博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2024年2月に読んだ本

2024年03月01日 | 読書メーター
カーストとは何か-インド「不可触民」の実像 (中公新書 2787)カーストとは何か-インド「不可触民」の実像 (中公新書 2787)感想
カーストの歴史的な展開についての本かと思いきや、それは第1章のみでメインは不可触民の置かれた現状の話。フィールドワークによる実感やインタビューによる個別事例、映画での描写なども盛り込まれていて具体的な状況が想像しやすいようになっている。元々はそれほど厳密というわけでもなかったカーストが顕在化・実体化したのはイギリスによる植民地統治がきっかけだったというのが意外。不可触民の置かれた状況を見ると、日本の部落問題に対しても示唆する所が多そうである。
読了日:02月01日 著者:鈴木 真弥

ヨーロッパ史 拡大と統合の力学 (岩波新書 新赤版 2003)ヨーロッパ史 拡大と統合の力学 (岩波新書 新赤版 2003)感想
英仏独などの各国史ではなくヨーロッパ世界を一体のものとして見るヨーロッパ史……だと思う。古代末期から中世にかけての大帝の時代の部分が私にとっての読みどころだった。著者の専門柄「ビザンツ」に関する話が多いが、西暦が誕生したのはユスティニアヌスの時代であるという点や、コンスタンティノス7世が息子のために作ったという『帝国の統治について』の百科全書的な性質が『呂氏春秋』に似通っていること、ビザンツ帝国が周辺諸地域を子ども、兄弟など擬制的親族関係に擬えていたのが宋王朝のそれを連想させることなどが興味深い。
読了日:02月03日 著者:大月 康弘

アテネ 最期の輝き (講談社学術文庫)アテネ 最期の輝き (講談社学術文庫)感想
デモステネスの生涯を軸に、カイロネイア以後のアテネの社会と民主政の終焉の過程を描く。デモステネスが当事者となった裁判、特にハルパロス裁判が対マケドニア政策といった政治的対立とは無縁の、積年の怨み辛みを晴らす個人的対立の場となっていたというのが面白い。しかし民主政転覆罪を名目とした裁判の頻発が民主政への傾倒の現れだったというのはどうだろうか?文庫版のあとがきで触れられている、アルキメデス・パリンプセストの発見により、デモステネスの弁論に対する評価が変わってきたという話は興味深い。
読了日:02月05日 著者:澤田 典子

技術革新と不平等の1000年史 上技術革新と不平等の1000年史 上感想
21世紀版『人間不平等起源論』といった趣。レセップスとパナマ運河の下りは西欧版『失敗の本質』という感じだが。農耕の開始から産業革命に至るまで、テクノロジーの発展は庶民を幸せにしないどころか、それ以前より生活を苦しくさせるということが議論されている。19世紀アメリカの綿花栽培にボリシェヴィキ・ロシアの姿を見るという視点や、中国のように(というよりイギリス以外の)一定程度科学が発展していた国でも工業化出来なかったのはなぜかという議論も面白い。
読了日:02月08日 著者:ダロン・アセモグル,サイモン・ジョンソン

世界史のリテラシー 「中国」は、いかにして統一されたか: 始皇帝の六国平定 (教養・文化シリーズ)世界史のリテラシー 「中国」は、いかにして統一されたか: 始皇帝の六国平定 (教養・文化シリーズ)感想
伝世文献の記述を中心とした比較的オーソドックスというか教科書的な作りの本。「古典中国」を押し出してる所がこの著者らしいといったところか。これは著者というより「世界史のリテラシー」シリーズ全体のコンセプトでもあるかもしれないが…… 目新しさはないが、特に間違ったことを書いてあるわけでもないので、手堅い内容を求める向きには悪くない本だと思う。
読了日:02月10日 著者:渡邉 義浩

技術革新と不平等の1000年史 下技術革新と不平等の1000年史 下感想
下巻の射程範囲は20世紀から現代まで。19世紀末から戦後まで経済成長の恩恵が下々にまで及ぼされ、下層階級もそれなりに豊かな生活を送ることができたのは、企業に対する世論の高まりと労働組合などの対抗勢力の活動が活発だったからである。しかしデジタル・テクノロジーの発展、特にAIの登場によりそれも怪しくなってきた……という主旨だと思う。歴史の話と思わせてといて現在、そして未来の話の比重が大きいという作りは『サピエンス全史』と共通している。結論としてはやはり声を上げ続けることが大事ということになるだろうか。
読了日:02月10日 著者:ダロン・アセモグル,サイモン・ジョンソン

老神介護 (角川文庫)老神介護 (角川文庫)感想
「老神介護」は『折りたたみ北京』収録のものと同じものだと思うが、続編(しかも趣が全く異なる)があるとは思わなかった。「地球大砲」も「彼女の眼を連れて」とは全く趣が異なる続編。本編で描かれている、病気を理由とする人工冬眠という趣向は『三体』でも存在する。本書の中では恐竜と蟻との共生、そしてその破綻を描く「白亜紀往時」を最も面白く読んだ。同じタイトルで出版された単行本はその長編版ということらしく、そのうち読んでみたい。
読了日:02月12日 著者:劉 慈欣

古代西アジアとギリシア ~前1世紀 (岩波講座 世界歴史 第2巻)古代西アジアとギリシア ~前1世紀 (岩波講座 世界歴史 第2巻)感想
ローマとセットにして西アジア地域と二項対立的に論じられがちだった古代ギリシアを西アジア史の文脈に位置づけたというのが特色ということになるだろうか。山花コラムで触れられている古代エジプトの女王が王朝末期に現れるというのは、日本の女帝と比較すると面白そうである。栗原焦点では古代ギリシアの少年愛について、愛され役の少年が長じて愛し役として成長しないと蔑視の対象となったというのが興味深い。阿部焦点のペルシアとギリシアが互いにどう見ていたのかという話も面白い。
読了日:02月14日 著者:

両京十五日 1: 凶兆 (ハヤカワ・ミステリ)両京十五日 1: 凶兆 (ハヤカワ・ミステリ)感想
皇族内の皇位簒奪を狙う者が白蓮教と結託して、南京から北京に戻ろうとする皇太子・朱瞻基の命を狙おうとし、于謙や白蓮教徒と因縁のある捕快の呉定縁、女医・蘇荊渓が太子を守って北京へと送り届けようとするという構図。朱瞻基と呉定縁の成長物語ということになると思うが、そのあおりということか朱瞻基のダメダメ度が他のエンタメ作品より高くなっている印象。于謙は早々と世に出た後の死亡フラグが立っている感じ。下巻にも期待。
読了日:02月18日 著者:馬伯庸

中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル (中公新書 2791)中国農村の現在-「14億分の10億」のリアル (中公新書 2791)感想
現地調査、歴史的展開、日本や印度の農村との比較、理論の四方向から今の中国農村のリアルを描き出す。古典とされる費孝通の『郷土中国』はどうにも話がわかりにくかったが、本書は具体性でもって理論を肉付けしてくれている。現代中国に家族主義のもとでの「官」は存在しても庶民の代表となるような代議士・政治家が存在しないというのは歴史的な科挙の影響の大きさを示しているし、中国の民主主義が議会制民主主義とは大きく違った形を取らざるを得ない理由を示していよう。農民が都市化された県城に包摂されているという指摘も興味深い。
読了日:02月22日 著者:田原 史起

老虎残夢 (講談社文庫)老虎残夢 (講談社文庫)感想
武侠にミステリーをかませるというのは中国エンタメではよく見られるものだし、作者も金庸、古龍作品は一通り読んでいるようで、おそらくそれを承知で書いている。私も武侠物のバリエーションとして読んだ。しかし出版社側や評価する側はそういう予備知識がまったくないようで、基本的に歴史ミステリーとして評価しており、中国の歴史物、あるいは武侠物にミステリーをかませるのは新鮮だと考えているようである。そのギャップにそれでよいのかと考えさせられた。
読了日:02月23日 著者:桃野 雑派

ジェンダー史10講 (岩波新書 新赤版 2009)ジェンダー史10講 (岩波新書 新赤版 2009)感想
取り上げる地域は近代以降の欧米、就中ドイツ、そして日本とほぼ限られているが、テーマは歴史教育、家族、労働、植民地・戦争・レイシズムといったように幅広い。フランス革命によって女性が政治に関与する幅が却って狭くなったこと、外交史などジェンダーとは無縁と考えられてきた領域でも新しい視点が提示されていること、ルイ14世の服装から見出せるジェンダー、一定不変と思われてきた男女の身体観の変化、女性参政権の実現が女性の戦争協力の直接的な帰結とはいえないこと等々、興味深い指摘が多々見られ、啓発性に富む書となっている。
読了日:02月25日 著者:姫岡 とし子

世界哲学のすすめ (ちくま新書 1769)世界哲学のすすめ (ちくま新書 1769)感想
『世界哲学史』シリーズの補編というかダイジェスト的なものというか今後の展望的な内容。哲学そのものというより哲学研究を取り巻く現状の話が中心。話題が多岐に渡るが、翻訳のディレンマの話、アフリカ哲学の位置づけの問題、ギリシア哲学と印度哲学との邂逅の話を面白く読んだ。
読了日:02月28日 著者:納富 信留

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