博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『半妖傾城』その3

2016年07月30日 | 中国近現代ドラマ
『半妖傾城』第9~12話まで見ました。

江雪舞は公開での開頭手術を成功させたものの、マスコミの話題を傾城のバレエ教室(幽瞳の支援で始めました)を奪われ、焦りから営業マンの持ち込んだ偽薬に手を出してしまい、牢獄行きに。雪舞を助けるには逃亡した営業マンを探すしかないということで、明夏→傾城→幽瞳へと営業マン探しが託され、幽瞳は自分と同じ「半妖」で上海裏社会のボス月濃を頼ります。


ということで第三の「半妖」月濃さん。衣装と屋敷の調度にはツッコまないで下さい (^_^;) それとフェアリー的な意味での妖精が屋敷を飛び回ってるのは見なかったことにしましょう。

で、月濃とのバトルに勝利した幽瞳は、月濃に捕らえられた営業マンの身柄を確保。月濃、思わせぶりにいきなり出てきたと思ったら、出番はこれで終わりなんでしょうか……

これで雪舞を救える……はずでしたが、一歩間に合わず、雪舞は旧知のイヤな金持ちの御曹司周公子になすがままにされることで、彼の力で出獄。そこから上海駐屯の軍閥の親玉程司令に取り入って愛人となり、周公子を射殺→程司令が上海を追われて鉄道で東北に逃れることになるが、雪舞は鉄道の時刻に間に合わず、置いてけぼりという激動の展開が続きます。そして傾城が「半妖」であることに気付いた雪舞は、父親の無念を晴らすため、傾城が「半妖」であることを暴露し、「妖精」の実在を証明しようと血道を上げることに……

そして傾城は雪舞の仕掛けた罠にはまり、夜道を歩いている時に雪舞の雇った3人の暴漢に襲われ、「半妖」の血に目覚め、暴漢を殺害してしまいます。


ここから自分が「半妖」であることを自覚することになる傾城……

明夏は暴漢の殺害犯を追い、傾城は雪舞に捕縛され、「妖精」の存在を証明するための実験材料に供されることに。頼みの綱の幽瞳は冬眠中(「妖精」「半妖」は寒い環境の中では生きられないので、冬は冬眠が必要)というところで次回へ。
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『趙氏孤児案』その3

2016年07月27日 | 中国古典小説ドラマ
『趙氏孤児案』第12~17話まで見ました。

食客を動員して趙朔の邸宅から屠岸賈への邸宅への地下道を掘り進めさせ、屠岸賈の暗殺を図る公孫杵臼。程嬰が気付いてそれを阻止したものの、屠岸賈が途中まで掘り進めた穴を自邸につなげ、地下道に配下の者を潜ませ、主君景公が探訪した際に襲撃させます。下手人は趙朔の食客の一人蒙奇。実は彼は屠岸賈の間者なのでした。蒙奇が「趙朔はこの計画と無関係」と発言したものの、当然景公の不信感は拭えず、趙朔も責任を感じて食客を解散。

これで趙朔を守る者がいなくなったということで、屠岸賈に促された景公は、重臣の欒書らに趙氏族滅を命令。覚悟を決めた趙朔は欒書らの前で自決します。趙朔の夫人荘姫は景公の姉で、ちょうど出産の時期を迎えていましたが、景公のはからいにより事前に宮中に引き取り、夫の死と惨劇を知らぬまま趙朔の男児、本作のテーマとなる「趙氏孤児」趙武を出産。ほぼ同時に、程嬰の妻宋香と、屠岸賈の妻孟姜もそれぞれ男児を出産。しかし孟姜の方は出産時の大量失血により、そのまま亡くなってしまいます。

愛妻家としての一面も持つ屠岸賈は、悲しみのあまり生き残った赤子趙武のことなどどうでもよくなりますが、謀臣到満の進言に促され、将来自分の子の障害になるであろう趙武の抹殺を決意。景公と連携して宮中から自邸へと趙武を連れ出させます。事態を知り、趙武を助けようと程嬰が駆け付けた時には、趙武は使用人の且騅によって井戸に投げ捨てられたはずでしたが、実は密かに且騅に匿われていたのでした。

且騅の生まれ故郷の村は、いつぞやの旱魃による大飢饉(その2を参照)に苦しめられましたが、趙朔が出征して立ち寄った際に兵糧を分けてくれたので村人たちが助かり、その恩返しをしたかったとのことです。あの話がここで生きてくるのかと…… こういう具合に趙朔が理想主義者でお人好しであることによって身を滅ぼすことになったという描写にとどまらず、それが一方で我が子を助けることにもつながったということで、厳しい現実を描きつつも理想や理念がちゃんと報われるという展開になるのは、中国的なヒューマニズムと言ってもいいかもしれません。

程嬰一家と公孫杵臼は趙武を連れて逃亡生活に入りますが、趙武が生きていると知った屠岸賈は、趙武が見つからなければ十日以内に城内のすべての赤子を殺害すると、ヘロデ大王のようなことを言い出します。このままでは趙武はもちろん程嬰の子も生き延びられないと、公孫杵臼は程嬰に、程嬰の赤子を身代わりにして趙武を助ける策を提案。当然のように宋香は生まれたばかりの我が子を犠牲にすることに強く反発しますが、程嬰は深く思い悩み、逡巡しつつもその策に同意。


公孫杵臼は屠岸賈に疑いの目を向けさせないため、身代わりの赤子を守るふりをして死ぬことを決意。程嬰は生き延びて趙武を育てるということで、誓いを交わす二人。

で、屠岸賈を欺くために、まずは程嬰が趙武は公孫杵臼の手にあると密告。公孫杵臼は趙武(=程嬰の赤子)を命懸けで守るふりをしてみせて絶命。趙武(=程嬰の赤子)は屠岸賈の手に渡りますが、赤子が身代わりではないかという疑いを抱いた屠岸賈は、念のためにということで衆人環視の中で程嬰自ら赤子を殺すように強要。そしてその様子を目にした宋香は………
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『趙氏孤児案』その2

2016年07月18日 | 中国古典小説ドラマ
『趙氏孤児案』その2

『趙氏孤児案』第6~11話まで見ました。

趙朔を追い落とすため、次から次へと罠を仕掛ける屠岸賈。晋の君主景公が3人の刺客に暗殺されかけるという事件が発生し、趙朔に刺客を捕らえるよう命令が下されます。実はその刺客、屠岸賈の仕込みで、趙朔が犯人を捕らえられないように手を回して趙朔を追い詰める策かと思いきや、公孫杵臼の尽力で捕縛。しかしそれ自体がまた別の罠で、刺客は景公の前で「暗殺の首謀者は趙朔の同志である韓厥」「趙朔から不当な拷問を受けた」と告発。やはり趙朔が窮地に陥ります。

それを切り抜けたと思ったら、今度は秦国から同盟を結んでともに楚国を攻めようという提案がもたらされます。趙朔が大将、韓厥が副将、屠岸賈が兵糧の配給を命じられますが、実はこの時、晋国内では旱魃により飢饉が発生しておりました。しかし屠岸賈が情報を遮断しているので、景公も趙朔らもそのことを知りません。兵糧は本来被災民の救済に充てられるはずだったもの。で、出征して事情を知った趙朔が国内各地で兵糧を用いて被災民への炊き出しを行い、楚国と一戦もしないまま和議を結んで帰国。

この時は楚将石言がかつて程嬰に命を助けられた相手ということで、程嬰が手筈を整えて敵将のはずの彼から兵糧を借り受け、その石言が主君の楚の荘王から咎めを受けないどころか褒められたということで、趙朔もお咎めなしとなりましたが、今度は屠岸賈が趙朔を恐れる景公に知恵を付け、趙朔がまんまと自ら兵権の返納を申し出ることとなります。

景公「重臣の欒書と郤克が兵を率いて私闘を始めてしまった。どうしたらよいのか……」 趙朔「2人から兵権を取り上げればよろしい」 景公「どうやって?」 趙朔「まずは私が殿に兵権を返上します。そうすれば2人とも返上せざるを得なくなるでしょう」 ということで、まんまと兵権返上に同意する趙朔。もちろん欒書と郤克の私闘は、景公と屠岸賈による仕込みです。2人が兵権を返上する様子をしめしめとドヤ顔で見守る趙朔が痛々しいです……

景公が趙朔を恐れるのは、先々代の霊公が趙朔の父趙盾と対立して趙氏の一族によって暗殺され、自分の父成公がその趙盾によって擁立され、現在も趙朔は自分の姉莊姫を妻としているという背景があるからですね。

ということで趙朔の死という結果はわかっているはずなのに、毎回面白く見られてしまいます。ここまでは趙朔を助けようとする程嬰と、趙朔になりかわろうとする屠岸賈との知恵比べの様相を呈しています。同じく趙朔を支えるはずの公孫杵臼は、とにかく屠岸賈を暗殺すればいいとしか言わず、その蛮勇を屠岸賈に体よく利用されたりするただの脳筋、韓厥は、しっかりしているようで肝心な時に屠岸賈の美人局に引っかかり、女の尻を追っかけたりするオンナスキーという役回りになっていますw

屠岸賈もこの2人については相手にしていませんが、程嬰については「ワシの意図を見抜けるのはあやつのみ」と、評価を爆上げ気味。本人がよく口にしているように、「一介の医師」にすぎない程嬰がここまで頭が回るのは少々不審ではありますが、これまた本人の台詞にあるように、「国を治めるのは病人を診るのと同じ」ということで納得しないとしかたがないのでしょうか (^_^;)

しかしその程嬰が支える趙朔も屠岸賈によって着実に死亡フラグを積み上げさせられていき……

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『半妖傾城』その2

2016年07月16日 | 中国近現代ドラマ
『半妖傾城』第5~8話まで見ました。

ヒロイン傾城の無事を知った上海のバットマンこと幽瞳。厨二病気質の彼は傾城に露悪的に自分が「妖怪」であることをバラしますが、傾城はそんな彼を「お友達」として受け入れます。実は傾城自身「半妖」であることにはまだ気付いていません。


白昼堂々と人前で割と気軽に何度も正体を現す幽瞳さん…… 屋敷に妙齢の女性を集め、「私に本当の愛とは何か教えるのだ!教えてくれた者にはこれをやるぞ」と札束をちらつかせちゃったりと、何かとアレな行動が目立ちます。『美人心計』の周亜夫、『宮』の四阿哥、『山河恋』のホンタイジと、于正はこの手の厨二病系イケメンを描くのが本当にうまいです (^_^;)

で、その幽瞳は妖怪を捕らえて見世物にしようと狙う変人医師江教授に追われます。実は彼は義和団事件の時に傾城たちの母親が正体を現し、八ヵ国連合軍と戦う現場を目撃していたのでした。江教授は一度はこの幽瞳を捕獲しますが、妖怪の存在を世に知らしめようとマスコミを招いている間に、うっかり娘の雪舞に幽瞳を逃されてしまい、嘘つきとして上海中に報道されることに…… 結局彼はそれを苦に焼身自殺してしまいます。

江教授と同窓生だった明夏の母親「公主」は、息子と傾城を引き離し、雪舞と結婚させようと画策。


ヒロインの傾城と恋のライバルとなる雪舞。『蘭陵王』のヒロインと同じ名前で、医術に長けているという設定まで一致しているのは偶然でしょう。たぶん……


こちらが明夏。優等生タイプのイケメン。母親を「公主」(姫様)と呼ぶ。

そして「公主」の暗躍により、自分のせいで明夏を危険にさらしたと思い詰めた傾城は、彼との別れを決意。ここで傾城を説得するために、幽瞳が彼の父母の半生を語ります。彼もまた、清末光緒年間に鏢局の若き主の父親と、母親の「妖精」との間に生まれた「半妖」だったのですが……

一度は雪舞との結婚を承諾した明夏でしたが、結婚式当日に逃亡。街中で傾城と再会し、衆人環視の中で彼女を伴侶とすることを宣言。恋に破れた雪舞は、父親から受け継いだ病院の事業拡大にのめり込み、公開で行った開頭手術を成功させ……という所で次回へ。

于正作品らしく、物凄くテンポはいいんですが、「上海のバットマン」幽瞳がいなけりゃ本当にただの民国期メロドラマなんですよね……
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『趙氏孤児案』その1

2016年07月10日 | 中国古典小説ドラマ
『半妖傾城』と並行して、2013年放映と旧作ながら歴史文芸大作として評価が高い『趙氏孤児案』の鑑賞を開始。今回は第1~5話まで鑑賞。

楚国に住む晋国出身の医師夫婦程嬰と宋香。時に楚との戦争に敗北した晋の趙克がこの程嬰宅に身を寄せ、自分の主人である趙朔に、晋の下軍の佐である卑南が、佞臣屠岸賈の指図によって自分を裏切り、敗北に追い込んだことを伝えて欲しいと懇願し、絶命。ここから程嬰と趙朔との関わりが始まります。


程嬰を演じるのは有名俳優の呉秀波。

何とか晋国の趙朔のもとに辿り着いた程嬰ですが、妻の宋香が楚国に置き去りとなり、囚われの身に。人格者の趙朔は「それはいかん」と、自分を慕う侠客公孫杵臼夫婦を宋香救出に派遣。結果、宋香は無事救出されますが、今度は公孫杵臼の妻双槐が楚兵との戦いで犠牲に…… 程嬰夫妻は2人で妻を失った公孫杵臼を支えていこうと決意するのでありました。


やはり物語の主要人物となる公孫杵臼。趙朔を恩人として慕う。融通の利かなさはまんま『史記』に出てくる侠客。(というか、元ネタのひとつは『史記』であるわけですが……)


そしてこの2人が対峙する屠岸賈。晋君のお気に入りで、陰謀を巡らせ、晋国第一の臣下である趙朔をあの手この手で排除しようとします。かと思えば愛妻家の面もあり、身重の妻の治療のために、程嬰の要求を聞き入れたりといった具合に、単純な悪役にはなっておりません。

ということで、『史記』や元曲・京劇に見える「趙氏孤児」を原典とする本作ですが、滑り出しはいい感じですね。ただ、全41話のドラマということで、引き延ばし感が出てこないかどうか不安でありますが…… 現段階ではタイトルの「趙氏孤児」がまだ生まれてすらいません (^_^;)
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『半妖傾城』その1

2016年07月05日 | 中国近現代ドラマ
『美人心計』『山河恋』、金庸原作『笑傲江湖』などでお馴染み于正脚本&プロデュースの歴史伝奇ということで、『半妖傾城』の鑑賞を開始。今回は第1~4話まで鑑賞。

ヒロイン聶傾城は人間の父親と「妖精」(中国語では妖怪変化、特に女妖を指す)との間に生まれたハーフ(=半妖)という設定。まずは1900年北京。安以軒演じる母親の応蝶は、家族を逃すために正体を現して八ヵ国連合軍と応戦し、壮絶な死を遂げます。


冒頭で退場してしまう応蝶@北京前門。赤い目・長い耳(いわゆるエルフ耳)・黒い翼・金の爪が「妖精」のトレードマークのようです。

そして1915年上海。傾城は父親・妹の傾心と一家三人でやたら豪華な貸家で暮らしておりましたが、ダンサーとして働いているキャバレーでイケメンの貴公子明夏と出会い、恋仲となります。明夏は名家の出ながら、巡捕房(上海租界の警察署)の総長(どうもポジションがよくわかりませんが、署長に相当するんでしょうか)を務めています。しかし明夏の母親の「公主」は2人を引き離そうと、傾城や、教員をしていた父親をクビに追い込み、更に大家を抱き込んで一家を貸家から追い出したりと、嫌がらせを展開。

ここまでなら、よくある民国期を舞台にしたメロドラマの世界なのですが、いじめを苦にして学校の屋上から飛び降りた妹を救おうと、後を追って飛び降りた傾城に翼が生えるあたりから、一気に雰囲気が不穏化していきますw


まだ自分が「半妖」であると気付かないヒロイン。周囲の人間も翼のことは気付いていない模様……

ここで第二の「妖怪」幽瞳が登場。やはりイケメンの貴公子なのですが、忠実な執事と広い屋敷に二人暮らしで、夜な夜な正体を現して上海中の悪人を退治して回るという、中華版バットマンみたいな活動を展開しています 。その彼がひょんなことから傾城と出会って惚れてしまい、陰ひなたと傾城を支援することに。


闇夜と爆発シーンがやたらと似合う厨二病系イケメンの幽瞳さん。

で、家族のためにと賞金めあてで「花国皇后」というミスコンに出場する傾城。他の出場者に嫌がらせをされながらも、幽瞳の励ましにより優勝を勝ち取りますが、「花国皇后」の主催者南覇天が彼女を妾にしようと魔の手を…… ということで、昼ドラのようにヒロインに次から次へと災難が押し寄せます (^_^;) 今回はその南覇天の悪行を知って屋敷に踏み込んだ明夏が傾城を救い出し、一方で幽瞳が事態を知って傾城が南覇天に殺害されたと勘違いしたあたりで幕。

中国版『高慢と偏見とゾンビ』みたいなノリを期待しつつ見続けたいと思いますw
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2016年6月に読んだ本

2016年07月01日 | 読書メーター
入門 国境学 - 領土、主権、イデオロギー (中公新書)入門 国境学 - 領土、主権、イデオロギー (中公新書)感想
世界の国境のあり方から、日本の領土問題や国境のあり方を論じる。北方領土・竹島・尖閣諸島について、陸の論理が海や島には通用しないという点、また根室や沖縄に関して現地住民の意識がないがしろにされているという点については同意。最後のボーダーツーリズムについては、必ずしも政府やお役所が歓迎する方向ではないだろうが、これも「役に立つ」学術のあり方なのかと感じた。
読了日:6月1日 著者:岩下明裕

中国メディア戦争―ネット・中産階級・巨大企業 (NHK出版新書 488)中国メディア戦争―ネット・中産階級・巨大企業 (NHK出版新書 488)感想
中国では情報統制があるというのは事実だが、人々は真実を知らないわけではないし、知ろうとしないわけでもない。そのことを、「七〇後」世代と中産階級の動きを中心に確認していく。中産階級より更に下の階層の動きや志向をスルーしていることについては批判もあるだろうが、それは他の論者の著作で補充すればよいと思う。
読了日:6月6日 著者:ふるまいよしこ

シナに魅せられた人々―シナ通列伝 (研文選書)シナに魅せられた人々―シナ通列伝 (研文選書)感想
戦前のいわゆる「シナ通」6名プラスアルファの評伝。宮崎滔天や内山完造のような著名人ではなく、後藤朝太郎・井上紅梅のような、功成り名遂げたとは言いがたい微妙な有名人や無名人を取り上げる。こうして「シナ通」たちの活動を見てみると、中国や中国文化を特殊なもの、すなわち普遍的でないものと見ることが中国理解の妨げになっているように感じられてならない。
読了日:6月7日 著者:相田洋

秩禄処分 明治維新と武家の解体 (講談社学術文庫)秩禄処分 明治維新と武家の解体 (講談社学術文庫)感想
秩禄処分といえば「士族の商法」とか士族の帰農がまず思い浮かぶが、本書によれば、経験のない者にいきなり農業をやらせるのは相当無理なことであるようだ。これはサラリーマンが退職(あるいは失業)したら田舎で農業をみたいなことがよく言われる現代にも通じる教訓だろう。あとは本書で言及される、当局がまず自主的な改革を命じ、その不徹底を理由に抜本的な改革を命じるとか、本来は貴族自身の自主的な判断でなされるはずのノブレス・オブリージュが、下々の方から強制されるというのも今でも「あるある」である。
読了日:6月8日 著者:落合弘樹

革命とナショナリズム――1925-1945〈シリーズ 中国近現代史 3〉 (岩波新書)革命とナショナリズム――1925-1945〈シリーズ 中国近現代史 3〉 (岩波新書)感想
本書を読んで、近代中国のナショナリズムが日本の侵略を承けて形成されたことを再認識。個別の指摘としては、「南京大虐殺」当時の日本軍が予備役・後備役を中心とし、練兵や軍規の面で大変質が悪かったこと、1930年当時の湖南長沙の人口が30万人であったこと(=この数え方でいくと、長沙より人口が多いと見られる同時期の南京の人口は、30万人を軽く超えると思われること)などが注目される。
読了日:6月9日 著者:石川禎浩

移民大国アメリカ (ちくま新書)移民大国アメリカ (ちくま新書)感想
アメリカの移民政策とその実状、移民によるロビー活動、日本での移民受け入れの展望から成るが、移民によるロビー活動の部分を面白く読んだ。日本でも話題となった下院での慰安婦決議については、中国におけるウイグル人の人権問題などとセットで決議され、人権や女性の権利の保護といった普遍的な価値観を重視するという文脈で訴えたことが決議の大きな要因となったと指摘。日本の移民政策については、日本は既に実質的に移民社会となりつつあるという指摘に同意。
読了日:6月12日 著者:西山隆行

社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)感想
比較的オーソドックスな中国現代史だと思うが、当時のソ連などとの対外関係や、日本・韓国などとの比較に紙幅を割いているのが特徴か。中華人民共和国が当初から社会主義をめざしていたわけではないこと、文革期の下放が、当時都市部の高校卒業者の進路がほとんどなかったことを承け、彼らを紅衛兵の供給源としないための措置だったこと、王蓉芬のように少ないながらも当時の毛沢東に批判的な若者も存在したことなどを指摘。
読了日:6月14日 著者:久保亨

兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)兵隊になった沢村栄治: 戦時下職業野球連盟の偽装工作 (ちくま新書)感想
「戦時下職業野球連盟の偽装工作」というサブタイトルの方が本題。よく話題になる「ストライクをヨシと言い換えた」式の、チーム名や野球用語の日本語化は、当初は野球連盟側の自主規制だったのが、後に陸軍報道部から、日本語化の更なる徹底を要請(実質的には命令)されるという二段階からなるとのこと。あとは、戦前から巨人のオーナーが横暴だったのが印象的。今と異なるのは、他のチームのオーナーが一致団結して巨人をハブったりして横暴を抑えたことと、陸軍という共通の敵が現れると、巨人も他のチームと協調の姿勢を示したことだが…
読了日:6月17日 著者:山際康之

大元帥と皇族軍人 明治編 (歴史文化ライブラリー)大元帥と皇族軍人 明治編 (歴史文化ライブラリー)感想
皇族や公家が戊辰戦争の総督・参謀などに押し出され、若い頃の西園寺公望が「やんちゃ」だったという話を見ると、何となく幕末の皇族・公家の立ち位置が南北朝時代のそれとかぶるように思える。あとは西南戦争が皇族・華族のノブレス・オブリージュ実践のはしりとなったこと、皇族の軍人化に対して華族の軍人化が思うように進まなかった点などが興味深い。
読了日:6月19日 著者:小田部雄次

梁啓超――東アジア文明史の転換 (岩波現代全書)梁啓超――東アジア文明史の転換 (岩波現代全書)感想
梁啓超が日本亡命時代に執筆した『清議報』『新民叢報』の論説の分析が中心。戊戌の政変以後清朝政府にとってはお尋ね者だったはずが、皇族の載沢らを中心とする海外視察団の報告書を(無論匿名で)代筆したという話が面白い。あとは在日華僑が小学校の開設にこだわったという話や、清末の日本への留学生の数が、在日華僑の人口や、日本人の高等学校への進学者の数を優に上回っていたという、亡命時代の梁啓超を取りまく背景が興味深い。
読了日:6月21日 著者:狹間直樹

歴史学ってなんだ? (PHP新書)歴史学ってなんだ? (PHP新書)感想
本書購入時以来の再読。「歴史学とは何か」というより「役に立つ学術とは何か」あるいは「学術が役に立つとはどういうことか」を追求している感がある。「というよりも、歴史家がどう思うかにかかわりなく、歴史学は社会の役に立つツールを提供してしまうにちがいありません」という著者の言葉通り、学術は発表されれば何かの拍子に勝手に世の中の役に立ってしまうものではないか。
読了日:6月23日 著者:小田中直樹

元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)感想
本書では元老を伊藤・山県・黒田・井上馨・松方・西郷従道・大山・西園寺の8名のみとしているが、「元勲優遇の詔勅」を元老の条件としない点などで、どうしても曖昧さが残るように思う。あとは伊藤博文の構想では大日本帝国憲法は君主機関説を前提としていたこと、明治日本の指導者が他の開発独裁を進めた国の指導者と比べて腐敗が少なかったことが、近代化成功の大きな要因としている点が気になった。
読了日:6月27日 著者:伊藤之雄

「正史」はいかに書かれてきたか―中国の歴史書を読み解く (あじあブックス)「正史」はいかに書かれてきたか―中国の歴史書を読み解く (あじあブックス)感想
TLでしばらく前に正史の話題が出たので再読。『史記』『漢書』『三国志』『後漢書』が当初私撰の書であり、特に『史記』において、後代で言う稗史・野史的な要素を多分に含んでいることを思うと、正史と稗史・野史の区別に必要以上にこだわることは、史学史以外の文脈で果たしてどれほどの意味があるのかと思った。
読了日:6月27日 著者:竹内康浩

自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折 (岩波新書)自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折 (岩波新書)感想
同時期に出た中公新書の『元老』が明治政治史のメインストリームを扱っているとすれば、こちらはサブということになろうか。自由民権運動を戊辰戦後デモクラシーと位置づけ、政府と民権派の対立を、来たるべき社会の構想をめぐるものではなく、どちらが来たるべき社会の担い手となるかをめぐるものであり、政府と民権派双方に相手側との対話・協調を拒絶したとする。この対立の構図が21世紀の現在に再び復活していると見れば、前世紀の「55年体制」は与党と野党との馴れ合いではなく、政治の成熟を示すものだったのかもしれない。
読了日:6月30日 著者:松沢裕作
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