主で、嫁衣神功を使う。自分の恋心を裏切った江楓に復讐するため、息子の花無欠と小魚児を相争わせようとする。
・憐星: 邀月の師妹で、移花宮第二宮主。江楓への復讐に狂う邀月の行動を疑問視するようになる。
・紅葉先生: 情報網を駆使して武林中の秘密を収集する情報屋。

【その他】

・江楓: 小魚児・花無欠兄弟の父。花月奴と駆け落ちしたことから、邀月に殺害される。
・花月奴: 小魚児・花無欠兄弟の母。移花宮の侍女であったが、江楓と恋に落ち、邀月の怒りを買って殺害される。
・燕南天: 江楓の義兄弟。仇敵の手から逃れて小魚児とともに悪人谷に逃げ込むが、毒に全身を蝕まれて植物人間になる。
・十大悪人: 杜殺・屠嬌嬌・哈哈児・李大咀・陰九幽の五人からなる。十大悪人という割りにはなぜか五人しか出て来ない。悪事を重ねたため、整蠱大師によって悪人谷に閉じこめられた。小魚児の親代わりとなる。
・悪通天: 街のゴロツキだったが、小魚児にやられて彼の弟子となる。
・慕容淑妃: 皇帝の寵姫で、慕容無敵の長女。南海神尼の弟子。妹の小仙女をかわいがっている。妹と同様に純陰の生まれで、劉岐に狙われる。
・十三王子: 王子たちの中でも皇帝のお気に入り。小仙女を手込めにしようとするが……
・常百草: 名医の評判が高く、悪人谷で燕南天の治療にあたる。同じく医者である蘇如是を妻としていたが、喧嘩別れしてしまった。
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【新出金文】柞伯鼎

2006年08月01日 | 学術
今後雑誌等で新出青銅器銘文が発表されるたびに、メモ替わりに銘文や訓読等を打ち込んでおきたいと思います。

今回扱う柞伯鼎は『文物』2006年第5期掲載の論文、朱鳳瀚「柞伯鼎与周公南征」で紹介されたものです。中国国家博物館に新たに収蔵されたとあるのみで、出土地や収蔵の経緯は不明です。年代については、朱鳳瀚論文では器の形制や紋様、銘文の字体から西周晩期(後期の意)のものと判断しています。以下、銘文の釈読等については基本的に朱鳳瀚論文の解釈に拠ります。

【凡例】

・銘文中では「中(=仲)」、「白(=伯)」、「且(=祖)」、「又(=有)」など字釈上特に問題が無いと思われるものについては、通仮字で表記してあります。
・Shift JISやUnicodeで表示できない文字については、[林去]のように表記するか(この場合は「林」と「去」のパーツを組み合わせた字ということです。)、あるいは字形が複雑でそれも困難場合はやむを得ず〓の記号を付けました。
・文中の「集成」は『殷周金文集成』の、「近出」は『近出殷周金文集録』の略。数字はそれぞれの書の著録番号です。

【銘文】

隹四月既死霸虢仲令(=命)
柞伯曰在乃聖祖周公
[其丮女](=其)有共(=功)于周邦用昏(=勉)無
及廣伐南國今汝[爫言系]率
蔡侯左至于昏邑既圍
城令(=命)蔡侯告徴(=成)虢仲遣
氏曰既圍昏虢仲至辛酉
搏戎柞伯執訊二夫獲馘
十人諆(=其)弗敢昧皇祖
用作朕烈祖幽叔寶尊
鼎諆(=其)用追享孝用祈眉
壽萬人(=年)子子孫孫其永寶用

【訓読】

隹れ四月既死霸、虢仲 柞伯に命じて曰はく、「乃の聖祖周公に在りては、かつて周邦に功有りて、用て勉むること及ぶ無く、南國を廣伐せり。今汝其れ蔡侯を率いて左して昏邑に至れ」と。既に城を圍み、蔡侯に命じて成を虢仲に告げしめ、氏を遣はして曰く、「既に昏を圍めり」と。虢仲至る。辛酉、戎を搏す。柞伯 執訊二夫、獲馘十人あり。其れ敢へて皇祖を昧にせず、用て朕が烈祖幽叔の寶尊鼎を作る。其れ用て追享孝し、用て眉壽萬年を祈る。子子孫孫、其れ永く寶用せよ。

【解説】

銘文は柞伯が虢仲の命を受けて蔡侯とともに(おそらく南方にあると思われる)昏という邑を攻めたことを記す。昏の城市を包囲した後、配下の蔡侯に報告に赴かせ、上司の虢仲が現地に到着した後に、昏に立てこもる戎人への攻撃を行い、柞伯は二人を捕虜とし、十人の敵の首を得た。そしてこのことを記念して祖先の一人である幽叔を祀るための鼎(すなわち本器)を作ったのである。

冒頭の虢仲の言によって、柞伯が周公旦の子孫であったことがわかる。この柞伯の先祖のものと思われる金文に柞伯簋(近出486)があるが、この銘では末尾に「柞伯 用て周公の寶尊彝を作る」という文があり、やはり柞伯の家が周公旦の子孫であることを示唆する。『左伝』僖公二十四年には「凡・蔣・邢・茅・胙・祭、周公之胤也」という一文があり、柞伯の柞は周公旦の子孫とされるこの五つの諸侯のうち「胙」のことであるとするのが一般的です。

同じく虢仲の言では周公旦が南征を行ったことになっているが、金文中では〓方鼎(集成2739)で「隹周公于征伐東夷・豐伯・薄姑」と、周公が東方に遠征したという記述が見られるが、周公が南方に遠征したとはっきり記したものは無い。禽簋(集成4041)には周王が[林去]侯を伐った時に周公と伯禽が征伐に関わった旨の記述があり、この[林去]が南方の楚あるいは奄を指すという説もありますが、はっきりそうだとは言い切れません。私が思うに、あるいは周公旦が南征を行ったという事実は無かったが、この銘文が作られた頃にはそういう伝承が出来ていたということなのかもしれません。朱鳳瀚論文では、『荀子』王制や『逸周書』作雒解に周公が南方に遠征した記述があり、また『史記』魯世家、蒙恬列伝等に、周公旦が讒言によって成王のに疎まれ、楚に出奔した記述があることを指摘しています。

字釈については、銘文三行目の「有共于周邦」という表現は他の銘文に「有爵于周邦」、「有成于周邦」、「勞于齊邦」といった類似の表現が見られます。またこの銘文では「其」にあたる文字を表記するのに通常の「其」(12行目8文字目)、「[其丮女]」(3行目1文字目)、「諆」(9行目3文字目と11行目2文字目)の3つのパターンを使用しており、この点かなり特異であります。
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