博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『「大きなかぶ」はなぜ抜けた?』

2006年08月07日 | 世界史書籍
小長谷有紀『「大きなかぶ」はなぜ抜けた?』(講談社現代新書、2006年7月)

表題となっているロシアの「大きなかぶ」や「ヘンゼルとグレーテル」、「桃太郎」など、世界中の昔話や伝説を様々な切り口から考察した本です。個人的には、インドでは『ラーマーヤナ』の読者が感じる疑問をQ&A方式で回答した本がベストセラーになっていて、「主人公のラーマが敵を騙し討ちにするのは道義的に問題があるのではないか?」「ラーマが女性や下位のカーストを差別するような発言をしているのはオッケーなのか?」といった疑問にまじめに答えているというのが面白かったです(^^;)

あとは、中国東北三省にくらす朝鮮族の間で神として信仰されている林慶業の話が興味深かったですね。林慶業は明の衰退と清の勃興にあたって、朝鮮王朝が今まで通り明に忠誠を尽くすのか、それとも新興の清に服属するのかという難しい判断を迫られている時期に、明と朝鮮王朝に忠誠を尽くそうとして非業の死を遂げた人物です。

この林慶業はお話の中では胡(清)の中国平定に力を貸したことになっているのですが、近年になって、彼が中国平定に手柄をたてた褒美として胡の王に「東北三省七百里」を要求し、これが原因で朝鮮に送還されて処刑されてしまったという一節が語られるようになり、東北三省があたかも本来は朝鮮(=韓国)のものだと暗示するようなこの伝承を中国当局が問題視するようになったとのことです。昔話や伝承の類も政治の動きに従って生々しく変化するものなのでしょうか……
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