博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『大秦帝国之崛起』その2

2017年02月23日 | 中国歴史ドラマ
『大秦帝国之崛起』第7~12話まで見ました。

楚の太子横は、斉に淮北二百里の土地を割譲するかわりに帰国を許され、新王(頃襄王)として即位することになりましたが…… 「ほんとは斉に土地を割譲したくないお…」「でも割譲しなきゃ信義に悖るお…」「だから一旦割譲してから軍を派遣して取り戻すお!秦にも援軍を頼むお!」ということで土地の死守に成功。まるでドゥテルテがやりそうなレベルの外交なんですが……

そしてこの一件で斉の湣王に愛想を尽かした孟嘗君は、秦の使者韓聶の求めに応じて出奔し、早速昭襄王より丞相に任じられます。


何となく「ヨロシクニキー」とか、その手のなんJ語が似合いそうな雰囲気の孟嘗君。

糸井をFAで獲得した金本監督のようにニッコニコの昭襄王でしたが、孟嘗君は謁見の場で「さすが王上が魏冉を差し置いて丞相に抜擢するだけのことはある」という宣太后(芈八子)の微妙に棘のある言葉に引っかかりを覚えます。そこへ宦官が昭襄王に渡すための竹簡を持ってきて、わざとらしく蹴躓いて竹簡を床にぶちまけます。その竹簡に自分のことが書いてあると察してしまう孟嘗君。どうも魏冉らが自分を快く思っておらず、竹簡には自分の誹謗中傷が書かれているのではないかと気になる彼でしたが、これは宣太后の仕掛けた罠でありました。

夜な夜な孟嘗君の命を受けた食客が例の竹簡を昭襄王の寝室から盗み出そうとしますが、待ち構えていた護衛によってあっさり捕縛され、昭襄王と宣太后の前に引き出されます。 昭襄王「信じられん、孟嘗君がこんなことを仕掛けるとは……」 宣太后「孟嘗君だろうと何だろうと外国人なんてそんなもの。いざという時に頼りになるのは私や魏冉といった身内よ。もう一回何かで試してみる?」 昭襄王「いや、もういいです……」

ということで孟嘗君にすっかり幻滅してしまった昭襄王。おまけに自分に対する暗殺計画まで発覚し、孟嘗君は秦から怒りの撤退を敢行。それで斉へとおめおめと戻って来たのにも関わらず、韓・魏との合縦策に切り替えていくとばかりに「秦の内情を知る私が韓・魏と合縦して攻めこめばイチコロですよ!」と斉の湣王を言いくるめ、あっという間に斉の宰相に復帰。

その頃、秦では人質として拘留していた楚の懐王を持て余し、わざと逃亡を見逃して帰国させようとします。しかし既に新王が即位した楚では入国を拒否され、他の諸国も関わり合いになるのを恐れて受け入れを拒絶。そして孟嘗君と韓王・魏王との会談の場に到来しますが、懐王が病身で余命幾ばくも無さそうなのを察した孟嘗君が「あいつが秦の領内で死ねば、弔い合戦ということで秦に攻めこむ絶好の大義名分ができる」と言い出して秦へと送還。孟嘗君がクズすぎます……


で、孟嘗君の目論み通り懐王が咸陽で病没し、彼が取りまとめる韓・魏・斉の連合軍に函谷関を突破され、懐王の拘留と孟嘗君の登用という自分のしでかした2つの事件が秦の危機を招いたということで涙目の昭襄王。事ここに至って彼は魏冉の丞相任用を決意。魏冉は白起らとともに奮戦し、危機を切り抜けます。孟嘗君はこの敗戦で再び斉の宰相を罷免され、今度は魏へと出奔。

その後数年が経過し、斉と誼を結んだ昭襄王は、斉の湣王とともに帝号を称しますが、燕・斉2ヵ国に仕えていた蘇秦の画策により秦・斉の同盟が決裂。蘇秦は更に燕・斉・趙・韓・魏の5ヵ国による合縦を成立させ、秦へと攻めこもうとします。しかしその実蘇秦は斉の強大化を助けると見せかけて、燕のために斉の破滅を画策していたのでした。蘇秦はその昔前作の登場人物姫狐にその才能を評価されたことから、彼女を敬愛しており、彼女の亡き婚約者太子平のために燕をもり立て、燕を弱体化させた元凶の斉を破滅させようとしていたという次第。そのことを察した昭襄王は、蘇秦とコンタクトして真意を探ろうとしますが……というあたりで次回へ。

孟嘗君がクズッぷりと有能さが同居した最凶の偽君子として描かれており、驚愕しています。と言ってもこの後の出番はそれほど無さそうなのですが……
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『大秦帝国之崛起』その1

2017年02月16日 | 中国歴史ドラマ
今年の春節の前後は新版『射鵰英雄伝』、『大唐栄耀』など話題作が目白押しなのですが、2/9から放映が開始された『大秦帝国之崛起』を見てみることに。愛奇芸で配信の全40話版です。今回は第1~第6話まで鑑賞。

『大秦帝国之裂変』『大秦帝国之縦横』に続くシリーズ第三部となりますが、冒頭の第1~2話は『縦横』の秦の武王が没し、昭襄王こと嬴稷が母の芈八子とともに人質先の燕から秦へと帰国して即位を果たし、反対派の公子壮(季君)の反乱が平定される顛末をそのまんま流してます。

で、第三部本編は第3話から。


宣太后こと芈八子は『縦横』からの続投。


そして昭襄王は子役から張博に交替。新版『三国』の孫権や『蒼穹の昴』の光緒帝の役者さんですね。母親や叔父の魏冉に政権を握られているのが気に食わず、母親の実家にあたる楚との同盟を断って斉と結ぶ「絶楚盟斉」を進めようとしたり、魏冉を丞相とすることに難色を示し、かわりに大物選手をFAで一本釣りして優勝を狙う監督かGMみたいな感覚で斉の孟嘗君を引き抜いて丞相にしようと画策したりしています。

で、独断で楚の懐王を秦におびき寄せて、「鄢・郢の地を割譲しないと国には帰さない」と幽閉。事態を知った芈八子も、懐王を宥めつつも、裏では息子の「絶楚盟斉」に付き合おうと腹をくくります。

一方、楚では、屈原の反対をよそに、一旦太子横を王位に即けて秦に対抗しようと大方の意見がまとまります。しかし太子横は斉に人質にやられているので、使者が「懐王が病死したから太子を帰国させたい」と偽って身柄の引き渡しを図りますが、斉側は蘇秦の進言により、帰国を認めるかわりに、楚に淮北二百里の土地の割譲を要求。これに斉の宰相格の孟嘗君が「これが大国のやることか!」と激しく反発します。


本作の主要人物の一人となるらしい蘇秦。前作の主役張儀の後輩という設定。

やはり懐王の王子で、妻を秦から迎えている子蘭は、この機に乗じて後継の座に収まろうと、咸陽の父親のもとへと馳せ参じて楚の群臣が太子横を擁立しようとしていることを伝えますが、激怒するかと思われた懐王の反応は「あの太子にそんな甲斐性があるとは!」と、却って重臣たちや太子を激賞。当てが外れた子蘭ですが、更に太子横がさっさと楚に帰国して即位したという知らせを受け……というところで次回へ。

芈八子をはじめとして第二部から引き続き登場している人物も多いですし、今のところは第二部と同じノリですね。しかしこの間まで見ていた『秀麗江山』と比べるとジジイ率が高いなと (^_^;)
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『秀麗江山之長歌行』その9(完)

2017年02月11日 | 中国歴史ドラマ
『秀麗江山之長歌行』第46~最終50話まで見ました。

隴西の隗囂と蜀の公孫述の討伐、そして天下統一も、デモンストレーション的な戦争シーンを背景にしてほとんどナレーションで済まされ、功臣の馮異もナレ死を遂げます。このドラマ、割と史実イベントはリスペクトしている方なんですが、「隴を得て蜀を望む」の話は出てこなかったですね……

そうこうしているうちに過皇后所生の劉強、陰麗華所生の劉陽がともに成長し、過氏一党が自分たちの立場を守ろうと、色々良からぬことを企みます。まず中風に倒れて故郷南陽で療養していた劉秀の快気祝いとして行われた狩猟で、劉陽が過氏側の刺客に襲われます。ついでにCGの虎にも襲われます。猛獣のCGは昆陽大戦で打ち止めかと思いましたが (^_^;)

そして陰麗華所生の幼い劉衡が事故死。これも過氏側の陰謀であると悟った劉秀は、遂に過珊彤の廃后を決定。かわって陰麗華が皇后に冊立されます。



陰謀を突き止める過程で、陰家の女護衛・琥珀が過珊彤の兄・過康らに崖っぷちに追い詰められ、飛び降り死しています。あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!琥珀が敵の目の前で崖から飛び降りたと思ったら死んでいた。な、何を言っているのかわからねーと思うが(以下ry このドラマ、崖から落ちて死ぬ率が高くないですか!?(; ・`д・´)

しかし劉秀が過珊彤に廃后を言い渡す時に「お前の伯父が私を助けてくれたことを思って今まで我慢してきたが……」みたいなことを言ってますけど、このドラマで真定王がどう劉秀を助けたというのでしょうか。むしろ劉秀が頑張った成果に思い切りフリーライドしようとしてましたよね?劉秀と過珊彤との関係は政略結婚による悲劇……と言いたいところですが、このドラマの場合、少なくとも劉秀にとっては政略結婚の意味すらなしていないんですよね。そういう「リアリズム」を描いたのはある意味凄いと思いますが。

その後も過康は劉強を利用して劉秀の毒殺を図ったりしますが、その劉強も太子の位を劉陽に譲ることを決意し……

【総括】
ということで割と武侠チックな雰囲気を醸し出しつつ幕を開けた本作ですが、気がつけばベタな後宮物になっていました…… 今回冒頭で書いたように、この手のライト史劇には珍しく史実へのリスペクトが見られた本作ですが、それも終盤あたりで力尽きてしまったように見えるのは残念。胭脂こと許美人と、彼女の生んだ楚王英について、最終回までに何かエピソードが挿入されるのかなと期待していましたが、それもありませんでしたね。しかし最終回近くになっても武侠アクションが挿入されていたところを見ると、本当に戦争シーンをやるより予算的にも労力的にもお手軽にできるんだなと。(逆に戦争シーンがどれだけ資金と労力を食うのかという話になるわけですが)
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『秀麗江山之長歌行』その8

2017年02月04日 | 中国歴史ドラマ
『秀麗江山之長歌行』第40~45話まで見ました。

彭寵の反乱の鎮圧のため、北方へと親征する劉秀ですが、同時多発的に今度は故郷南陽で董訢が反乱をおこします。劉秀が「よし、呉漢に鎮圧させよう!」と言い出したあたりで大方の視聴者は何となくその後の展開が予想できるでしょう。果たして予想に違わず現地で呉漢配下の兵が劫掠を行い、鄧奉の婚約者もその犠牲に…… 彼は「姐姐」と慕う陰麗華の説得も聞かず、劉秀への反逆を決意し、呉漢の軍を打ち破ります。反乱の鎮圧が新たな反乱を招くという構図は、今でも似たようなことがおこっているだけになかなか辛いものがありますが……


鄧奉を演じるのは秦俊傑は、『青雲志』の曾書書の俳優さんでもあります。正直セットで行動することが多い陰興と見分けが付きません (^_^;) 董訢とも結んで反乱の手を広げる鄧奉ですが、最後は劉秀自らが鎮圧に乗り出し、このドラマでは何かと因縁の小長安聚で、陰麗華と劉秀の目の前で自害。

さて、その頃洛陽の後宮では、胭脂が男児を出産。しかしこれが劉秀の種ではなく、実は過珊彤の兄の過康の種であることが発覚。胭脂の姓が許氏ということで、ひょっとしてこの赤ん坊が中国での早期の仏教信者として知られる楚王英なんでしょうか。

鄧奉の死の件もあってますますこじれてしまった劉秀と陰麗華の仲ですが、劉秀が新野の陰家に逗留することで和解を果たし、麗華は洛陽の宮廷に戻ることを承諾。で、戻ったら戻ったでまた過氏一党が麗華と鄧禹とのスキャンダルをでっち上げたりしております。当然のごとくそんな噂は劉秀に一蹴され、更に麗華の懐妊が発覚。この手の後宮物で妊娠は地獄展開の始まり……と思いきや、案外とあっさり男児劉陽(後の明帝)を出産します。ここらへんの後宮バトルは、麗華が南陽閥代表、過珊彤が河北閥代表という具合に朝廷の派閥争いが絡んでいることが作中で提示されていますが、それがあんまりうまく描写されていないんですよね……

このあたりから時間の流れが速くなり、隴西の隗囂や蜀の公孫述との絡みもすっ飛ばし気味に描かれます。はなっからやる気がないのか、あるいは本格的に合戦シーンをやる予算がもう尽きているのでしょうか。ちなみに隗囂と公孫述の二人は台詞の中でのみの登場となります。隗囂の使者として馬援が登場するのが、唯一歴史ファンへのサービスと言えるでしょうか。


そして後宮バトルもとい過珊彤の嫌がらせはまだまだ続きます。こちらは三人目を妊娠した陰麗華に対して、劉強・劉陽ら子供達に麗華が昔作った羽根を持ち出させて、宮殿の屋根から空を飛ばせようとするの図。その羽根、確か第1話の冒頭で出てきたやつじゃ…… 初回の伏線がこんなところで回収されるとは(白目)

今回は過氏一党が黒覆面の刺客集団を後宮の陰麗華と新野の陰家に送り込み、それぞれで大激闘が繰り広げられたあたりまで。武侠チックなアクションシーンは合戦シーンより予算がかからないしお手軽ということなのか、終盤になってもまだこうやってちょこちょこと挿入されますね。『武神趙子龍』もそうでしたけど、この手のドラマは合戦シーンはやる気がなくても、武侠的アクションは割とやる気満々だったりするんですよね。とかく予算が不足しがちな日本の大河の参考になるかもしれません (^_^;)
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2017年1月に読んだ本

2017年02月01日 | 読書メーター
大東亜共栄圏 帝国日本の南方体験 (講談社選書メチエ)大東亜共栄圏 帝国日本の南方体験 (講談社選書メチエ)感想本書で印象に残ったのは、東南アジアの人々を寛大に扱っているつもりの日本側と、現地の人々の感情が齟齬を来す部分。たとえば日本側がイスラム教・ヒンドゥー教など現地の宗教信仰を認める一方で、神社の参拝や皇居遙拝を彼らに求めてその矛盾に気付かなかったり、日本へのフィリピン人留学生が、医学などの専門分野に加えて修身も学ばされることに対して、「私たちは日本精神を学びに来たわけではない」と、英語で不満を示す話などが紹介されている。この手の寛容に見せかけた無理解は、現代の日本にも残っているのではないか。読了日:01月02日 著者:河西 晃祐

シベリア抑留 - スターリン独裁下、「収容所群島」の実像 (中公新書)シベリア抑留 - スターリン独裁下、「収容所群島」の実像 (中公新書)感想独ソ戦でのドイツ軍の捕虜や、朝鮮人抑留民、同じ日本人でも民間人の抑留と比較のうえでシベリア抑留を描き出す試み。ドイツ人も日本人も抑留体験が共産主義思想というより民主主義の学校になったという側面、「天皇制軍隊」やナチズムが収容所でのスターリン崇拝と同質のものであったという指摘が印象に残った。読了日:01月05日 著者:富田 武

ゴーレムの生命論 (平凡社新書)ゴーレムの生命論 (平凡社新書)感想同じ著者の『動物に魂はあるのか』は哲学者などの議論を追ったものだったが、こちらはゴーレム、あるいはゴーレム的な人工生命に関する物語を追ったもので、最終的には現代的な課題として生命倫理の問題に触れる。何となくこの著者に『鋼の錬金術師』の感想を聞きたくなったが…読了日:01月07日 著者:金森 修

中国再考――その領域・民族・文化 (岩波現代文庫)中国再考――その領域・民族・文化 (岩波現代文庫)感想内藤湖南以来の唐宋変革論を受け入れつつも、戦前の日本の「支那は国家ではない」というような議論を批判し、中国は特殊な国家であるとしつつも、古代の中国の領土を現代に再現しようとするような態度を批判するといった具合に、複雑な立場からの議論となっている。現在の中国の学界での歴史学の議論の中心は「領域」「エスニックグループ」「宗教」「国家」「アイデンティティ」等ということであり、日本の「支那論」などがのさばる隙はもうないようである。読了日:01月08日 著者:葛 兆光

デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える (光文社新書)デスマーチはなぜなくならないのか IT化時代の社会問題として考える (光文社新書)感想IT企業のデスマーチの原因を、ソフトウェア開発は通常の製造業とは全く異なる過程で行われるものなのに、それを無視して「ものづくり」の手法を持ち込もうとする点、そして個々のエンジニアが自らの仕事を抱え込むことが美徳とされる業界の特性に求める。個々のエンジニアのインタビューは日本のソフトウェア産業の略史ともなっていて、懐かしさを覚える読者も多いだろうが、パソコンをいじって遊びでプログラミングを身につけた者がいつしかエンジニアとなり、ソフトハウスを興すなんてことはもう過去のことになったのだなあと。読了日:01月10日 著者:宮地 弘子

パクス・デモクラティア―冷戦後世界への原理パクス・デモクラティア―冷戦後世界への原理感想「民主国家同士は戦争をしない」という民主的平和論について検証した論著。素人的な印象だが、「民主制」などの定義をいじって帳尻を合わしている面があるのではないかと感じた。また近現代の事例のみを扱っているのかと思いきや、古代ギリシアや文化人類学的な事例についても検証の対象としている。2017年現在の視点からは、原著が出版された1992年の時点で、「アラブ民主主義」にも民主的平和論があてはまるかと考察している点が光っている。読了日:01月12日 著者:ブルース ラセット

アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)感想『道徳感情論』で展開された議論を基礎に、アダム・スミスのもうひとつの著作『国富論』を読み解いていくという試み。そして『国富論』と、アダム・スミスの同時代の大事件・アメリカ独立革命との関係についても丁寧に追っている。「代表なくして課税なし」という有名な言葉について、「ではイギリス本国議会で議席を得られればアメリカ独立はなかったのか?」と常々疑問に思っていたが、本書によると、やはりそうではなかったようだ。読了日:01月14日 著者:堂目 卓生

はじめての中国キリスト教史 (アジアキリスト教史叢書3)はじめての中国キリスト教史 (アジアキリスト教史叢書3)感想景教から現代の「家庭教会」まで、中国のキリスト教布教・信仰の歴史をたどる。個人的には、第二章の宣教師の目から見た太平天国の部分を面白く読んだが、民国期のキリスト教の展開や日本のキリスト教会との関係は、これまでの概説では手薄だったところではないかと思う。読了日:01月17日 著者:石川照子・桐藤薫・倉田明子・松谷曄介・渡辺祐子

韓国の世界遺産 宗廟――王位の正統性をめぐる歴史 (京大人文研東方学叢書)韓国の世界遺産 宗廟――王位の正統性をめぐる歴史 (京大人文研東方学叢書)感想廟制からたどる朝鮮王朝史。純祖などの祖号が、本人の業績に基づいたものというよりは外戚に地位を与えるための措置であったこと、日本の統治時代にも廟制の議論があったことなどは勉強になった。本書でたびたび現れる傍系から即位した君主の実父の扱いについては、朝鮮や中国だけでなく、儒教的な文脈でというわけでもないにしろ、日本の天皇家でも問題とされたことではないかと思うが…読了日:01月20日 著者:矢木 毅

<軍>の中国史 (講談社現代新書)<軍>の中国史 (講談社現代新書)感想「中国史」とあるが、本書の読みどころとなるのは第3章の清末以後の部分。第4章は軍閥の親玉の銘々伝的な感じとなっている。「軍閥」という呼称が敵対者による批判のレッテルになっているという指摘や、晩年の孫文が国共合作と馮玉祥ら「軍閥」との連合の二股をかけていたという指摘は面白い。ただ、「国家の軍隊ではない人民解放軍」にこだわるなら、中国史上での義勇軍や義勇兵の位置づけを軸にしても良かったのではないか。読了日:01月22日 著者:澁谷 由里

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入門 東南アジア近現代史 (講談社現代新書)入門 東南アジア近現代史 (講談社現代新書)感想「多様性の中の統一」をキーワードに読み解く東南アジア史。各国史の寄せ集めではなく、土着国家→欧米の植民地化→日本の占領→独立と開発主義→民主化とASEANの結成といった具合に、ちゃんと地域史としてまとまっている。華人の土着化が進行し、もはや中国を「外国」と見ているという指摘や、ASEANが東南アジア諸国の「自称」と化しているという指摘が面白い。読了日:01月26日 著者:岩崎 育夫

トルコ現代史 - オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書 2415)トルコ現代史 - オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書 2415)感想主に第二次大戦後の状況が中心となっている。建国の祖ケマル・アタテュルクや第2代大統領イノニュが軍人出身であることもあり、常に軍部が政治への介入を図ってきたこと(これが昨年のクーデタ未遂事件の背景であるようだ)、そして親イスラムの立場からの世俗主義への反発が今に始まったことではないことが読み取れる。エルドアンの所で出てくる「ブラック・テュルク」(貧困層)と「ホワイト・テュルク」(エリート層)についは、どこの国でもこういう区分があるものなのかと思ってしまったが…読了日:01月28日 著者:今井 宏平

沖縄問題―リアリズムの視点から (中公新書)沖縄問題―リアリズムの視点から (中公新書)感想同じく中公新書から出た『沖縄現代史』と何が違うのかと思ったら、こちらは沖縄県の行政に携わる「中の人」たちによる共著。どうしても「お役人」としての立場が見え隠れするものの、沖縄が公的支出や基地経済に依存しているという意見への批判など、最低限言うべきことは言っているという印象。読了日:01月31日 著者:高良 倉吉
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