博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『日本近現代史7 占領と改革』

2008年02月29日 | 日本史書籍
雨宮昭一『シリーズ日本近現代史7 占領と改革』(岩波新書、2008年1月)

GHQによる占領政策が大戦後の日本を変えたのではない。敗戦という現実が日本を変えたのだ!日本政府は、そして日本人は自分達の力で戦後の改革ができなかったダメな子じゃない!ということを熱く語っている本です(^^;)

戦時中の総力戦体制が今で言うセレブ層をも貧困のどん底へと追いやり、国民の平等化や経済的格差の減少を促す役割を果たしたとか、一連の戦後改革は占領が無くとも遅かれ早かれなされたとか、政府筋による憲法改正試案(松本委員会試案)が巷間言われているような「極めて保守的」なものとは思われない。というか、GHQがそういうことにしたかっただけと違うんかい?といったツッコミとか面白い指摘が随所に見られますが、個人的に最も興味深かったのは日本の降伏に関する指摘です。

本書では日本の早期降伏の決定的な要因となったのは二度にわたる原爆投下でもソ連の対日参戦でもなく、日本国内で早期降伏や自由主義的な政策を支持する一派が東条英機らを中心とする勢力を押さえ、主導権を握ったことであるとしています。つまり降伏と戦後の改革を受け入れる充分な土壌があったからこそGHQによる占領政策が円滑に進んだわけで、一方でこのような土壌がなければ、原爆投下やソ連対日参戦以後もめげることなく戦争状態が続き、本土決戦へと突入、そして各地で軍部を支持する勢力が占領軍とゲリラ闘争を続け、国民はいつまでも塗炭の苦しみを舐め続けるという地獄のような未来絵図も充分にあり得たわけです。

敗戦国の側に受け入れる土壌がなければ占領政策がうまくいかないという考え方は、同じくアメリカが中心となって占領を進めながらも、第二次大戦直後の日本の場合はそれがすんなり受け入れられのに、現在のイラクの場合はなぜすんなりいかないのかという問題に対する有効な解答になるでしょう。

ただ、残念ながらこの手の政治的な問題意識というか目的意識が強い本にありがちな、「こうあったはずだ」「こうあらねばならない」という理念が先行して所々考証が甘くなるという欠点が本書にも見られました。例えば戦時中の軍国教育や軍需産業の振興について、そもそも戦時中は言わば非常事態であって、当時の教育や産業の体制は近代日本の歴史の中でも特殊なものであった。であるから、敗戦によって非常事態が解消すれば教育や産業のあり方も1920年代までの平常時のものに復帰せざるを得ないというような説明をしています。

しかし実際のところ、台湾で1949年から1987年まで戒厳令が維持されたように、長期間にわたって非常事態が維持されるということは充分にあり得るわけで、日本でも敗戦というきっかけのみで占領当局による「外圧」が無ければ、果たしてこういった改革がなされたかどうか心許ないものがあります。
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亀卜の臭い

2008年02月28日 | 学術
今年に入ってからとある事情で『対馬国卜部亀卜之次第』『対馬亀卜伝』など、江戸時代に書かれた亀卜関係の書をつらつらと読んでます。その中で読んでいて思わず笑ってしまった記述があったので、以下にその部分を引いておきます。

…… 某昔大掌【ママ】會ノ時ノ亀卜ノコトヲ聞シニ坐(ナマ)シキ亀ヲ焼レシホドニ臭気甚シテ堪ズト云ヒキ……

……常憲院様御代ニ京都大嘗會ノ時分必亀ヲ灼申例有之ニツキ亀ヲ灼申候公家方ニモ其方一人存知タル人無之生亀ヲ灼申故殊ノ外臭ク難義致シ候由ニ御座候……


下の条は常憲院(五代将軍徳川綱吉)の時代、東山天皇が即位する時にそれまで長らく途絶えていた大嘗祭が復興されることになったのですが、儀式の準備や進行のさせ方 がいまいちよく分からなかったらしく、取り敢えず亀卜をやることになっているからと、おそらく表面のぬめりを取るというような下準備を充分にしないまま亀の甲羅を火にくべてみたところ、強烈な異臭がして難儀したという話です(^^;) 上の条もこの時の亀卜について述べたものと思われます。

この異臭については、以前に紹介した『亀卜』に掲載されている灼甲実験レポートでも、「電動ノコギリで切断する際、その摩擦熱の影響で亀甲が焼けたようで、周囲には強烈な異臭が漂った」(同書232頁)というコメントがありますね。ついでに言うと、このレポートでは亀甲を火にかけた途端にスルメを焼くように縮んだとのことですが……
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『太王四神記』第12話

2008年02月26日 | 韓国歴史ドラマ
前回からの続きで、最強の傭兵チュムチを仲間に入れようとする談徳。チュムチは「俺のオノを10回かわしたら仲間になってやる」と息巻き、早速勝負に突入。チュムチの方は手加減なしですが、談徳は実に楽しそうに攻撃をかわしていきます。アクションシーンでも微笑みを絶やさないあたり、さすがヨン様と褒めるべきでしょうか(^^;)

で、約束通りチュムチが仲間になり、またパソンのもとに身を寄せる女性タビルも兵站の経理に明るいという意外な能力があることが発覚し、談徳に仕えることに。談徳側も段々陣容が整ってきましたが、ここで談徳の仲間たちとその職業をドラクエ風にまとめてみます。

タムドク:こくおう
スジニ:あそびにん
フッケ:ぶぞくちょう
ヒョンゴ:けんじゃ(もしくは、そんちょう)
コ・ウチュン:しょうぐん
パソン:ぶきぼうぐや
チュムチ:ようへい
タビル:かいけいかん

といったところでしょうか(^^;)

その後、談徳は青龍の神器を求めて百済に出征したヨン・ホゲをフォローするために色々と画策。来週は戦闘シーンが多くなりそうですね。
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『大敦煌』第13話

2008年02月26日 | 中国歴史ドラマ
色々あって旺栄と結婚するハメになった梅朶公主。鬱憤晴らしのために新婚初夜の晩に「あなたと初めて出会った場所に行きたいの」と旺栄を連れ出し、彼が寝ている間に行方をくらましてしまいます。

事の次第を知った李元昊は結婚の不履行を口実に敦煌側に瓜州を返還しないばかりか、敦煌に攻め込む勢いです。曹順徳は梅朶と旺栄との結婚によって平和を保つという方策が破れ、西夏と決戦すべく幽閉状態に置いていた主戦派の張英寿のもとに向かいますが、これまでの扱いに腹を据えかねていた張英寿は曹順徳を殺害し、帰義軍こぞって西夏に降伏を申し入れます。

ここしばらくストーリーが停滞していましたが、第一部の最終回が近いのか、ここに来て急展開です。何とかギリギリ平和を保っていた敦煌は梅朶の気まぐれによって坂道を転げ落ちるように不幸のスパイラルへと突入していきます。「すべて私が悪いのよ」と涙ぐむ梅朶に対し、三界寺の法師は「敦煌の運命は公主の掌の上で回っているわけではありませんのじゃ」と慰めますが、どう考えても彼女が悪いと思います(^^;) 陳好、『天龍八部』の時に演じた阿紫といい、またこんな役回りですか……

一方、梅朶の姉の珍娘は李元昊のもとに乗り込んで敦煌侵攻を取り止めるように直訴。彼女に未練のある李元昊に対して珍娘は、曹順徳と結婚する前に李元昊から贈られ、以来肌身離さず持っていたという賀蘭山の奇石を彼に突き返しますが、この石、結構デカいです。いつもこんな物を持ち歩いていたのでしょうか(^^;)
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『中国、一九〇〇年』

2008年02月25日 | 中国学書籍
三石善吉『中国、一九〇〇年 義和団運動の光芒』(中公新書、1996年4月)

宣和堂さんのブログでの紹介を見て、清末のカンフーというか武林に関する記述が多いということで興味をひかれて読んでみました。

義和団運動を日本での認識のようにカルト的な集団による暴動と片付けてしまうのではなく、かと言って中国での認識のように中国革命につながる起義として理想化するわけでもなく、等身大の彼らの姿を探っていこうというのが本題。著者の言う文化帝国論、中国版千年王国論には首をかしげるような点も無いではないですが、農民たちと宣教師、そして彼らの庇護のもとにある教民との軋轢・確執が運動の背景にあったこと、彼らが決起するだけのやむにやまれぬ事由があったことなどはよく理解できました。

しかし大刀会や梅花拳、神拳といった団体が結成され、それが義和団として合流していくさまはマンマ武侠小説のノリですね(^^;) 香港映画なんかでは悪役になることが多い義和団ですが(『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ』でも黄飛鴻に倒される側になってましたね)、武侠物に出て来る門派・幇会などのルーツはこんなところにあったのでしょうか。
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『投名状』

2008年02月23日 | 映画
昨日の葉月さんのコメントを見て『投名状』を見たくなってきたのでDVDを求めて上海新天地へ行ってみたものの、折悪しく売り切れでした。取り寄せも可能ということでしたが、こうなれば意地でも今日中に見たくなってきました。それで帰りしなに難波駅前のSaleに立ち寄り、香港版VCDを購入した次第。

龐青雲(李連杰:ジェット・リー)は匪賊の趙二虎(劉徳華:アンディ・ラウ)、姜午陽(金城武)と義兄弟の契りをかわし、官軍に身を投じて太平天国の乱の鎮圧に尽力し、出世を果たすが、趙二虎の妻(徐静蕾)を奪い取るため、また趙二虎自身が色々と邪魔になってきたので彼の殺害をはかり……という具合にあらすじは元の『刺馬』と一緒なんですが、主要登場人物の性格がだいぶ変わっております。

龐青雲(『刺馬』では馬新貽という名前でした)は、大物然とした人物からどことなく小物ぶりと、清朝の大官と匪賊出身の兄弟たちとの間で板挟みになるという中間管理職的な悲哀が感じられる人物へと、趙二虎(同じく黄縦)は粗野でいつまでも山賊根性が抜けない人物から義理人情に厚い侠客肌の親分へと変わっており、趙二虎の妻についても龐青雲の方が一方的に恋慕しているという感じです。

『刺馬』の方では殺される黄縦(趙二虎)の方も「まあ、これでは粛清されても仕方がないわなあ」と思わせるキャラでしたが、今作ではあくまでも官の立場で行動しようとする龐青雲と、義理人情を重んじる緑林の好漢としての立場を貫こうとする趙二虎、この二人にそれぞれ大義があるという描き方になっています。個人的には『刺馬』の方が黄縦(趙二虎)の死の原因が卑俗な分だけ却って現実味があり、今作は二人の関係の移り変わりを良いように美化しているきらいがあると思いますが、そのあたりは見る人の好みの問題かもしれません。

アクション・シーンは前半の太平天国軍との戦いで、賊軍が鉄砲や大砲を駆使してくるのに対し、官軍の方は弓矢しかなく戦況が思わしくないところに、龐・趙・姜の三兄弟が敵軍へと突進して鬼神のごとき活躍で乗り切っていくというムチャなシーンが繰り広げられたりと、見応えのあるものに仕上がっています。
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『浣花洗剣録』その7(完)

2008年02月22日 | 武侠ドラマ
『浣花洗剣録』第35話~最終第40話まで見ました。

木郎神君と白三空は武林の人士を川南の奥地にある羅亜古城におびき寄せて殲滅させようという計画を立て、実行に移していきます。宝玉は木郎らの陰謀を阻止し、攫われた奔月を救い出すために大臧とタッグを組むことに。一方、恋人であった木郎の所業に心を痛める脱塵郡主はある決意を心に秘め……

ということで『浣花洗剣録』もいよいよラストバトルに突入です。ここに来て今まで黒幕として暗躍してきた白三空や、武林盟主の名の下に悪事をはたらいてきた王巓が今までの所業を後悔するような態度を取るのは正直興醒めです。特に白三空は最後まで悪人ぶりを貫き通して欲しかったところです……

で、最後まで悔い改めないワルが木郎神君というわけですが、『雪山飛狐』に続いてまたもや「こいつがラスボスだったらやだなあ」という奴がドンピシャでラスボスになっちゃいましたね(^^;) 木郎神君役の趙飛鴻という役者さんは『神雕侠侶』で耶律斉を演じていた人ですが、優等生的な才子の役回りよりもこういう善人のふりをした悪人役の方がハマッてるような気がします。

全体的にこの作品、目立った欠点は無いものの掛け値無しに面白いというほどでもなく、主演の謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、鍾欣桐(ジリアン・チョン)、伊能静、 喬振宇といった役者さんの魅力でその辺りを何とかカバーしていたという感じです。

しかしニコラス・ツェーとジリアン・チョンがカップルで共演というのは、今話題の陳冠希(エディソン・チャン)写真流失事件のことを思うと感慨深いものがありますね。かたや奥さんが被害者、かたや本人が被害者ですし。特にジリアン・チョンはもの凄いバッシングを受けているということですが、下手するとこれが最後のドラマ出演作になっちゃうんでしょうか……


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口頭試問

2008年02月21日 | 雑記
今日は朝一で仕事をこなし、午後からは大学で博士論文の口頭試問を受けてました。

数年前の修論の口頭試問では小一時間ほどコッテリ絞られましたが、今回は論文の分量は修論の7~8倍。ということは試問の時間もそれに比例するのかとガクガクプルプルしてましたが、幸いそんなこともなく2時間も経たないうちに終了しました(^^;)

結果は3/5以降に郵送で発表とのことですが、今更試問で不合格なんてのは無いと信じたいところです……
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『太王四神記』第11話

2008年02月19日 | 韓国歴史ドラマ
談徳は父王殺害の疑いを晴らすべく貴族会議に出席し、「カウリ剣」による裁きを受けることに。カウリ剣とは被疑者の胸に剣を突き刺してその人が死んだら有罪、死ななかったら無罪という、日本の盟神探湯に似たかなり無茶な裁判であります(^^;) これまでこのカウリ剣で生き残った人はいないということでしたが、談徳はキハに鄒牟神剣で突き刺され、見事に生き残って無実を証明。

その後天地神壇の巫女の裁定により、談徳とヨン・ホゲはそれぞれ残る青龍と白虎の神器の守護者を探し出し、その審判によってどちらが真のチュシンの王であるかを定めることとし、その間は談徳が仮の王として高句麗を治めることになります。昔の『FF』だとここまでが前振りということで本当のオープニングに入るところなんでしょうけど、ドラマの方は既に全体の半分近くまで進んでます……

ヨン家は王位を奪い取るために着々と私兵を雇い入れていきますが、我らが談徳は女鍛冶職人のパソンを仲間にして、彼女が開発した鉄板を鱗状に貼り合わせた身軽で丈夫な鎧を手に入れ、またパソンの弟で最強の傭兵と名高いチュムチ(こいつが靺鞨族の出身という設定なんですが……)を仲間にできるかというところで次回に続きます。

このあたりの展開はホントにドラクエチックですなあ。思わず「パソンがタムドクのなかまにくわわった!」とか、「タムドクはうろこのよろいをてにいれた!」というメッセージが頭に浮かんできました(^^;)
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『中国名文選』

2008年02月17日 | 中国学書籍
興膳宏『中国名文選』(岩波新書、2008年1月)

先秦諸子から唐宋八大家までの各家の文章を集めたもので、まあ、たまにはこういうのも読んでおくかというぐらいの気持ちで読み始めたのですが、一番最後の李清照による『金石録』の後序に読み入ってしまいました(^^;)

『金石録』は北宋末の金石学者趙明誠の編纂した書で、青銅器や石刻の目録とその銘文・碑文に関する考証をまとめたもの。李清照はその趙明誠の妻で、後序には夫とともに金石書画の収集に励んだ日々、北宋末から南宋にかけての混乱の中での夫との別れ、そして夫との思い出の品であるコレクションが散逸するさまが切々と語られています。

専門柄今まで『金石録』は必要に応じて参照してきたものの、横着にも序文の類は目を通そうともしてきませんでしたが、本書に収録の抜粋を読んでそういった態度を反省した次第……
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