後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2 (角川新書)の感想
河北では八路軍との戦い、山東では毒ガス・細菌兵器の投入、河南では蒋介石による黄河決壊のような人災も含めた災害、山西では閻錫山の動向という具合に華北の省ごとの特色を強調した構成となっている。ただ、特に細菌戦については日本軍側の記録の有無がネックになっているようだ。本書終盤では8/15以後も戦闘が継続したことが触れられている。閻錫山と残留日本兵側との関係の実相は、あるいは現地の解放のために戦ったと信じられている東南アジアの残留日本兵の実態をも示唆するのではないか?
読了日:05月04日 著者:広中 一成
地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)の感想
アッシリア、アケメネス朝ペルシアなどメソポタミアを支配した大帝国の興亡。今巻のテーマは一神教、アルファベット、貨幣の発明ということになると思うが、多神教から一神教を求める動きと多数の文字を擁するヒエログリフからアルファベットが生まれる動きを関連したものと見ているのは面白い。今回ペルシア戦争についても触れられているが、ペルシア戦争は次巻でもギリシア人の視点から取り上げられるようだ。
読了日:05月07日 著者:本村 凌二
派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―の感想
民国期の国民党・中共から現在まで、林彪集団、石油閥、上海閥などの派閥を軸に中国の政治史を辿る。自他ともに対比される習近平と毛沢東だが、毛沢東が鄧小平ともども派閥に対して超然的な態度を取ったのに対し、習近平は江沢民ともども派閥に依存した指導者であるという。また日本の自民党など各国の派閥との比較も行っており、国政選挙がないという点では日本などとは派閥の形成やそのあり方が違っているが、派閥を単位とした党内の競争が党内の多様性を高め、危機への対応力が高まり、政権の持続に寄与するなど共通点も存在するようだ。
読了日:05月09日 著者:李 昊
初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)の感想
時代ごとに動向、主要な書家と作品、そして「双鉤填墨」「蚕頭燕尾」のような基本的な用語を解説。書道通史というよりは書道史に関する便覧的な使い方ができる作りになっている(ただ、図版はほとんどないが)。ハンディなので手元に置いておけば便利かもしれない。
読了日:05月11日 著者:中山 不動
哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)の感想
今巻は近世・近代編。一読してわかったような気になる度は前巻より上がっているような気がする。「我思うゆえに我あり」は順番が逆という話や、大陸の合理論とイギリスの経験論、あるいはフィヒテ→シェリング→ヘーゲルの順番のような現在の哲学史の枠組みが最初から所与のものというわけではなかったという話を面白く読んだ。哲学から科学がどう芽生えたかという話も盛り込まれている。
読了日:05月13日 著者:上野 修,戸田 剛文,御子柴 善之,大河内 泰樹,山本 貴光,吉川 浩満
隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)の感想
近現代における偽史言説としての聖徳太子論というか、特に前半は聖徳太子が間接的にしか絡まず、ほとんど秦氏とユダヤ人、景教論となっている。梅原猛『隠された十字架』(これは本書のタイトルの由来にもなっているであろう)や山岸凉子『日出処の天子』も俎上に挙げられている。聖徳太子にまつわる偽史言説がアカデミズムによる通説を批判しつつもアカデミズムの権威に寄りかかることによって成立するという指摘は、漢字の字源説など他の分野についてもあてはまるだろう。
読了日:05月15日 著者:オリオン・クラウタウ
秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システムの感想
谷論文は封泥についてのわかりやすい概説になっている。鶴間論文は従来36郡とされていた秦の郡の変遷を時期ごとに追い、それとの関連で始皇帝の巡行についても俎上に挙げている。もっとも面白く読んだのは髙村論文2編である。「始皇帝の手足の指の先」では地方で史官になりたがらない人々が多くいたという所から秦帝国の滅亡に議論が及ぶ。「官印は誰が捺したのか」は県令・県丞の印は書記官が捺印することもままあったのではないかという議論は、現代の文書類の捺印を想起させるよい議論。
読了日:05月16日 著者:谷 豊信,瀨川敬也,籾山 明,青木俊介,高村武幸,鶴間和幸,松村一徳
王墓の謎 (講談社現代新書 2745)の感想
比較考古学の観点から世界の王墓の果たした役割や造営の経緯などを議論する。威信財経済学の考え方や王墓が築かれなかった社会も検討対象とするという方針、エジプトと中国の始皇陵の葬送複合体の設計プランが一致するといった指摘などは面白い。しかし当時の人々がある種の原罪意識によって自ら進んで過酷な王墓の造営に参加したのではないかという想定など、所々疑問に思いつつ読んだ。
読了日:05月18日 著者:河野 一隆
臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)の感想
「麻三斤」「柏樹子」など、今では意味不明なやりとりという意味での「禅問答」とされているものも、唐代にまでさかのぼると哲学を感じさせるような脈絡があったのだということと、それが宋代になると哲学的な脈絡を読み取る態度を「死句」と否定し、本来の脈絡と切り離して「活句」に仕立て上げたという話が面白い。禅問答に対するイメージが変わりそう。
読了日:05月20日 著者:小川 隆
台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)の感想
政治的な意図もあってか日本との関係ばかりが取り沙汰されがちな台湾論だが、本書はアメリカ政治学の専門家がアメリカ(文化)の影響という視点から台湾の民主主義を論じている点に特色がある。また在米華人の動向やSNSを通じた中国の影響にもかなりの紙幅を割いている。台湾国内で、苦慮しつつも原住民や客家の、特に言語面での多様性をできる限り認めようとしているのは、中国に対して台湾の独自性を訴える都合上そうせざるを得ないという面もあるのではないかと思うが。
読了日:05月24日 著者:渡辺 将人
中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)の感想
『風俗通義』などの記述を手がかりにしつつ古代から現代までの民間信仰の中の神仙の変遷を追う。内容的にはかなり雑多だが、孫悟空の設定の変遷、日本に持ち込まれた道教や民間信仰の神々、『封神演義』の信仰に与えた影響、地域ごとの信仰される神仙や廟の建築様式の違い、イエスやムハンマドなど民間信仰の世界観の中に取り込まれた外国の宗教の始祖たち、儒仏道の神仙とジェンダー、海外で信仰される神仙等々興味深い話題が多い。
読了日:05月26日 著者:二階堂 善弘
台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑の感想
ボードゲーム、カードゲームなど、台湾の様々なテーブルゲームとその歴史を紹介。モノポリーをローカライズした大富翁のように海外のゲームを持ち込んだものもあれば、陞官図のように前近代中国に起源のあるものもあり、台湾オリジナルのヒット作もあれば、映画やドラマ、アイドル、日本の漫画などのキャラクター物もありと、様々なゲームが系統立てて紹介されている。印刷されているメッセージやデザインからは当時の時代性をうかがうこともできる。ボードの図版も豊富で、本書を読めばいくつも遊んでみたいゲームが出てくることだろう。
読了日:05月27日 著者:陳介宇,陳芝婷
元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)の感想
モンゴル帝国史の基礎文献『元朝秘史』の概要と読みどころ、そしてその記述に関連して近年の発掘や研究の成果を紹介する。序章が『元朝秘史』の解題、本編がその内容、終章が考古学の成果による補足という構成。神出鬼没のジャムカの活躍ぶりなどを見ると、『元朝秘史』は歴史書というより歴史物語集、説話集という印象を強く受ける。
読了日:05月29日 著者:白石 典之
河北では八路軍との戦い、山東では毒ガス・細菌兵器の投入、河南では蒋介石による黄河決壊のような人災も含めた災害、山西では閻錫山の動向という具合に華北の省ごとの特色を強調した構成となっている。ただ、特に細菌戦については日本軍側の記録の有無がネックになっているようだ。本書終盤では8/15以後も戦闘が継続したことが触れられている。閻錫山と残留日本兵側との関係の実相は、あるいは現地の解放のために戦ったと信じられている東南アジアの残留日本兵の実態をも示唆するのではないか?
読了日:05月04日 著者:広中 一成
地中海世界の歴史2 沈黙する神々の帝国 アッシリアとペルシア (講談社選書メチエ 802)の感想
アッシリア、アケメネス朝ペルシアなどメソポタミアを支配した大帝国の興亡。今巻のテーマは一神教、アルファベット、貨幣の発明ということになると思うが、多神教から一神教を求める動きと多数の文字を擁するヒエログリフからアルファベットが生まれる動きを関連したものと見ているのは面白い。今回ペルシア戦争についても触れられているが、ペルシア戦争は次巻でもギリシア人の視点から取り上げられるようだ。
読了日:05月07日 著者:本村 凌二
派閥の中国政治―毛沢東から習近平まで―の感想
民国期の国民党・中共から現在まで、林彪集団、石油閥、上海閥などの派閥を軸に中国の政治史を辿る。自他ともに対比される習近平と毛沢東だが、毛沢東が鄧小平ともども派閥に対して超然的な態度を取ったのに対し、習近平は江沢民ともども派閥に依存した指導者であるという。また日本の自民党など各国の派閥との比較も行っており、国政選挙がないという点では日本などとは派閥の形成やそのあり方が違っているが、派閥を単位とした党内の競争が党内の多様性を高め、危機への対応力が高まり、政権の持続に寄与するなど共通点も存在するようだ。
読了日:05月09日 著者:李 昊
初学者のための中国書道史入門 (文芸社セレクション)の感想
時代ごとに動向、主要な書家と作品、そして「双鉤填墨」「蚕頭燕尾」のような基本的な用語を解説。書道通史というよりは書道史に関する便覧的な使い方ができる作りになっている(ただ、図版はほとんどないが)。ハンディなので手元に置いておけば便利かもしれない。
読了日:05月11日 著者:中山 不動
哲学史入門II: デカルトからカント、ヘーゲルまで (2) (NHK出版新書 719)の感想
今巻は近世・近代編。一読してわかったような気になる度は前巻より上がっているような気がする。「我思うゆえに我あり」は順番が逆という話や、大陸の合理論とイギリスの経験論、あるいはフィヒテ→シェリング→ヘーゲルの順番のような現在の哲学史の枠組みが最初から所与のものというわけではなかったという話を面白く読んだ。哲学から科学がどう芽生えたかという話も盛り込まれている。
読了日:05月13日 著者:上野 修,戸田 剛文,御子柴 善之,大河内 泰樹,山本 貴光,吉川 浩満
隠された聖徳太子 ――近現代日本の偽史とオカルト文化 (ちくま新書 1794)の感想
近現代における偽史言説としての聖徳太子論というか、特に前半は聖徳太子が間接的にしか絡まず、ほとんど秦氏とユダヤ人、景教論となっている。梅原猛『隠された十字架』(これは本書のタイトルの由来にもなっているであろう)や山岸凉子『日出処の天子』も俎上に挙げられている。聖徳太子にまつわる偽史言説がアカデミズムによる通説を批判しつつもアカデミズムの権威に寄りかかることによって成立するという指摘は、漢字の字源説など他の分野についてもあてはまるだろう。
読了日:05月15日 著者:オリオン・クラウタウ
秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システムの感想
谷論文は封泥についてのわかりやすい概説になっている。鶴間論文は従来36郡とされていた秦の郡の変遷を時期ごとに追い、それとの関連で始皇帝の巡行についても俎上に挙げている。もっとも面白く読んだのは髙村論文2編である。「始皇帝の手足の指の先」では地方で史官になりたがらない人々が多くいたという所から秦帝国の滅亡に議論が及ぶ。「官印は誰が捺したのか」は県令・県丞の印は書記官が捺印することもままあったのではないかという議論は、現代の文書類の捺印を想起させるよい議論。
読了日:05月16日 著者:谷 豊信,瀨川敬也,籾山 明,青木俊介,高村武幸,鶴間和幸,松村一徳
王墓の謎 (講談社現代新書 2745)の感想
比較考古学の観点から世界の王墓の果たした役割や造営の経緯などを議論する。威信財経済学の考え方や王墓が築かれなかった社会も検討対象とするという方針、エジプトと中国の始皇陵の葬送複合体の設計プランが一致するといった指摘などは面白い。しかし当時の人々がある種の原罪意識によって自ら進んで過酷な王墓の造営に参加したのではないかという想定など、所々疑問に思いつつ読んだ。
読了日:05月18日 著者:河野 一隆
臨済録のことば 禅の語録を読む (講談社学術文庫 2818)の感想
「麻三斤」「柏樹子」など、今では意味不明なやりとりという意味での「禅問答」とされているものも、唐代にまでさかのぼると哲学を感じさせるような脈絡があったのだということと、それが宋代になると哲学的な脈絡を読み取る態度を「死句」と否定し、本来の脈絡と切り離して「活句」に仕立て上げたという話が面白い。禅問答に対するイメージが変わりそう。
読了日:05月20日 著者:小川 隆
台湾のデモクラシー-メディア、選挙、アメリカ (中公新書, 2803)の感想
政治的な意図もあってか日本との関係ばかりが取り沙汰されがちな台湾論だが、本書はアメリカ政治学の専門家がアメリカ(文化)の影響という視点から台湾の民主主義を論じている点に特色がある。また在米華人の動向やSNSを通じた中国の影響にもかなりの紙幅を割いている。台湾国内で、苦慮しつつも原住民や客家の、特に言語面での多様性をできる限り認めようとしているのは、中国に対して台湾の独自性を訴える都合上そうせざるを得ないという面もあるのではないかと思うが。
読了日:05月24日 著者:渡辺 将人
中国の信仰世界と道教: 神・仏・仙人 (598)の感想
『風俗通義』などの記述を手がかりにしつつ古代から現代までの民間信仰の中の神仙の変遷を追う。内容的にはかなり雑多だが、孫悟空の設定の変遷、日本に持ち込まれた道教や民間信仰の神々、『封神演義』の信仰に与えた影響、地域ごとの信仰される神仙や廟の建築様式の違い、イエスやムハンマドなど民間信仰の世界観の中に取り込まれた外国の宗教の始祖たち、儒仏道の神仙とジェンダー、海外で信仰される神仙等々興味深い話題が多い。
読了日:05月26日 著者:二階堂 善弘
台湾老卓遊 台湾レトロテーブルゲーム図鑑の感想
ボードゲーム、カードゲームなど、台湾の様々なテーブルゲームとその歴史を紹介。モノポリーをローカライズした大富翁のように海外のゲームを持ち込んだものもあれば、陞官図のように前近代中国に起源のあるものもあり、台湾オリジナルのヒット作もあれば、映画やドラマ、アイドル、日本の漫画などのキャラクター物もありと、様々なゲームが系統立てて紹介されている。印刷されているメッセージやデザインからは当時の時代性をうかがうこともできる。ボードの図版も豊富で、本書を読めばいくつも遊んでみたいゲームが出てくることだろう。
読了日:05月27日 著者:陳介宇,陳芝婷
元朝秘史―チンギス・カンの一級史料 (中公新書, 2804)の感想
モンゴル帝国史の基礎文献『元朝秘史』の概要と読みどころ、そしてその記述に関連して近年の発掘や研究の成果を紹介する。序章が『元朝秘史』の解題、本編がその内容、終章が考古学の成果による補足という構成。神出鬼没のジャムカの活躍ぶりなどを見ると、『元朝秘史』は歴史書というより歴史物語集、説話集という印象を強く受ける。
読了日:05月29日 著者:白石 典之
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