博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『大侠霍元甲』その9(完)

2020年10月30日 | 武侠ドラマ
『大侠霍元甲』第41~最終45話まで見ました。

精武門では劉振声&何瑪麗、許大有&小蓮の二組の結婚式が行われますが、そこへ阿部道館の日本人三人組が道場破りに押しかけ、陳真らが返り討ちにします。この三人が取ったような、手前勝手なルールを押しつけておきながら「それが規矩(規則)だ」「規矩を守れ」とマウントを取ろうとする日本人の姿は、ネット言論でもよく目にするような……


しかし阿部道館の主阿部熊三は話のわかる人物のようで、三人を破門。ところが道場の二番手藤原が画策し、この三人を焚き付けて精武門の門弟を街中で殺害。仇討ちだといきり立った陳真と沙燕が阿部道館へと殴り込み、官憲に捕らえられてしまいます。

阿部道館側は三日の期限を切って精武門の門扉に挑戦状を貼り付けます。比武は二度とやらないで欲しいという母の言葉を重んじ、これまで通り挑戦は無視するつもりの霍元甲でしたが、その母の許諾が得られたことで挑戦に応じることに。それと引き換えにして陳真と沙燕も釈放されます。しかしこの比武の裏には、決闘を賭博の場にして儲けようというベルトランと、霍元甲への復讐を目論む鷹九の存在があったのでした……

決戦は五番勝負で、精武門側は劉振声、許大有、沙狼、陳真、霍元甲の面子で挑みます。そして二勝二敗で決着は大将戦にもつれ込むことに。阿部との大将戦も一度の戦いでは決着がつかず、休憩を挟んで二番戦、三番戦と繰り広げられます。そこへ鷹九が休憩の間に霍元甲の飲む茶に毒を盛ったりしますが、栄先生がかわりに茶を飲んだことで露見。

勝負の判定の方も鷹九やベルトラン、藤原が審判員を買収していましたが、事態を不審視した阿部自身が負けを認め、精武門側の勝利に。この後阿部は切腹してしまいます……


これで収まらないのがベルトラン。ヨーロッパから拳闘のチャンピオンアレックスを招聘し、霍元甲との決闘をマッチング。霍元甲もこれを受けて立つことに。しかしこのアレックスも何とか打ち破り、更には彼がリング外に仕掛けられた剣山の上に落ちそうな所を助けるという武徳も示します。


そして旧武林の陋習を改めて門派の垣根を取り除き、上海武林の仲間たちや、かつて敵対していた鷹爪門の面々とともに手を携えて新しい武林を打ち立てるべく精武体操会を結成。物語はここで終わりです。霍元甲が急死し、陳真が仇討ちを図るのはまた別の話となります。続編があるとしたら、たぶん最終回に出てこなかった鷹九が日本人とつるみ、霍元甲を毒殺するという話になるんでしょう。

【総括】
ということで陳真の仇討ち話などで無駄な尺を消費してしまったこともあり、最終回に至る展開はかなり駆け足です。そこらへんを大目に見れば、2000年代半ばぐらいまでの武侠のノリを高いアクションのクオリティで再現しつつ、いくら武功があっても銃には勝てない、そして列強に対抗するために武林の統合と近代化を目指すという、「武侠の時代の終わり」という要素を提示した大変興味深い作品に仕上がっております。その「武侠の時代の終わり」の次に控えているのは、ブルース・リー演じる陳真が主役の『ドラゴン怒りの鉄拳』で示されているような抗日の時代なわけですが……
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『大侠霍元甲』その8

2020年10月26日 | 武侠ドラマ
『大侠霍元甲』第36~40話まで見ました。

陳真は改心したと見せかけて精武門に入門し、霍元甲の隙を突いて師の仇を討とうとします。取り敢えず霍元甲の息子の東覚を攫って川に突き落とそうとしますが、幼い東覚が見せた素朴な良心に心を打たれて計画は中止。

その前後に鷹九が精武門の飯釜に毒を盛ろうとするのを「他人を巻き添えにするからダメだ」と阻止しているのですが、毒を盛るのはダメで、年端もいかない子供を橋から川に突き落とすのは(未遂とはいえ)OKという陳真の倫理感覚がよくわかりません……

このあたりから鷹九に疑念を持ち始める陳真ですが、それを察した鷹九にうまく誤魔化されて元の木阿弥になったりします。で、霍元甲の方は上海にやって来た孫無疾の弟弟子たちと出会い、「毒九子」こと鷹九が孫無疾に毒を盛ったことを知らされます。陳真もこの叔父弟子たちの言葉により、ようやく真相を悟り、霍元甲を「好人」と認め、心から弟子入りを願うことに。ここまでが長かった(´Д`;)

この前後に鷹四殺害により官憲から追われて十三里崗にいられなくなった沙兄妹が精武門に身を投じます。沙狼は精武門の師範となり、沙燕の方は弟弟子にあたる陳真と研鑽を積んでいきます。

さて、上海租界では欧米から拳闘のチャンピオンを招き、闘技場で中国人を滅多打ちにするという娯楽が密かに行われるようになっておりました。精武門の門下生も被害に遭ったことから、仇討ちだとばかりに陳真が闘技場に乗り込み、チャンピオンのマリオと対戦。


そこには何瑪麗が潜入取材していたほか、天津の領事を辞めたらしいベルトラン、そして彼の横に行方をくらませていた鷹九の姿が……

陳真、そして霍元甲がマリオを打ち破り、『海上新報』の何瑪麗の署名記事によってそれが上海中に広められますが、霍元甲はそのことが原因で何瑪麗の身に危険が及ぶのではないかと憂慮します。


一方で霍元甲の一番弟子劉振声の結婚問題が浮上。実は彼は何瑪麗から以前に結婚しないかと告白されているのですが、彼にはその気がなく、沙燕の方にご執心。しかし沙燕は陳真の方が気になるようで…… というあたりで次回へ。
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『大侠霍元甲』その7

2020年10月21日 | 武侠ドラマ
『大侠霍元甲』第31~35話まで見ました。

霍元甲の無実を晴らすべく松江府に訴え出る劉振声たち。法医でもあるというフェデラーの検屍の結果を伝え、霍元甲の無罪放免を勝ち取ります。逆に陳真の方は、孫無疾が急死した際に鷹九もその場に居合わせていたことを明かせず(本人から言い含められていたのです)、逆に孫無疾の殺害容疑に問われて投獄されてしまいます。

しかし松江府の知府、陳真から「再世包公」の扁額を贈られても「ワシの顔はそんなに黒いか?」と気分を害するあたり、木っ端役人にしてはセンスを感じますw


さて、これまで思わせぶりに出てくるだけだった上海の有力者栄先生ですが、このあたりから本格的に動き始めます。中の人は古装でお馴染みの王絵春。まずは事の発端となった『海上新報』に手を入れることにし、悪徳プロモーターと化していた編集長曹達人を追い出し、霍元甲の無実を晴らそうとした何瑪麗を新編集長に据えます。

そして目や体調を悪くして入院した霍元甲の母親を見舞ったりしますが、この栄先生、若い頃は好色で有名だったらしく、妻との仲を誤解した霍元甲が栄先生の邸宅に乗り込む一幕も……

結局は誤解が解けて和解となるわけですが、そうこうしている間に投獄されていた陳真が釈放。釈放には霍元甲の尽力もあったわけですが、そこへまたぞろ鷹九が出現。陳真に自分に疑いが向かないように仕向け、霍元甲への憎悪を煽るだけ煽って帰って行きます。

陳真は師父の仇討ちのため、本心を隠して改心したと見せかけ、精武門に入門。陳真の魂胆を察して不安を隠せない農頸蓀や劉振声ですが…… というあたりで次回へ。
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『大侠霍元甲』その6

2020年10月16日 | 武侠ドラマ
『大侠霍元甲』第26~30話まで見ました。


精武門に乗り込んできた師弟2人、弟子の方は後の『ドラゴン怒りの鉄拳』の陳真です。中の人は久しぶりに見る釈小龍。


師匠の謎の老人は梁小龍(ブルース・リャン)が演じてます。80年代香港制作の同題のドラマ版では陳真を演じていたとのこと。

何だかよくわからないが霍元甲に遺恨のあるらしいこの2人、凄腕を見せつけつつ、例の上海の東スポ的な新聞社『海上新報』を巻き込んで霍元甲に勝負を挑もうとします。で、またもや精武門の前に即席擂台が設えられ、2人で精武門前に集結した上海武林の使い手たちを打ち破っていきます。

しかし霍元甲は母に「もう二度と決闘をしないでおくれ」と懇願されたのと、門派の垣根を越えて新しい武林を打ち立て、他の門派の使い手たちと手を携えて外国の勢力に対抗していきたいという夢を抱くようになっていたのとで、彼らとの手合わせを拒みます。そして陳真の師匠の正体が、実は鷹爪門の大師兄孫無疾であることを見抜きます。弟弟子の鷹四の仇を討とうとしていたわけですね。

霍元甲は一旦その場を納めた後に孫無疾師弟の住処まで出向いて鷹爪門一門との因縁を清算し、ともに切磋琢磨していこうと訴えます。実のところ孫無疾も鷹四がろくでなしであることは重々承知していたのでした。そしてその翌日、山間での手合わせの末に2人は朋友となります。


これで事が丸く収まったかに見えたところで、孫無疾師弟の前に鷹爪門の末弟子小九子こと鷹九が姿を現します。鷹四を慕う彼は、兄弟子が霍元甲と和解したと知るや密かに毒を盛って彼を毒殺。陳真に「師匠は霍元甲によって毒殺された。仇を討て」とけしかけます。

脳筋の陳真はまんまと鷹九の言いなりとなり、松江府に殺人の罪で霍元甲を告訴。ろくすっぽ取り調べもしない木っ端役人の知府の命により、霍元甲は殺人罪でしょっ引かれてしまいます……


王雲影や弟子たちは、上海にやって来た農頸蓀&フェデラー、そして上海武林の有力者栄先生に助けを求めます。一番弟子劉振声は「孫無疾の死んだ現場を見たい」というフェデラーの要望に応じ、彼の旧居に忍び込んだところ、「海上新報」の元女記者何瑪麗と遭遇。彼女は編集長に反抗してクビになった後、彼女の名前を勝手に使われて霍元甲を誹謗する記事が連発されているのに腹を立て、事実を確かめようと忍び込んだということですが……
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『大侠霍元甲』その5

2020年10月11日 | 武侠ドラマ
高奇、阿発こと黄文発、沙燕ら弟子たちがそれぞれの事情で師門を去ることとなり、また霍元甲は若者を革命運動に巻き込もうとする農頸蓀さんとも距離を取ることにします。


阿発は南洋の実家に帰って家業を継ぐと見せかけ、実は叔父農頸蓀とともに革命のために命を捧げることを決意していたのでした。新聞紙上で霍元甲一門との縁切りを宣言して霍家に累が及ばないようにし、これまた革命の同志となっていた沙燕とともに、天津駅で清朝の欽差大臣の暗殺を決行。

この時欽差大臣の護衛役として北京から着いてきたのが、因縁の呂四鷹。霍元甲の弟子が絡んでいると察知するや、当然の如く霍家に乗り込み、謀反人として一族郎党を召し捕ろうとします。阿発が縁切りを宣言した意味がない……(´Д`;) その阿発もここで壮絶な最期を遂げてしまいます。

一度は鷹四こと呂四鷹を追い返したものの、後難を恐れた霍元甲は一家を挙げて天津より退避。鷹四は悔し紛れに霍家を焼き討ちします。その後鷹爪門の掌門に収まった鷹四ですが、今度は逆に身を隠していた霍元甲一門が鷹爪門のアジトに乗り込んできます。鷹爪門一門との死闘の末に鷹四を打ち倒し、彼との因縁もいよいよ決着。師門を裏切って鷹四の配下となっていた高奇も、助っ人の沙狼の手によって清理門戸されます。


そして物語はここから後半戦へ。霍元甲は農頸蓀の勧めで一家を挙げて上海に移住し、精武門を開館。しかし新聞社「海上新報」の陰謀により、開館の告知文を滬上武林(上海武林)への挑戦状に書き換えられてしまい、激怒した武林の領袖が精武門前に集結。あっという間に打擂台がしつらえられ、武功高手たちとの比武に挑まざるを得なくなります。ということで上海武林の領袖の皆さんです。

南拳の葉双形ら三人の領袖との三番勝負に勝利し、開館告知の誤解も解けた霍元甲。精武門には大勢の弟子志願者が詰めかけます。しかしそこへ霍元甲と因縁がありそうな若者と老人の師弟二人組が…… というところで次回へ。

このドラマ、基本的に誰か相手が陰謀により霍元甲のことを誤解して、拳で語り合って誤解が解けるというパターンの繰り返しなんですが、とにかく展開がスピーディーなので細かいことは気にせずに見ていられます。しかし史実なので仕方ないとはいえ、『民初奇人伝』といい、並行して見ている『旗袍美探』といい、みんな舞台が上海になるんですね……
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『大侠霍元甲』その4

2020年10月05日 | 武侠ドラマ
『大侠霍元甲』第15~20話まで見ました。


王雲影は侍女の小蓮と四番弟子の許大有を伴って北京に赴き、刑部に対して夫の無罪を訴えます。そのお陰もあり、刑部は天津の呂四鷹に帰還を命じます。霍元甲を諦めきれない呂四鷹は、ベルトランの通訳常徳利を抱き込み、傷の癒えない霍元甲の治療のためと称して、西洋人医師に何やら怪しげな注射を打たせます。

その頃、農頸蓀と黄文発も家産を金塊に換えてベルトランへの賄賂とし、傷が癒えるまで霍元甲を牢内に留まらせたいと渋る彼に釈放を同意させます。


自宅に戻った霍元甲は、自分の釈放のために農頸蓀と黄文発が財産を費やしたことを気に病み、少しでもお金を返そうと、霍威鏢局を立ちあげます。しかし武士の商法的な面が否めず、客がなかなか寄りつきません。そこで沙燕の提案により、弟子たちが獅子舞などのパフォーマンスを行って宣伝につとめ、地元民から弟子になりたいという若者も続出するようになります。

これで万事めでたしかと思いきや、釈放以来霍元甲は禁断症状的な何かに苦しめられ、鏢局の仕事や新たな弟子の指導どころではなくなっていたのでした…… 牢内で何度か打たれた注射がよく効いたということで、件の西洋人医師を捜索させますが、弟子たちが常徳利を問い詰めたところ、霍元甲が打たれていたのはモルヒネだったことが判明します。彼を薬物中毒にして「銷煙大侠」としての面目を失わせようという呂四鷹の陰謀なのでした…… 呂四鷹は霍元甲を「銷煙大侠」ならぬ「抽煙大蝦」に仕立てようと息巻いています。(「侠」と「蝦」は中国語ではともに同音のxiaと発音)


常人では禁断症状に耐え抜くことは不可能、後はもう廃人になるまでアヘンで苦痛をしのぐしかないはずでしたが、霍元甲は、農頸蓀の友人の西洋人医師フェデラーに協力を仰ぎ、一ヶ月間自分を監禁させて禁断症状に耐え抜くことを決意。

そしてその間に、霍元甲がアヘンを吸っているという話を聞きつけた天津八極門の面々が「霍元甲を出せ!」と押しかけますが、タイミングよく薬物が抜けきった霍元甲が一同の前に姿を現し、霍家ともつながりのあるという八極拳を披露しつつ真実を告げ、疑いを晴らします。

しかし更に常徳利を殺害されたということでベルトランが乗り込んできて、霍元甲は二番弟子高奇の仕業と悟ります。高奇はこれまでも霍家一門の「殺戒」を破り、一門を守るためと称して敵を殺害してきたのでした。霍元甲はこれ以上彼を庇い切れないということで、天津で新設される警察の人員に彼を推薦し、波風立たない形で彼を一門から出すことにしますが……

ということで武侠らしく割と無茶な展開が続きますが、相変わらずテンポは快調です。
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2020年9月に読んだ本

2020年10月01日 | 読書メーター
カエサル――内戦の時代を駆けぬけた政治家 (岩波新書)カエサル――内戦の時代を駆けぬけた政治家 (岩波新書)感想
文献の記述が乏しいとしつつも、カエサルの家系や前半生について時代背景などを盛り込みつつ膨らましている点、カエサルの著書『ガリア戦記』『内乱記』の特徴や問題点に一章分を割いていること、ガリアでの略奪など彼の汚点にも触れている点を除けば、新味に乏しいが手堅い評伝としてまとまっている。ユリウス暦採用に関する背景なども面白い。
読了日:09月02日 著者:小池 和子

ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか (NHKブックス 1265)ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか (NHKブックス 1265)感想
一言でまとめれば、コンスタンティノープルが建設されてから(東)ローマ帝国の首都としての地位を確立するまでの経緯をまとめた本なのだが、軍人皇帝時代には皇帝の移動に伴って宮廷も移動していたこと、皇帝が戦線に出ずに後方で勝利を神に祈る存在になるという、軍事王から祭祀王的な存在になることで、コンスタンティノープルが都として定まっていったこと、西ローマ帝国の滅亡は、あくまでローマが皇帝を擁立することをやめたのを示すにすぎないなど、啓発性に富む議論が多い。
読了日:09月04日 著者:田中 創

性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書)性からよむ江戸時代――生活の現場から (岩波新書)感想
一茶と幼妻菊との関係、隣家同士で結婚した若夫婦の離婚騒動、お産に立ち会う医者や産婆等々の具体事例から、下々の性意識と、お上の出産・妊娠管理政策を読み解いていき、現在の日本で広まっている「江戸時代は性におおらかであった」というイメージに対して疑問を投げかける。近代化によって性に対して抑圧的になったという断絶性のみに注目しないという視点が面白い。
読了日:09月06日 著者:沢山 美果子

中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本 (星海社新書)中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本 (星海社新書)感想
中国での新型コロナにまつわるITの活用例を、キャッシュレス決裁、オンライン教育、デリバリー、医療など分野別に挙げ、これを日本で生かすには……とまとめを入れていく構成。中国のIT活用にも段階があったこと、アリババとテンセント、アリババと京東など、企業間の競争が機能していること、日本で妙な持ち上げ方をされているCT検査は、AIや5Gと連動することで効果を発揮していることなどをまとめている。
読了日:09月07日 著者:山谷 剛史

生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866)感想
中公新書の『ビザンツ帝国』がやや専門的と感じたので、入門としてこちらも読んでみることに。コンスタンティヌス1世から始まって、ユスティニアヌス1世、ヘラクレイオス、アレクシオス1世、マヌエル2世など、要点となる皇帝とその事績が中心で読みやすい。帝国が表面上伝統や建前を重視してみせつつ、実質的には「脱皮」を繰り返して一千年間生き延びてきたことを肯定的にとらえる。
読了日:09月09日 著者:井上 浩一

武漢日記: 封鎖下60日の魂の記録武漢日記: 封鎖下60日の魂の記録感想
今年の旧正月から60日間、武漢での封鎖生活の記録。当面の食料確保や不確かな情報の流通で右往左往しつつも、お互いに助け合う様子、そしてネットでの中傷や通報にさらされ、ブログが削除されたり閉鎖つつも、しつこくしつこく発信し続ける様子を記録する。中国のネットの言論の状況、「公式見解」に沿わない方向の政治的発言が悪意にさらされるというのは、実は日本もそう変わらないのではないかと思わせられる。
読了日:09月13日 著者:方方

シルクロード世界史 (講談社選書メチエ)シルクロード世界史 (講談社選書メチエ)感想
著者の専門であるソグド、ウイグルを中心としつつも、扱う時間幅を紀元前まで広げ、かつ日本との繋がりにも言及する。個人的には、本編のシルクロード矮小化に対する反論や唐代の「胡」はソグドを指すという議論のほか、序章での歴史学の三分類、理科系的歴史学・文科系的歴史学・歴史小説という区分の提示や、第一章で近年の批判的論調を踏まえつつも「四大文明」概念を再評価し、これをもって「西洋中心史観」に対抗しようという発想を面白く読んだ。
読了日:09月15日 著者:森安 孝夫

杜甫 (岩波新書)杜甫 (岩波新書)感想
杜甫の詩を読み解くというよりは、詩から杜甫の人生を読み解くという方向。才気煥発だったらしい少年時代、李白への半ば片思いのような敬慕、そして諧謔をまじえて描き出される窮乏と流浪。詩を切り出された断片として読むのではなく、詩人の人生という文脈から読む面白さを教えてくれる。
読了日:09月17日 著者:川合 康三

明の太祖 朱元璋 (ちくま学芸文庫)明の太祖 朱元璋 (ちくま学芸文庫)感想
朱元璋の生涯のうち、明王朝成立までの前半生にかなりの紙幅を割いているという印象。疎まれても疎まれても郭子興を支え続けた青年時代から、劉基・宋濂ら江南の知識人に啓発されて自らも儒教的素養を身につけていくも、生え抜きの裏切り、知識人への不信から、「恐怖政治」に邁進していく様子を描く。ひとりで聖賢・豪傑・盗賊の三要素を兼ね備えていたとされる朱元璋、一般的なイメージとは遠そうな「聖賢」の部分も、暴君という通俗的なイメージと重ねつつうまく描き出せている。
読了日:09月19日 著者:檀上 寛

戦国の忍び (角川新書)戦国の忍び (角川新書)感想
近年の忍者関係の論著を読み、忍者なるものは存在しないと思っていたが、本書によると「忍び」と位置づけられる人々は実在していたようだ。「悪党」すなわちアウトローに出自し、野武士(野伏、野臥)と重なり、当時の編成では足軽の一部とされ、昼の合戦に対して夜の忍び合戦を担った人々ということになるようだ。これを伊賀、甲賀、風魔など著名な事例を含めて史料を読み解き、明らかにしていくのが読みどころ。これまでの盲点を拾い上げるような議論で面白い。
読了日:09月23日 著者:平山 優

万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書 2608)万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書 2608)感想
もっとも日本的で、もっとも中国的であるという『万葉集』について、その成り立ちや構造を中心に概説する。広く漢字文化とは何か?そして日本での漢字文化の広がりはどのように進行したのか?という問いを意識した書となっている。『万葉集』そのものや短歌に興味がある人だけでなく、日本への漢字の伝来、漢字文化の形成と広まりに関心がある人にも得る所が多い内容となっている。
読了日:09月25日 著者:上野 誠

韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 (中公新書 (2602))韓国社会の現在-超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 (中公新書 (2602))感想
少子化、年金制度など老後の生活の不安、キャッシュレスや住民登録番号など各分野での電子化、過酷な受験競争、ジェンダー、韓国社会が置かれている様々な問題を、対岸の火事としてではなく、日本も直面している、あるいはこれから直面するであろう問題として読み解く。アジア通貨危機によって、女性の進学や就職に対する意識が激変したという話が印象的。我々は同様の危機に直面して変われるのだろうか?
読了日:09月28日 著者:春木 育美

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