博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『武当一剣』その2

2021年04月30日 | 武侠ドラマ
『武当一剣』第7~12話まで見ました。

武当山の無相掌門は、藍玉京らを助けするために取り敢えず残された紅丸を服薬したところ、実はそれは武当派の裏切り者らしい黒衣人が仕込んだ毒役で、それによって無相は明日をも知れぬ状態になってしまったのでした……

自分の寿命を悟った無相は玉京に太極拳を授ける一方で、野心というか邪念の塊の弟弟子無量を後継に立てると見せかけて、親しい間柄の鄭鉄崗に後事を託します。その一方で藍玉京には武当山からの追放を言い渡しますが、これは実は追放と見せかけて玉京を少林寺に赴かせ、紅丸の副作用の治療を受けさせ、18年前の無極と何其武の死の真相を探らせようという意図があるのでした。このドラマ、武当山と少林寺の両方が出てくるんですね。

しかしここで蜀門の唐二の陰謀により、玉京は義父であり師父の不岐が両親の仇であることを知ってしまいます。更には東方亮との手合わせにより、玉京が不岐から授けられた武当剣法がデタラメであることを察知してしまい、義父への不信感が爆発。取り敢えず無量が黒衣人に扮して藍家の両親を殺害し、ついでに不岐と剣を交えて傷つけ、玉京の両親を殺害したのは彼であって不岐ではないと示唆。そうやって玉京を騙して不信感を払拭し、不岐に恩を売ります。こんな猿芝居も久々に見たという気がしますが……


主人公のよきライバルというポジションの東方亮。父親の東方暁が武当派と因縁があり、その仇討ちという名目で何度も武当派に挑戦していますが、仇討ちのためというよりも、武当派の剣法に学んで自分の武功に磨きをかけるというのが目的化している模様。玉京はこの東方亮とともに少林寺へと向かいます。

その間、朝廷では武当山から献上された紅丸を飲んだ泰昌帝が急死するという事件が発生(これ自体は実在の事件です)。武当山にその責任を問うという名目で、在家弟子代表の牟滄浪が錦衣衛や他派の使い手を率いて武当山に乗り込んできます。ここで修練モードに入っていた無相が自尽……


「中州大侠」牟滄浪。杜澤泰文という日本人俳優が演じているとのこと。朝廷から武当派掌門に任じられ、武当山を統制。武功や煉丹の秘伝を手に入れようとします。このドラマでは武当派は明朝の国教という設定になっているので、政治的な介入も招きやすいというわけですね。

旅の途上の玉京&東方亮は、後を追ってきた鄭巧児により無相の死と武当山を襲った惨劇を知らされます。そして彼女の手から無相の残した「奪命剣法」の秘伝書が玉京に手渡され……というあたりで次回へ。この作品、良くも悪くもセンスが20年前の武侠ドラマという感じなんですよね……
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『鬢辺不是海棠紅』その8(完)

2021年04月25日 | 中国近現代ドラマ
『鬢辺不是海棠紅』第43~最終49話まで見ました。

日本軍によって京劇がどう変えられるかわからない、せめて今できることとして記録に残しておこうということで、京劇の映像撮影を思い立つ商細蕊。そして姜栄寿の秘技「仙人歩法」も映像として後世に残そうとしますが、姜自身はもう自分では再現できないということで、商細蕊を弟子に取るという形で彼に伝授することに。

そして日本軍は程鳳台に再びの満州国への物資運搬を依頼。しかも程鳳台が以前から修築していた留仙洞を経由しての運搬を指定し、程鳳台は曹貴修と連携して日本側を罠にかけることに。ミッションは成功し、トンネルの爆破と曹貴修&絡子嶺の山賊たちの攻撃により日本軍に大打撃を与えることに成功しますが、爆破に巻き込まれた程鳳台は意識不明の重態となって北平の程家に運び込まれます。

商細蕊は見舞いに駆けつけるますが、そもそも「戦金山」の一件がなければ程鳳台が日本軍の物資運搬を請け負わされることもなかったと怨む程家では、棺桶を見せて程鳳台が死んだと偽り、彼を追い返そうとします。いやいや、これはイカンでしょ (^_^;) しかし杜七ら関係各位の尽力により、商細蕊は程二爺につきっきりで看病できることになります。


この場面では程楓(程皓楓)演じる新聞社の総裁薛千山も珍しくいい所を見せますが、彼の日本人妻が怪しげな動きを……

商細蕊は、程鳳台がこんなことになったのはてめえのせいだとばかりに、程家に見舞いに訪れた日本軍人をハサミで刺殺しようとして投獄されてしまいます。この一件で北平の人々もようやく歌舞伎写真流出以来の彼の親日疑惑を解きます。そして商細蕊は雪之誠の尽力で釈放され、治療用のペニシリンを手に入れると一目散に程家へ。


そしていよいよ新作『鳳仙伝』の舞台が開幕。しかし目覚めた程鳳台は一家揃って香港に退避する決意を固めており、2人は別れを交わすことに……

【総括】
ということで途中で中断期間を挟みつつも全49話を完走。その間に日本語版の放映も決まりました。同じく于正プロデュース作品で現在日本語版が放映中の『コウラン伝』と比べると、映像の質から違っているので嫌な笑いがこみ上げてきます。脇役陣はいつもの于正班で固めているので『コウラン伝』で見た顔もちょいちょい出てくるのですが、同じ俳優さんでもこちらの方が輝いている気がしますね。是非于正の本気を堪能してください。
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『武当一剣』その1

2021年04月24日 | 武侠ドラマ
梁羽生原作の『武当一剣』の鑑賞を開始。全39話予定中、今回は第1~6話まで鑑賞。


舞台は明朝万暦年間。武当派在家弟子の耿京士&何玉燕のカップルは師門から結婚を反対され、遼東に駆け落ちしてきたのですが、耿京士の方はお腹の子のために賞金目当てでヌルハチ主催の比武に参加。無事難関を突破して賞金だけゲットして武当山に戻ろうとしますが、そうは問屋が卸さず、明朝侵攻のために武当派の力が欲しいヌルハチは追っ手を派遣。

何とか武当山周辺まで逃れてきた2人ですが、ヌルハチによって耿京士が後金に降った裏切り者というデマを流され、更に師父の何其武殺害の濡れ衣まで着せられてしまいます。で、結局兄弟子戈振軍によって耿京士は殺害され、赤子を産み落とした何玉燕も夫の後を追って自害。赤子を託された戈振軍でしたが、これを旧知の藍夫妻に預け、自身は武当山の在家弟子から出家弟子となり、名も不岐と改めます。


そして18年後。耿京士&何玉燕の子・藍玉京はすくすくとヤンチャくれに成長。武当山では不岐を義父兼師父とし、在家弟子として扱われています。まだ出生をめぐるあれこれは知らされていません。


こちらは藍夫妻の実子で、玉京の姉ということになっている藍水霊。やはり武当山に弟子入りしています。


このドラマのヒロインらしい鄭巧児。藍玉京と似たり寄ったりの気性で彼とつるんで行動します。祖父鄭鉄崗は丐幇の長老かつ武当派の在家弟子らしく、2人で武林の動向を探っています。

で、今回は武当山や周辺で碌でもないことばかりしている藍玉京が、うっかり武当山で錬成された紅丸を服薬して人事不省に陥ったあたりまで。彼のイタズラの数々に武当山のお偉方は「まあ子どものやることだから」と寛大ですが、そろそろ限度がきているような気がします (^_^;)

ということで武当山の観光誘致も兼ねているらしく、実際に武当山をロケ地にしたり、周辺の少数民族の文化をアピールしたりしてます。脇役のおっさんや爺連は渋いのが多い一方で、主演俳優は「こいつは子役というわけではなくて本役なんですよね?」と不安になってきますが……
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『鬢辺不是海棠紅』その7

2021年04月18日 | 中国近現代ドラマ
『鬢辺不是海棠紅』第37~42話まで見ました。

日本の軍人が臨席する前で敢えて抗金劇の「戦金山」を上演し、日本側の不興を買う商細蕊。当時抗遼・抗金劇に抗日の意が込められたということのようですが、一方で上海探訪の折りに日本人女性と懇ろになったというデマを流されたりもしております。ここらへんで商細蕊の兄と称する商龍声が突然出てきたりしてますが、彼は先代の実子の模様。


日本人女性の件は事実無根ということで交わしましたが、上海で杜七&雪之誠と日本料理店で食事した折りに座興で和服を着て歌舞伎の真似事をしたのがバッチリ写真に撮られており、日本軍の日中友好プロパガンダに利用され、それが更に中国の雑誌でスキャンダルとして報道されてしまいます。

商細蕊は「親日派」のレッテルが貼られてしまい、公演中の観客による乱闘騒ぎで舞台から客席に落とされてしまったことで、片耳が聞こえなくなってしまいます。それで舞台にも立てなくなってしまう商細蕊ですが、程鳳台はこれを心理的なものと見てショック療法を試み、商細蕊も「舞台から落とされて耳が聞こえなくなったのだから、もう一度高い所から落ちれば聞こえるようになるかもしれない」ということで、屋根の上から飛び降りようしたりします (^_^;)


一方、商細蕊らの親日騒ぎは南京の劉漢雲の耳にも入ります。元水雲楼の男優で彼のもとに引き取られた臘月紅が刺客となり、商細蕊、姜登宝、薛千山ら京劇関係者が次々と狙撃されます。


日本側の親善団体「中日戯曲交流同好会」の会長に仕立て上げられた姜栄寿は、自分ではなく息子の姜登宝が犠牲に……

しかし雑誌編集長で日本人の妾を抱えたという薛千山が粛清の対象となったところで、臘月紅のかつての姉弟子で薛の妻となっていた六月紅によって射殺されてしまいます。ここで一命を取り留めた商細蕊が、薛千山と程鳳台に「劉漢雲は敵と戦うわけでもなく同胞ばかりを殺している」という親日狩りへの皮肉っぽい台詞をこぼします。後の時代のアメリカのマッカーシズムなどにもそういう所があるのかもしれません……
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『鬢辺不是海棠紅』その6

2021年04月13日 | 中国近現代ドラマ
『鬢辺不是海棠紅』第31~36話まで見ました。

商細蕊は寧九郎の代理で上海梨園を探訪するという名目で、程鳳台を追って上海へと向かいます。


ここで商細蕊の世話役林丹秋の妹として曾愛玉が再登場。

商細蕊は唐突に自分に生き別れの妹がいたことを思い出し、その妹というのが曾愛玉ではないかと思い当たります。商細蕊は幼い頃に家族で京劇を見に行った際に、父母や妹とはぐれてそのまま生き別れとなり、たまたまその時に興行していた水雲楼に引き取られたということらしいのですが、それはちょっと設定として無理がないでしょうか……

まあそれはともかく、ならば彼女の兄と称する林丹秋は何者かという話になるわけです。彼は借金を抱えていてヤクザ者から脅されて……というような事情を抱えていたのですが、一方で彼自身も商細蕊とは似たり寄ったりの過去を抱えており、まるっきり嘘ということで彼女を騙していたわけでもなさそうで、商細蕊は曾愛玉に事実を告げず、林丹秋に彼女を託すことにします。

その後商細蕊&程鳳台は上海で陳紉香と再会しますが、恋人と引き離され、彼女の家の者が雇った暴漢に足を折られたということですっかり酒浸りとなっておりました。


陳紉香は商細蕊・程鳳台の尽力で治療を受け、舞台復帰をするものの、最後は舞台上での自決を選ぶことに……

さて、北京に戻った程鳳台は妻范湘児と仲直り。しかし日中戦争の足音が…… ということで日中戦争編に突入です。北平に入城した日本軍は中日戯曲同好会を立ちあげ、京劇を日中友好の演出の手段としようとします。


そして一座の付き人として商細蕊を支えてきた小来が日本兵の犠牲に…… 于正ドラマに多く出演している李春嬡が演じてます。

同好会の会長に押し立てられそうになった寧九郎は出家して抵抗。商細蕊ら各劇団の親方連は休業で日本側への協力要請をやり過ごそうとしますが、侯玉魁は息子を人質に取られて舞台に引っ張り出され、商細蕊らも興行再開を強要され……というあたりで次回へ。
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『山河令』その3(完)

2021年04月09日 | 武侠ドラマ
『山河令』第25~最終36話まで見ました。


ここまで義父・趙敬におとなしく従うというか言いなりになっていた蠍王ですが、趙敬と過去に関係を有していた喜喪鬼の口から彼の所行や本性について語られると、次第に彼に疑念を抱き始めます。趙敬は女嫌いのイケメン好きかなという印象でしたが、彼女の話を踏まえると、もっと精神の深い所でクズということみたいです。

武林では温客行が鬼谷谷主であるということが知れ渡り、それを知った葉白衣が温客行を成敗しようとしますが、周子舒がそれを阻みます。周子舒の方はそんなことなど先刻承知なのでした。温客行の関知しない所で起こったこととはいえ、張成嶺の一家を惨殺したのは鬼谷の一味ということになっているので、彼は成嶺に自分の正体を知られることを恐れているのですが…… 一方、曹蔚寧の方も相思相愛の仲の顧湘が鬼谷の一味と知り、一瞬動揺しますが、それでも彼女を愛し続けると誓います。


そして周子舒は晋王のもとへと連れ去られ、彼と訣別を宣言。この晋王はやはり五代の群雄の李存勗のようですが、周子舒とは母方の従兄弟同士という設定となっています。その間に温客行は細切れに失われた記憶を取り戻し、一度は助けられた両親を死に追いやったのが趙敬であることを思い出します。

で、第31話あたりから話が微妙に飛び飛びになるのですが、蠍王と温客行の間で密約が成立したり、英雄大会で群雄に追い詰められた温客行が崖落ちしたり、そんでもってやっぱり温客行が死んでなかったりして、群雄の面前で趙敬の過去20年ほどにわたる悪行が暴露され、その名声が地に落ちます。


これでひとまずめでたしめでたしと、鬼谷で曹蔚寧と顧湘の結婚式が執り行われることになりますが、が、が…… ここでようやく主役2人が広告ポスターの青服と赤服で登場。あとは(たぶんそのうち出るであろう日本語版の視聴者のための)ネタバレ防止につき大省略。琉璃甲の行方は、そして「天下武庫」に隠されたものとは、2人の運命は……? 

【総括】
ということで意外としっかり正統派の武侠してた本作ですが、『陳情令』とこちらとどちらを選ぶ?となったら、私なら躊躇なく『陳情令』を選びます。言葉でうまく説明できない部分で何だかイマイチ乗れないままで最終回まで来てしまったという感じです……
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『鬢辺不是海棠紅』その5

2021年04月06日 | 中国近現代ドラマ
かなり間が空いてしまいましたが、『鬢辺不是海棠紅』の鑑賞を再開します。その間に『君、花海棠の紅にあらず』のタイトルで日本語化も決定しました。ということで第25~30話まで鑑賞。


劉漢雲や曹貴修を迎えた公演で商細蕊は憧れの寧九郎との共演が実現。劉漢雲は清朝の官吏であった若い頃に、西太后に寧九郎ら俳優を宮廷から退けるよう進言して処刑されそうになり、当の寧九郎の機転で救われるという因縁があったのでした。伝説の女形寧九郎を演じるのは、『さらば、わが愛/覇王別姫』に出演した雷漢。


そして公演の裏で劉漢雲と曹父子による三者会談により、曹司令(曹万鈞)は兵権を差し出して南京で官途に就くことに。曹司令の中の人はいろんなドラマでよく見る黒子です。

さて程鳳台は行きがかり上、義弟(妻の弟)范漣の子を懐妊した曾愛玉の面倒を見てやることになりますが、愛人に子どもを産ませたと妻の范湘児に勘違いされてしまい、更には生き別れになっていた実母春萱からの手紙が愛人からのものと決めつけられて燃やされてしまい、怒った程鳳台は赤子とともに水雲楼へと家出。赤子は女児で鳳乙と名づけられます。また劉漢雲の計らいでこの前後に小周子も水雲楼へと引き取られています。


春萱を演じるのは特別出演の李依暁。息子程鳳台とは死別と思いきや程家の父親と離縁しての生別だった模様。なお程家の三姉弟、美心、鳳台、察察児は全員母親が異なるようです。

そうこうしているうちに五年に一度の「梨園魁首」を決める投票が開始。最終候補に残った商細蕊ですが、憧れの寧九郎と競い合うことになってしまったのに気が進みません。しかし寧九郎自身が彼に投票し、実力と人気が認められることに。

そして春萱の件も、范湘児の計らいにより、春萱の弟子でその名を襲名した小春萱が奉天から到来。程鳳台は彼女から母の近況を聞いて安心し、仕事上のトラブル胥吏のために上海へと向かいます(ただ小春萱の回想によると母は既に病没しているようなのですが……)

改めて見てみると、同じ于正作品でも現在日本で放映中の『コウラン伝』とは脚本、映像ともに格段の差がありますね…… 于正が本気になればこんないい作品になるのかと。
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2021年3月に読んだ本

2021年04月01日 | 読書メーター
レイシズムとは何か (ちくま新書)レイシズムとは何か (ちくま新書)感想
前半でレイシズムに関する一般論について解説し、後半で日本の個別事情、特に在日コリアン問題について論じていくという構成。日本では欧米と違って反レイシズム規範が確立されておらず、反差別を訴えるうえで被害者に告発・証言を強いる歪な構造になってしまっているという問題、レイシズムとナショナリズムとの癒着関係、性差別など他の差別との関係がまとめられている。ルース・ベネディクト『レイシズム』の日本版、21世紀のアップデート版となっている。
読了日:03月01日 著者:梁 英聖

満洲国: 交錯するナショナリズム (967) (平凡社新書 967)満洲国: 交錯するナショナリズム (967) (平凡社新書 967)感想
満洲国の通史的な解説に加えて文芸・映画・思想・学術など文化面に着目しているのが特徴だが、内容的に中途半端になってしまった感がある。ナショナリズムと文化面に全振りしても良かったのではないか。冒頭の「でっちあげ」に関する議論も、計画性という面ではその通りだが、物事は単純化できないという以上の話にはならず、さして意味のある議論とは思えない。
読了日:03月03日 著者:鈴木 貞美

板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書)板垣退助-自由民権指導者の実像 (中公新書)感想
知名度は高いがその事績については意外と知られていない人物の代表格。外遊の際は、交際関係の広さ、物事の吸収力や融通といった点で伊藤博文と対照的になってしまった。その外遊の時のスペンサーとの会見の様子など、実像と「伝説」の間の乖離がこの人物の特徴のようだ。有名な「板垣死すとも自由は死せず」についても「伝説」にすぎないと思っていたが、少なくとも類似の言葉を発していたのは事実とのこと。
読了日:03月05日 著者:中元 崇智

漢詩のレッスン (岩波ジュニア新書)漢詩のレッスン (岩波ジュニア新書)感想
漢詩はこう読む、こうも読めるという読解の手本。取り上げられているのは15首の唐詩、それも絶句に限られているが、最初の孟浩然「春暁」で、「暁を覚えず」というのは孟浩然が役人でないことを裏に含んでいるという解説ではや引き込まれた。
読了日:03月07日 著者:川合 康三

女帝の古代王権史 (ちくま新書)女帝の古代王権史 (ちくま新書)感想
『つくられた卑弥呼』の続考。推古~孝謙・聖徳を中心に、古代の女帝が男系継承を前提とした中継ぎというような軽い存在ではなかったこと、古代の皇位継承が族内婚を前提とした男女双系的なものであり、長老女性と年少男性による共治がパターン化しつつあったこと、草壁が皇太子であったというのは後付け的な理解であることなどを論じ、天皇位について男系継承とは別の伝統があり得たことを示している。
読了日:03月10日 著者:義江 明子

サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)サラ金の歴史-消費者金融と日本社会 (中公新書 2634)感想
サラ金の盛衰を切り口に、家計の管理という視点からの夫婦の関係、雇用と出世、「中の人」たちによる感情労働、顧客情報の電算化、そして中国式の管理社会化、サラ金の問題を民族問題として変換する動きと、意外かつ多様な方向へと話が広がっていく。現代日本の社会経済史として盲点を突いた書。
読了日:03月12日 著者:小島 庸平

曽国藩: 天を畏れ勤・倹・清を全うした官僚 (世界史リブレット人 71)曽国藩: 天を畏れ勤・倹・清を全うした官僚 (世界史リブレット人 71)感想
太平天国の乱の鎮圧、洋務運動と曾国藩の事績だけでなく、曾国藩の体現する教養、天地会などのその他の民衆反乱、当時の排外感情、そしてそもそも中国の近代化とは……と、背景も含めてコンパクトにまとめている。図表類もよく整理されている。
読了日:03月14日 著者:清水 稔

「敦煌」と日本人-シルクロードにたどる戦後の日中関係 (中公選書)「敦煌」と日本人-シルクロードにたどる戦後の日中関係 (中公選書)感想
敦煌文書の発見から「監獄」化した現在の新疆ウイグル自治区の状況まで、敦煌を含めた日本人の「自分探し」としてのシルクロード観を総ざらいした本、なのだが、それにとどまらず堺正章の『西遊記』や徳間書店の「中国の思想」シリーズなど、80年代頃の中国理解、中国体験や日中関係にも話題を広げている。往時の熱気が感じられる筆致。
読了日:03月15日 著者:榎本 泰子

中国の歴史9 海と帝国 明清時代 (講談社学術文庫)中国の歴史9 海と帝国 明清時代 (講談社学術文庫)感想
グローバルヒストリーの手法でとらえる明清史。朝貢、互市、日本との関係など海上交易だけでなく、時代区分の問題など、話題は多岐にわたる。個別の話題では、『三宝太監西洋記』が意外に参照に足る海外の情報が盛り込まれているという史料的評価、張保など19世紀の南シナ海の海賊が明代の倭寇とは異なり、歴史的な役割を果たせなかったという話が面白い。最後のマルクスと「ミッチェル報告書」の話も見事。
読了日:03月18日 著者:上田 信

三国志入門 (文春新書 1302)三国志入門 (文春新書 1302)感想
正史三国志の人物、戦い、格言などを紹介。見所をピックアップした入門編ということになるだろうか。ただ、出だしの「小説」をめぐる話は疑問。中国前近代の「小説」という語は欧米の「ノベル」とはイコールではないので、あまり意味のない議論だと思う。
読了日:03月20日 著者:宮城谷 昌光

漢字を使った文化はどう広がっていたのか: 東アジアの漢字漢文文化圏 (東アジア文化講座)漢字を使った文化はどう広がっていたのか: 東アジアの漢字漢文文化圏 (東アジア文化講座)感想
論文集というよりは、「漢字・漢文文化」に関係する事項の基本的な理解をまとめた教科書的な本となっている。類書よりも朝鮮半島やベトナムの状況についての項目が多いのが特徴か。この種の本としては中国の女書のやや詳しい解説を収めたものも初めて見た気がする。序文で言及される「漢字文化圏」という呼称の内包する問題の指摘はなかなかに強烈である。
読了日:03月23日 著者:

カラー版 王室外交物語 紀元前14世紀から現代まで (光文社新書)カラー版 王室外交物語 紀元前14世紀から現代まで (光文社新書)感想
近現代の王室外交だけでなく、その前提となる「外交」のはじまり、近代外交が形成されるまでの話がよくまとまっていて参考になる。世界最古の外交文書と位置づけられるアマルナ文書に、外交官特権の萌芽のような要素が既に見られるといった話や、中国の華夷秩序との比較がおもしろい。
読了日:03月24日 著者:君塚 直隆

お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門感想
小説、映画、演劇等々英語圏の作品の批評を中心としたエッセイ集。なぜ善良な男がモテないのか?という問いに隠された罠、昔から文学の題材となっていた「キモ金」おじさん、本当にプリンセス願望を持っているのは誰か?シンデレラ物語に秘められた可能性、女だけの街に住む女性たちが本当に必要とするもの等々、ジェンダーの要素に着目してエンタメを鑑賞するためのヒントを与えてくれる本。
読了日:03月26日 著者:北村紗衣

今川のおんな家長 寿桂尼 (中世から近世へ)今川のおんな家長 寿桂尼 (中世から近世へ)感想
夫・氏親の死、そして子・氏輝の夭逝によって期せずして「おんな家長」の座につくこととなった寿桂尼。義元は彼女の実子ではなかったということで、2人の関係性は今まで思っていたものとはかなり異なってくることになる。当時の「おんな家長」の一般性、「男家長」との対比、「おんな家長」の歴史的な展開など、多くの問題を掘り起こしているという点でも面白い。
読了日:03月28日 著者:黒田 基樹

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