博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『贅婿』その1

2021年02月27日 | 中華時代劇
『贅婿』第1~6話まで見ました。(全36話予定)

主人公は現代のネット小説家。サイト運営側から8年間連載した現代ビジネス小説を終わらせ、新作の連載を開始しろと言われたものの、小説の主役江皓辰を捨てるにしのびず、彼を異世界転生させて時代物を開始することに……


という突拍子もない所から話は始まり、張若昀演じるシュッとした感じの江皓辰は、架空世界武朝のちんちくりんの青年寧毅に転生。中の人は『慶余年』の范思轍こと郭麒麟。彼は江寧の布商蘇家の入り婿になる所を何者かに襲撃されていたのでした。本作タイトルの「贅婿」とは「入り婿」の意。


で、こちらは寧毅の婚約者で蘇家の跡取り娘の蘇檀児。中の人はこれまた『慶余年』で范若若を演じていた宋軼。染め物のセンスと商才に溢れる彼女は実家に残って家業を継ぎたいのですが、そうするには他家に嫁ぐのではなく、身寄りの無い寧毅を入り婿に取る必要があります。彼女の志を知った寧毅は、彼女が蘇家の掌印(家長、経営者)となるのをサポートすることに。

2人の目標は、まずは滞りなく結婚を済ませることになるのですが、そこへ掌印の地位を狙う二番目の叔父仲堪とその子文興、蘇家の競合店の跡取り息子で檀児との結婚を狙っていた烏啓豪が邪魔立てをします。

無事に結婚式を済ませた後も、叔父一家は檀児が経営者となる新規店舗の開店、経営を妨害し、彼女に掌印の資格なしというイメージを植え付けようとします。そこを中身が現代のビジネス戦士の寧毅、そして檀児の知恵で切り抜けていくわけです。

かと思えば寧毅が妓楼に出入りしたのがバレて、入り婿修業のための学校・男徳学院に放り込まれ、入り婿仲間ができるという展開も…… ちなみに学院長は入り婿の中の入り婿とも言うべき駙馬(すなわち皇帝の婿) (^_^;)


で、今回は父親の伯庸のフォローもあり、叔父一家の妨害をはね除けて檀児が無事祖父から掌印となることを認められたあたりまで。この父親、冒頭で寧毅を襲撃した黒幕と見せかけて、実は娘思いで娘婿の寧毅も見守っていたという設定のツンデレです。(襲撃の犯人は烏啓豪だったらしい……)ただ、この人を差し置いてなぜ弟や娘が家業を継ぐという話になっているのかがよくわからないのですが……

『慶余年』と制作会社が同じらしく、『慶余年』とかなり出演陣がかぶっているというか、劇中劇という体裁を取っている点など展開も『慶余年』のパロディのようになっていますね。女性が商売を手がけることの軋轢、男徳学院の設定など、ジェンダー面でもなかなか見所が多そうです。
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『山海情』その1

2021年02月19日 | 中国近現代ドラマ
『山海情』全23話中第1~12話まで見ました。

時は1991年。寧夏回族自治区の貧村湧泉村では、政府の貧困対策の一環として村民を自治区内の別の土地に移住させ、開墾を進めさせようとしておりました。


主人公は黄軒演じる馬得福。村の若き幹部として移民政策を担うことになります。村民から移住希望者を募る一方で自身も移民の先発隊として、移住先の金灘村で環境整備に努めることになります。

移住先では一から農耕地の開墾を進めなければならず、電気も満足に通っていないという状態。移民の戸数が60戸に達すれば電気を通してもらえると頑張っておりますが、折角やってきた移民が大自然の驚異・砂嵐に恐れを成して湧泉村に引き返してしまい、移民の戸数は59戸であと1戸足りないということで話がおじゃんになりかけます。


そこへ得福の元恋人水花が夫と子供を率いて移住してきて、何とか電気が通ることになります。水花の中の人は『長安二十四時』の檀棋。このドラマ、ちょいちょいお馴染みの俳優さんが登場するのですが、見事に農村ナイズされていてパッと見それと気付かない人も多いです (^_^;) 

水花は得福と結婚するはずが父親の思惑で身売りのような形で隣村に嫁に出されてしまい、嫁ぎ先の夫も不幸な事故で下半身不随に……と重い背景を背負っていますが、それにめげないバイタリティを持っています。


そして移民政策のテコ入れとして、比較的裕福な福建省の都市と連携することに。村は閩(福建)と寧夏から名前をとって閩寧村と名づけられます。福建から兼職副県長として派遣されてきたのが郭京飛演じる陳金山。彼の差配で村の若い女性たちを女工として福建の電子機器工場に出稼ぎに行かせたり、福建の大学教授凌一農を招聘して双孢菇という福建特産のキノコの栽培が推進されたりします。

得福の弟の得宝が村で一番最初に双孢菇の栽培に名乗りを挙げて大儲けし、彼の恋人の麦苗が女工のひとりとして福建に出稼ぎに出て慣れない環境で悪戦苦闘することになります。で、今回は得宝の成功を承けて双孢菇の栽培が全村で進められることになったあたりまで。年代は1998年まで進んでます。

『大江大河』シリーズと同じく正午陽光の制作とあって『大江大河』の外伝みたいな感じで見てますが、舞台となる村は宋運輝の故郷の村や小雷家より更にひなびており、「湧泉村」というネーミングも相まって呪いの泉のひとつやふたつはありそうな感じです。


そして本作の魅力はこれ。なまった普通話や方言がたっぷり聞けるというか、標準的な普通話を話す人なんか誰一人として登場しません (^_^;) 画像は麦苗たち新米の女工が工場の先輩の説明を聞き取れず、「もう少しゆっくり話してください」と言ったところ、工場の主任から「ここは普通話の教室ではない」と言われてしまう場面なんですが、麦苗たち、工場の先輩、主任の三者のいずれも発音が不標準ですw
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『大秦賦』その13(完)

2021年02月18日 | 中国歴史ドラマ
『大秦賦』第73~最終78話まで見ました。

燕では太子丹が荊軻をスカウトして嬴政暗殺を画策。ここで荊軻が暗殺遂行のため樊於期の首を要求するという展開に。このドラマの樊於期は序盤から登場し、特に前半は出番が多かったので、その死についてもひとしきり何かあるのだろうなと思ってたら、本人の意に反してあっさり殺害されて終了(´Д`;)


一応こういうシーンもありますw まあ荊軻より樊於期の出番の方がずっと多いというのはこのドラマの個性ではありますね。で、荊軻による暗殺は失敗し、太子丹も父王から責任を問われて殺害。燕は彼の首を秦に送って詫びを入れます。話の都合でここで燕が滅亡したという扱いになります。

お次の標的は魏。秦は魏都大梁に水攻めを仕掛けて降伏に追い込みます。ここで魏将として張耳が登場してます。


一方、楚では項羽の祖父の項燕や公子景涵らが楚の新王として負芻を擁立。秦に対して徹底抗戦の構えを見せます。秦はこれに対して楚の王族出身の昌平君を陳郢に派遣して対楚工作を仕掛けさせますが、項燕&景涵はこの昌平君の取り込みを図ります。


で、楚側の工作により昌平君は前線に送るべき兵糧を送れず、秦法により重罪は免れないということで楚に寝返ることに。完全に目が死んでます (^_^;) 彼は楚都陥落後に楚王に擁立されますが、王翦に攻められて項燕とともに死亡。

残るは斉ですが、ここで斉出身の国夫人離秋の出番。彼女は兄にあたる斉王建に降伏を説くべく斉都臨淄へと向かいますが、丞相后勝の陰謀により幽閉されてしまい……

【総括】
ということで何とか天下統一までたどり着きました (^_^;) この作品、プロパガンダだの何だの非難囂々で(個人的にはこの非難はほとんど的外れではないかと思っていますが)、中国のレビュー・ランキングサイトの豆瓣では現在10点満点中5.5点という評価となっていますが、点数自体は妥当な所なんですよね…… 駄作というほどではないのですが、第3部までのような名作とも言い難い。

第2部・第3部の路線を離れて第1部の王道大河ドラマ路線へと原点回帰を目指したような感じなのですが、それがどうもあまりうまくいっていません。初っぱなから嫪毐や樊於期を登場させているのは(非難されているプロパガンダ要素なんかよりもずっと)制作者の意図が出ている部分のはずで、この2人をオリジナルキャラのように動かして物語に深みを出そうとしていたのでしょうが、特に樊於期の扱いについては不発気味に終わってしまっています。このあたり大変残念感が出た作品となってしまっています。
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『大秦賦』その12

2021年02月13日 | 中国歴史ドラマ
『大秦賦』第67~72話まで見ました。

咸陽へとやって来た韓非は、韓を攻めようと検討する嬴政たちに対して朝議に乗り込んで「まず趙!趙から攻めなよ!」と必死にアピールしたり、自国を守るために陰謀陽謀を尽くします。


で、色々派手にやり過ぎて「お前韓の間者やろ」ということで投獄されてしまい、親友の李斯ももう彼を庇えなくなります。このドラマの韓非、ドジっ子というか「てへっ」という台詞が似合いそうなキャラなんですよね。そして韓非はその李斯の手で服毒死を遂げることになるのですが、その直後に嬴政から赦免の通知が届き、李斯が卒倒……


そしていよいよ韓攻め。内部の裏切りあり、諸国の助けは当てにならずで韓王は秦に降伏。六国で最初に滅亡することになります。

その次の標的は強敵と見なされてきた趙国。趙攻めにあたり、秦は元趙臣の頓弱や裏切り者の丞相郭開を使って趙の重臣を片っ端から買収してかかります。ここらのへんの展開は第三部『大秦帝国之崛起』の長平の戦いのシーンとかぶってますね。

そんな中、春平君ら趙の王族たちと名将李牧が買収網に掛からず果敢に秦軍の攻撃に抵抗しますが、その李牧も謀略により秦から買収されていると疑われてしまい、邯鄲へと召還されることとなり、更にその途上で郭開の放った刺客の襲撃により死亡…… このあたりは秦趙の戦いよりも見応えのあるアクションシーンに仕上がっています (^_^;)

郭開の手引きにより王翦率いる秦軍が邯鄲に入城を果たし、倡后&趙王もとうとう観念して降伏。倡后は娼家の出という設定で春平君を色仕掛けで陥れたりと胡乱な出番が多かったのですが、悼襄王死後は息子の趙王を守り立て、クズッぷりの目立つ郭開と比べると意外にも責任感の強い所を見せてくれます。

で、嬴政も邯鄲に到来し、人質時代に死亡した申越の墓参りをしたり、降伏に納得できない趙臣のゲリラ闘争の鎮圧を指示したりしております。しかしその趙での人質時代に肩を寄せ合って過ごした母趙姫が重病との報に接して急ぎ秦に引き返し……というあたりで次回へ。 

このドラマ、あと6話で魏・楚・燕・斉の四カ国を滅ぼさなきゃいけないという、全78話もありながら尺的にかなり余裕のないことになってます。ほんでどこで尺を食ったのかというと嫪毐(イケメン)回りの話だったりするので、このドラマが政治的プロパガンダと言われても一体何のプロパガンダなのかと困惑するばかりなのですが……
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『大秦賦』その11

2021年02月06日 | 中国歴史ドラマ
『大秦賦』第61~66話まで見ました。

秦では秦篆が定められ、六国との通商に用いることが義務づけられます。この場面で李斯が定めたとされる『蒼頡篇』も登場。下世話な話だけじゃなくてこういう話も出てきますw

秦の文字を他国にも使わせるという制作は当然六国の反発を呼びます。李斯は母校とも言うべき斉の稷下の学に赴き、学士たちに秦篆のよさを認めさせ、斉王も秦篆の使用に同意。趙の春平君を盟主とする合従連合はこれにより斉の取り込みに失敗。


合従連合の軍師ポジションについた韓非は、洛陽に隠居している呂不韋を自分たちの仲間に引き入れようと提案。おいバカやめろ!と言いたくなるような策ですが、事態を知った嬴政は呂不韋を蜀に遷すことを決意。そして対秦のために自らが利用されることを望まない呂不韋は自害…… このドラマの韓非は韓代表の立場で外交活動を展開したりと、政治家として実像よりはかなりの大物になっています。


嬴政は趙を中心とする合従連合が呂不韋を死に追いやったと、仇討ちとして趙攻めを敢行。しかし趙の李牧の前に苦戦を強いられます。李牧演じる盧勇は『大秦帝国』シリーズでは1作目に続いて2度目の出演。王翦役の尤勇智(尤勇)といい、今作は原点回帰的な趣向・演出が目立ちます。


一方、合従連合の燕国代表として活動する太子丹は人質先の秦より逃亡し、祖国で樊於期と再会。樊於期は嬴政の護衛から将軍にまで出世していましたが、嫪毐の乱で留守を任された王宮を敵軍に奪われ、更に彼が嫪毐側に付いたと思われるという行き違いもあったようで、秦から燕へと逃亡していた模様。

諸国は秦と戦う趙に物資を支援しますが、対秦政策の一環として民間での銅鉄の私鋳を解禁するや、三晋では農民が耕作そっちのけで冶金にのめり込んだり、かたや地方では食糧不足から農民が難民化して秦へと逃亡したりしてにっちもさっちもいかなくなってきます。秦では韓非が人材であるのに目を付け、彼を使者として出仕させることを条件に韓との和平に応じる姿勢を見せ……

「その5」で触れたのと同様に、ここでも他国から秦へと難民が逃亡するというシチュエーションが出てくるわけですが、ここから読み取るべきは「まともな国は難民を保護する」という思想ではないかなと。(仁君が難民を快く受け入れ保護するという場面は『三国機密』でも出てきました)
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『大江大河2』その4(完)

2021年02月04日 | 中国近現代ドラマ
『大江大河2』第31~最終39話まで見ました。

一旦まとまったと思われた東海化工と米国企業との合弁話ですが、米国側が条件をつり上げてきたことで宋運輝は対応に追われます。


梁思申に複雑な思いを抱く程開顔、思申に不信感を抱き、当てつけのように彼女のライバル企業に就職した三叔を呼び出す小輝、その三叔に遺恨がある大尋など、様々な思惑と感情が交錯するお食事会 (^_^;)

楊巡は東海に四つ星ホテルを建てるという計画に夢中で、大尋は資金繰りの件などでそれを苦々しく見つめています。結局高級ホテルではなく、事業計画的に無理のない高級市場の開設へと方向転換するのですが、東海唯一のホテルである南都賓館で「三つ星の南都賓館では高級ホテルとしての役割は果たせない」なんて話を堂々とするもんじゃありませんw

さて、その頃程開顔と程工場長(とっくに退職しているのですが、取り敢えずこう呼んでおきます)のもとに宋運輝と梁思申の関係を告発する怪文書が届き、それをめぐって元々雲行きが怪しかった夫婦仲、そして小輝と程家との関係が修復不可能なまでにこじれていきます。程工場長は東海化工の馬工場長にも対応を求め、ラチが明かないと見るや上級の領導に小輝を告発し、関係者のもとに調査団が派遣される騒ぎに。


程開顔は宋運輝との離婚に応じ、彼の仕事までを邪魔するつもりはないと明言しますが、父親の方が収まりません。小輝と開顔というより、小輝と岳父との感情のもつれが事態を悪化させているあたり非常につらみがあります……

結局小輝は地方の農薬工場の工場長へと下放(ただ、これも北京の老徐や路小第の尽力で按配された地位なのですが)。梁思申には東海に留まり合弁をまとめるよう後を託します。楊巡は長年苦労を掛けた母親の末期癌が発覚し、試練の時を迎えます。そして雷東宝はいよいよ出所の日を迎え……

【総括】
ということで1989年頃から1994年頃までを舞台とした第2部。さすがに前作のような現代史物としての要素はそれほどありませんでしたが(強いて言えば天安門事件絡みの描写がチラッとあったのと南巡講話ぐらい)、バイク党だった雷東宝も含めて主人公連が車に乗るようになり、楊巡は初期型の携帯電話を持ち歩き、東海化工の幹部の部屋にはデスクトップパソコンが設置されるようになりと、経済発展の要素は盛り込まれています。

一方で終盤で出てきた宋運輝の故郷の村のように、未だに電気や電話も充分に通らず、経済発展を享受できない地域も多く残されているわけで、このあたりが(あるとすれば)第3部のテーマになってくるんでしょうか?
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2021年1月に読んだ本

2021年02月01日 | 読書メーター
古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年 (中公新書)古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年 (中公新書)感想
人骨に着目した分析が特色。移民や戦争の跡をどう読み取るかなど、マヤ文明に限らず考古学全般に通用する議論が多い。所々で触れられる遺跡の保全や認知度の向上の問題もそれらに含まれるだろう。最後の第9章で紹介される歯牙装飾の分類や頭蓋変形の分析はアプローチとして面白い。
読了日:01月01日 著者:鈴木 真太郎

物語 東ドイツの歴史-分断国家の挑戦と挫折 (中公新書)物語 東ドイツの歴史-分断国家の挑戦と挫折 (中公新書)感想
親分格としてソ連が存在しつつも常に西ドイツと向き合わざるを得ない立場の東ドイツ。しばしば対ソ従属よりも対西独の方が重要かつ深刻な問題となる。その矛盾やバランスに悩まされた40年間ということになるだろうか。国内では、国民は恒常的な物資不足に対応するために「共助」を迫られ、政府は正確な情報を国民に伝えるという発想に乏しく、精神論を振り回すばかり。官僚はルーティンワークをこなすだけで、政治責任をとる者は存在しない。国家の類型として、今の日本国のあり方にも何某かの示唆を与えてくれそうである。
読了日:01月03日 著者:河合 信晴

ドイツ統一 (岩波新書)ドイツ統一 (岩波新書)感想
ドイツ統一の過程を東西ドイツの国内と国外双方(三方)からの視点で描いているが、統一に際して過去の「強大」であったドイツの歴史的な記憶が呼び覚まされ、近隣諸国あるいはアメリカやイスラエルから反発や懸念が出されているのが面白い。結語で著者がまとめるように、近代ドイツは確かにナポレオンの時代以来戦争とともにあったのである。
読了日:01月05日 著者:アンドレアス・レダー

中国奇想小説集: 古今異界万華鏡中国奇想小説集: 古今異界万華鏡感想
六朝の志怪小説から『聊斎志異』などの清代の小説まで中短編のアンソロジー。『桃花源』『枕中記』『白娘子永えに雷峰塔に鎮めらるること』など各時代の代表的な作品を収録するとともに、六朝志怪が唐代伝奇に発展するとともに、以後の時代も志怪小説と伝奇小説の二つの流れがそれぞれ続いていることを示すような構成となっている。各篇に挿入される井波氏の解説もよい。
読了日:01月07日 著者:

中東政治入門 (ちくま新書)中東政治入門 (ちくま新書)感想
中東が特殊、例外的な地域であるという見方をなるべく排した中東政治論。国家・独裁・紛争・石油・宗教と項目別に見ていくが、「宗教」の章では宗派の違いが政治対立の原因となっているのではなく、政治対立が宗派対立を惹起するという主張に納得。また「独裁」の章でのなぜ権威主義体制が持続するのかという議論は、中東諸国というよりは日本や中国のことを議論しているのではないかと錯覚させられる部分もある。中東地域の固有性とともに、他の地域との共通性をしっかり見据えるというスタンスが非常に良い。
読了日:01月09日 著者:末近 浩太

『孫子』―解答のない兵法 (書物誕生―あたらしい古典入門)『孫子』―解答のない兵法 (書物誕生―あたらしい古典入門)感想
『孫子』の受容史、作品世界の講読ともに『孫子』の解説としてはかなり風変わり。日本では江戸時代まで兵書としては『六韜』『三略』の方がよく読まれていたとか、西洋での受容も近代日本と関連付けられる形であったという指摘が面白い。講読の部分も『群書治要』に引かれたものとか西夏語訳とか、受容のあり方を意識したものとなっている。
読了日:01月11日 著者:平田 昌司

中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝 (講談社学術文庫)中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝 (講談社学術文庫)感想
通史とともに思想史・文化史の部分に多くの紙幅を割き、中国にとって、あるいは日本にとって宋とはどういう存在かを描き出す。士大夫の振る舞いや考え方に対しては皮肉も織り交ぜられているが、文化面全般に対してはリスペクトされている。著者の専門である思想・宗教とともに、第七章・第八章で分野ごとの文化の発展や様相についてまとめられているのがよい。
読了日:01月16日 著者:小島 毅

動物園・その歴史と冒険 (中公新書ラクレ, 713)動物園・その歴史と冒険 (中公新書ラクレ, 713)感想
第1章で前近代の王侯による動物コレクションについて概述し、第2章以降は近現代の動物園の歴史へと移るが、動物園が所有者の富と威信と結びつき、支配を現す場であること、そして「ノアの箱船」を体現するなどの思想性が込められていることは、近現代に至っても変わらなかったということが見えてくる。また「かわいそうな象」のような状況は過去の話ではなく、世界各地での紛争によって再現され、そしてコロナ禍によっても再現されつつあるという。人間の自然観、世界観が表れた場として、動物園に対する視点を提示している。
読了日:01月22日 著者:溝井 裕一

中国の歴史書―中国史学史 (刀水歴史全書 20)中国の歴史書―中国史学史 (刀水歴史全書 20)感想
『尚書』から康有為・梁啓超まで、史書の解題で辿る中国史学史。取り上げる書は正史が多いが、『漢書』を範とする紀伝体の断代史以外の正史の方向性はあり得なかったのか?という疑問、問題意識が窺える。『文史通義』に意外と厳しい評価を下すなど、史書に対する個別の論評も面白い。民国史学への評価など、異論を挟みたくなる部分もあるが……
読了日:01月24日 著者:増井 経夫

フランクリン・ローズヴェルト-大恐慌と大戦に挑んだ指導者 (中公新書, 2626)フランクリン・ローズヴェルト-大恐慌と大戦に挑んだ指導者 (中公新書, 2626)感想
女性関係やポリオのことも含めたプライベート、政治家になるまでの経緯、ニューディール、そして第二次大戦と過不足のない構成。ニューディールが一貫性、体系性を欠き、大戦前にローズヴェルト不況を引き起こすなど、結局は大恐慌を克服できなかったものの、芸術への支援も行っていたというのは面白い。当初ユダヤ人難民の受け入れに消極的であったことや、その不当さを知りつつも日系人の強制収容を進めざるを得なくなったことなど、人種政策面での限界にも触れている。
読了日:01月26日 著者:佐藤 千登勢

上杉鷹山 「富国安民」の政治 (岩波新書, 新赤版 1865)上杉鷹山 「富国安民」の政治 (岩波新書, 新赤版 1865)感想
副題にある鷹山の改革の理念「富国安民」をめぐる議論が面白い。「富国安民」とは漢語の「富国強兵」から派生したというか読み替えたものだが、「民利」「民富」に重点を置いたものであり、富国強兵の国家構想とは一線を画するものであるという。しかし近代日本は富国強兵策を採用し、鷹山の改革もその先蹤と認識されるようになる。そうした「歴史認識」を問題とし、また現代の富国論にも疑問を投げかけている。
読了日:01月27日 著者:小関 悠一郎

大航海時代の日本人奴隷-増補新版 (中公選書 116)大航海時代の日本人奴隷-増補新版 (中公選書 116)感想
旧版からの再読。新版では補章を加え、イエズス会と奴隷貿易との関わり、朝鮮出兵によって発生した朝鮮人奴隷の存在などを議論する。年季奉公も含めた、日本でいう「奉公」がヨーロッパ人で奴隷契約ととらえられたが、当事者も含めて日本人はそのような理解をしていなかったという議論が興味深い。この「奴隷」をめぐる認識の齟齬が慰安婦問題など、現代に至るまで重大な影響を及ぼしているのではないか。
読了日:01月29日 著者:ルシオ・デ・ソウザ,岡 美穂子

古代日本語発掘 (読みなおす日本史)古代日本語発掘 (読みなおす日本史)感想
タイトルのうち「発掘」に重点を置いたような内容。日本史における古文書の「発掘」のような営みが古代の国語学においても存在しているようである。著者が専門とするのが訓点資料ということで、ヲコト点の諸相や仮名の変化について話題にしており、「古代日本語」という言葉からイメージしたものとはかなり違っていたが、これはこれで面白い。
読了日:01月31日 著者:築島 裕

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