博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『包青天之七侠五義』その5

2010年12月30日 | 中国古典小説ドラマ
『包青天之七侠五義』第23~29話あたりまで見ました。

登州ではこの地に配備された虎翼軍が高麗商人と結託して火薬を私蔵し、謀反をおこそうとしたというかどで、虎翼軍指揮使の徐傑が登州知州の楊牧に粛清されるという事件が発生。虎翼軍都頭の方烈は僧侶に変装して命からがら逃げ延び、楊牧が謀反の罪をデッチあげて自分達を陥れたのだと開封府に訴え出ます。

事態を重く見た包拯は展昭や艾虎を従え、登州の近隣青州に駐在する皇族の京東王の還暦を祝うという口実で現地入りし、極秘裏に調査を開始。そこで知州の楊牧が京東王の娘婿であることが明らかとなります。この京東王、仁宗皇帝の叔父にあたり、仁宗の即位当初は新帝の後ろ盾として都で兵権を握っていたのですが、皇位簒奪の疑いをかけられて青州へと追放されたという微妙な立場にある人物。実は今回の事件の黒幕はこの京東王で、虎翼軍の火薬を窃取し、更に高麗や契丹と結託してクーデターを目論んでいたのでありました。

事はすっかり露見したと覚悟を決めた楊牧は包拯を襲撃しようとしますが、包拯は兗州から兵を動員して返り討ちにし、楊牧を逮捕。しかしその楊牧は京東王を守るため牢内で服毒自殺。また包拯も京東王の刺客が放った毒吹き矢により、瀕死の状態に。辛くも一命を取り留めた包拯はこの事態を奇貨とし、自分が暗殺されたという噂を流して京東王を誘き出すことに……

皇族の謀反ということで、今回は原典『三侠五義』の山場である襄陽王の謀反を何となく思わせる内容となっております。(まあ、展開は全然違うんですけどね……)七侠の中では小侠の艾虎が再登場。上官の徐傑や同僚達の仇討ちにはやる方烈を押さえるという役回りになってます。ついでに黒妖狐の智化も再登場。何かいざという時の便利キャラと化してますが(^^;) しかし敵に襲撃されて重態になるとは、中国の大岡越前は本当に大変だなあと……
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『包青天之七侠五義』その4

2010年12月27日 | 中国古典小説ドラマ
『包青天之七侠五義』第17~23話あたりまで見ました。

北侠欧陽春は馬幇の幇主を辞めて放浪していたところ、西夏の李元昊にスカウトされて親衛隊の総教頭を務めることに。李元昊の妹元貞公主といい仲になる欧陽春ですが、この元貞が特使として開封に赴くことになります。実はこの特使というのは単なる名目で、実際は宋の人質として生涯開封に住まうことになっているのでした。そういうことで元貞に恋人がおってはならん!と引き離されてしまう2人。傷心の欧陽春は西夏を離れて隠居生活へ。

しかしその元貞は開封への途上で、貢納品の名馬「乗風」もろとも靖辺侯郭亮に誘拐されてしまいます。この郭亮、かつては将軍として西夏との戦いに従事していましたが、朝廷が西夏への和平策を採ると、侯爵位という名誉のみ与えられて軍人としては干されてしまっておりました。そこで元貞を誘拐することで西夏との間に波風をおこし、戦争を勃発させて軍人として返り咲こうと計画した次第。

仁宗の命で包拯が誘拐事件の捜査にあたることになりますが、馬幇も関わっていることもあり、展昭は旧知の欧陽春に協力を要請。欧陽春は元貞が攫われたことを知り、捜査に協力することに。

一方、西夏では元貞のほか、李元昊兄妹の叔母にあたる徳琳公主も使者として開封へと向かっておりましたが、元貞誘拐の報を聞いても特に動きは示さず。実は今回の事件の黒幕は彼女で、郭亮と結託して宋との間に戦争をおこさせ、更に西夏の帝位を簒奪する腹づもりなのでありました。彼女は元貞の幼馴染みの女将軍雷莎に、李元昊の密命と偽って元貞を暗殺させようとしますが……

というわけで欧陽春&西夏篇です。こういうストーリーは日本の時代劇では間違っても出て来ませんよねw



で、今回出て来る北侠欧陽春ですが(上の画像参照)、どう見ても設定が『天龍八部』の北の喬峰です。本当にありがとうございました(^^;) 彼が幇主を務めていた馬幇というのも、丐幇っぽい雰囲気ですしね。
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『精武風雲』

2010年12月26日 | 映画
『精武風雲』

かつて師匠霍元甲の仇である日本軍の重鎮力石剛を倒してお尋ね者となった陳真(お馴染みドニー・イェン(甄子丹)が演じてます)は、第一次世界大戦が勃発すると、連合国軍兵士としてフランスへと出征。そして大戦後は戦死した戦友の名を貰い受け、斉天元として上海へと舞い戻り、かつての戦友たちや巡捕の黄昊龍と連携して抗日運動に邁進しておりました。

で、1925年、陳真は上海の大物劉禹天(アンソニー・ウォン(黄秋生))が経営する高級クラブ・カサブランカで雇われ、日本軍に対する諜報活動を行うことになりますが、カサブランカの売れっ子歌手KIKI(スー・チー(舒淇))は日本軍の雇われスパイのようで、お互いに身元の探り合いをすることに。

一方、日本軍大佐力石猛(力石剛の息子)は上海の抗日運動家抹殺計画を決行。陳真は正体を悟られぬよう「天山黒侠」に扮して計画を妨害しようとしますが……

ということで冬のドニーさん主演映画第2弾です。『ドラゴン怒りの鉄拳』の続編っぽい設定で、倉田保昭が霍元甲の仇であった力石剛の役でちょっとだけ出演してます。「力石」という姓は『あしたのジョー』から取ったんでしょうか(^^;)

しかし同じドニーさん主演映画とは言っても、先日見た『葉問2』と比べるとノリが違いすぎます。第一次大戦の英雄となる陳真。仮面で顔を隠して正義のヒーローの如く活躍する陳真…… ドニーさん、マジで調子に乗りすぎですよ!とツッコマざるを得ない(^^;) しかし調子に乗った時のドニーさんはいい顔してますねw

ヒロインのスー・チーは日本語が流暢に話せないとまずい役柄なのですが、聞いてて気の毒になるぐらい片言です。ボス役の力石猛なんかは日本人の俳優が演じていて、当然ちゃんとした日本語を喋っているだけに、余計に更に下手くそさが際立ってます。思い切って日本語を喋るシーンだけ吹き替えにした方が良かった気がするのですが……
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『葉問2 宗師伝奇』

2010年12月24日 | 映画
『葉問2 宗師伝奇』

ドニー・イェン(甄子丹)主演『葉問』の続編。前作のラストで故郷仏山から香港へと逃れた葉問一家。早速ビルの屋上で道場を開館するものの、なかなか入門希望者が現れずに生活が困窮したり、やっと弟子が入ってきたと思ったら、一番弟子の黄梁(黄暁明が演じてます。)が洪拳など他流派とトラブルを起こしたり、おまけに香港武術界のボス洪震南(お馴染みサモ・ハンが演じてます。)から「道場を開設したかったら毎月100元みかじめ料を払いな!」と言われてキッパリ断ったら、洪震南の門弟たちに嫌がらせされた挙げ句にブタ箱行きとなったりと、散々な目に……

前作では葉問がお金持ちで、きれいな奥さんやかわいい子供とともに洒落た洋館で暮らしているというツッコミ甲斐のある設定になっていましたが、「ドニーさん、調子に乗りすぎですよ!」とツッコまれたのか、葉問一家が貧乏生活をしている様子が若干挿入されております(^^;)

しかしそんな洪震南も次第に葉問を認めるようになり、ある日葉問とその門下生たちに中国人武術家とイギリス人ボクサーとの合同リングショーのチケットを手渡します。葉問たちがショーに行ってみると、洪震南がイギリス人のお偉いさんにいいようにあしらわれている姿が…… イギリス人にとってみれば、洪拳の大家洪震南すらザコにすぎなかったのであります(;´д⊂)

しかしその洪震南もボクサーのミスター・ツイスターが武術家たちを愚弄するのに絶えきれず、彼に勝負を挑むものの敗死。洪震南の葬儀で葉問は中国武術界の誇りを取り戻すべく、ミスター・ツイスターへの挑戦を決意するのであった!

……という筋ですが、前作に引き続いて中国人の民族としてのを誇り強調した内容に…… 香港在住のイギリス人が中国人をバカにして云々という展開はドラマの『李小龍伝奇』にもありましたが、当時ホントにそういう状況があちこちで見られたんでしょうか?
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『包青天之七侠五義』その3

2010年12月23日 | 中国古典小説ドラマ
『包青天之七侠五義』第11~17話まで見ました。

中牟県の妊婦連続殺害事件の黒幕は、半年前に中牟県に引っ越してきた富豪孔儒でありました。彼は妊婦の胎盤を漢方薬屋に大量に売りさばいて一儲けしようと企んでいたのであります。犯人捜索に乗り出した艾虎は孔儒の手先に命を狙われますが、危うい所を展昭に助けられ、包拯らに協力することに。

ここで艾虎が実は女性だったことが判明。(だから女優さんが演じていたんですね。)艾虎は元々捕頭の娘でありましたが、父が捕頭を引退して帰郷する時に悪漢どもに襲われて殺害され、母や姉とも生き別れに。艾虎も悪漢に殺害されようとしたところ、思いがけず悪漢の一味であった黒妖狐の智化が庇い立てし、命からがら逃げ延びたところを風婆婆という奇人に拾われて武芸をしこまれ、男装して賞金稼ぎをしながら父の仇を追っていたという次第。黒妖狐の智化は原典の『三侠五義』でも出て来る人物ですが、ドラマの方では艾虎の仇であり、かつ命の恩人でもあるという複雑な設定になってますね。

で、他ならぬ孔儒が父の仇の一人であったことが判明し、彼を追い詰める艾虎。しかし突如乱入した謎の刺客によって孔儒は刺殺され、今際の際に艾虎に「お前の母はまだ生きている」と衝撃の事実を口にして息絶えます。更に師匠の風婆婆からその謎の刺客が吏部尚書の馮浩に仕える剣客楚戈であると知らされた艾虎は、包拯・展昭らとともに都の開封へと向かうことに。

艾虎は開封に着くや、早速馮浩の屋敷に乗り込んで楚戈に勝負を挑みますが、あっさり返り討ちに遭って逃亡。傷をかばいながら身を隠している所を、お針子の少女玉蓉に助けられます。実はこの玉蓉こそが生き別れになっていた艾虎の姉でありました。

その頃、包拯は馮浩がかつて艾虎の父艾政の上官であり、楚戈が艾政の同僚であったことをつきとめ、彼らが艾政の殺害に深く関与しているのではないかと疑い始めます。艾虎は包拯に楚戈を捕らえて訊問するよう促しますが、包拯はまだ証拠が不充分ということで却下。そこで風婆婆は艾虎に包拯を拉致させ、自らが得意の変装術で包拯になりすまし、展昭に楚戈を捕らえるよう命じることにしますが……

ということで、この小侠艾虎篇で展開のスピード、話の密度の濃さともに旧作のレベルまで戻って来ました!基本設定は日本の『水戸黄門』とか『大岡越前』なんかとそう変わらないわけですが、ベタな設定でもシナリオ次第でここまで面白くなるという見本みたいな感じですね。

それで第17話の後半からはいよいよ北侠欧陽春が登場しますが、これについては次回ということにして、以下、今回のツッコミ所。

○妊婦が狙われていると知りながら、県内の妊婦の名簿すら作っていなかった中牟県の県令。……この手のドラマの地方官の無能さにはウンザリだorz

○包拯に変装したものの、公孫先生ごときに正体を見破られてしまう風婆婆。……何か今回のドラマ、公孫策がちゃんと仕事をしているんですが(^^;)
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妄想力が開いた中国古史学?

2010年12月21日 | 雑記
昨晩のツイートより。

satoshin257 さとうしん
大学院聴講生の方から「この本面白いですね」と平勢御大の本を見せられ、orzな気分になった今日の午後……

satoshin257 さとうしん
ああいう本を読むと、古代史に溢れているのは浪漫(ロマン)ではなく妄想(ファンタジー)ではないかという気がしてきてしようがない。

satoshin257 さとうしん
@mas096 ぶっちゃけ中国古代史って、言ったもん勝ちの世界ですよね……

satoshin257 さとうしん
@kizury 「網野史学って妄想(ファンタジー)だよね」とツッコミ入れた本郷先生はとても偉いと思いますw でも中国古代史にはこのレベルの妄想家(ファンタジスタ)が何人もおりましてね……

satoshin257 さとうしん
興が乗ったついでにもう一つぶっちゃけておくか。白川静は世界で勝負できる妄想家(ファンタジスタ)。

satoshin257 さとうしん
@tak_weijin でももう、そういう妄想力に溢れる研究にはウンザリなんです。もっと地に足が着いた研究がしたいです…… 

satoshin257 さとうしん
『妄想力が開いた中国古史学』というタイトルで本が書けそうな気がしてきたお……

……と、大体このようなやりとりをしていたわけですが、その後寝る前になって唐突に『妄想力が開いた中国古史学』の章立てが頭に浮かびました(^^;)

序章 「信古」の時代
第一章 康有為 妄想家(ファンタジスタ)たちの始祖
第二章 疑古派 自由な古史の妄想(クリエイション)
第三章 王国維 二重証拠法の功罪
第四章 鄭振鐸・楊寛等 文化人類学が切り開いた新たな妄想(ファンタジー)
第五章 郭沫若 唯物史観で古史を妄想(クリエイト)する
第六章 新中国建設から文革まで 妄想家(ファンタジスタ)冬の時代
第七章 白川静 世界に通用する妄想家(ファンタジスタ)
第八章 『走出疑古時代』と夏商周断代工程 妄想(ファンタジー)の極みへ
第九章 日本における妄想家(ファンタジスタ)たち
終章 妄想(ファンタジー)なき全き古史学の建設をめざして


(本当に書くとすれば)民国期あたりから現代までの古史学者の業績を追うことで研究史を概観し、ついでにその流れの中で白川静の学問も位置づけ、白川学に対してこれまでとは違った評価を下すという野心的な試みになるはずですが、並んでいる字面を眺めるととてもそんな風には見えませんね(^^;)
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もしも『七侠五義』がBLだったら

2010年12月19日 | 雑記
mixiやtwitterで紹介されていた展昭×白玉堂の動画です。



何かもう日本語字幕が色々とおかしい(^^;) そしてラストに何やら見覚えのあるお名前が…… ぐんままさん、この動画に何か関わってはるんでしょうか?あるいは制作者がぐんままさんのサイトを参考にしたということなのかもしれませんが。
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『包青天之七侠五義』その2

2010年12月19日 | 中国古典小説ドラマ
『包青天之七侠五義』第6~11話まで見ました。

白玉堂は展昭の鼻をあかすために皇宮へと侵入し、それを知った仁宗は激怒。何としても白玉堂を捕らえるようにと命じます。その後白玉堂の暴走を心配した五鼠の残りの4人も開封にやって来て「五鼠、東京を鬧がす」のエピソードが展開されるわけですが、結局白玉堂が都の近辺で略奪をはたらく馬賊の撲滅に尽力したということで仁宗より特赦が下され、五鼠は新たに「五義」のあだ名を賜ることに。

しかしこれでめでたしめでたしという訳にはいかず、白玉堂は腕試しのために再び陥空島を出て中原へと向かいます。その途上で洪玉嬌と侍女の鎖児が賊に襲われているところを助け、成り行きからともに旅をすることに。彼女の生い立ちを聞くと、幼い頃にとある軍人に住んでいた村を襲われて家族や村人が皆殺しに遭い、1人だけ命が助かった彼女は以後親戚のもとで育てられたとのこと。悲惨な身の上話を聞いて、思わず「オレが一生お前の面倒を見てやる」と口走っちゃう白玉堂(^^;)

旅の間、2人はいい雰囲気になって結婚の約束まで取り交わしますが、ある日洪玉嬌と鎖児が急に行方をくらましてしまいます。そして白玉堂は洪玉嬌が実は旅の妓女で、現在は開封の万花楼で働いていることをつきとめて「洪玉嬌はいるか!」と怒鳴り込みますが、彼女から「私がどんな商売してるかわかったでしょ?もういいから帰って!」と拒絶されます。

その後、洪玉嬌は好色漢の大将軍姚維に請われてサシで飲むことになりますが、鎖児に助けを求められた白玉堂は再度万花楼へと乗り込み、そこで姚維の死体と震える洪玉嬌を発見。聞けば姚維に乱暴されそうになった洪玉嬌が彼を刺殺したということで、白玉堂は自分が殺人の罪を被ることにして開封府に出頭しますが……

ということで、今回は白玉堂が中心となる2つのエピソードが展開。ここまで1エピソードが3話前後構成でテンポよく進み、ノリも段々旧作のそれと近くなってきましたね。それぞれ白玉堂のDQNっぽさが目立つ展開となっていますが、白玉堂の行動をめぐって「麻煩」(面倒(をかける))という言葉が連発されるあたり、彼がいかにDQNか読み取れようというもの(^^;)

第11話の後半からは小侠艾虎が登場。演じているのは王莎莎という女優さんで、『武林外伝』の子役莫小貝とか、胡歌版『射英雄伝』の曲霊風の娘なんかを演じていた人ですね。



この艾虎がなぜか腕利きの少年賞金稼ぎという設定になっており、中牟県で妊婦ばかりを狙った殺人事件の犯人を追うことになります。一方、開封府にも被害者の家族が訴え出て、包拯や展昭が直々に中牟県に出向いて捜査を開始することになりますが……
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『もろこし紅游録』

2010年12月16日 | 小説
秋梨惟喬『もろこし紅游録』(創元推理文庫、2010年12月)

以前に取り上げた『もろこし銀侠伝』の続編です。今回もオムニバス構成で、「子不語」「殷帝之宝剣」「鉄鞭一閃」「風刃水撃」の4編を収録。

「子不語」は前作から何度も名前が出て来ている慎到が登場してますが、モロに安能務の影響を受けているのが何とも…… 前作・今作の参考文献欄を確認すると、ちゃんと氏の著書が挙がっておりますorz

今回の白眉は民国期を舞台にした「風刃水撃」。この編ではシリーズ全編に関わる「銀牌」と、その所有者である「銀牌侠」が近代においても力が発揮できるのかどうかが問われています。言い換えれば武侠的な世界観が近代においても存続し得るのかどうかが問われているわけで、武侠物としてもなかなか読み応えのある一編だと思います。が、出来ればこれは『もろこし』シリーズの一番最後に読みたかったところですが……
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『古語の謎』

2010年12月15日 | 日本史書籍
白石良夫『古語の謎 書き替えられる読みと意味』(中公新書、2010年11月)

「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」この有名な柿本人麻呂の歌は、実は古学が発展した江戸時代に「創られた」詠みであった。……このネタを枕にして、古学の発展により往時存在しなかったはずの古語やテキスト、はたまた考古学的遺物がいかに作られていったのかというのが本書のテーマです。題材となっているのは日本の古学ですが、これを漢学・中国学に置き換えても充分にあてはまる話で、個人的に色々と啓発される所がありました。

面白かったのは以下の3点。

○偽物の考古学的遺物が作られるのは、古典研究の発展とその社会への浸透の賜物。……本書ではこれに関連して志賀島金印(有名な「漢倭奴国王」の刻字があるもの)の偽物説についても触れています。しかしそうであるとすれば、偽物の文物が溢れかえっている現代中国は、古典研究や歴史学がかなりの程度発達し、かつ一般に浸透しているということになりますねえ(^^;) 実際文革の頃には偽物文物への関心はそれほど無かったでしょうし、これはこれで説得力のある見解かもしれません。

○本居宣長の見解その1。古語の語源なんて解明しようがないし、そんなものは言ってしまえばどうでもいい。大切なのは、その言葉が古文の文脈の中でどういう意味で使われているかを研究することである。……これって、日本語の古語に限らず、漢字の字源説なんかにもマンマあてはまりますよね。私もかねがね古文字の字形から漢字の字源を探るよりも、その字が甲骨・金文などでどう使われているかを見る方が重要で、字源は特に必要がなければ探る必要はないと考えていたので、これで意を強くした思い。

○本居宣長の見解その2。神代文字について。神代文字の存在を主張するのは、文字なくして生活できない現代人の発想。古代人は文字が無くても事足りたのだ。……正論すぎて思い切りワロタw 神代文字の実在を主張する人は、まずこの意見を噛みしめるべき。
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