博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『琅琊榜之風起長林』その5

2018年02月28日 | 中華時代劇
『琅琊榜之風起長林』第23~28話まで見ました。

濮陽纓が地下に潜伏するとともに、彼を「掌尊」と仰ぎ、金陵に潜伏する「夜凌子」たちが動き始めます。「夜凌子」はもともと夜秦国で養成された少年少女の特務工作員のようなものだったのですが、疫病によって国が滅んだ後は、大梁と長林王府を恨む濮陽纓が「夜凌子」の長である掌尊の地位を継承したと僭称し、復讐のために彼らを動かしていたのでした。


林奚の世話係である雲姐もその一人で、「霜骨」の毒が塗られた短刀で平旌を傷つけます。実は雲姐の中の人は、前作で莅陽長公主を演じていた張棪琰です。

本作の夜凌子は前作の滑族に相当するような存在ですが、両方とも先般話題になったスリーパー・セルみたいな存在なんですよね。その実在については取り敢えず「本故事純属虚構」という言葉を噛みしめて貰いたいと思います。一方で荀飛盞は彼らに対して「可怜」と同情を寄せたりもしてるのですが……

「霜骨」の毒によって明日をも知れない状態になった平旌を救うには、濮陽纓の持つ「玄螭蛇」の胆が必要ということで、平章は彼の潜伏先を捜索。そして彼から「玄螭蛇」の胆を入手するも、平章自身も「霜骨」の毒に冒されてしまいます…… 一方、逃亡を重ねる濮陽纓は元啓によって刺殺。元啓は彼から荀皇后の弱みとなる詔書を入手します。

「霜骨」の毒の治療には「玄螭蛇」の胆とともに人間一人を犠牲にする必要があるらしく、済風堂の黎老堂主が平旌の治療法を探る林奚に「それは医術の原則に反する。諦めよ」と諭すと、林奚が「私が自分の身を犠牲にするのなら問題ないでしょう」と言い出し、「わ、わかった、誰も犠牲にしなくて済む治療法を一緒に探そう。な?」と焦りだすのに草w

林奚の尽力により誰の犠牲も出さず兄弟二人とも助ける治療法が編み出されますが、そこへ北境の急変を告げる拓跋宇が到来。北燕宮廷が大渝と同盟を結び、大渝軍が北燕領内を通過して大梁へと攻め込むのを認めたという報を伝えます。北境の防備に当たる父王が危ないということで、平章は自分の治療を諦め、手勢を率いて庭生の守る寧州へと急行。父王の危機は救われますが、自身は力尽きて陣没。『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョン・スノウと立場が重なる平章ですが、残念ながらこのドラマはザオラルもザオリクも存在しない世界なのです……

悲しみに包まれる長林軍の面々ですが、蒙浅雪が平章の子を懐妊していることが判明。大事を取って琅琊閣に送られ、無事に男児を出産。


そして平章への服喪を機に髪型を改めた平旌は、兄が自分を助けるために死んだと知り、兄に見合う人間になろうと志願して北境の甘州の防備へと出立。


それから一年。梁帝は疫病の収束を承けて衛山陵から金陵へと戻った後、病がちになり、自らの死期を悟ります。自分が死んだ後は何より長林王府の行く末が心配だということで、平旌を懐化将軍に封じ、叔父の寧王(前作の登場人物です)に長林王府の後見を託し、そして庭生を新帝の輔政に任じて息絶えます。この二人、死の間際まで熱く手を握りしめたりしてますが、やはり関係が『ゲーム・オブ・スローンズ』のロバート・バラシオンとネット・スタークとかぶるんですよね……

しかしこの二人の絆を荀皇后と荀白水が憂慮し……ということろで次回へ。今回も言侯絡みのシーンとか、前作の回想シーン、あるいは前作と絡むシーンがちょいちょい挿入されています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『琅琊榜之風起長林』その4

2018年02月20日 | 中華時代劇
『琅琊榜之風起長林』第17~22話まで見ました。

北燕国からの使者を迎え、宮廷での歓迎の宴で拓跋宇と荀飛盞との手合わせがなされた後、重華郡主のリクエストで蕭平旌が彼女と手合わせすることになります。「我が国の前代にも武功にすぐれた郡主がおってな」と、梁帝が前作ファンへのサービス台詞を発したかと思うと、郡主に折られた平旌の剣先が北燕の後継者候補恵王の胸に突き刺さり、誤殺してしまい、一歩間違えなくても梁と北燕との戦争が避けられないという大変な事態に……

結局恵王の死は重華郡主の陰謀ということで片がつき、北燕と即開戦という事態は避けられましたが、庭生は北燕側の異変に備えて北境の防備に当たることになり、平章も兵糧の運搬を担うことになります。その途上の袁州で、平章の実父路原の墓参りを行い、庭生と彼との友情とすれ違い、そして路原が元啓の父莱陽王のやらかし(ここでも詳細は語られませんが、九割方謀反ということでしょう)によって死ぬことになったという事情が語られます。ここで前作の回想が挿入されますが、その少し前に南境の穆王爺(前作の霓鳳郡主の弟)の死亡の報が伝えられたりと、今回は前作ファンへのサービスが目立ちます。

その後、宮廷では梁帝が先帝の衛山陵に参籠することになりますが、太子の住む東宮で失火がおこり、濮陽纓が荀皇后に太子の厄除けの祈願のために多数の人間の犠牲が必要であるとか碌でもないことを吹き込みます。実は東宮の失火自体濮陽纓の陰謀なんですが、更に荀皇后の内諾を得て犠牲者を確保するため、都金陵城近郊の村の井戸に毒を散布し、疫病を蔓延させます。都に疫病が流入しては大変と現地からの急報が届けられますが、皇后と濮陽纓に抱き込まれた京兆府尹の李固は報告を握りつぶします。


懸命に現地で治療に当たる林奚。しかし彼女も疫病に感染してしまい……

そして金陵城にも疫病が蔓延。太子も疫病に感染し、皇后も濮陽纓にいいように利用されていたと悟らざるを得なくなります。


留守を預かる首輔(宰相格)の荀白水(皇后の兄、荀飛盞の叔父でもあります)は、金陵に戻っていた平章と協議のすえ、金陵城の封鎖を決定。そして25年前に夜秦国でも同様の疫病が流行していたこと、その時になぜか子供だけが助かったこと、上師の濮陽纓が夜秦出身であることに思い至り、「夜秦国、25年前、子供だけが助かる… あっ(察し)」と、今回の疫病蔓延に濮陽纓が噛んでると察知。しかしその頃には濮陽纓は逃亡済みで地下に潜伏し、本拠地の乾天院はもぬけの殻です。濮陽纓は25年前に長林軍が夜秦国の都夜凌城の封鎖に当たったということで、梁国、特に長林王府を仇敵視しているようですが……?

荀白水は平章に李固の取り調べの結果を報告しますが、皇后の関与はしれっと隠匿していますw 平章の方も「賄賂を貰った程度で首都近郊での疫病流行の報告を握りつぶすとか、そんな大それたことをするもんですかね?」としっかりツッコミを入れていますが……

で、林奚の師父の黎老堂主と済風堂の面々、平旌らの尽力により疫病の治療薬が完成する一方で、その李固が牢内で何者かに殺害されるあたりで次回へ。

中盤近くまで見てきて、このドラマ、キャラクター設定に何となく『ゲーム・オブ・スローンズ』と類似点があるんですよね。荀氏はラニスター家と重なりますし、長林王府はもろスターク家という感じです。荀皇后=サーセイ、荀白水=綺麗なタイウィン公、荀飛盞=綺麗なジェイミー、庭生はネッド・スターク、平章は父の後を継いだ世界線のジョン、梁帝は綺麗なロバート・バラシオン、太子元時は綺麗なジョフリーというかまんまトメンの役回りでしょうか。残念なのはゲームオブスローンズより話にまとまりがあって割とこじんまりしてる点です (^_^;) 今のところ良くも悪くも手堅い作りなんですよね……
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『琅琊榜之風起長林』その3

2018年02月13日 | 中華時代劇
『琅琊榜之風起長林』第11~16話まで見ました。

当時の関係者を尋問&虐殺のすえに淑妃の死の真相を知ったらしい墨淄侯と、ついでに彼の相談にあずかった濮陽纓が夜な夜な莱陽侯府に潜入し、太夫人を詰めます。


琅琊榜排名第一に数えられ、武功では天下第一のお墨付きを押されたような状態の墨淄侯。前作では「琅琊榜」そのものはあんまり話に絡んでこなかったのですが、今作はやたらと「琅琊榜排名第×」というのを押してきます。


そして白神教の教主にして、梁帝一家の病気の治療にあたっているということで上師の地位を得ている濮陽纓。数々の陰謀に関与しつつなかなか尻尾を掴ませません。演じているのは『龍門鏢局』などでお馴染み郭京飛。

墨淄侯「これは息子の方も無事に済ますわけにはいかないなあ……」 濮陽纓「息子の方は利用できそうですな。どう役に立ってもらいましょうかね?」 太夫人「やめて!息子は関係ないでしょ!!」 何かヤクザ物みたいなノリになってきましたね (^_^;)

そして莱陽侯太夫人は墨淄侯と濮陽纓の言うがままの内容で息子に充てた遺書を書かされて殺害。その捜査に当たった荀飛盞と蕭平旌は彼女の部屋から巫蠱に使用した人形(呪いの藁人形的なアレ)を発見してしまい、淑妃謀殺の件など彼女の旧悪一切合切が暴かれます。彼女の夫の莱陽王(梁帝の同母弟)は父親(前作の靖王)の生前に何かやらかしたらしく、死を賜った模様。彼女はそれを梁帝と長林王庭生の陰謀と思い込んで二人を深く恨んでいたようです。莱陽王のやらかしの詳細は不明ですが、まあ謀反ということでしょうね……


罪人ということで亡母の遺体を引き取って弔うことが許されず、また伯父にあたる墨淄侯から母の遺書を手渡され(その内容もここでは明らかにされませんが……)、順当に闇落ちしていく蕭元啓。

ここで平章との会話で兄が実は父の実子ではなく養子であることを知ってしまい、自分の置かれた立場に悩む平旌……

そうこうしているうちに北燕国より次期太子と目される恵王が使者としてやってくることになりますが、梁国側から北燕より軍馬を買い求め、その管理を長林軍蘭州営に任せようという案が出たことにより、それまで軍馬を供給していた馬場主たちに自分たちがお役御免になるのではないかと動揺が広がります。で、彼らが恵王一行に襲撃をかけ、それを平旌らが救出しようとしますが、そこへ更に段桐舟が乱入。しかし恵王の随行の琅琊榜排名第五の拓跋宇とともに彼を崖落ちに追い込みます。(崖から落ちて本当に死んでしまいます)

無事一行が金陵にたどり着いて歓迎の宴が開かれることになりますが、北燕側は恵王の妹の重華郡主の婿捜しも目的としており…… ということで武侠チックな雰囲気が続く中で次回へ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『琅琊榜之風起長林』その2

2018年02月06日 | 中華時代劇
『琅琊榜之風起長林』第5~10話まで見ました。

軍需物資沈没の一件で重要参考人として大同府の張府尹を重要参考人として都金陵まで護送することになった蕭平旌ですが、そこへ段桐舟が急襲。しかし急襲のタイミングと、彼を手引きをした裏切り者の存在は平旌に既に読まれておりました。この場面で敵と味方、あるいは味方通しで騙し騙されという描写が出てきますが、このあたり何となく前作のテイストを感じます。


この場面で初登場の、佟麗婭演じる平章の妻・蒙浅雪。前作の蒙大統領こと蒙摯の兄弟の孫にあたるということで、当たり前のように武功高手ですw

今回の事件の黒幕は朝廷の重臣宋浮であることが判明し、審問にかけられたうえ処刑されることになりますが、「強大な軍権を握る長林王府の力を削ぐことは国家や皇室のためになること。自分のやったことは間違っていない。宮中に自分たちの支持者も多い。」という彼の言葉に、朝臣が自分たちをどう思っているのかを悟り、暗然とする平章・平旌兄弟。おまけに同じく投獄されたはずの段桐舟が何者かの手引きで脱獄を果たします。


この段桐舟を追うのが今作の禁軍大統領荀飛盞です。『大秦帝国之崛起』などでお馴染み張博が演じています。彼は前任の大統領蒙摯の愛弟子で、荀皇后や宰相の荀白水と同じく名門荀氏の出身という設定。平章・平旌兄弟との関係も良好です。

そして平章・浅雪夫妻は結婚以来七年間子供に恵まれないことが悩みの種でしたが、林奚は結婚の際に荀皇后より下賜された化粧箱に仕込まれていた「東海朱膠」が不妊の原因であると喝破。東海国の名産品で不妊の効果がある薬物ということで、浅雪の治療にあたるとともに、誰がこれを仕込んだのかを探ることになります。

平旌らは知るよしもありませんが、その犯人は元啓の母である莱陽王太夫人なのでした。彼女はどういうわけか夫の莱陽王(前作の靖王の息子で現在の梁帝の同母帝)が早くに亡くなったのは長林王府のせいであると思い込み、その子孫を絶やすためにこっそり下賜品に「東海朱膠」を仕込んだ模様。そしてその様子をともに東海国から嫁入りした妹の淑妃(梁帝の側室)に見られると、彼女が出産する際に「東海朱膠」を一服盛って死に追い込んだようです。彼女はまた梁帝も怨んでるようで、こっそり巫蠱の術で呪いを掛けたりしているようです。この人、ヤバいことに手を染めすぎじゃないでしょうか……

そうこうしているうちに年越しを迎え、彼女の故国東海国から使者が到来することに。しかし国書にその際に七年前に亡くなった淑妃の祭礼を執り行いたいとあったことから、各方面で物議を醸します。そして東海国の随員墨淄侯が他の使者に先立って金陵に潜入。琅邪閣排名第一位の使い手である彼の目的は妹の淑妃の死の真相の解明と復讐にあるようで、当時彼女の死に立ち会った医師たちを次々に殺害していき……
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2018年1月に読んだ本

2018年02月02日 | 読書メーター
語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)語る歴史,聞く歴史――オーラル・ヒストリーの現場から (岩波新書)感想
明治に入ってから歴史学者による旧幕府時代の故実先例の聞き取りなど、日本のオーラル・ヒストリーの歴史は意外に古いこと、おそらくその淵源が影響してか、専門の研究者による政治家への回顧談の聞き取りが正統なオーラル・ヒストリーと見なされがちなことなどが印象に残った。聞き取りを文字史料の枠内に位置づけられがちなことは、中国の出土文献と伝世文献との関係や歴史学と考古学との関係に似通っているように思う。
読了日:01月01日 著者:大門 正克

革命の剣 ジョージ・ワシントン(上) (アメリカ人の物語)革命の剣 ジョージ・ワシントン(上) (アメリカ人の物語)感想
いよいよ独立戦争に突入、今巻はフィラデルフィア防衛失敗まで。ワシントンに対抗しようとするチャールズ・リーの話が面白い。本筋以外にも、兵士の訓練や略奪の問題、従軍した女性たちの物語、当時のアメリカ側の常備軍に対する考え方、日本の関ヶ原などと同様に一族内で本国支援派と独立支持派とに分かれて戦った者が多かったことなどが印象的。
読了日:01月05日 著者:西川秀和

足利将軍と室町幕府―時代が求めたリーダー像 (戎光祥選書ソレイユ1)足利将軍と室町幕府―時代が求めたリーダー像 (戎光祥選書ソレイユ1)感想
足利将軍と北朝天皇との関係を見ていくことで、足利将軍が何を以て武家社会のトップに君臨できたのかということをまとめているのだが、議論そのものの面白さもさることながら、足利義満皇位簒奪説に付随して井沢元彦を取り上げるなど、一般読者の関心やイメージを意識した文章になっている点も面白い。また「力で支配する政権」を志向していなかったという足利将軍のあり方は、その足利将軍が輔弼した天皇という存在を考えるうえでも大きなヒントとなるのではないか。
読了日:01月08日 著者:石原比伊呂

わたしの日本学び (人文社会科学講演シリーズ)わたしの日本学び (人文社会科学講演シリーズ)感想
日本文化に関する講演録。「ローカルに思考、グローバルに生活」は、グローバルと地方は一つのものの二部分で、両方を同時に把握しないなら、どちらも理解できないとするが、これは中国や韓国を理解するうえでも心に留めておくべきだろう。「『万葉集』と中国の思想」は、日本文化がその出発点から漢語や中国文化と切り離せないものだと教えてくれる。「和食の「おいしさの心理学」を学ぶ」は、和食の特色は調理法以外にも銘々膳などの食べ方にもあるという指摘が面白い。
読了日:01月11日 著者:

学問をしばるもの学問をしばるもの感想
人文科学の研究をしばるものは、政治権力か、イデオロギーか、学派の違いか、分野の違いか。日本語タミル語起源説、邪馬台国論争、明治絶対王政説など、様々な事例からその様相・せめぎ合いを探っていく。明治絶対王政説に関して、同じイデオロギーによりながらも日本側がソ連側の「公式見解」をスルーしたり、日本側も「講座派」と「労農派」とで見解が分かれたりと、イデオロギーより優先されるものがある、あるいはイデオロギーの同一性が学説の同一性を保証するわけではないということが示されているのが面白い。
読了日:01月13日 著者:

折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)折口信夫 - 日本の保守主義者 (中公新書)感想
関東大震災、二・二六事件、太平洋戦争と敗戦といった時代背景から折口信夫の学問・文学遍歴を読み取る。関東大震災時の朝鮮人狩りから日本人の心のすさみを見てとる折口のあり方は、当世の「保守」とはかなり様相を異にしているように思う。本書は折口をナイーブな理想主義者として描いているが、そうした描き方がどの程度妥当なのかやや不安も。「おわりに」の「全集読書案内」は試みとして面白い。他の学者を対象に応用してみたい。
読了日:01月15日 著者:植村 和秀

古代史講義 (ちくま新書)古代史講義 (ちくま新書)感想
邪馬台国から奥州藤原氏まで15のトピックから成るが、大王あるいは天皇権力の強化が却って政争や後継者争いを深刻化させるという側面があるという指摘、正倉院宝物などの舶来品を国際品製作の手本として見るべきという点、長岡京の立地上の制約が廃棄の背景となったこと、受領の任命はそれほど恣意的なものではなく、厳格な人事システムが機能していたということ、将門・純友の時代は気候の温暖化により農業生産が高くなっており、それがために豊富な生産物をめぐって地方で紛争がおこったという指摘などが印象的。
読了日:01月18日 著者:

歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)感想
史料をどのように読み解いていくのか、史料からどのようなことが導き出せるのか、「偏向」のない史料は存在しうるのかなど、史料に対するアプローチを具体的に解説している点が他の史学概論と比べて出色。社会・経済的な環境が人々の自己認識・人生観・世界観に影響を与え、その行動に結びつくと考える点で、今日のすべての歴史家は小型のマルクス主義者であると言ってよいという指摘が印象的。
読了日:01月20日 著者:ジョン・H・アーノルド

物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年 (中公新書)感想
フィンランドはスウェーデン王国の下にあった時期が長いこともあり、スウェーデン語話者が一定数存在し、また言語によって出自が割り切れるわけでもないという。第二次世界大戦ではソ連との対抗上枢軸国側に着くことになるが、戦後自発的に戦争責任裁判を行ったという点は日本と対照的。またソ連崩壊時に表向きはバルト三国の独立回復運動に冷淡な態度を取りつつも、コイヴィスト大統領が密かに「文化協力」の名目でエストニアに金銭的援助を行っていたという話も面白い。
読了日:01月21日 著者:石野 裕子

柳宗元柳宗元感想
「アジアのルソー」という副題に疑問を持っていたが、柳宗元を「東洋のルソー」中江兆民が評価をしていたり、民国期の学者が「中国のルソー」黄宗羲に先立つ存在として位置づけているということで納得。その柳宗元の思想も突然変異的に出現したものではなく、同時代の官吏に彼を啓発した者が複数存在したところを見ると、儒学そのものに民権思想の萌芽となるものが内包されていたと見るべきかもしれない。
読了日:01月22日 著者:戸崎哲彦

倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア (中公新書)感想
『宋書』倭国伝など中国の史書に見える倭の五王を記紀に見える天皇に比定するこれまでの研究のあり方に否定的で、ほぼ確実とされる武=雄略天皇(ワカタケル)の比定にも否定的。天皇の系譜は政治的変動や史書の編纂を通じて追加・削除が繰り返されるものであり、列島統一のための遠征などの事績も、『宋書』に見える武の上表文の記述からイメージが形成されたもので、歴史的事実ではないのではないかという指摘が面白い。記紀に拘泥せずに五世紀の歴史を組み立てる作業が必要という主張はその通りだと思う。
読了日:01月25日 著者:河内 春人

はじめての研究レポート作成術 (岩波ジュニア新書)はじめての研究レポート作成術 (岩波ジュニア新書)感想
文系用のレポート・卒論作成入門。社会学専攻の学生を念頭に置いているようだが、他の分野の学生・教員が使用する場合でも汎用性のある手引きになっていると思う。ワープロやプレゼンテーションソフトなど作成に使用するソフトウェアに関する解説も盛り込まれているが、基本的に無料のGoogleアプリである。ワープロなどはマイクロソフトのものに準拠しても良かったのではないかと思うが…
読了日:01月28日 著者:沼崎 一郎

絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)感想
我々ホモ・サピエンスが生き残ったのは、ネアンデルタール人など他の人類と比べて優れていたからではなく、多くの子孫を残すことができたからであるという観点からの人類史。各所に著者独特のたとえ話が挿入されていて楽しい。「もしも他の人類が生きていたら、世界はどんな感じだったろう」と書中にあるが、そういう想像力を喚起させる内容になっている。
読了日:01月29日 著者:更科 功

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする