博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『劉邦の宦官』

2013年04月07日 | 小説
黒澤はゆま『劉邦の宦官』(双葉社、2013年2月)

ツイッターでこの本の情報が回ってきたので、何となく興味を持って読んでみたのですが……



カバーイラストと、オビの「歴史小説の重みと濃密な少年愛を見事に両立させたこの力業よ!」という芥川賞作家玄月先生の推薦の辞から アカン雰囲気がビンビンと伝わってきますね(^^;)

内容は、西域の旅芸人の子孫で青い目と栗色の巻き髪の美少年小青狐と、西周を滅ぼした犬戎の子孫の美少年張釈が、宦官として建国間もない漢王朝の宮廷に仕えることになり、兄弟の契りをかわす(意味深)が、2人が呂后に見いだされ、更に劉邦のはからいで小青狐が皇太子の劉盈(恵帝)に仕えるようになったことから2人の運命の歯車が狂いだし……というもの。

歴史小説の中に少年愛が絡んでくるのかなと思って読み進めてみたら、実際はエロの間に歴史小説が挿入されてる感じだったのですが、これは一体どういうことなんでしょうかね?(困惑) 色々差し障りがあるので詳細は省きますが、恵帝に関係するエロシーンがつらい。とにかくつらい。この方面では割とガチな作品なので、興味本位で手を出すのはダメ!絶対!まあ、恵帝の再評価とか歴史小説としての要素が皆無というわけでもないのですが……

前漢の恵帝期を舞台にした作品としては中国ドラマの『美人心計』がありますが、この小説と『美人心計』、宮女と宦官(美少年)を入れ替えただけで、やってることは大差ないような気がしてきました……
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『小説フランス革命1 革命のライオン』

2011年09月18日 | 小説
佐藤賢一『小説フランス革命1 革命のライオン』(集英社文庫、2011年9月)

佐藤賢一『小説フランス革命』がいよいよ文庫化。今月から毎月第1部全9巻が文庫化されていくとのことです。取り敢えず今巻は全国三部会が招集され、第三身分の代表を中心に国民議会が結成されるあたりまでを扱ってますが、内容を端的にまとめると、「ミラボー無双」「それでもネッケルなら…ネッケルならきっと何とかしてくれる」「ところがどっこい、これが現実…!」でいいんでしょうか(^^;)

しかし全体的にどうもイマイチというか薄味だなと。『ローマ人の物語』とか『天皇の世紀』のフランス革命版みたいなのを期待していたんですが…… 物語としてははっきり言って長谷川哲也『ナポレオン』とか『やる夫がフランス革命を生き抜きます』の方がおもろいですよ。 
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『プリンセス・トヨトミ』

2011年04月22日 | 小説
万城目学『プリンセス・トヨトミ』(文春文庫、2011年4月)

会計調査院の調査官松平・旭ゲーンズブール・鳥居の3人は出張で大阪へと赴くが、社団法人OJOの調査がきっかけで「大阪国」の存在を知ることとなる。大阪国に秘められた400年の歴史とは?真の大阪城とは?OJOへの巨額の補助金の用途とは?謎のスパコンに託された使命とは?大阪国が守るべき「王女」の正体とは?そして大阪国が存亡の危機に立たされた時、大阪の機能が全停止する……

万城目氏はこれまで『鴨川ホルモー』や『鹿男あをによし』などで、京都や奈良といった関西の各地域を舞台に「んなアホな」と思わずツッコミたくなるような話を書いてきたわけですが、今回の作品は「んなアホな」の内容がこれまでの作品と比べて真に迫っているというか、現実味があるというか、うっかり大阪人なら誰でもするような妄想、もとい夢と希望を直撃してしまったというか……

大阪人なら誰でも持つような夢や希望というのは、要するに大阪の日本国からの独立ですね。橋下知事の大阪都構想などという、冷静に考えたらアホみたいな話が大まじめに議論されるのも、大阪人が潜在的にこういう願望を持っているからではないかと思うのですが、ともあれ活字媒体でこのテーマに真正面から取り組んだ万城目学はとても偉いと思います。

この大阪国の異様さに比べたら、主人公の真田大輔君(中二男子)が性自認の不一致に悩んでセーラー服で学校に行こうとすることなど、大変ささいな問題に思えてきます。何で主人公にこんな設定を……とも思いましたが、あるいはこれが狙いだったのでしょうか?
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柳生一族は朝鮮妖術の夢を見るか?

2011年01月10日 | 小説
正月からこの三連休にかけて、前々から気になってた荒山徹の小説を三作ぶっ続けで読んでみました。

荒山徹『柳生薔薇剣』(朝日文庫、2008年9月)

豊臣秀吉の朝鮮出兵時に日本人の夫と出会い、永住を決意して日本に渡った妓生のうね。しかし朝鮮から派遣された使節団はそんな彼女をも見逃さず、強制帰国を迫ります。うねは故国朝鮮との縁を切るために縁切寺として名高い鎌倉・東慶寺へと逃亡。このうねの扱いをめぐって幕論は二分されることに。柳生宗矩は将軍家光の内意を承け、うねを守るために長女矩香(のりか)を東慶寺へと派遣しますが……

秀吉の朝鮮出兵を契機に日本に渡来したり連行されたりした人々を捜索し、帰国を求める刷還事業に対してやや不穏な見解が見られるものの、四捨五入すればまあ普通の時代小説かなあと思って読み進めましたが…… 柳生の血を引く陰陽師幸徳井友景とか、朝鮮妖術師が出て来たあたりで一気に話が怪しくなってきた(^^;)

荒山徹『柳生百合剣』(朝日文庫、2010年10月)

ともに将軍家兵法師範役である一刀流の小野忠明を尻目に将軍家光の寵愛を得て出世を重ねる柳生宗矩。しかしそこへ一刀流の開祖伊藤一刀斎を名乗る老人が出現。朝鮮妖術「断脈ノ術」で柳生新陰流を消滅させ、宗矩以下柳生新陰流の門徒はみな剣術が使えなくなってしまいます。ただ一人柳生十兵衛のみが「断脈ノ術」の影響が及ばず、単身伊藤一刀斎の一味と対峙することになりますが……

『柳生薔薇剣』の直接の続編。冒頭での姉・矩香に恋い焦がれる十兵衛の描写とか、敵方の剣士ウラギリジョーというネーミングとか、百済王松平忠輝という設定とか、前作より十倍増しぐらいで反応に困る要素が盛り込まれており、作者の本気を垣間見た気にさせられます。こういう作品の解説を無難に仕上げられる菊池仁氏は大変大人だなあと思いました。

荒山徹『柳生大戦争』(講談社文庫、2010年12月)

「檀君神話は高麗の高僧晦然による捏造だった!」柳生家に代々伝わるこの衝撃的な事実を記した「一然書翰」を利用して朝鮮王朝との外交を有利に進めようとする柳生宗矩。そんな最中、将軍家光の寵童であった宗矩の次男友矩が父の足を斬って朝鮮へと出奔。朝鮮側がこの友矩の存在を利用して宗矩と対抗する姿勢を示したので、宗矩は長男十兵衛と三男宗冬に友矩抹殺を命じ、朝鮮へと密航させることに。しかし当時の朝鮮はこれまで通り明王朝を宗主国とするか、新たに勃興した後金(清)帝国に従うかで揺れ動いており……

今回読んだ三作の中では最もスケールが大きく、最も面白いと思ったのが本書。檀君神話をめぐる設定については、踏み越えてはいけない一線を空気でも吸うように平気で踏み越えるなあという印象を抱きました。

それに関しては本書の細谷正充氏の解説で「伝奇的手法で日韓の歴史を弄(いじく)る作風から誤解されがちだが、作者は日韓友好という願いを作品に込めている。それを阻む偏ったナショナリズムの源泉を考えたとき“捏造”に行きついたのではなかろうか。捏造の過程を捏造することで、捏造の持つ危うさを、警告しているのである。」とまとめていますが、発想の根本からしておかしいと思うのは私だけでしょうか(^^;)
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『もろこし紅游録』

2010年12月16日 | 小説
秋梨惟喬『もろこし紅游録』(創元推理文庫、2010年12月)

以前に取り上げた『もろこし銀侠伝』の続編です。今回もオムニバス構成で、「子不語」「殷帝之宝剣」「鉄鞭一閃」「風刃水撃」の4編を収録。

「子不語」は前作から何度も名前が出て来ている慎到が登場してますが、モロに安能務の影響を受けているのが何とも…… 前作・今作の参考文献欄を確認すると、ちゃんと氏の著書が挙がっておりますorz

今回の白眉は民国期を舞台にした「風刃水撃」。この編ではシリーズ全編に関わる「銀牌」と、その所有者である「銀牌侠」が近代においても力が発揮できるのかどうかが問われています。言い換えれば武侠的な世界観が近代においても存続し得るのかどうかが問われているわけで、武侠物としてもなかなか読み応えのある一編だと思います。が、出来ればこれは『もろこし』シリーズの一番最後に読みたかったところですが……
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『シミズ式 目からウロコの世界史物語』等

2010年12月02日 | 小説
清水義範『シミズ式 目からウロコの世界史物語』(集英社文庫、2010年5月)

原題は『疑史世界伝』。どうしてこんなタイトルに変えたのか理解に苦しみますが…… 『偽史日本伝』と同じく各時代・地域の歴史を題材とした短編集ですが、パロディというか歴史を茶化したような作品が目立った前作と比べ、こちらはまじめな内容のものが中心で、世界史全集の傑作選みたいなおもむきとなっています。(中公の新版『世界の歴史』が参考文献として挙がってますしね。)

万城目学『ホルモー六景』(角川文庫、2010年11月)

『鴨川ホルモー』がかなり面白かったので、こちらも読んでみることに。同作の外伝6編を収録。個人的には「もっちゃん」と「長持ちの恋」がツボでした。

池上永一『テンペスト第4巻 冬虹』(角川文庫、2010年11月)

夏から刊行されたこのシリーズもいよいよ最終巻。ペリーとの交渉のため、宮廷の高官と王の側室との二足の草鞋を履く真鶴ですが、妊娠が発覚して二重生活にピリオドを打たざるを得なくなり……と、最後までドタバタでした(^^;) 展開が漫画チックな所も含めて、やっぱり琉球版チャングムという評価が妥当かなあと。
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『もろこし銀侠伝』/『ナポレオン』14巻

2010年11月06日 | 小説
秋梨惟喬『もろこし銀侠伝』(創元推理文庫、2010年9月)

「殺三狼」「北斗南斗」「雷公撃」「悪銭滅身」の4編を収めた武侠ミステリー連作。それぞれ舞台となる時代も登場人物も異なりますが、黄帝に由来する「銀牌」を持つ者が活躍するという点が共通してます。4編がこの「銀牌」によって緩くつながっているという構成がなかなか小憎たらしいです。更に明初の功臣粛清とかその時代ならではのネタも絡めてきて余計に小憎たらしい(^^;) 武侠とミステリーという取り合わせも、元々中国歴史物自体がミステリーと親和性が強いこともあって違和感なく融合しています。続編が同じく創元推理文庫にて12月に刊行予定ということで、こちらも楽しみです。

長谷川哲也『ナポレオン 獅子の時代』14巻(少年画報社、2010年10月)

エジプト遠征の話の続き。HENTAIなのはフランス軍だけかと思ってたら、イギリス軍も大概HENTAIでした\(^o^)/ ネルソンは自分にしか見えない白熊と口論するという特技を持ってましたが、この巻で初登場するシドニー・スミスはスピリチュアル系(?)オカマという設定になってます。本書のセリフを借りれば、「恐怖は感染する。勇気も感染する。そしてHENTAIも感染する」といったところでしょうか。もう色々と勘弁して下さい(^^;)
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『テンペスト 第2巻夏雲』

2010年10月01日 | 小説
池上永一『テンペスト 第2巻夏雲』(角川文庫、2010年9月)

聞得大君に自分が女であることがバレてしまった孫寧温。そのピンチを何とか乗り切ったと思いきや、今度は清国よりやって来た宦官徐丁垓の魔の手が忍び寄り、「厠の虫けら」にされてしまいますが……

ということでやっぱり浮き沈みが激しい真鶴(孫寧温)の人生ですが、そろそろ真鶴とか徐丁垓の設定が嘘臭く見えてきた…… 『蒼穹の昴』にあってこの本に足りないものって何だろうと思いながら読んでました。

尚育王が34歳で没するのは史実通りのようですが、琉球の政策を清国一辺倒にすべく、清国・薩摩からの独立を図る尚育王を徐丁垓したということにでもすれば、話がもっとうまく繋がったんじゃないかなあと思われ。

でも話の展開は引き続きスピーディーなので、第3巻も読みますよ。
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『テンペスト 第1巻春雷』

2010年09月26日 | 小説
池上栄一『テンペスト 第1巻春雷』(角川文庫、2010年8月)

琉球を舞台にした歴史小説らしいということで気になって購入。で、実物を読んでみると幕末の琉球王国が舞台となってました。

主人公の少女真鶴はよんどころない事情により、男装のうえ「孫寧温」と名を改めて科試(琉球版の科挙)を受験し、最年少で合格。同じく弱年で合格した朝薫とともに宮廷に出仕し、王命によって宮廷の財務改革を担うことに。特に浪費の激しい後宮の財政を緊縮しようとするが、王妃や聞得大君(王族の女性が任命される巫女のトップ)といった後宮のボスたちが立ち塞がり……

ということで、琉球版チャングムといった感じで非常に面白く読めました。主人公の少女が男装の麗人で、その兄が琉球舞踊の女形という倒錯ぶりがなかなかイイネ!幕末期の琉球という馴染みのない世界が舞台ということで、架空の人物がワンサカ出て来てもあんまり違和感が無いのも実によろしい。

つーか、今の日本の時代物・歴史物に欠けているのはこういうデタラメさなんですよ(^^;) こちとら史料を丸写ししたような歴史小説だの、戦国+三傑・幕末・源平物をローテーションで回してるだけの大河ドラマだのにはもううんざりなんですよw

先月から4ヶ月連続で文庫版が刊行ということで、続巻の方も楽しみです。
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『マンチュリアン・リポート』

2010年09月22日 | 小説
浅田次郎『マンチュリアン・リポート』(講談社・2010年9月)

治安維持法改正に反対して投獄された志津中尉だが、その主張が「あのお方」に認められ、特命により張作霖爆殺事件の真相を解明するべく、中国へと渡航することに……

というわけで、『中原の虹』の番外編というか後日談です。張作霖が本編『中原の虹』の主人公なだけに、爆殺事件は本編第3部のテーマとなるかと思いきや、今回の番外編のネタに持ってきましたね。今回はこの志津中尉の報告と、張作霖爆殺事件の当事者である×××(一応ネタバレ防止のために伏せておきます)の述懐が交互に進められるという形で話が展開していきます。正直、本編の『中原の虹』よりこっちの方がおもろいなと(^^;)

で、『蒼穹の昴』以来の主役である春児もちゃんと登場。宮仕えを始めてからはや30年ということですっかりいいおじさんになってますが、『中原の虹』終了後から今回の作品の間までに裏では色々と画策していた模様……
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