博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『青雲志』その11(完)

2016年11月30日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第51~最終55話まで見ました。

青雲山では張小凡を囲んで三派会審が開かれますが、ここで小凡と「天音閣」の普智との関わりが一同に明らかにされます。そして魔教のスパイであることがバレそうになった蒼松は、先手を打って掌門の道玄を負傷させ、青雲門の至宝「誅仙剣」奪取のために襲来した「鬼王宗」「万毒門」「長生堂」など魔教連合軍を青雲山に導き入れ、青雲山を舞台に正派と魔教との大戦が勃発。

ここで蒼松が、田不易を「このデブ野郎、大竹峰の首座でいられるのは誰のお陰だ?万剣一に目を掛けられてなかったら、お前なんかただの鈍くさいデブだったくせに」と罵倒したり、陸雪琪の師匠・水月を、万剣一に片思いしていたくせに、いざという時になって見捨てたと罵ったり、青雲門のお偉方の黒歴史を次々と暴露していきます (^_^;)

小凡らの奮闘もあって一旦は撤退した魔教側。しかし正派の側も道玄以下負傷者や死者が続出し、再度の襲撃には耐えられそうにありません。一方、魔教側も、万毒門の掌門・毒神が鬼王宗の朱雀使・幽姫にセクハラしようとしたとか、その毒神の法宝が何者か(実は内部に潜入した小凡たち)に盗まれただとか、割としょーもない事情で仲間割れ。

で、何とか体制を整えて青雲山へと二度目の襲撃を仕掛ける鬼王宗ですが、ここで道玄がいよいよ誅仙剣を持ちだし、どさくさに紛れて小凡を始末しようとし、その意図に気付いた碧瑶が彼を庇い、誅仙剣で身体を刺されてしまいます。大戦の後、なぜか鬼王に助け出された小凡は、危篤の状態にある碧瑶を復活させるために、わずかな希望を抱いて観星崖へと向かい……

【総括】
ということで完結していません。
続きは鋭意制作中の第2部で、ということみたいですね。蕭逸才が鬼王宗のスパイとバレていない件とか、OP映像にちらりと映っている闇落ちした小凡といった伏線も、第2部で回収されるんでしょう。たぶん。

本作については中だるみが酷いという意見が多く見られますが、私の感触だと中だるみは全く感じませんでしたね。というか、本作より話数が短いのに中だるみが酷い作品なんていくらでもありますからね。『逆水寒』とか『流星蝴蝶剣』とか『大敦煌』とか。真の問題は中だるみなどではなく、金庸の『笑傲江湖』とか『倚天屠龍記』の二番煎じにしかなっていない基本設定とかストーリー展開だと思います。「魔教を非難しなきゃ正派の人士に邪派扱いされる江湖」という『笑傲江湖』のテーマを追求してくれるならパクリでもいいという気持ちで見てきましたが、果たして第2部でそのテーマが深められるのでしょうか?
コメント (2)
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『青雲志』その10

2016年11月25日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第46~50話まで見ました。

流波山でいよいよ「神獣夔牛」が出現。「鬼王宗」の攻撃にさらされる正派諸派をありったけの力で助ける張小凡ですが、その際に師門「青雲門」だけでなく、普智から授けられた「天音閣」や「天書」の武功を使用したことが見咎められ、天音閣から青雲門に送られたスパイ、あるいは魔教の手先ではないかと詮索を受けることに……

神獣夔牛の一件が片付いた後、青雲門では掌門と七脈の各首座が天音閣・焚香谷の代表を招いて「三派会審」を開催し、小凡を審問することを決定。小凡はそれまで暫時謹慎となります。天音閣の武功をどこで身につけたのかと問い詰める師父・田不易に対して、事情を誰にも明かさないという普智との約束を盾に黙秘を貫き、師の怒りを買う小凡ですが、このシチュエーションは言うまでもなく金庸『笑傲江湖』のそれをなぞったものですね。

ここで「祖師祠堂」に隠された青雲門の至宝「誅仙剣」を奪い取ろうと秦無炎と金瓶児が侵入し、ついでに祖師祠堂の番人・万剣一と鬼王宗の朱雀使・幽姫との悲恋が語られます。いつぞやの曾書書が母親から聞いた昔話を題材にした演劇の脚本は、この話が元になってたんですね。そしてこの時に「碧瑶も来てるかも?」と気が散って秦らを取り逃がしたということで、雨の中跪いて師父に許しを請うことになった小凡ですが、そこへ本当に碧瑶が到来。


こうして恋人同士が二人で雨に打たれて跪くというシチュエーションも既視感が溢れますが……

三派会審の結果如何によっては小凡が処刑されるかもと、碧瑶が嫌がる小凡を連れ去ろうとしたところ、様子を見に来た陸雪琪に見咎められて乱戦となり、ドサクサに紛れて師に即いて青雲門にやって来ていた旧知の阿相によって天音閣に連れ去られます。そこで小凡は掌門の普泓から、すべての始まりとなった草廟村の虐殺の真相を知らされます。

七年前に「噬血珠」を手に入れた普智は、天音閣と青雲門の武功を組み合わせれば噬血珠の力が引き出せると、青雲門での修業を掌門の道玄に申し入れますが、あえなく拒否。で、帰り道に「煉血堂」の黒覆面に襲撃されて内傷を負い、草廟村で同じく黒覆面に襲撃された驚羽を治療するために内功を消耗させたことで、噬血珠の魔力に魅入られます。そして心願である青雲門と天音閣の武功の融合のため、小凡を弟子として自分の武功と噬血珠を授け、更に青雲門の同情を買って入門が認められるよう、村人たちを虐殺したという次第。草廟村の虐殺の下手人は黒覆面ではなく、外ならぬ普智その人なのでした。(ついでに普智は死んでおらず、生きていたことも判明)

ではその黒覆面の正体はということですが、今度は驚羽がその正体を突き止めます。七年前に自分や普智を傷つけ、更に青雲門で魔教のスパイとして活動していたのは、彼の師父の蒼松なのでした……


黒覆面バージョンの蒼松。もともと煉血堂の配下として誅仙剣を狙うために青雲門に潜入。煉血堂の崩壊に伴ってスパイ業務から手を引こうとしたものの、誅仙剣の魔力に魅入られた先代の掌門・天成子が門徒の虐殺を開始し、それを収拾した万剣一が、今度は新たな掌門の座を狙う道玄によって魔教の手先として誣告されるといった経緯を見て、正派にも嫌気がさしたとのこと。つーか誅仙剣も立派な呪いのアイテムだったようです……

そして小凡の帰還を承けて三派会審が開始されますが…… ということで次回更新分で完結ですが、小凡が闇落ちしそうでなかなかしません (^_^;)
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『青雲志』その9

2016年11月16日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第41~45話まで見ました。

張小凡・陸雪琪と三尾は、心魔(心の闇)に冒された六尾を救うために、彼の過去の記憶の中へと飛び込みます。六尾が「焚香谷」から「玄火鑑」を盗みだそうとしたのは、自分の母親を救うためであったことが判明しますが、結局彼を救うことはできず、六尾は玄火鑑を密かに小凡に託して、崩れ去る黒石洞の中で恋人の三尾とともに死ぬ道を選びます。

ここらへんで碧瑶の記憶も完全に取り戻されます。満月の夜の砂漠で2人だけの時間を楽しみますが、近い未来の状況を映し出すという「満月井」の水面に碧瑶が掌門・道玄らしき人物によって殺害され、自らも重症を負うという幻影を目にしてしまった小凡は、碧瑶の身を守るために彼女との別れを決意します。

生き残った小七ら狐族の安全を見届けて、小凡らは小池鎮を去ることに。玄火鑑は本来焚香谷の人々に返すのが筋なのですが、李洵・燕虹や、応援に駆けつけた彼らの師叔・上官策らの傲慢な振る舞いを快く思わない小凡は敢えて碧瑶に託すことにし、焚香谷の一行との確執が深まります。雪琪が「青雲門の使命は妖魔と戦うことのはずなのに、逆に妖魔を助けることになるなんて…」と言ってるのがなかなか味わい深いです。

その頃青雲山では、流波山に神獣「夔牛」が出現し、「獣神」復活の素材になるということで「鬼王宗」が狙っているという情報が伝わり、夔牛の取得を阻止するために、小凡らの師父にあたる田不易や蒼松らが現地に派遣されることになります。同じく正派の「天音閣」や焚香谷からも人員が派遣され、魔教からは鬼王が「万毒門」の秦無炎・「合歓派」の金瓶児ら魔教諸派を伴って到来と、正派と魔教とが一触即発の状態となります。

で、雪琪とともに青雲山に戻るはずだった小凡も流波山へと向かいますが、ここで小凡が焚香谷の上官策らによって捕縛されてしまいます。彼を人質にして碧瑶から玄火鑑を取り戻そうという腹なのですが、碧瑶や鬼王が小凡を救出し、焚香谷の非道を責めます。鬼王が言うように、「これではどちらが悪者かわからん」のですよね……

鬼王は、正派と魔教の板挟みのようになっている小凡に、いっそ「鬼王宗」に入らないかと誘いを向けますが、師門は裏切れないと拒否し、鬼王の心証を損ねます。鬼王のもとから解放され、田不易や霊児らと合流した小凡ですが、焚香谷の一行はもちろん、驚羽の師匠の蒼松ら青雲門のお歴々からも魔教と結託しているのではないかと疑われ……
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『青雲志』その8

2016年11月10日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第36~40話まで見ました。


今回いきなり画像から。小環(左)と三尾。

攫われた小環と「玄火鑑」の行方を追って大砂漠へと足を踏み入れた張小凡・曾書書・陸雪琪と李洵。しかし途中で馬賊に捉えられてしまいます。その馬賊の頭目の仮面の男は、旅人を捉えては砂漠の魔物「沙葵」の犠牲に捧げていたのですが、ここで雪琪が幼少の頃にやはり同じ馬賊に沙葵の犠牲に捧げられそうになったという、彼女の身の上とトラウマが明かされます。

そこへ通りすがりの「金剛派」の青年・石頭に救出され、馬賊のアジトから脱出する一行。小環の追跡を続けるうちに、今度は流砂に飲み込まれそうになってる砂漠の案内人・駱野を救出し、彼の案内により、砂漠のオアシス「小池鎮」に到着。


この時に馬賊のアジトで奪った謎の卵から、小猿の小灰に続く新たなゆるキャラが登場 (^_^;) 霊獣好きの書書は「小灰といい、なぜ小凡だけが霊獣に好かれるのか」と怒っておりますが……

石頭は、一同に自分が実は人間に化けた狐族の母親と人間の父親とのハーフであるという身の上を明かし、しかも母親がこの小池鎮の出身ではないかということで住民への聞き込みを始めますが、住民は素知らぬ顔。実はこの小池鎮、人間の手から逃れてきた狐族の集落なのでした。そして小環を攫った三尾も、この集落に住まう狐族の一人で、いつぞやの定海山荘のあたりで登場した六尾と恋人同士とのこと。その六尾が焚香谷へと忍び込み、焚香谷の法宝による寒毒を受けて逃げ帰ってきたので、寒毒を抑えるために、強い炎の力を持つ玄火鑑を必要としていたという次第。

で、鬼王の命により、玄火鑑を追って集落までやって来た秦無炎と碧瑶も話に絡んできます。ただし碧瑶は父親の法術により小凡との記憶を無くしてしまっており、また秦無炎が過去の行きがかりについてあることないことを吹き込んでいるので、小凡を一方的に敵視しています。ただ、秦無炎の話がどこかおかしいと察しているあたり、やはり地頭力はある子なんだなと (^_^;)

ここで案内人の駱野の正体が実は今回の冒頭で出てきた馬賊の頭目であることが判明。馬賊をやってる時は仮面をつけてたから同一人物とは気がつかなかったって、そんなのアリなのかとw 秦無炎の手下として暗躍し、集落の人々が毒を飲むよう仕向けたり、小凡らを罠にはめたりします。一方の小凡らも、六尾の弟分でやはり旧知の小七によって、何とか自分たちに不信感を持つ三尾と協同するようになり、人知れず砂漠の地下の黒心洞で玄火鑑で寒毒を押さえつけている六尾の治療に当たることに。

記憶を失って以来小凡を敵視していた碧瑶ですが、黒心洞で二人きりになり、次第に断片的に記憶を取り戻していきます。しかしそこへ玄火鑑を取り戻そうとする李洵ら焚香谷の一行が黒心洞に押しかけ……というところで次回へ。
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『青雲志』その7

2016年11月05日 | 武侠ドラマ
『青雲志』第31~35話まで見ました。

「鬼王宗」と「万毒門」との盟約が成立したということで、碧瑶が秦無炎に奪われた第二の天書は、彼を通じて鬼王の手に渡ります。天書を取り戻そうと、碧瑶とともに鬼王宗の総本山・狐岐山に登る張小凡。そこで鬼王から、五年前の草廟村での虐殺に関して、青雲門が何らかの事実を隠しているのではないかという示唆を与えられます。そして小凡の体内にある第一の天書をそのままにしておけば、師門・青雲門や、普智から授けられた天音閣の内功と不調和をおこして廃人となるしかないが、鬼王宗に入門して天書を取り出してもらうか、そのまま廃人となるのを待つかという選択を迫られます。当然のごとく小凡は入門を拒否し、そのまま狐岐山に軟禁して足止めを食らうことに。

その間、碧瑶は、二人を引き離そうとする父親の鬼王の計らいにより、小凡に関する記憶を根こそぎ奪われてしまいます。

一方、小凡との合流を待たずに青雲山へと帰還した林驚羽と蕭逸才ですが、驚羽は事前に蕭から「獣神の血」が混ざった血を密かに飲まされており、その効果によって掌門・道玄ら師門の人々の目の前で獣化して暴れ、また驚羽が碧瑶ら魔教と結託しているのではないかという蕭の誣告もあり、拘禁され、師父・蒼松の手により武功を廃されることに。


ここまで順調に新世代のホープとして成長し、期待されていた驚羽でしたが……

そしてそのまま下界に追放処分となるところで、小凡の師父・田不易や陸雪琪の決死の擁護により、青雲山に留まることを許され、「祖師祠堂」で謎の人物・万剣一の指導で修業に励むことになります。


黄海氷演じる万剣一。やはり青雲門の弟子の身分を剥奪された過去を持つ模様。田不易とも長年の交友があるようですが……?

田不易は、序盤では弟子の不甲斐なさを叱りつけるばかりで碌な指導をしない、ちょっとしたことで機嫌を損ねる、それでいてなぜか奥さんが美人で気立てがいいと、指導者としてこれはちょっとどうかと思う部分が目に付きましたが、ここに来て一気に評価が爆上げされましたね。当の驚羽も以前小凡に「あんな師父なんかこちらから願い下げにして、掌門に頼んで新しい師父をあてがってもらいなよ?」と言っていたもんですが、当の本人に弁護してもらうことになるなんて予想もしなかったでしょう(^_^;)

そして雪琪は小凡を連れ戻す役目を仰せつかり、狐岐山の麓で解放された小凡と再会しますが、彼女が小凡の師娘・蘇茹から託された手紙に「事態は切迫している。この手紙を持ってきた相手が誰であろうと青雲山に戻ってはならない。師父から連絡があるまで逃げろ」とあったことにより、青雲山への帰還を拒否。険悪な雰囲気になりかけますが、そこへ曾書書が登場。従兄の李洵が妹弟子・燕虹を引き連れて、焚香谷の法宝「玄火鑑」で石化した衛老城主を治すということで、渝都城主の座を追われてしまったとのこと。

取り敢えず渝都城に赴く三人ですが、李洵と燕虹の横柄な態度に業を煮やした小環がこっそり玄火鑑を奪い取り、更に玄火鑑ごと小環が謎の白衣の妖女・三尾に捕らえられ、砂漠へと連れ去られ、小凡・書書・雪琪と李洵がその後を追うというところで次回へ。小環が三尾に「焚香谷はイヤな人たちばっかりだから玄火鑑なんて持ってっちゃっていいよ。そのかわり私は解放してね?」なんて言ってるのが微笑ましくていいです (^_^;)
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2016年10月に読んだ本

2016年11月01日 | 読書メーター
高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))感想
もっと伝奇っぽい作品かと思ったら、原典に伝奇要素を加味するという作風で、事前に思っていたよりずっと『高慢と偏見』でした。「お忘れにならないで、わたしは少林派の弟子なんですよ。」とか「ミスター・コリンズは天国の話をするのが大好きなようだし、わたしが死ぬより先に、ゾンビの群れに襲われて天国に旅立ってくれるかもしれんよ」などという会話がさり気なく挿入されているのがミソか。
読了日:10月2日 著者:ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス

北京大学版 中国の文明 第2巻 古代文明の誕生と展開<下>北京大学版 中国の文明 第2巻 古代文明の誕生と展開<下>感想
今巻は鉄器の使用、都市と商業、宗教と信仰など、生活史・文化史が中心。漢字の起源に関する章もあり、人によっては前巻より今巻の方が面白く読めるかもしれない。出土文献の使い方についても、前巻ほどの違和感はない。
読了日:10月5日 著者:

真田信繁の書状を読む (星海社新書)真田信繁の書状を読む (星海社新書)感想
真田信繁に関連する書状を年代順に提示して読み解いていき、その内容を掘り下げていこうという試み。信繁の生年、血縁の者とのつながりと、年代ごとの関係性の変化、大坂の陣の前後の動きなど、個々の書状から読み取れる信繁の足跡が意外に多いことを示すとともに、「史料を読む」という歴史学本来の営みの面白さも伝えてくれる。
読了日:10月7日 著者:丸島和洋

「世界史」の世界史 (MINERVA世界史叢書)「世界史」の世界史 (MINERVA世界史叢書)感想
前半が日本・中国・古代ギリシア・中央ユーラシア等々古今東西の世界像の提示、後半がマルクス主義の世界史・世界システム論・現代日本の世界史教育など、世界史学史の話となっている。本書を読んでの私の理解では、現在の高校や大学での世界史教育・研究の問題点は、個々の研究者や教員の怠慢というよりは、これまでの大学の学科・専攻の割り振りレベルからの構造上の問題が大きく影響しているようだ。史学史研究が独立の分野となっているように、世界史の研究を独立の分野とすることを真剣に検討するべきではないか。
読了日:10月10日 著者:

高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)高大接続改革: 変わる入試と教育システム (ちくま新書)感想
一部ICT教育について触れている箇所もあるが、内容はほぼ高校・大学でのアクティブラーニングの必要性とその実践例の話に集中している。その理念や、導入の必要性についてはわかったが、「ゆとり教育」を導入しておきながら、世間の批判を受けて掌を返して「詰め込み教育」へと反動した実績があるだけに、文科相がそっちの方向に100%舵を切るのかには疑問が残る。企業で導入が進められた「成果主義」のように、上っ面だけをまねて、教育の状況をより悪化させる方向に進むのではないか。
読了日:10月11日 著者:本間正人,山内太地

中国古典学への招待―目録学入門 (研文選書)中国古典学への招待―目録学入門 (研文選書)感想
よくある目録学史の類かなと思っていたが、『中国叢書綜録』など近現代の成果についても(新しいものは1990年代の成果についても)詳しく解説されている。『古今小説』が『喩世明言』と改められた事情など、豆知識の類も豊富に盛り込まれている。
読了日:10月15日 著者:程千帆,徐有富

「日本」 国号の由来と歴史 (講談社学術文庫)「日本」 国号の由来と歴史 (講談社学術文庫)感想
文庫化を機に再読。「日本」がもともと中華的世界観の中で東の果ての地域を指す語であったのが、倭国の王朝名として採用され、それが国号と化し、時代の経過に従って新たな意味づけが付加されていくさまを描き出す。近年公表された祢軍墓誌の「日本」については、同墓誌中の「風谷」の語と対になっているということで、少なくともこの墓誌の中では国名として使われていないということで納得。しかし日本国号の問題を突き詰めていくと、網野善彦のように、現代もこの国号を使用し続けているのは妥当かという問題に行き着くはずだが…
読了日:10月17日 著者:神野志隆光

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)感想
中国による帝国主義的進出とか資本主義経済の破壊といったような、否定的な文脈で語られがちな中国人のアフリカ進出や中国の山寨商品だが、「下からのグローバル化」「Living for Today」という発想から見ると、肯定的に評価することができるようだ。中国人と、著者がフィールドとするタンザニアの人々は、かなりの程度世界像や人生観を共有しているということだろう。(そしてそれぞれ日本人とは共有していない。)スマホを利用した電子決済システムが普及し、多様な使い方がされているというのも両者に共通する。
読了日:10月19日 著者:小川さやか

社会学講義 (ちくま新書)社会学講義 (ちくま新書)感想
理論社会学・都市社会学など、分野別に専門の研究者が概説する。面白かったのは佐藤郁哉氏担当の第6章「社会調査論」。社会学研究における理論屋・サーベイ屋・フィルドワーカーの役割分担というかアプローチの違いとともに、日本ではフィールドワークの部分があまりにも立ち遅れており、「ホイキタ調査のでたとこインタビュー」のレベルにとどまっている研究が多いというあたりで、特にベストセラーになるような社会学者による一般書の問題点がどこにあるのかが察せられる。
読了日:10月21日 著者:橋爪大三郎,大澤真幸,若林幹夫,吉見俊哉,野田潤,佐藤郁哉

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)感想
興福寺の別当経覚と尋尊の視点を中心に見る応仁の乱史。「あとがき」で応仁の乱が第一次世界大戦と似た構図を持っているのではないかとある。確かに似ている部分もあるが、わかりやすさから言えば、第一次世界大戦の方が遥かにわかりやすいように思う。また、戦後歴史学における階級闘争史観に対する批判がたびたび出てくるが、この分野ではまだ階級闘争史観の影響が払拭されていないのだろうか。
読了日:10月23日 著者:呉座勇一

樹木と暮らす古代人: 木製品が語る弥生・古墳時代 (歴史文化ライブラリー)樹木と暮らす古代人: 木製品が語る弥生・古墳時代 (歴史文化ライブラリー)感想
一見地味なテーマだが、各地の木製品の生産と流通の状況、王権との関わりなど、木製品に着目することで見えてくるものは多いのだなと思った。容器のところで白川静の言う「サイ」を絡ませているのも面白い。
読了日:10月27日 著者:樋上昇

戦争の条件 (集英社新書)戦争の条件 (集英社新書)感想
国際関係通史とか理論とか、面倒くさい体系的な解説をすっ飛ばしてエッセンスだけを詰め込んだ国際政治学の入門書。現実の国際政治や国際紛争について、国際政治学ではこういう具合に考えるという視座を提供する。最後まで読んで何か物足りなさを感じたあたりで、次の勉強へとつながるブックガイドが用意されているのも心憎い。
読了日:10月29日 著者:藤原帰一

となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代感想
イスラム教徒とはどんな人たちかをざっくりと説明した本。またヨーロッパでの移民の排斥や、イスラム国の問題、日本で展開されつつあるハラール・ビジネスの問題点など、イスラム教に関する時事的な問題についても詳しく触れ、特に欧米側の欺瞞を批判する。水と油の関係でも共存は可能、ゴミ出しのルールなど、日本人に難しいルールは彼らにも難しい、男女の不平等はイスラム教の教えとは無関係で、日本も含めて単にその社会が男性中心で保守的・封建的であるにすぎないという著者の主張には同意。
読了日:10月31日 著者:内藤正典
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