博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『天意』その9

2018年07月29日 | 中国科幻ドラマ
『天意』第39~43話まで見ました。

韓信はかつての兄弟分である項羽との戦いを避け、救出の道を探りますが、手負いの虞姫は項羽の前で剣舞を舞って自害。項羽も烏江で討ち死にし、漢王朝による太平の世がやってきます。

斉王として大国を統治する韓信の前に、いよいよ滄海客が「神の契約」の履行を求めます。その内容は山東半島沖の小島の周辺を埋め立てて10倍の広さにするという途方もない大工事でした。「10万人なら何とか動員できるが、それでも何十年かかるか……」と婉曲に否定の意を示す韓信ですが、滄海客は「30万人動員せよ。いっそ100万人、150万人なら2、3年で完成できるぞ?」とにべもありません。また韓信の「そんな民を苦しめるような大工事を行うなんて始皇帝と何が違う?」というツッコミに対して、滄海客は「ヤツは神の意志に背いたから滅ぼされた」という絶望的なまでの認識のずれを示す返答を示します。

で、工事を強行しようとするものの、群臣は猛反対、動員された民衆からも怨嗟の声が漏れます。「神」に直接談判を求め、遂に韓信&銭小芳が「神」こと女羲様とご対面。彼女は異世界というか異なる惑星から地球にやって来たものの、「星槎」(宇宙船)の着陸の失敗によって帰れなくなったと事情を語ります。「星槎」は工事を進める島の周辺の海底にあり、周辺の環境を「星槎」墜落前に近い状態に戻すことが、女羲がもとの世界にもどることが必要なのだとか。

小芳をもとの時代に戻すことを条件に(彼女がワームホールに吸い込まれたのも、女羲の実験に巻き込まれたからでした……)引き続き「神の契約」を履行することにした韓信でしたが、張良や蒯徹(なぜか武将になってます)らが猛反対。おまけに小芳が「もし女羲がもとの世界に戻ることに成功して、歴史上彼女が存在しなかったことになったら、彼女の支援で発展してきたこの文明はどうなるの?500年前の状態と入れ替わったいつぞやの陳倉古道と同じようなことになるんじゃないの?」という問いを発し、韓信は工事の停止を決意。


そして「雉神」をいじっていた小芳は、いつぞや行方不明になった後に戻ってきた天依が実はクローンであったことに気付いてしまいます。どうやら何らかの目的で女羲が自分のDNAをもとに作り、各地にまいた「種子」のひとつのようなのですが?そして彼女は張良との間の子供を妊娠しています。

韓信は張良に「天依はクローンではないか?」と思い切って「雉神」の映像を見せますが、普通に激怒されます。そして小芳がいつぞやの「照心鏡」で天依の胎児を確認しようとしたところ、彼女に拒絶され、それが原因か流産…… 韓信・小芳を絶縁した張良は、劉邦に「韓信に叛意有り」と報告。その劉邦&呂后のバックには、韓信を見捨てて新たに劉邦を「英雄」に選んだ滄海客の姿がありました……

韓信は突如斉にやって来た呂后によって楚王に封じられるも、彼が持つとされる「九鼎」の芯(実際は韓信の依頼を受けた蕭何が池に放擲)をめあてに人知れず監禁。呂后も島の拡張工事を進めようとしていることを知った張良は、翻意して韓信の救出に手を尽くすことに……
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『天意』その8

2018年07月20日 | 中国科幻ドラマ
『天意』第34~38話まで見ました。

斉との戦いに備えて修武の地に駐屯する韓信ですが、そこへ夜な夜な劉邦が到来。寝ている韓信のもとから兵符を持ち去り、30万の大軍を滎陽の地へと連れ帰ろうとします。これで今でも兄貴と慕う項羽と直接対決する役目は避けられそうだと、韓信は案に相違して「どーぞどーぞ」と劉邦に兵を譲り、そのかわり張良と蕭何を修武に残らせます。このドラマでは、韓信の青春時代の一番楽しい思い出が項羽の軍にいて楚の将兵と兄弟同然の付き合いをしていた時という設定になっているんですよね……

で、これまで陰から韓信の暗殺計画を阻止してきた「隠鬼門」の墨舞が師の墨非に捕らえられ、韓信が救出に向かったり(その後彼女は韓信の影のボディガードとなる)、火鍋屋を廃業した申屠らが韓信の陣に身を投じたりとひとしきりあり、申屠から磁鉄が大量に埋まった鉱山の情報を聞いた銭小芳が秘密兵器「百眼巨人」を作り、斉軍を散々に打ち破りますが、総勢1万数千程度の韓信に対して斉側が十数万と、まだまだ斉軍が優勢であることには変わりはありません。


そんな中、天依の体調が再び悪化を始め、もう治癒の望みがなく自分を足手まといになるばかりだということで張良らの前から姿を消し、斉軍の進撃と鉢合わせしますが、そこに神の使者・滄海客が……

そして数年。多大な犠牲を払って斉を制圧した韓信たちですが、そんな彼らの前に突然天依が戻ってきます。体調は回復したようですが、「どこで何をしていたのか?」と尋ねても「記憶にない」という彼女に困惑しつつも、滄海客が助けたのだろうと察して張良たちは彼女の帰還を喜びます。

張良は天依に告白し、結婚式を執り行うことになりますが、小芳の指導で楽隊が古楽器で結婚行進曲を演奏したりしております (^_^;) そして海の底でその様子を眺めて「これが人類の言う愛……?」とか厨二じみた台詞を吐く「神」こと女羲……

それと前後して韓信と小芳の前に突然項羽と虞姫が現れ、劉邦ではなく兄弟分である韓信と盟約を結びたいと和平を提案しますが、韓信は自分を大将軍を抜擢した劉邦は裏切れないと穏やかに拒絶。項羽も「今度会う時は戦場だな」と、これまた穏やかに訣別を宣言します。一方で韓信は斉王への冊封を望み、蕭何が滎陽の劉邦のもとに赴いて了承を取り付けます。韓信が斉王の地位にこだわるのは、滄海客が斉の地とともに韓信の斉王冊封を望んでいるからなのですが…… 

小芳は陳倉で滄海客が紛失した「雉神」を入手して以来、ずっと操作法を研究してきましたが、遂に「雉神」によってワームホールを発生させることに成功。この頃には韓信や張良も彼女が未来人であることを疑わなくなっていました。韓信はともに未来に行こうと小芳とともにワームホールに飛び込みますが……

突然のワームホールの発生に女羲が動揺していますが、小芳の方が滄海客が未来人ではないかと推測する一方で(実際は地球外生命体である女羲の僕)、滄海客や女羲は小芳が未来からやって来たとまだわかってないんですよね……
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『天意』その7

2018年07月15日 | 中国科幻ドラマ
『天意』第29~33話まで見ました。

韓信は銭小芳を捜索中に漢中から関中へと抜ける「陳倉古道」の跡を発見。小芳とも、季姜の死を受け入れ、彼女を別人格として認めるということで連れ戻します。古道の発見と「明修桟道、暗度陳倉」、すなわち蜀の桟道を修復してそこから進撃すると見せかけ、その実古道を渡って陳倉を守る章邯を襲撃するという案を提案したことにより大将軍に抜擢されます。

しかし樊噲・夏侯嬰ら古参の将が心服せず、また古道の開発も瘴気の発生や、また途中で数百年前の地形変動により道が断ち切れていることが判明し、思うように進みません。しかも劉邦から、1ヶ月以内に古道の開発を完了せよと命じられてしまいます。そこで韓信は神の使者・滄海客の「12年後に自分の力ではどうにもならない出来事がお前を襲うが、私の御主人との取り引きに応じるなら力を貸してやろう」という言葉を思い出します。

時にちょうどあれから12年経ったと思い出していると、案の定韓信の前に滄海客が出現。韓信はとうとう観念して悪魔の契約ならぬ神の契約を取り交わし、陳倉古道の開発を彼女(滄海客は作中で三人称で「她」と表現されており、女性という設定のようです)に託すことに……

開発の期限が切れる1ヶ月後に、張良が祈禱を行ってカモフラージュし、その間に滄海客が本当に山を切り開いて古道の開発に成功。漢軍は古道を渡って陳倉へと進出を果たします。しかし本当に古道を切り開いたのか不審を感じる小芳。地元陳倉の廟で、500年前に秦の文公が戎を征伐した際に「天兵」を目撃したという伝承を知り、滄海客は本当に山谷を切り開いたのではなく、時空をねじ曲げて地形が変動する前の古道を韓信たちの時代に移したのではないか、秦の文公らが目撃した「天兵」とは実は自分たち漢の兵だったのではないかと推測し、その時に滄海客が紛失し、陳倉の廟に500年間奉納されていた神器「雉神」をゲットします。

その後韓信は廃丘を守る章邯を水攻めで降す一方で、劉邦は諸侯と連合して60万の大軍で彭城へと攻め寄せますが、たった3万の項羽の軍に大敗。その間に再び滄海客が韓信の前に姿を現し、「神」の指令としてどういう訳か三斉の地を落とすよう命じますが、その際に「お前、陳倉古道で時空をねじ曲げただろう?」とこの時代の人間が発するはずのない語彙を耳にして、さすがに驚いています (^_^;)

韓信は敗走してきた劉邦を受け入れ、蕭何・張良とともに態勢の立て直しを図ります。

その頃、急速に体調が悪化していく天依の身を案じた韓信は、彼女を治療するには滄海客に頼るほかなく、彼女の指令通りに斉地を落とせば再び接触できるかもしれないと考え、東進に張良・天依を帯同。しかし斉地で天依は体調を回復し、かつ刻一刻と変化する情勢を前に、斉地攻めを優先して項羽との戦いを避けようとする韓信の行動を劉邦が不審に思い始め……というところで次回へ。
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『天意』その6

2018年07月10日 | 中国科幻ドラマ
『天意』第24~28話まで見ました。

鴻門宴@火鍋店ですが、このドラマの世界線では項伯が存在しないので韓信がそのかわりを果たしているのと、余興でなぜか銭小芳と虞姫がタンゴを踊ったこと以外はおおむね『史記』の記述通りに推移します。そして適当なタイミングで劉邦を逃そうということで、韓信と申屠は山寨の隠し穴から劉邦らを脱出させますが、この隠し穴っていつぞやのカリブの山賊こと禿鷲団に包囲された時に掘ったやつじゃ…… 

劉邦が鴻門より立ち去ったことを知った范増はただちに兵を派遣して殺害しようとしますが、そこへ滄海客が不思議な力()で劉邦らを助けます。滄海客、上空から宴の様子を眺めて文字通り上から目線で「愚かな人間どもが……」とかつぶやくだけじゃなかったんですね (^_^;)

で、鴻門宴の後に項羽に従って咸陽に入城した韓信&小芳ですが、宮殿で始皇帝が探し求めた東海君の姿が滄海客にそっくり(というか滄海客の別名なのですが)であることを知り、その正体を探るために、そして小芳が元の世界に戻るための手がかりになるかもしれないということで、彼が始皇帝に与えたという「照心鏡」(内臓など人間の体内を透視できる宝物)や、歴代の王朝に伝えられた「九鼎」(これも女羲・滄海客が人間に与えた神器の模様)を捜索しているうちに、韓信の師父・尉繚と再会。

韓信は彼の力で何とか季姜=銭小芳の記憶を取り戻せないかと相談しますが、彼女を診た尉繚は、小芳が未来の世界からやって来たことを察知。尉繚はそこから更にかつての主君・始皇帝が追い求めた仙境が実在し、東海君=滄海客が詐欺師ではなく本当に異世界からやってきた可能性に思い至り、ショック死してしまいます。尉繚は今際の際に韓信に「神はお前に一切のものを与えることができるが、またあらゆるものを持ち去るであろう」という不気味な予言を残しますが、これが終盤の伏線になっていくのでしょうか……

鴻門宴の頃から范増は韓信の力量を認める一方で、敵に回れば大変なことになるということで、項羽に「韓信を将として待遇するつもりがないのなら、いっそ殺してしまいなさい」と助言したりしていましたが、遂に韓信を始末しようと項莊らを動かして行動を開始。追われる身となった韓信と小芳は、見捨てられた阿房宮へと逃げ込み、そこで発生したワームホールに吸い込まれ、漢王となった劉邦の治める南鄭の地にワープ。そこで出会ったのは…… 


崖から落ちて死んだ蕭何なんてやっぱりおらんかったんや!!墓泥棒から今や漢の丞相となっていますが、崖落ち以降の経緯はここでは語られません。番外編『天意 超能篇』のテーマになるのでしょうか……

これで蕭何・張良・韓信と「漢初三傑」がそろい踏みしたわけですが、劉邦は項羽の配下だった韓信に冷たくあたり、鴻門宴の際に危うく殺害されるところだったということで韓信を棒叩きの刑に処します。韓信は蕭何の紹介で取り敢えず治粟都尉に任命されます。しかしこの「漢初三傑」も、小芳が前々から韓信らに「あんたたちは将来「漢初三傑」として活躍することになるんだからね!」と言いまくってたせいで、予言の自己成就的な面がなきにしもあらず……


で、劉邦の宝物庫から張良が咸陽で接収した「九鼎」を発見。かつ小芳は「照心鏡」も発見しますが、そこで小芳の意識が乗り移る前の季姜の様子が映し出され、動揺した小芳は韓信に季姜の身代わりとしてしか扱われない状況に嫌気がさし、別離の置き手紙を残して韓信のもとから立ち去ります。韓信は彼女を捜索するために南鄭の宮殿を立ち去り、蕭何も小芳・韓信の後を追いますが、それは満月の晩のことでした……ということで元ネタとは全く違う状況のもとで「蕭何、月下に韓信を追う」の故事が実現してしまいました (^_^;) ということで次回へ。
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『天意』その5

2018年07月05日 | 中国科幻ドラマ
『天意』第19~23話まで見ました。

東林駅亭での包囲戦は張良率いる援軍が間に合ったこともあり、多大な犠牲を払いつつ何とか項羽・虞姫・韓信の三人は生還。しかしその後も正面突破・正攻法での勝負にこだわり計略の使用を拒絶する項羽と、計略によってできるだけ味方の犠牲を少なくしようとする韓信との間の亀裂が深まるばかり。とうとう韓信は都尉から伝書鳩の飼育係に降格されてしまいます(伝書鳩は銭小芳の助言によって韓信が導入した)。「神」こと女羲と滄海客は、韓信を項羽から離れさせて張良と合同させようと画策しておりますが……

その間に項梁が雑にナレ死のような形で戦死。後任の上将軍(ドラマでは大将軍とも)の人選が問題となります。項羽は当然自分が上将軍の地位に就くものと思っていますが、項氏の傀儡であることに不満を持つようになった懐王(いつの間にか子役から大人になりました)は、張良の入れ知恵で宋義を上将軍、項羽を次将軍とします。項羽は激怒するも、鉅鹿の戦いが終わったら上将軍の座を譲るという宋義の言葉を信じ、意気揚々と秦との戦いに出征。

項羽の軍は敵の罠にはまって占領した宜城で秦軍に包囲されるも、腹に一物抱える宋義は援軍を送ろうとしません。宋義の魂胆を見抜いていた韓信は、項羽に秦軍の包囲を強行突破して宋義のもとに戻り、彼を脅して援軍を得るよう提案。で、単騎舞い戻った項羽に会おうとしない宋義ですが、韓信が授けた秘策により、項羽は宋義を殺害して上将軍の地位を取って代わり、ムリヤリ援軍を確保。一般的には項羽の暴虐のひとつとして数えられる宋義殺害ですが、このドラマでは韓信の献策によるものということになってるんですね。

で、宜城の危機を切り抜けた後、韓信は功績により都尉に復帰しますが、相変わらず項羽は韓信の献策をスルーしながらも彼を側に置き、韓信も相手が嫌がると知りつつ献策を続けて不興を買うという何かのプレイのような関係を続けています。韓信の能力を評価する范増は、項羽に彼を将として待遇しないならいっそ殺害してしまえと嗾けますが、項羽はさすがにそれはできないと拒絶。

懐王が諸将に先に咸陽を陥落させた者を関中王とするという「懐王の約」を発すると、項羽はまたぞろ正面突破にこだわり、秦軍最強の「大風鉄騎」を何とか撃破したと思ったら、その間に張良の策によって迂回路を取った劉邦が咸陽に入城。城中の財宝に浮かれる劉邦を尻目に、張良は秦の戸籍簿や地図こそが本当の財宝だと書庫の中の竹簡類を一所懸命に接収。これ、本当は崖から落ちたまま行方不明の蕭何のエピソードなんですけどね…… そう言えばこの様子を見ていた樊噲に「だんだん丞相に似てきたな」なんて言われていますが、この丞相ってもしや……?

項羽は咸陽に攻め入って劉邦の軍を殲滅しようとしますが、項羽が攻め入ってくる前に劉邦を咸陽から待避させようとする張良と、咸陽で軍民ともに大きな犠牲を出すことを望まない韓信の思惑が一致。二人の主導により項羽と劉邦との間で会談が持たれることになりますが、その会談の場所が問題に。そこで韓信が咸陽の近郊で申屠たちと再会。小芳と蕭何が山寨から旅立った後、彼らは山賊・墓泥棒稼業をやめ、小芳に教えてもらった火鍋で店を開き、火鍋店が繁盛していたのでした。


山賊時代の申屠。韓信は咸陽にほど近い鴻門山の申屠の火鍋店を会談の場所に設定。ここで小芳が申屠の山寨で火鍋を振る舞った話が生きてくるのですか(白目) このドラマ、何気にしょーもないエピソードを伏線として丁寧に生かしてくるんですよね……


ということで鴻門宴@火鍋店です (^_^;) 項羽は唐辛子のきいた辛い方のスープがお気に召したようで、上機嫌で劉邦の差し出した秦の玉璽を受け取りますが、范増は劉邦の殺害を謀っているようで……
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2018年6月に読んだ本

2018年07月01日 | 読書メーター
天皇と儒教思想 伝統はいかに創られたのか? (光文社新書)天皇と儒教思想 伝統はいかに創られたのか? (光文社新書)感想
お田植えと養蚕から始まり、祈年祭などの祭祀、誰を天皇として認め、代数をどうカウントするかという皇統、太陽暦の導入、そして昨今問題になっている元号と、天皇にまつわる伝統の多くが近代に創られたものであったということと、その「創られた伝統」の根源に儒教思想があるということを見ていく。「儒教に支配されている」のは悲劇かもしれないが、それを自覚できないのは喜劇ではないか、そんなことを考えさせられた。
読了日:06月04日 著者:小島毅

日本人はなぜ存在するか (集英社文庫 よ 31-1)日本人はなぜ存在するか (集英社文庫 よ 31-1)感想
日本人は集団的であるとされている、そういう評価を真に受けて日本人が本当に集団主義的に振る舞いはじめるというような「再帰性」をキーワードとして見ていく日本人論だが、それと同時に哲学、社会学、歴史学、カルチュラル・スタディーズなど、人文科学系の諸分野の良い導入にもなっている。『中国化する日本』は発想の奇抜さの陰で綿密さを犠牲にしているが、こちらは堅実な論調になっているように思う。
読了日:06月06日 著者:與那覇 潤

初期室町幕府研究の最前線 ここまでわかった南北朝期の幕府体制 (歴史新書y)初期室町幕府研究の最前線 ここまでわかった南北朝期の幕府体制 (歴史新書y)感想
第一部では尊氏と直義による「二頭政治論」など佐藤進一の学説を検証し、第三部では今谷明による足利義満の位置づけを検証するといった具合に、研究の現状の提示とともに、これまで一般の読者にも広く受け入れられてきた大家の学説の克服という性質が強い。本を書く側からすると、こんなニッチな分野(失礼!)で一般書でここまで突っ込んだ議論ができているのが羨ましい。
読了日:06月09日 著者:

シリーズ<本と日本史>2 遣唐使と外交神話 『吉備大臣入唐絵巻』を読む (集英社新書)シリーズ<本と日本史>2 遣唐使と外交神話 『吉備大臣入唐絵巻』を読む (集英社新書)感想
副題に「『吉備大臣入唐絵巻』を読む」とあるが、絵巻はあくまで遣唐使にまつわる資料のひとつという扱い。阿倍仲麻呂・吉備真備らの話と新羅の崔致遠の話や、あるいは現代の香港・パリで消えた花嫁の都市伝説とを対比し、海外に出た者のイメージを追ったり、彼らの話を外交にまつわる起源としての「外交神話」と位置づける視点が面白い。
読了日:06月11日 著者:小峯 和明

人はなぜ戦うのか - 考古学からみた戦争 (中公文庫)人はなぜ戦うのか - 考古学からみた戦争 (中公文庫)感想
主に考古学の知見から、日本古代の戦争のあり方を探る。日本の古代はアジア的な専制国家よりは、ポリスが林立し、かつそれにも関わらず人々が生活様式などの面で一体性を持っていた古代ギリシアに似ているという話や、武器の実用性・機能性よりは装飾性を増す方向で発達した期間が長く、騎馬戦対のような新しい軍事技術の導入には消極的な態度を取ったようで、そこから日本人の軍事思想に対する保守性が読み取れるのではないかという話が面白い。
読了日:06月13日 著者:松木 武彦

漢倭奴国王から日本国天皇へ――国号「日本」と称号「天皇」の誕生 (京大人文研東方学叢書)漢倭奴国王から日本国天皇へ――国号「日本」と称号「天皇」の誕生 (京大人文研東方学叢書)感想
中国学者の立場からの日本・天皇号に対する観点を提示するということだが、倭国=倭奴(わど)国説などいくつかの説を除いては、一般的な話を手堅くまとめていという感じ。白村江の戦いは日本側にとっては唐との全面戦争であるが、唐側にとってはあくまで百済の残党との戦いであり、両者の認識にずれがあるという話は面白い。ただ、昨今流行の「東部ユーラシア」の観点からの外交論と比べると、全般的に物足りなさを感じる。
読了日:06月15日 著者:冨谷 至

歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史感想
本書で用いられている「自然実験」とは自然科学での操作的実験とは異なり、類似した条件設定をもつ過去の事象を比較する研究法で、社会科学の分野ではよく用いられているとのこと。俎上に挙げられているのは人類学的な題材ばかりなのかと思いきや、第7章のフランス革命の拡大やナポレオンの侵略がドイツ各地の都市化や経済成長に与えた影響のようなテーマも含まれている。本書の論考は試論的な性質が強いが、ほかの題材ではどのようなアプローチが可能か考えさせるようなものになっている。
読了日:06月18日 著者:ジャレド・ダイアモンド,Jared Diamond,ジェイムズ・A・ロビンソン,James A. Robinson

「神国」日本 記紀から中世、そしてナショナリズムへ (講談社学術文庫)「神国」日本 記紀から中世、そしてナショナリズムへ (講談社学術文庫)感想
中世日本の「神国」思想とは、日本は仏・菩薩が垂迹した神が国土を守っており、仏・菩薩が直接守る天竺・震旦といった「仏国」とは異なるというもので、他国への優越性ではなく特異性を主張したものであるという主張を軸に、鎌倉新仏教の弾圧や蒙古襲来について議論を進める。この著者の見立てが正しいとすれば、「ナンバーワン(=優越性)よりオンリーワン(=特異性)」という発想が案外日本の伝統に則っているのではないかということになりそうだが…
読了日:06月24日 著者:佐藤 弘夫

帝国議会―西洋の衝撃から誕生までの格闘 (中公新書)帝国議会―西洋の衝撃から誕生までの格闘 (中公新書)感想
幕末の「公議」の主張から第一議会閉会までの帝国議会開設史。大日本帝国憲法に議会の役割として「協賛」の語が用いられた経緯、元老院の果たした役割、そして当初は元老院がスライドして上院となると見られていたが、結局閉院に至ったという経緯などを面白く読んだ。
読了日:06月25日 著者:久保田 哲

図説 室町幕府図説 室町幕府感想
将軍・管領・鎌倉府などの役職・機構を解説する第1部、政策・制度について扱う第2部、観応の擾乱や応仁・文明の乱など各時期の合戦・政争を紹介する第3部の三部構成。簡潔かつ一定の水準を保った内容で、室町幕府を理解するうえで良い解説書となっている。人物伝に頼らず機構や制度の解説に徹する構成は他の地域・時代史の入門書の優れたフォーマットになりそう。
読了日:06月27日 著者:丸山裕之

知の古典は誘惑する (岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ)知の古典は誘惑する (岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ)感想
東西の古典をその分野の研究者が紹介するという趣旨だが、知名度のある『古事記』『論語』『老子』よりも、中村元による和訳がわかりやすすぎて批判されたという『真理のことば(ダンマパダ)』、挿話の中に挿話が入るという形式が現代インド人のおしゃべりにそっくりという『ヒトーパデーシャ』、書物の形態から説き起こす『トーラー』、ソクラテスやデカルトへの批判の比重が大きい『ゴルギアス』『方法序説』の紹介のしかたが興味を引くものになっている。
読了日:06月28日 著者:

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