博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『秀麗江山之長歌行』その7

2017年01月29日 | 中国歴史ドラマ
『秀麗江山之長歌行』第34~39話まで見ました。

銅馬軍団を降し、「銅馬帝」の異名を得た劉秀は、長安に赤眉軍が迫るの報に接し、更始政権に反旗を翻すのは今だと自ら出兵しますが、待ち伏せしていた劉玄側の武将・謝躬に追い詰められ、一人崖からダイブ。お馴染みの崖落ちですね。もちろん生きていた劉秀ですが、この件がきっかけとなって呉漢らから万が一のために後継ぎを残すように諫められてしまいます。で、それまで陰麗華のことを思って手を付けなかった過珊彤とようやく夫婦になり、男児劉強(史実の劉彊)が誕生。

一方、劉玄側では張卯らが謀反をおこして長安を襲撃し、劉玄が一時長安を追われるという自体に。乱戦の最中でこれまで趙姫と後宮バトルを繰り広げてきた韓姫があっさり死んでいます。そして絶望感から酒と女に溺れて絵に描いたような暗君モードに突入した劉玄をよそに、麗華は太学で図讖『赤伏符』を入手し、劉秀が皇帝になるという予言を広めようとします。


『赤伏符』近影。麗華から使者の彊華を通じてこの『赤伏符』を入手した劉秀は、いよいよ皇帝に即位。すなわち後漢の初代光武帝です。早速真定王劉揚がやって来て「ワシには褒賞がないんか?」とか、姪との間に生まれた劉強を太子にしろとか言い出してますが、この人、クズッぷりにブレがないですな (^_^;)

劉玄の方では、更始政権が完全に空中分解してしまい、長安を逃れた劉玄は赤眉軍に降伏を決めますが、赤眉軍と結んだ張卯の部隊と乱世の末に殺害。なかなかいいキャラだっただけに退場が惜しまれます…… 最後まで劉玄に付き従った麗華は、趙姫らが民間に逃れたのを見届けて新野の陰家へと戻ります。

さて、劉秀の方は朱鮪が守っていた洛陽を陥落させ、この洛陽を都と定めます。


そして鄧晨や伯姫らを新野に派遣して乗り気でない麗華を説得させ、彼女を洛陽へと迎え入れ、再会を果たしますが、珊彤とのこともあってなかなか彼女の心を開かせられません。

そうこうしているうちに、馮異・鄧禹・呉漢といった功臣たちが諸侯に封じられたり新たに官に任じられている中、自分には何の褒賞もないということで真定王劉揚が謀反を画策。劉秀が彼の親戚筋にあたる耿純を諮問に差し向けたところ、この耿純があっさり劉揚を殺害してしまいます。

これに危機感を抱いた珊彤の母親は、洛陽の街で麗華を怨む彼女の元侍女・胭脂が発見されたのを奇貨とし、彼女に劉秀へ美人局を仕掛けさせ、麗華を幻滅させて宮廷から飛び出させることに成功。胭脂はいつぞや麗華が従姉の鄧嬋を新野へと連れ帰ろうとする際に置いてけぼりの形になってしまい、以来男たちの慰み者となって麗華を逆恨みするようになったという設定なんですが、赤眉軍との戦いや、劉永・彭寵の反乱がおこっているのをよそにこんな展開で大丈夫なのかという気が……

で、反乱鎮圧のために親征を決定した劉秀が、渋々不測の事態に備えて珊彤の立后と劉強の立太子を決定したあたりで次回へ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『秀麗江山之長歌行』その6

2017年01月22日 | 中国歴史ドラマ
『秀麗江山之長歌行』第28~33話まで見ました。

まず最初にお詫びです。前回取り上げた謎の老人の正体ですが、崖落ちして死んだはずの陰麗華の父親……ではなく、陰家の護衛の尉遅峻でした(´・ω・`)

さて、劉秀側は王郎との戦いを有利に進めるため、河北で大勢力を誇る真定王の劉揚との同盟を取り付けようとしますが、劉揚は同盟の条件として、姪に当たる過珊彤との政略結婚を求めます。


過珊彤は史実の郭聖通をモデルとしたキャラ。中国語で発音が似通った仮名になっているということは、史実とは異なる展開が待っているということでしょうか?第1話で母親ともども悪漢(実は呉漢)に襲われるところを劉秀に助けられたという縁があり、それ以来劉秀に恋い焦がれていたという設定。

当然劉秀と陰麗華は劉揚側の要求に反発しますが、現状では王郎側の戦力が劉秀側より圧倒的に勝っているということで、馮異が「お前が過珊彤との結婚を承諾しなければ、どのみち援軍を得られずに王郎の軍に皆殺しされるんだから、今ここでお前を殺す!」と剣を振り回して麗華を脅しつけ、ムリヤリ政略結婚を承諾させます。傷心の麗華は劉秀のもとを去り、伯父の蔡少公のもとで、滹沱河の戦い以来癒えない足の矢傷の療養に励むことに……

過珊彤との婚礼が済んだ劉秀「それで早速王郎と戦うために兵をお借りしたいのですが」 劉揚「我々の兵は、数は多いものの昆陽で新の大軍を打ち破ったあなた方と比べてあまりにも貧弱。我々は背後の守りを固めますから、あなた方だけで戦って下さいm9(^Д^)」 劉秀「」 と、早速掌返しがw


本作のきたないなさすが要員らしい真定王劉揚。

「これでは陰麗華を悲しませてまで過珊彤と結婚した意味がないのでは……」と、同盟を仲介した劉植にまで言われてしまう始末。それでも「真定王が敵に回らなかっただけでも意味はある。それに我々が劣勢になればさすがに援軍を送ってくれるはず」と期待する劉秀。そうこうするうちに王郎に信都城を攻められ、任光・耿純の家族が人質となり、これはもう本当に劉揚に援軍を出してもらわないとヤバいということで、劉植が使者に。しかし劉揚は居留守を決め込みます。

これではいくら何でもあんまりだと、今度は過珊彤が伯父のもとに押しかけ、「援軍を出してくれないと毒杯を仰って死にます!」と談判し、彼女の母親の手前もあって援軍を承知した劉揚でしたが、口先だけで実際には援軍を出しません(´・ω・`) で、結局陰麗華が密かに陰家の私兵を信都城へと差し向け、ほぼ全滅の憂き目に遭いながらも任光らの家族を救出し、城外へと逃がします。政略結婚に本当に全く意味がないじゃないですか!というか劉揚は劉秀が自力で天下を取ったら、その成果にフリーライドする気満々ですな……

その後、麗華は劉玄が放った密偵に拉致され、長安の劉玄の後宮で密かに足の療養に励むことになります。ここで麗華が劉玄の特別待遇を受ける客人に扱いになっていたり、劉玄の妃の韓姫と趙姫との対立に巻き込まれたりと、割とベタな後宮劇が展開されます (^_^;) 麗華もこれまでとは違って策士らしい面を発揮していきますが、足の負傷をきっかけに巾幗英雄から女軍師へとクラスチェンジしていくんでしょうか?

一方、河北の劉秀は、再び配下として合流した呉漢・蓋延らの援軍を得て邯鄲を攻め落とし、王郎を敗死させます。その功により劉玄から蕭王に封ぜられますが、更に更始政権からの自立を図っていきます。そして周囲から何も知らされていなかった過珊彤は、夫が自分より先に麗華と結婚していたことを知ってしまい……
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『秀麗江山之長歌行』その5

2017年01月15日 | 中国歴史ドラマ
久しぶりの『秀麗江山之長歌行』です。今回は第22~27話まで鑑賞。

洛陽への遷都を図る劉玄に先立って洛陽に入城した劉秀ですが、現地の人々からの声望が高まり、劉玄から警戒されることに…… そこで今度は更始政権に従わない河北の諸勢力を宣撫するための使者を志願。劉玄の統制から逃れて河北で自立の道を模索しようというわけです。劉秀は出立の前にただ1人残された妹・伯姫と李通との婚姻を差配。陰麗華も一時実家に預けようとしますが、こちらは例によって武装して夫に付き従うことに。

邯鄲に到着したあたりで、第1話で登場した呉漢と再会したり、算命先生(占い師)の王郎も配下に加えてトラブルをおこされたりしております。ここで河北の豪族・耿純が家族を欽口山の山賊に捉えられたということで、劉秀に助けを求めに来るのですが、「このドラマでも地元の山賊と戦うのか……」と一瞬うんざりしましたが、山賊の親玉・蓋延が呉漢の知り合いということで、特に戦闘もなくあっさり解決します。

その後劉秀は元の趙王の太子と称する劉林と対面しますが、民衆の被害も顧みずに黄河の堤防を決壊させて、河北一帯で猛威を振るう赤眉軍を水攻めにしようと提案する彼と対立。その劉林のもとに、劉秀の軍から逃亡してきた王郎がやって来ます。 王郎「実は私、漢の成帝の落胤・劉子輿なんだ(*^◯^*)」 劉林「なん…だと…!?(; ・`д・´) ならば舂陵劉氏の傍系にすぎない劉玄・劉秀などよりずっと血筋が良いではないか……」 王郎「殿下も趙王になれますよ?」 ということで王郎を擁立する劉林。河北の豪族の中にも王郎に従う者が現れ、劉秀は王郎側に追われて北へ北へと逃亡を迫られることに…… 本来劉秀を支援すべき劉玄も、洛陽から更に長安への遷都を図って忙しいのと、この際王郎と劉秀を争わせて共倒れさせようということで、援軍を送ろうとしません。

少ない手勢で食糧を欠きつつ大雪原の移動と野宿を迫られる劉秀一行。ここで馮異が王覇らとともに雪の下から豆のようなものを掘り出して粥を作り、劉秀に飲ませるというエピソードが挿入されるのですが、これも史実に基づいているようです。そして元の婚約者だった麗華を追ってきた鄧禹が合流し、劉秀の配下に加わります。と言ってもほとんど行き倒れのような状態で、足手まといに近いような気もしますが (^_^;)

で、氷結した滹沱河を一行が渡っている最中に王郎側の手勢に追いつかれ、応戦する麗華が矢で足を射貫かれて氷が割れた所から河底へ……ということで第1話冒頭のシーンに戻って来ましたが、ここで一旦麗華が行方不明になるのかと思いきや、そんなことはなくあっさり劉秀に救出されています。


滹沱河を渡り終える一行を見守り励ます謎の老人が…… 麗華がその声に聞き覚えがあるということで、崖落ちして死んだはずの麗華の父親とか、そういうオチになりそうな気が (^_^;)

危機を逃れた劉秀一行は、味方の任光が守る信都城に落ち着き、態勢を取り直すことに。ということで次回へ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ゲーム・オブ・スローンズ第六章 冬の狂風』その2(完)

2017年01月07日 | その他映像作品
『ゲーム・オブ・スローンズ第六章 冬の狂風』第6~最終10話まで見ました。

ミーリーンでは、ティリオンと和平を結んだはずの親方連が水軍を率いて攻め寄せてきますが、そこへ折良くドロゴンに乗ったデナーリスが帰還し、他のドラゴン2匹も加わって敵の水軍を焼き払います。ドスラク族の活躍もありましたが、やはりドラゴンは強いですね(確信) で、叔父ユーロンが「塩の玉座」に即いて鉄諸島から逃れてきたヤーラとシオンを配下に加え、デナーリスはいよいよウェスタロスへと進攻を開始。

キングズ・ランディングでは、ハイ・スパロー(雀聖下)のもとからマージェリーが解放されますが、「以前の私は偽善者だった」「信仰心がなかった」などと言いだし、監禁されて自己批判の連続で洗脳されてしまったような状態になっています。それで祖母や夫のトメン王にもハイ・スパローへの帰依を薦めるようになり、トメンも段々と信仰の世界へと染まっていきます。

2人の変化に危機感を覚えるサーセイと、ロラス&マージェリー兄妹の祖母オレナですが、なすすべもなく、不倫を問われたサーセイと男色趣味を問われたロラスの裁判の日を迎えます。サーセイは、決闘裁判に持ち込めば、クァイバーンに魔改造されたマウンテンを擁するこちらのものと高をくくっていたのですが、直前になってトメンが「信仰に反するから決闘裁判を禁止しよう」と言い出し、窮地に陥りますm9(^Д^)

しかしそんなことでめげるサーセイでもなく、裁判当日、自分は裁判の場であるベイラー大聖堂に赴かず、トメンも足止めしたうえで、ロラスの裁判が進んだ頃合いを見計らって大聖堂の地下に仕掛けた「ワイルド・ファイア(鬼火)」によってハイ・スパロー一味やマージェリーらを一気に爆殺。これで目の上のたんこぶがなくなった……はずでしたが、事態を知ったトメンが絶望して飛び降り自殺。その後なぜかサーセイがラニスター王朝のサーセイ1世として「鉄の玉座」に即くことに。このあたりは昔のコーエー三国志のシミュレーションゲームで、君主が死亡して後を継ぐ親族などがいない場合に適当な部下が新君主になる適当感と似ていますね。

一方、ウィンターフェル奪回のために立ち上がったジョン&サンサですが、領主たちの支援を思うように得られず、劣勢のままラムジーに戦いを挑みます。人質に取られたリコンを殺され、意外に戦巧者だったラムジーに追い詰められますが、サンサが密かに応援を要請していたピーター率いるヴェイル(谷間)の軍勢が援軍に駆けつけ、一転ウィンターフェルの奪回に成功。本作で長らくアレっぷりを披露してきたラムジーさんともこれでお別れです (^_^;)

ジョンは現状ほぼ唯一となった兄妹のサンサと「信頼しあおう」「ウィンターフェルの城主となるのはお前だ」なんて言っていますが、幼い女領主リアナ・モーモントら、元のスターク家の旗主たちはジョンこそが新たな「北の王」だと持ち上げ、ジョンとサンサ&ピーターとの間の雰囲気が微妙なものに…… で、そのジョンですが、実は生きていたベンジェン叔父さんに救われ、二代目「三つ目の鴉」を襲名する決意を下したブランが再び過去の幻影に潜り込み、若き日の父のエダードが瀕死の妹リアナから赤子を託される場面を目撃します。この赤子がひょっとしてジョン?そしてリアナに恋い焦がれていた人物がおそらくはジョンの父親ということになるはずですが……

というところで第六章は終わり。原作と違って綺麗に風呂敷が畳めそうな感じがしてきましたね (^_^;)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ゲーム・オブ・スローンズ第六章 冬の狂風』その1

2017年01月02日 | その他映像作品
huluで『ゲーム・オブ・スローンズ第六章 冬の狂風』の配信が開始されているということで、『秀麗江山』を一時中断。今回は前半の第1~5話まで鑑賞。

前章のラストで、野人との共闘に反発する叛徒に斬殺されてしまったジョン・スノウですが、「黒の城」に居候するダヴォスらが遺体を回収。やはり「黒の城」に逃れてきたメリサンドルなら生き返らせられるのではないかと期待するダヴォスですが、彼女はスタニスやジョンの死によってすっかり自信を失っています。でも同じく「光の王」の信徒であるミアのソロスが以前にザオリクを使ってましたよね?で、ダメ元ということで渾身のザオラル<を施してみたところ、見事ジョン・スノウが復活。メリサンドル自身も驚いたらしく、「光の王が約束された王はスタニスではなかった」「ジョンこそは約束された王子( ・`ω・´)」などとアツい掌返しをしております。

しかし仲間に裏切られたことがショックだったのか、ジョンは「黒の城」を発って一人旅に出るなどと言い出します。そこへシオンやブライエニーに助けられてラムジーのもとから逃れてきたサンサが「黒の城」に到来。ジョンは彼女とともに故郷ウィンターフェルの奪回に立ち上がることになります。しかしそのラムジーも、父親を殺害してウィンターフェルの城主となり、更にジョンやサンサらの末弟リコンを人質に……

一方、前章のラストでドロゴンに乗ってミーリーンを飛び去ったデナーリスですが、その後ドロゴンともはぐれたようで、懐かしいドスラク族の地に置き去りにされ、ドスラク族の族長の一人カール・モロに捕縛され、本来彼女が夫カール・ドロゴの死後に住むはずだった「寡婦の城」に送られて、他の族長の未亡人たちと残りの生涯を送ることに…… そこへ彼女を救出にやって来たジョラーとダーリオが到来。二人と協力してカール・モロたち族長を焼き殺し、彼らが率いていたドスラク人を配下に収めてミーリーンへと出立します。この場面で衣服が燃えてしまったということなのか、カール・モロたちのテントからデナーリスが炎を背景にして裸で登場しますが、この人は炎と裸が似合うなあと……

で、ミーリーンでそのデナーリスの留守を守るティリオンですが、奴隷制廃止に反対する親方連と手打ちを進め、更にデナーリスの声望を高めようと、「光の王」の女祭司キンヴァラの協力を仰ぐことに。お察しの通り、ありし日のメリサンドルさんのコピペのような人物で、「デナーリスこそが約束の女王」などとどや顔で語っています (^_^;)

「壁の向こう側」で「森の子」や「三つ目の鴉」の庇護を受けているブランは、「三つ目の鴉」の導きで過去の世界へと入り込み、幼き日、若き日の父親エダードの様子や、ホワイト・ウォーカー誕生の瞬間を目撃したりしていますが、ホワイト・ウォーカーの「闇の王」にロック・オンされてしまい、彼らの襲撃を受けてミーラに守られつつ何とか逃亡。ここでホーダーが「ホーダー」としか喋らない理由が明かされますが、原作の設定は全然違っていますね。原作ではホーダーの本名がウォルダーで、「ホーダー」というのは彼が自分で自分の名前を呼んでいるつもりという設定だったと思うのですが、ドラマ版では彼の本名はウィリスということになっていますし……

ということで第六章は原作から離れてほぼオリジナル展開ですが、何となく終わりが見えてきたこともあってか前章まで感じられた停滞感が払拭されてますね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2016年12月に読んだ本

2017年01月01日 | 読書メーター
本年もどうぞよろしくお願い致します。

欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)欧州複合危機 - 苦悶するEU、揺れる世界 (中公新書)感想
ユーロ危機・難民・イギリスのEU離脱などの問題を扱いつつ、これらの危機が複合化することで、例えばユーロ問題では対立し合うドイツとギリシアが、難民問題では利害が一致するという具合に対立が避けられるという側面があること、EU崩壊の危機と言いつつその実EUは常に危機にさらされていたこと、統合の進展は今日の危機の原因というより、そもそも統合は危機を避けるための措置であり、その価値は現在も失われていないことなど、EUのしぶとさを強調する議論が印象に残った。
読了日:12月3日 著者:遠藤乾

松陰の本棚: 幕末志士たちの読書ネットワーク (歴史文化ライブラリー)松陰の本棚: 幕末志士たちの読書ネットワーク (歴史文化ライブラリー)感想
吉田松陰の読書歴を思想遍歴とリンクさせようという試み。会沢正志斎の『新論』が題簽すら勝手な名前に変えられて好き勝手に読まれていたという現実、書籍を仲介として形成された人間関係など、前田勉『江戸の読書会』の続編的な書として読んだ。また「あとがき」にある、著者の研究のきっかけがWindows95パソコンの購入であったという話も、今となっては20年前の空気を伝えるようで面白い。
読了日:12月5日 著者:桐原健真

わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)わかる・身につく歴史学の学び方 (大学生の学びをつくる)感想
史料批判、先行研究の探し方、時代区分、「民族」「漢代の豪族」などの概念の問題、そしてゼミ発表と卒論等々、大学での歴史学の学習や研究はどんなものかをまとめたもの。史学科の1年生用の教科書として作られたものだろうが、史学科への進学を考えている高校生にも読んで欲しい本。従来史学概論にあたるものや分野別の研究入門は多く出版されてきたが、こういう形でそれ以前の段階の入門書が出版されることはなかったのではないか。
読了日:12月7日 著者:

日本と中国経済: 相互交流と衝突の100年 (ちくま新書1223)日本と中国経済: 相互交流と衝突の100年 (ちくま新書1223)感想
似たようなコンセプトの本は岡本隆司先生のものなどいくつか存在するが、本書では特に日中間の経済的な結びつきに注目。労使間の対立がナショナリズムに結びつく点や、日本側が中国政府の実力を軽視して対応を誤るといった現象が戦前から見られることを指摘。よく話題に上げられる中国のGDP統計に対する疑念についても、地道な研究によって代替的な推計がはじき出されており、実際の数字との誤差がどこから生じるかという問題についてもおおよそのコンセンサスが形成されているというが、その部分をもう少し詳しく説明して欲しかった。
読了日:12月10日 著者:梶谷懐

竹簡学入門―楚簡冊を中心として竹簡学入門―楚簡冊を中心として感想
楚簡と一口に言っても、文書類・卜筮祭禱簡、そして『老子』などの書籍類を同列に論じられるものかと思っていたが、竹簡の書式など、まとめて取り扱える部分は多いのだなと認識。特に読みどころとなるのは、具体的な文字や文章の釈読、竹簡の綴合や編連などの成果を例示する第3章。原著は中国の大学で入門書として講義で使用されているということだが、本書日本語版も戦国竹簡のスタンダードな入門書になるのではないかと思う。
読了日:12月13日 著者:陳偉

ここまで変わった日本史教科書ここまで変わった日本史教科書感想
小・中・高校で使われる日本史の教科書の内容はここ数十年でどう変わったのか。類似の本はたくさんあるが、文科省で教科書調査官を務めた研究者が執筆しているというのがミソ。教科書の内容と検定制度・学習指導要領との関わりについても触れている。個人的に興味を持ったのは、中・高の学習指導要領では平成の時代に関しては取り上げるべき具体的な事項がほとんど示されていないということと、教科書の記述の訂正や統計データの更新、最新の出来事の追記などは、検定制度を経ずに訂正申請制度で修正・増補が可能という点。
読了日:12月15日 著者:高橋秀樹,三谷芳幸,村瀬信一

毛沢東の対日戦犯裁判 - 中国共産党の思惑と1526名の日本人 (中公新書)毛沢東の対日戦犯裁判 - 中国共産党の思惑と1526名の日本人 (中公新書)感想
一般に「寛大」な処置を受けたとされる中国の日本人戦犯。中国での「思想改造」の過程のほか、彼らの政治利用を図っていた当時の中国側の動きや、帰国後の「戦犯」たちの後半生についても触れる。特に「戦犯」たちが帰国当初から中国に「洗脳」されたと見られがちだったことや、彼らの団体である中帰連が文革や改革開放といった中国側の政治状況に翻弄されたさまを興味深く読んだ。
読了日:12月17日 著者:大澤武司

老子と上天: 神観念のダイナミズム老子と上天: 神観念のダイナミズム感想
古代中国の宗教史、あるいは神観念の推移を、為政者側の「唯一神」的な上帝・上天信仰と、民衆の側の鬼神信仰との闘いとして読み解き、『老子』の思想を鬼神の側に位置づける。専門柄、殷周期の上帝と天との関係を、天を上帝の統治機関とする考え方、また皇帝の号が絶対神である「煌煌たる上帝」に由来するものではなく、あくまでも人間の君主の号である帝号に由来するものであり、天子号のような宗教性ではなく、あくまでも天下を統治する君主としての実力・実質性に裏付けられたものであるという議論を面白く読んだ。
読了日:12月19日 著者:浅野裕一

ガリバルディ - イタリア建国の英雄 (中公新書)ガリバルディ - イタリア建国の英雄 (中公新書)感想
イタリア統一三傑の一人ガリバルディの生涯を、ダメな部分やゴシップ、栄光の両シチリア王国征服後の後半生、没後の評価も含めて描き出す。三傑の残る二人、ガリバルディが敬愛し、後に批判したマッツィーニと、「イタリア性にめぐまれていない」というカヴールとの対比も面白い。また、同時代の日本で西郷隆盛とも比較されたと言うが、ガリバルディが幕末の日本に生まれたとしたら、存分に生きられただろうか?
読了日:12月21日 著者:藤澤房俊

難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書)難民問題 - イスラム圏の動揺、EUの苦悩、日本の課題 (中公新書)感想
特にEU絡みの話は通り一遍の話に終始しており、同じく中公新書から出た『欧州複合危機』の方が「難民」と「移民」を切り分ける恣意性など、有意な論点を提示できていたように思う。本書ではシェンゲン協定・ダブリン規則、あるいは難民条約にも否定的な見方を示すが、中東などでの政治危機が「難民」を生み出すとすれば、そのような「難民」として受け入れてもらうための合法的手段があろうとなかろうと、多くの「難民」が押し寄せることには何の変わりもないのではないだろうか。
読了日:12月23日 著者:墓田桂

通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)通州事件 日中戦争泥沼化への道 (星海社新書)感想
中国との「歴史戦」の絡みで注目されるようになった通州事件を、事件の背景とその後の処理、日本側による事件の反中プロパガンダ化などと合わせて論じる。なぜ現地の保安隊が虐殺を行ったのかについては明確な結論を下しているわけではなく、今回はその外堀を埋めたというか、今後の議論の叩き台を提供するものとなっている。また、事件によって日本人だけでなく、現地の中国人や朝鮮人も多く犠牲になっている点や、当初日本側が事件の隠蔽に走った点などは、今までの議論ではスルーされてきたのではないだろうか。
読了日:12月25日 著者:広中一成

通論考古学 (岩波文庫)通論考古学 (岩波文庫)感想
考古学の大家による古典的名著ということだが、銘文・紋様等の拓本はあくまでも写真の補助であるべき、弁偽にこだわるあまり、本物を偽物と誤って判断して排除することがあってはならないといった意見や、文献と遺物の内容に衝突がおこった場合の考え方、遺跡をどこまで「復元」するかという問題など、今日にも通用する視点が多く盛り込まれているのに驚かされる。
読了日:12月26日 著者:濱田耕作

動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学 (中公新書)動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学 (中公新書)感想
標題のテーマに関する西洋での古今の議論、特に「動物霊魂論」と「動物機械論」をめぐる論争を読み解いた哲学入門。動物に魂はあるのかという議論は、必然的に肉食の問題や、動物と人間との違い、更には人間の霊魂や生命科学の問題と結びついていく。人間の霊魂については同じ著者の『ゴーレムの生命論』で詳しく論じられているようである。本書では最後の締めがやや投げやり気味になってしまっているのが残念。
読了日:12月28日 著者:金森修

悟浄出立 (新潮文庫 ま 48-1)悟浄出立 (新潮文庫 ま 48-1)感想
中島敦の作品を取っ掛かりにした中国歴史短編集だが、私が印象に残ったのは竹簡が重要な役割を果たす「法家孤憤」と「父司馬遷」の二編。巻末の著者解題と併せ読むと面白さが倍増する。「法家孤憤」は、主役の京科あるいは荊軻の立場が、秦簡が出たことで知られる雲夢睡虎地秦墓の被葬者とも重なる。「父司馬遷」の解題で、司馬遷は『史記』において「話を盛る」という行為をしていたのではないかという想定はなかなか面白い。著者がどこまで今の中国古代史研究を踏まえたうえで書かれたのかはわからないが、なかなかのセンスを感じる。
読了日:12月30日 著者:万城目学
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする