博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『民初奇人伝』その2

2020年08月29日 | 武侠ドラマ
『民初奇人伝』第6~10話まで見ました。


貧民街のボス爵爺に匿われた華民初たち。貧民たちは自分たちの集落を「紫禁城」と称しており、爵爺の主催する住民の会合に参加することを「上朝」と称していたのでした。「爵爺」というあだ名もこれに由来します。このあたりの諧謔はなかなか面白いですね。


「外八行」の面々のうち、左から「黒紗之主」一方、「商女之主」金綉娘、「神通之主」八仙、「千手行」の花谷、「墨班之主」の柯書。彼はまた民初の日本留学の後輩でもありました。彼らは「持巻人」のもとで「外八行」を解散し、新しい人生を生きたいと希望しています。その一方で解散を望まず、それを阻もうとする謎の人物も暗躍を始めます。

民初は当初彼らから「持巻人」に指名されても「自分は普通の学生だ」と困惑するばかりでしたが、次第に「持巻人」となることを受け入れるようになり、「一緒にアメリカに亡命しよう」という姉の鍾瑶の懇願も拒絶します。姉弟として育った二人でしたが、実は鍾家の両親は二人を結婚させるつもりだったようです。

そして民初の出生の秘密も明かされます。「外八行」では各行の指導者同士の結婚はタブーとされていましたが、先代の「仙流之主」華諭之と先代の「易陽之主」柳煙との間に産まれた子で、それが故に両親は「外八行」の面々に殺害され、赤子の彼は密かに八仙の手によって鍾家に引き渡されます。易陽行の希水が民初を「師哥」と呼ぶのもこの出生の秘密を知っていたからです。

民初は第1話の列車内で起こった南方政府の使節の殺害事件について、容疑者とされた自分の身代わりとして学生たち、そして章羽や仙流行の人々も巻き添えで処刑されると聞き、「外八行」の面々と救出計画を立てます。学生たちは殺人事件の黒幕は北方政府ではないかとデモを起こして軍に睨まれ、章羽は民初たちをおびき出すために敢えて囚われの身となったのでした。

学生に救出した民初たちは、章羽の魂胆を見破って彼を北京から追放し、仙流行の人々に次なる行き場を世話して解散、ついで商女行も解散を準備します。北方政府では、民初捕縛でヘマをした軍指令の方遠極を放逐。彼は南方政府の軍に身を投じます。


民初がアメリカ行きを拒絶し、易陽行などの解散のために昆明に向かうことを決意し、傷心の鍾瑶は単身天津へ。しかし彼女こそは、外八行の行首のうちただ一人正体不明であった「諦聴之主」その人なのでした。


民初らは元商女行のメンバー薛楓茗と接見し、彼女の協力で検問の厳しい武漢を通過。その後も列車強盗に遭ったりしますが、薛楓茗の亡き従兄が滇南司令として威光のあった薛将軍ということで、南方政府の軍の保護を受けつつ昆明に到着。しかし現地では薛楓茗の持つ薛将軍の遺訓を手に入れてその後釜に座ろうとする軍幹部たちの思惑が工作しており…… 

ということで次回へ。今後「外八行」の解散が大きな目的となっていくようで、近代に入って不要となりつつある武侠的な組織をどう店仕舞いしていくのかという話になるのかなと想像しています。
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『民初奇人伝』その1

2020年08月24日 | 武侠ドラマ
チェン・カイコー総監修ということで『民初奇人伝』を見始めました。全34話で、今回は第1~5話まで鑑賞。


舞台は民国初年。華民初青年は日本への留学から帰国し、汽車で北京へと戻るところを、北方政府との統一協議のために北京に向かっていた南方の使節の殺人事件に巻き込まれます。主役を演じるのは、チェン・カイコーの『妖猫伝』や『天意』でお馴染みの欧豪。生まれてすぐに両親を亡くし、富豪の鍾家に引き取られ、一人娘の鍾瑶とは姉弟として育ったという設定です。


で、列車内で女商売人の「商女之主」金綉娘、その妹分でスリも顔負けの手業を持つ「千手之主」花谷、囚われの身の豪傑「黒紗之主」一方ら「外八行」の面々と知り合います。金綉娘を演じるのは『エイラク』でブレイクした秦嵐。

「外八行」は神通・商女・千手・黒紗・仙流・易陽・墨班・諦聴の八流に分かれ、代々その業を受け継いできましたが、新しい世の中になったということで「神通之主」八仙や金綉娘らは解散を願うようになります。しかし「外八行」の解散には「十行者絵巻」が必要なのですが、長年行方不明なのでした。

その「十行者絵巻」を手にする「持巻人」は「外八行」のリーダーとなるので、野心を持つ者は血眼になって探し求めているのですが、それがひょんなことから華民初の手元に転がり込み、取り敢えずの仮の所有者「代持人」に指定されてしまいます。


「十行者絵巻」を狙う「易陽之主」希水。しかし華民初の背中の傷から、彼を師哥として慕うようになります。どうやら彼には出生の秘密があるようで……?


やはり絵巻を狙う「仙流之主」章羽。中の人はお馴染み修慶です。有力な商売人で、北方政府の軍幹部と結託し、鍾瑶を人質にして絵巻を手に入れようとします。帝京大飯店に乗り込み、鍾瑶を取り戻す一同ですが、今度は北方政府の軍司令方遠極の陰謀により、華民初が南方使節殺害犯に仕立て上げられてしまい、官憲から追われる身となります。

そして外八行の解散会で華民初の出生の秘密が明らかに。彼は実は先代の「仙流之主」とこれまた先代の「易陽之主」との間に産まれた子で、外八行では権限の強大化を防ぐため、各行間での婚姻は御法度とされていたのでした。彼の父母はそれで他行により死に追い込まれましたが、彼はどういういきさつか鍾家に引き取られていたのでした。

しかし「孽子」であっても「持巻人」にはなれるということで、八仙や金綉娘は民初を絵巻の所有者に指定。章羽以外の面々もそれを承諾します。そこへまた官憲に踏み込まれ、民初は希水に「情毒」を飲まされて逃亡。というところで次回へ。ここまで流れるように話が展開し、かなりいい感じです。
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『少林問道』

2020年08月19日 | 武侠ドラマ
『少林問道』全38話を見ました。本来全42話ですが、今回はCCTV放映38話版で鑑賞。

舞台は明朝嘉靖年間。高剣雄、楊秀、程聞道の義兄弟と郡王府の郡主李蓁蓁の4人は幼馴染み同士。しかし親世代の因縁が絡み合い、厳崇・厳世蕃の党派に属する明徳は、次兄の高寿昔とその子剣雄を味方につけ、長兄にあたる程家と李郡王府を破滅に追い込みます。


程聞道は少林寺に匿われ、仇討ちを志しつつ出家。無想和尚と名を改めます。


郭京飛演じる高剣雄は、父親亡き後明徳を父親代わりとし、悪の道へ。


李郡王を父親のように慕っていた楊秀は、打倒厳党を目標に科挙に及第し、厳党と対立する徐階の右腕に。


李蓁蓁は郡王府取り潰し後に尼僧となるはずが、明徳の陰謀により官妓にさせられてしまいます。

にっくき明徳を倒すことを誓い、彼に弾圧された少林十八銅人を捜索する聞道でしたが、思わぬ出生の秘密が明らかに。そして明徳・剣雄は倭寇の頭目岡田と結託し……ということで倭寇が問題となった嘉靖年間らしく、最後は倭寇との戦いで締めです。

近年めっきり少なくなった重厚・シリアスな作りで、アクションも見応えがありますが、倭寇が普通に悪役というあたり、最終回で倭寇も主人公に力を貸した『成化十四年』とどうしても比べてしまいますね……
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『成化十四年』その8(完)

2020年08月18日 | 武侠ドラマ
『成化十四年』第43~最終48話まで見ました。

高義が唐泛を敢えて李子龍に引き渡すことで彼の信用を得て、計画を聞き出すという作戦は何とか成功。彼は立春の大典で成化帝の暗殺を図っているようです。李子龍は実は唐王朝の末裔であるらしく、皇帝の地位を狙っているのでした。


人質になった唐泛は、歓意楼の一番人気の妓女青歌が、実は李子龍の義女でその手先であったことを知ります。唐泛は殺されてもおかしくない状況ですが、意外にも青歌が彼のために助命を嘆願し、容れられます。

ここで唐泛は李子龍から「1人の皇帝の命と100万の民の命のどちらを救うか選べ」というトロッコ問題の亜流のような問いを突きつけられますが、「一番悪いのはそんな規則を作ったやつだ。規則を作ったやつを殺せ」と返します。彼はトロッコ問題の破り方を知ってますねw 

で、「博浪」を1個持たされて監禁状態から解放される唐泛ですが、「彼らは郡主の事件の際に西廠が接収した博浪を使って暗殺するつもりだ!」ということで、博浪が彼らに奪われたのではないかと心配になった一同が隠し場所を確認したところ、それが李子龍の一党が博浪を奪取するためのワナで、彼らの襲撃により、まんまと博浪をすべて掻っ攫われてしまいます。

さりとて成化帝は立春の大典を取り消すつもりはなく、難しい対応を迫られる汪植らですが、夜になり、式典が滞りなく終わる頃合いに孔明灯に博浪を括り付けられて空から飛来。紫禁城と近辺を無差別爆破しようという腹です。ここで孔明灯をうまく射落とせばいいということになり、烏顔ら4人の弓の名人の出番。

博浪はすべて打ち落とされ、成化帝は汪植とともに歓意楼へと逃れましたが、李子龍が建物を包囲。しかも紫禁城では首輔の万安と東廠の尚銘、錦衣衛のボスの万通も彼と結託してしまいます。順天府の各所に潜伏しつつ、唐泛&隋州&汪植は反撃の機会を待ちますが……

【総括】
ラストシリーズは隋州の婚約相手だった余秀蓮とその次兄、氷室の話で出てきた金三娘らが再登場するなど、今までのシリーズの登場人物や設定が生かされたものになっています。さすがに最初のエピソードで出てきた武安侯と配下の倭寇まで絡んできたのには驚きましたが (^_^;) 


万貴妃の娘子軍も再び登場。彼女たちと、唐泛が、隋州が、汪植が、烏雲が、高義が、乞食の少年たちが、そして倭寇もそれぞれのやり方で李子龍に立ち向かいます。

ジャッキー・チェン監修ということでアクションシーンに期待して見始めましたが、アクションの質は悪くないものの、シーン自体は少なく、それよりもラストシリーズに向けて丁寧に積み上げられたシナリオなど、それ以外の部分が良かったという作品です。最後に年来の希望が叶って都から旅立つことになった汪植ですが、その描写を見てると、『清平楽』と同じくこれも視聴者の宦官に対する見方を変える作品となりそうです。
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『成化十四年』その7

2020年08月12日 | 武侠ドラマ
『成化十四年』第37~42話まで見ました。

朶児拉の死のショックから立ち直れない唐泛ですが、「朶児拉を殺したのは丁満でも王憲でもない。それはお前もわかっているだろう?」という汪植の言葉に奮起します。六部などのここ数年の文書類を集めて不審点を洗い出す作業を進める一方で、重要参考人ということで投獄された王憲への聞き込みを図ります。


王憲の自閉症のような症状は、作中では「呆症」と表現されていますが、裴淮は「古来の医学者の療法には疑問がある。単に他人とのコミュニケーションが取れないだけで、治療をすれば治るとかそういうものではないのではないか?」と疑問をつきつけます。こういう台詞がさらっと出てくるあたり、『射鵰英雄伝』の傻姑とはかなり扱いが違ってきたよなあと思うわけです。


そして妻の固安郡主以外に唯一彼と意思疎通ができるという助手の章鞏柱。「こいつ女だよね?」と誰もツッコまない(´Д`;) しかし唐泛、そして李子龍は、章鞏柱=長公主の語呂合わせから、その正体が郡主であることに気付きます。ついでに彼女王憲との結婚は成化帝の深謀遠慮ではなく、王憲の才能に目を付けた郡主から言い出したことのようです。

郡主の意図が順天府の爆破にあると察した唐泛は、王憲の赦免と引き換えに「博浪」の隠し場所を知り、隋州・汪植らに撤去させます。このあたりの展開は『長安二十四時』っぽいですね。一方、郡主は李子龍に大量の「博浪」を引き渡す約束をしておりました。西廠の牢獄の守りが順天府内の「博浪」の捜索で手薄になっている隙を突き、李子龍の一党が襲撃して郡主と王憲を救出。


そして野外で李子龍に脅されつつせっせと王憲が「博浪」を組み上げ、お礼として彼の夢だった飛行装置をプレゼントされます。ここで郡主に利用されていると知りつつ彼女を愛しているという王憲の心の声が吐露される演出が入ります。そして郡主は王憲と、飛行装置に「博浪」が仕掛けられていると知りつつ敢えて乗り込み、飛び立ったのでした……


一抹のほろ苦さを残しつつも事件が解決となり、色々あって隋州はもとの百戸の地位を取り戻し、順天府に戻ることを成化帝に請うた唐泛は順天府尹に任命されます。そこへ土木の変の際に成化帝の父英宗とともにオイラートに捕らえられ、30年間抑留されていたという高義将軍が明に送還されます。しかし30年ぶりに再会した彼の妻は、彼を偽物だと言い張り……

この一件は家庭内の事情ということで解決したものの、実は高義はオイラートからある使命を託されて明に帰還したのでした。土木の変で英宗を捕らえたエセン・ハンの次男阿失帖木児は、李子龍と結びつつ、彼を成化帝暗殺の手駒として使おうとしますが、エセン・ハンの長男でその後を継いだ博羅納哈勒は、明との和のために高義にその計画を阻止させようとします。高義自身は、捕虜の身分を経て軍人としてエセン・ハンに仕えていた時も、明との和に心を砕いていたということなのですが……?
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『成化十四年』その6

2020年08月06日 | 武侠ドラマ
『成化十四年』第31~36話まで見ました。


氷室の一件は無事に解決されましたが、それと前後して朶児拉が探し求めていた男、阿拉斯が再び彼女の前に姿を現します。もともとはオイラートの王子だったようですが、現在は丁満と名乗って成化帝付きの宦官となっています。彼はオイラートの密偵として成化帝の詔勅など明の機密情報を外部に流しております。オイラートの勢力には、また例の李子龍の勢力が絡んでいるようです。


で、その固安郡主の夫である王憲がオイラートの一党に拉致されるという事件が発生します。王憲は生まれつきの自閉症であるようですが、天性のメカニックの才能を買われて宮中の武庫司で新兵器の発明に励んでいます。彼らの目的は王憲の持つ新兵器「蔽日」の設計図なのでした。

固安郡主は成化帝の深謀遠慮により「傻子」の夫をあてがわれたともっぱらの評判ですが、郡主に言わせれば世間の評判は夫の真価を知らない戯言にすぎず、彼はいつか自分の発明によって空を飛ぶという夢を叶えるという大望を秘めているとのこと。ここで王憲が開発中というハングライダーのようなものも出てきます。

捜索に当たっていた唐泛は王憲の身柄を保護。そして阿拉斯=丁満が事件に関わっていることを知り、説得を図るも、3年前の爆発事件から明への不信感を抱いているらしい阿拉斯は聞き入れず。唐泛は取り敢えず彼と朶児拉の乗った馬車を城外へと逃そうとしますが、阿拉斯の持ち込んだ明の秘密兵器「博浪」が爆発してしまい……

そこで話は問題の爆発事件のおこった3年前、成化十一年へと溯ります。唐泛が科挙には登第したものの状元になり損ね、隋州が北方での兵役を終えて錦衣衛に赴任した日、宮中の武庫司で「博浪」の杜撰な取り扱いから、紫禁城だけでなく順天府の半分近くを巻き込む大爆発が発生したのでした。


爆音を聞きつけ、成化帝を守るために武装し娘子軍を率いて駆けつける万貴妃。彼女が宮中で娘子軍を率いることがあったのは史実とのこと。成化帝は被災者の救済に努める一方で、東廠・錦衣衛の捜査能力のなさを憂慮し、西廠を設置して汪植をトップに据えます。そして阿拉斯は爆発に巻き込まれて死んだ同志の巴図に替わって、丁満として宦官となり、紫禁城でスパイ活動に従事することになります。唐泛、隋州、汪植の3人は事件がきっかけで己の進む道や生き方が大きく変わることになりますが、この3人がお互いにそれと知らずにこの時点で出会っていたという演出はなかなか心憎いですw

話は成化十四年の二度目の爆発事件に戻ります。朶児拉が爆死したことで酒浸りとなる唐泛に、自責の念から戦場でのトラウマがフラッシュバックし、食への興味を失ってしまう隋州。成化帝は3年前に研究・開発を停止させたはずの「博浪」が流出していたことを憂慮し、汪植に捜査を命じます。彼は重要参考人として王憲を投獄し、情報を得ようとしますが……
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2020年7月に読んだ本

2020年08月01日 | 読書メーター
六国史以前: 日本書紀への道のり (歴史文化ライブラリー)六国史以前: 日本書紀への道のり (歴史文化ライブラリー)感想帝紀・旧辞、天皇記・国記、そして古事記がいかなる書であったのかを考察する。特に古事記が元来特定の書の名前ではなくカテゴリーを指すものだったという指摘はおもしろい。古人の名に仮託した「擬作」が前近代においては創作活動、自己表現として許容されていたのではないかという指摘は、日本古代のみならず東アジア古代の創作や学術を考えるうえで示唆的である。読了日:07月03日 著者:関根 淳

謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学 (新潮選書)謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学 (新潮選書)感想とんだ形で映画版が話題になってしまった『風と共に去りぬ』の翻訳者による作品論。映画版と原作との違い、原著者の半生や家系と物語との関係、文体論、2人で1人というスカーレットとメラニーとの関係など、多方面から作品を論じる。今話題になっている方面としては、後人による続編が差別意識への対抗手段になったという話が面白い。映画版の問題は、原著で「なにが書かれているか」に注目し、「どう描かれているか」の部分に目をつぶったという点にありそうだ。読了日:07月06日 著者:鴻巣 友季子

反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー感想ヒトが動物を家畜化することはヒトが家畜に奉仕することにながる、城壁は外敵から国家を守るとともに、国内の耕作者を外に出さないという役割も帯びている、国家を持たない移動性を誇る野蛮人は自分たちの富を得るために定住国家を必要とした等々、逆説から見る初期国家誕生の歴史。小麦・大麦などが政治的作物となった経緯、部族は国家による行政上のフィクションという指摘など、「古代」という時代を考えるうえで啓発的な記述が多い。読了日:07月08日 著者:ジェームズ・C・スコット

はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)感想哲学と宗教、科学との違いは何か?哲学的な思考や議論を進めるうえでどういうワナがあるのか?といったことを基礎の基礎から解説。サンデル流の思考実験のほとんどがニセ問題であり、導き出したい結論に合わせて設定されたものであるというのは、SNS上でいくらでも見本が出てきそうである。読了日:07月10日 著者:苫野一徳

情報生産者になる (ちくま新書)情報生産者になる (ちくま新書)感想論文の書き方というか研究のやり方、発表のしかた入門。本書を読めば研究テーマの立て方から研究内容を新書に落とし込むうえでの心構えまで、研究の流れが把握できる。「大きな問いは小さな問いの集合からできあがっている」「(時代区分の上で)十進法は歴史にとって単なる偶然にすぎない」「書きたいものより書けるものを」など、研究上の至言が多い。客観性・中立性は神話にすぎない、論文を書くことはひとつの政治的実践というのは、自然科学の分野ですらあてはまるだろう。読了日:07月12日 著者:上野千鶴子

高校世界史でわかる 科学史の核心 (NHK出版新書)高校世界史でわかる 科学史の核心 (NHK出版新書)感想ニュートンから核兵器、宇宙開発まで。研究成果の発表は当初学者同士の手紙のやりとりで行われ、王立協会に寄せられた手紙をまとめるという形で学術雑誌の刊行が開始されたとか、自然科学の方法を社会科学に取り入れようとして混乱を引き起こすといったことはニュートンの時代から繰り返されているという話が面白い。マイトナーと「ガラスの天井」、レーナルトらによるアインシュタインの業績評価を見ると、科学そのものは客観的・普遍的でありっても、研究の評価は必ずしもそうではないことになりそうだが。読了日:07月15日 著者:小山 慶太

文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書)文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書)感想「文字世界」「文字圏」という単位で読み解く文明論。箸食など食の作法と文字圏との関係、各文明の凝集力・同化力の度合いなど、個別のトピックには面白いものもあるが、肝心の文字・言語の話にそれほど分量を割いているわけではなく、深みもない。「文字」を基準とすることに著者なりのこだわりはあるのだろうが、そのこだわりの理由が見えてこない。読了日:07月17日 著者:鈴木 董

「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史)「中国」の形成 現代への展望 (シリーズ 中国の歴史)感想前半は「因俗而治」をキーワードに清朝による中国統治について読み解き、後半はこれを国民国家としての「中国」に転換させていく動きを負う。一方で官と民、政治と社会が乖離し、郷紳が両者をつなぐという旧社会のあり方は、都市のエリート層と農村の下層民という二元構造として新中国に持ち越され、文革によって一元化が図られたが、惨憺たる結果となったと位置づける。理解が図式的すぎるという問題はあるが、まとまりはよい。読了日:07月20日 著者:岡本 隆司

東條英機 「独裁者」を演じた男 (文春新書)東條英機 「独裁者」を演じた男 (文春新書)感想平民派を自認、軍官僚としては有能、何でも自分でやらなければ気が済まない、天皇の忠臣、そういった人物が総力戦の「総帥」たらんとし、「演じそこないの日本的名君」として東京裁判で散っていくまでを描く。有名なゴミ箱視察については色々と理屈を連ねているが、それはそれでダメだろうというか、結局は「演じそこないの名君」であることを端的に示すエピソードでしかないのではないかと感じた。また本書で展開されるような総力戦の指導者としての東條の実像は、昭和天皇の戦争責任問題ともつながるはずであるが…読了日:07月23日 著者:一ノ瀬 俊也

大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)大元帥 昭和天皇 (ちくま学芸文庫)感想日中戦争、アジア太平洋戦争において、昭和天皇が「大元帥」として統帥部への下問を通じ、主体的、積極的に戦争指導を行っていたことを描き出す。その戦略眼には非凡なものがある一方で、戦況の推移に一喜一憂し、下問が悪影響をもたらすこともあった。また軍部の側も天皇の言葉を利用する一面もあった。そうした細かな論証を積み重ねることで、絶対君主に近い立場にあった昭和天皇の戦争責任を問うていく。近代君主と戦争との関わりは、明治天皇、あるいは英国王や独皇帝、露皇帝などと比較したらどうなるのかという点が気になる。読了日:07月26日 著者:山田 朗

北朝の天皇-「室町幕府に翻弄された皇統」の実像 (中公新書 (2601))北朝の天皇-「室町幕府に翻弄された皇統」の実像 (中公新書 (2601))感想自らの権威に不安があり、北朝天皇家に保証を求めた足利将軍家と、経済力がなく足利将軍家に保証を求めた北朝天皇家の相互依存関係を描き出す。将軍と天皇との個人的な相性はともかく、足利将軍家は「王家」の執事として振る舞わなければならない宿命にあった。その役割を担えなくなった時が足利将軍家終焉の時であった。天皇家とその後の織豊政権、徳川将軍家との関係はどのようだったかという所まで考えさせられる。読了日:07月29日 著者:石原 比伊呂
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