博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

今更ですが中国鉄道大紀行

2010年05月06日 | TVドキュメンタリー
留学中にあちこち旅行していたもんで、帰国してからもう一度『関口知宏の中国鉄道大紀行』が見たいなあと思ってたら、折良く連休中からNHK-BSハイビジョンで春の旅編が再放送されてました。

ボチボチと録画して見てますが、見ながら思ったことをまとめると以下の通り。

○『三国志』にゆかりのある土地にやって来ても、『三国志』ネタを全力でスルーしているのが却って清々しくて良い。
○名前も聞いたことの無い街に立ち寄っているのが萌える。
○しかし街中の風景はどこも似たり寄ったりだなあと……

以前どこかで「中国・中国人の悪い所や汚い所をスルーしているのが許せん」というような感想を見ましたが、そういう人は同時期に同じくNHKで放映されていた『激流中国』を見てれば良かったのです。

しかし撮影中に、列車に乗り込むと自分の座席(あるいはベッド)に既に他の人が座って(寝て)おり、他の座席(ベッド)に変わらされるという経験をおそらく何度もしているはずなのに、その点を番組中でスルーしているのはいかがなもんでしょうか(^^;) これも中国鉄道の旅の醍醐味(?)なので、一度ぐらいは取り上げても良かったんじゃないかと。

秋の旅編の再放送は5月10日から開始とのこと。今度は長春にも立ち寄るはずなので、楽しみであります。
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『漢字五千年』その2(完)

2009年05月14日 | TVドキュメンタリー
今回は後半の第5集から第8集まで。

第5集「翰墨情懐」
書法・書道について。王羲之や顔真卿、蘇軾などの書家の事績を紹介。李世民が王羲之の書にこだわったのは江南の民の心をつかむためであったとする。また唐以後は科挙において「以書取士」の方針が敷かれ、科挙に登第するには館閣体と呼ばれる書体をマスターする必要があるとされた。学才がありながら字が下手でなかなか進士に登第できなかった龔自珍のエピソードを紹介。また能書家であってもその人の人格が伴わなければその作品が正当に評価されないという伝統があるとし、蔡京・秦桧・厳崇らはそのような人格の劣る書家であったとする。

第6集「天下至宝」
書に関する道具・技術の発明について。毛筆は伝説上では秦の蒙恬が発明したとされるが、実際は戦国時代の楚の遺跡から出土例がある。毛筆は元々は絵画のために用いられ、文字出現以前から存在したと推測される。その他秦漢の竹簡と帛書、紙の発明と蔡倫、中国において印刷術が印璽や石碑から拓本を取る技術から産まれたと考えられることなどについて。

第7集「浴火重生」
阿片戦争後、外国語・外国文化と真摯に向き合わざるを得なくなった中国。特に新文化運動以後は漢字そのものが旧文化の象徴として批判対象となり、漢字の簡化・表音文字化の試みがなされていく。それが新中国後の簡体字とピンインの導入へと繋がっていった。またコンピュータ上での漢字の入出力が困難と目されたことも漢字簡化政策の推進に拍車をかけたが、現在では却って技術の進歩により漢字の電脳化がほぼ達成され、漢字は再生を果たした。

第8集「芳華永駐」
世界で学ばれる漢語、そして漢語教育の拠点として世界に広がる孔子学院について。その他、清代の典礼問題やエスペラント語について取り上げる。エスペラント語の失敗は言語を単なる工具と見なしたことで、根(文化背景)の無い言語は普及しえないとする。


前回紹介した前半部分が古文字篇で、この後半部分がその他諸々篇という感じですね(^^;) 繁体字復活論との絡みでキモとなるのは第7集ですね。第8集は全編孔子学院の宣伝となっており、かなり退屈でした……
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『漢字五千年』その1

2009年05月12日 | TVドキュメンタリー
というわけで今まで何度か話題に出した『漢字五千年』各回の内容を紹介していきます。今回は全8集のうち前半4集分まで。

第1集「人類奇葩」
漢字と他地域の古文字、楔形文字・エジプトの象形文字・ラテン語などと比較。同じ時期に異民族の侵入によって分裂を迫られながらも、中国では漢字や漢文化が紐帯となって隋唐王朝による統一を達成したの対し、ローマ帝国ではラテン語圏の西ローマ帝国とギリシア語圏の東ローマ帝国とに分裂し、以後長らくキリスト教東西教会の対立を招いたとする。「中国の中世」という表現は用いていないものの、歴史認識自体は日本の京都学派による時代区分論と似通っている点が注目されます。

また、「漢字を廃止して中国語の表音化を進めれば中国は存在し得ない」という米国学者の見解を紹介しているのは、過去の漢字簡化政策を振り返ると興味深いところ。

第2集「高天長河」
新石器時代の陶器符号から甲骨文字・金文・秦による文字統一を経て隷書の登場に至るまでの漢字形成の歴史について。当初宮廷の中だけで通用されていた漢字が民衆のものになるきっかけを作ったのは、民衆を対象とする教育者の孔子であったとする。

第3集「霞光万道」
漢字使用圏の広がりについて。甲骨文字は周原や大辛荘など殷墟以外の地域でも使用されていたという話から始まり、東周期の楚での「雅言」の使用、中国における民族共用の文字としての漢字、また韓国・日本・ベトナムなど周辺国家での漢字の受け入れと、更にハングルや仮名など漢字をもとにした独自の文字の発明といったことまで話題が広がっていきます。しかしそれらの国家では現在もなお漢字が文字文化のうえで欠かせないものになっているとして、最後に立命館大学孔子学院などを紹介。

第4集「華夏心霊」
農業文明としての中華文明、複雑な親族呼称、「孝」の概念の誕生、貴族の家内・財産の管理系統から発達した殷周の官制、そして周文化の継承をはかった孔子について、関係する漢字の字釈を交えて語る。内容的にはいまひとつまとまりが無い印象を受けました(^^;) 

あと、西周金文の梁其簋が「字」という字を用いた最古の例であると紹介していますが、この銘文では「文字」の意味で使われているのではなく、あくまで子孫の「子」の通仮字として使用されているのですが……


以前に触れたように昨今の中国での繁体字復活論と関連してこの番組が語られているということですが、ここまでの段階ではやはり孔子学院の宣伝という要素が強いですね(^^;)
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『台北故宮』その2(完)

2009年04月04日 | TVドキュメンタリー
今回は第7集から最終第12集まで。

第7集「巧奪天工」
ミクロサイズの工芸品・小物や文房四宝について。文天祥の硯の裏に賛辞を彫りまくる乾隆帝にドン引きです……

第8集「翰墨風雅 上」
六朝から唐の書、乾隆帝の三希堂所蔵書(王義之『快雪時晴帖』・王献之『中秋帖』・王『伯遠帖』)の流転について。また、元副院長荘厳が王羲之の曲水の宴に倣って北溝や台北故宮で開催した曲水流觴についても触れています。しかし書に「神」とか賛辞を書きまくる乾隆帝にドン引きです(^^;)

第9集「翰墨風雅 下」
蘇軾『寒亭帖』や『清明上河図』など宋の書画について。『清明上河図』は北京に真跡、台北に乾隆年間の模本があるということですが、そうすると昨年11月に北京故宮の延禧宮で展示されていた『清明上河図』は真跡だったのかしら…… また世界各地の展覧活動や北京との交流を進めた元院長秦孝儀についても触れています。

第10集「山水深処」
范寛『渓山行旅図』など宋代の山水画について。『渓山行旅図』は1958年に絵の中に范寛の署名が隠れていることが判明し、話題になったそうです。当時の山水画はそのように絵の中に作者の署名を紛れ込ませることが多かったようですが。また1961年にアメリカに文物を貸し出して展覧会をやることになった際に、猛烈な反対運動がおこり、文物梱包の様子をテレビで放映したり、帰国展を企画したりと火消しに躍起になったとのこと。。ラストに突然英米所蔵の元紫禁城所蔵の書画リストが表示されるのが意味深です……

第11集「伝世珍籍」
『四庫全書』について。北溝に文物保管所を設置した当初、多雨多湿の台湾の気候に慣れず、雨漏りによって『四庫全書薈要』の一部が水浸しになったとのこと。この件で当時の幹部が引責辞任などの処分を受け、破損箇所については手で書き直して修復したそうです。そんな修復法ならいっそしない方がマシだと思うのは私だけでしょうか…… 後半は『文淵閣四庫全書』影印版の発行について。発行当初、当時の院長蒋復璁らに一部ずつ寄贈したところ、彼らは更にそれを海外の図書館などに寄贈したとのこと。まあ、あんな大部の書を貰ったところでよっぽどのお屋敷じゃないと保管スペースが確保出来ないでしょうけど(^^;) また、現在観光客未開放ゾーンである北京故宮の文淵閣の外観と内部の映像も流れます。

第12集「承古開今」
台北故宮の現在について。故宮は既に台湾人の生活や人生の一部と主張してみたり、北京故宮など大陸との共同企画を紹介したり、北京故宮と台北故宮の関係を餃子の皮と餡の関係に例えるコメンテイターが登場したりと、別に文物をすべて北京に返して貰いたいわけじゃなく、故宮は北京と台北の2つで1セットということでいいじゃないかと言いたげな展開でした(^^;) このあたりは『四庫全書』を所蔵していた楼閣と現在の書籍の保管場所が別々になっているようなもの(例えば承徳・避暑山荘の文津閣に所蔵されていた『四庫全書』は、現在は北京図書館に保管されています)と捉えているのかなあと思うのですが。

3~4年前に制作されたドキュメンタリー『故宮』の方は紫禁城にまつわる史話を中心にまとめていましたが、こちらは徹底して文物そのものや台湾の風土についてまとめてますね。これは2つまとめて見ろということなのかなと思ってたら、『故宮』と『台北故宮』をワンセットにした『両岸故宮』というパッケージも発売されているようですね。
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『台北故宮』その1

2009年03月29日 | TVドキュメンタリー
ボチボチと1月にCCTVで放映されていたドキュメンタリー『台北故宮』を見ています。今回は全12集中第1~6集までの内容をまとめておきます。

第1集「文物遷台」
日中戦争以後の大陸内での故宮所蔵文物の移転と、国共内戦発生後の国民党による台湾への文物移転について。飛行機による文物輸送は故宮関係者の亡命輸送機も兼ねていたようですが、張大千画伯による膨大な数の敦煌壁画の模写が搭載しきれず、泣く泣く関係者所有の金塊を積み荷から降ろして飛び立ったといったエピソードが紹介されています。

第2集「北溝煙雨」
台北故宮が出来るまで十数年間文物を保管・展示していた台中郊外北溝の展示所について。ここは当初文物を保管するスペースしか無かったところをアメリカの援助によって展示スペースが出来たのですが、当時の反米感情により支援拒否運動も起こったとのこと。この展示所は1999年の九二一大地震によって完全に崩壊してしまい、現在は跡形も無くなっているそうです。また当時故宮の文物を宋美齡がアメリカに売り渡したという噂が立ったものの、これは文物の数量統計の誤りに端を発した誤解とのこと。

第3集「青銅記憶」
安陽発掘に関わった李済の事績と台北故宮収蔵の殷周青銅器にまつわるエピソードを中心にまとめています。毛公鼎を日本軍が狙い、当時の持ち主を拷問したとか、李済が戦時中に日本に渡り、略奪文物返還交渉に携わったという話が印象に残ってます。また、1980年代の台北故宮裏山の倉庫内部の映像もあり。

第4集「釉彩千年」
宋代の五大名窯の名品について。「磁器収蔵家」王剛のインタビューが挿入されてます。こちらで『なんでも鑑定団』の中国版の司会をやっていると思ったら、コレクターだったのかよ!また昨年11月に北京故宮に行った際に延禧宮だ開催された陶磁展も紹介されています。これって台北故宮も関わっていたんですね。

第5集「磁中繁花」
明の宣徳官窯と清の琺瑯磁器、台北・北京両故宮の磁器担当研究員の交流などについて紹介。「青磁花」を歌うジェイ・チョウ(周傑倫)のインタビューもあり。

第6集「玉潤光華」
玉器とその研究に関わった台北故宮のスタッフについて。台北故宮のシンボル的存在の翠玉白菜ですが、2007年にその一部が破損していることが判明。ただ、いつの時点で出来たものかは不明とのこと。また、大陸の湖南省博物館などとの共同展示について取り上げています。

ちなみに本作のOP・EDテーマは、武侠物のテーマ曲でお馴染みの小虫作曲です。各回とも当時の台湾の映像やらニュースなどが流れるのですが、こんなのを見てると無性に台湾に旅行したくなって困ります(^^;) 
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『失われた年表を求めて ―夏商周年代確定プロジェクト』

2008年07月03日 | TVドキュメンタリー
VCDパッケージには『四千年前的叙事 遠古年輪』とありますが、『尋找失落的年表 ―夏商周断代工程』が元々のタイトルのようです。

中身は中華人民共和国建国50周年記念プロジェクトとして進められた夏商周断代工程の記録フィルムです。全3集で、第1集がプロジェクトのあらましと夏~殷代の二里頭遺跡・鄭州商城・偃師商城などの紹介、第2集が殷の武丁の在位年数の検討や、西周期の晋侯墓地の紹介など、第3集が殷周革命の年代の検討を取り上げています。

全体的に岳南の『夏王朝は幻ではなかった』に書いてあるようなことをザーッとなぞったような番組でした。第2集で故人の鄒衡とか馬承源のインタビューが収録されているのですが、この番組はいつ制作されたものなんでしょうか(^^;) 

内容的に面白いのもこれらのインタビューで、周囲の人々に墓泥棒に襲われるのではないかと心配されながら、鄒衡一人晋侯墓地の近辺で寝泊まりしていた話とか、燕の瑠璃河遺跡で出土した卜甲に最初に日本人の留学生が文字が刻まれているのを発見した話とか、上海博物館が購入した晋侯蘇鐘は、当初台北故宮や日本人も購入を検討していたが、鐘の表面にタガネで銘文を線刻してあるのが偽物臭いということであきらめたというような話が紹介されていました。

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『香港映画のすべて』

2008年02月03日 | TVドキュメンタリー
一週間かけてチョビチョビとNHK-BS2で放映の『香港映画のすべて』を見てました。

数年前に放映された時に一度見たものですが、当時はキングレコードからショウ・ブラザース映画のDVDが出だした頃で、番組中で紹介されている映画をほとんど見ていないという状態でした。

で、ある程度ショウ・ブラ映画を見た現在ではまた違った感慨が得られるだろうと思っていたのですが、却ってまだまだ見るべき作品はたくさん残されているんだなあと痛感…… 番組中で取り上げられている作品の中で特に見てみたいと思ったのは、リー・リーフア(どういう漢字をあてるんでしょうか)主演の歴史大作『楊貴妃』と、楊門女将をテーマにした『十四女英豪』です。後者は女将たちが人間橋を作って兵士たちに深い谷を渡らせる場面が印象的でした。

あと気になったのは、「馬永貞は腹に斧が刺さったまま15分もの間戦い続けます」とか、『金瓶梅』の映画で主人公が最後に頓死するのは淫行と悪徳に対する戒めがこめられているということを踏まえたうえで、「しかしこのような教訓が観客の心に届いたかどうかは疑問です」と、所々にさりげなくマジなんだかギャグなんだかわからないナレーションが挿入されている点です(^^;)
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『万里の長城の秘密』ほか

2008年01月24日 | TVドキュメンタリー
本日書店で『マーベラス・ツインズ』という名の『絶代双驕』をゲット。

三十路を越えてこういうアニメ絵の表紙の本を買わされるのは、何かの罰ゲームとしか思えません…… 幸い訳文の方はまともっぽいですが、それでも巻末の用語集の「関内・関外」の説明で山海関や万里の長城に言及していないのを見ると、本当に大丈夫なんだろうかと不安になってきます。

で、その万里の長城なんですが、さっきまでNHKハイビジョンのドキュメンタリー『万里の長城の秘密』を見てました。明の戚継光の事績を中心に、明代にレンガ造りの長城が建造されるに至った背景、長城の建造や防衛に駆り出された人々の様子、長城による防衛戦略、そして戚継光の失脚と明の滅亡までを、再現ドラマをまじえて解説していました。

やたら欧米の学者が出て来たりして、いつものNHKのドキュメンタリーと雰囲気が違っているなあと思ってたら、これ、イギリスで制作された番組だったんですね。
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BSマンガ夜話復活

2007年11月30日 | TVドキュメンタリー
ビデオに録りだめしておいた『BSマンガ夜話』をぼちぼちと見てます。

岡田斗司夫はちょっと前からレコーディングダイエットで評判になってましたが、こうして見てみると最早別人ですなあ…… 大月隆寛も痩せてて少し印象が違います。

番組の方は二年九ヶ月ぶりの放映ということですが、テンションは以前の通りですね(^^;) タイトルに「復活」と書いてしまいましたけど、次回の放映も二、三年後になるんじゃないかと不安です。せめて『BSアニメ夜話』と交互に放映してくれんもんでしょうか。
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『百家講壇 孔慶東看武侠小説』その4(完)

2007年10月10日 | TVドキュメンタリー
『孔慶東看武侠小説』第12集~最終第14集まで鑑賞。

第12集「金庸小説的『短平快』」
『越女剣』・『鴛鴦刀』・『白馬嘯西風』の3つの中・短編について論じる。『越女剣』は金庸作品の中で最も短いが、愛情・歴史・神話・政治など様々な要素が詰まっている。またこの作品に登場する范蠡は、いわば革命を成し遂げた後であっさりと自らの地位を捨てて隠退したという点で、金庸が最も羨んだ歴史上の人物である。『鴛鴦刀』は最も喜劇的な作品で、金庸作品でしばしば見られる宝探しモデルを採る。『白馬嘯西風』は主人公の李文秀を中心に登場人物の片思いが連鎖する作品で、人類が永遠に解決できない問題のひとつ、すなわち民族間の対立を描く。

第13集「飛狐的故事」
『雪山飛狐』は百年にわたる歴史的背景がある物語を1日の物語に縮めており、西洋古典主義戯曲の手法「三一律」(1つの物語を1つの場所で1日の中で語る)を採っている。この物語の影の主人公は胡一刀で、他の人物の口を借りてその生涯が語られるが、これは旧来の章回小説とは異なる新しい文芸小説の手法であった。ただ、この作品では本来の主人公である胡斐の個性がほとんど描かれず、それを補うために彼の成長の過程を示す物語として『飛狐外伝』が書かれた。『飛狐外伝』の胡斐は見も知らぬ人々の利益のために戦う儒教的な「大丈夫」である。他人の利益のために戦うというのは共産党が天下を得た理由であり、『飛狐外伝』はその意味では革命文学と言えよう。

第14集「品読『書剣恩仇録』」
『書剣恩仇録』は金庸の処女作であり、彼を有名にした作品でもある。乾隆帝が実は漢族であるという伝承は、彼以後のすべての清朝皇帝が漢族であることをも示しており、本当は満州族に漢族の江山が奪われていないと、漢族が自らを騙すことに繋がる。これは魯迅が『阿Q正伝』で批判した精神的勝利法である。主人公の陳家洛は伝統的な文人・才子の長所と欠点を併せ持っており、金庸は陳家洛の描写を通じて伝統的な文人のあり方を批判している。小説を通じて中国人の国民性を批判するという手法は、金庸が学校で教育を受けた1930~40年代の頃の気風によるもので、魯迅による国民性批判を継承している。

金庸小説が一面で魯迅の小説のあり方を継承しているという指摘は、昨今中国の国語教科書で魯迅の作品が外されて金庸の『雪山飛狐』が新たに加えられたことが物議を醸していることからすると、何やら感慨深いものがあります(^^;) しかしとなると、中国人の国民性を主人公の韋小宝を通じて明るく肯定的に描き出した『鹿鼎記』をどう評価するかという問題が出て来るわけですが……

新派武侠小説三大家の中で金庸が筆頭とされるのは、新しいものを取り入れつつもきっちり中国通俗小説の伝統を踏まえているからなんでしょうね。この辺り、梁羽生は伝統の方に寄りすぎる観があり、古龍は新しい手法に寄りすぎていていまいち落ち着かないということなのかもしれません。

以上で孔慶東先生の講義は終了ですが、取り扱われる作品にだいぶ偏りがありましたね。『射英雄伝』・『天龍八部』などについて頻繁に言及される一方、『碧血剣』・『笑傲江湖』・『倚天屠龍記』についてはあまり言及されず、『侠客行』に至っては記憶の限り全く扱われませんでした。

このシリーズ、正直面白い・面白くないで評価すると、かなり微妙な評価にならざるを得ません(^^;)  もっとも内容が初心者向けなのは『百家講壇』シリーズ全体の方針で、致し方のないところでしょうけど。
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