博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2025年3月に読んだ本

2025年04月01日 | 読書メーター
世界史のリテラシー 仏教は、いかにして多様化したか: 部派仏教の成立 (教養・文化シリーズ)世界史のリテラシー 仏教は、いかにして多様化したか: 部派仏教の成立 (教養・文化シリーズ)感想
仏教の発祥から多数の部派への分岐と仏教の多様化、日本での展開を概観。仏教に関する基本事項をわかりやすい筆致でかいつまんで説明してくれている。部派の分岐の実相は中国の百家争鳴、あるいは儒家の学派の分岐を考えるうえでの参考になるかもしれない。日本仏教については、従来のほぼすべての仏教思想ほ包含する広大な宗教世界を構成していると多様性を評価しつつも、当初から律蔵を欠いたことから、伝統敵に僧兵や一向一揆、近代に戦争協力をするなど、間接直接に暴力を肯定することになったと批判する。
読了日:03月01日 著者:佐々木 閑

古代エジプト文明 世界史の源流 (講談社学術文庫 2847)古代エジプト文明 世界史の源流 (講談社学術文庫 2847)感想
古代エジプト通史を期待したが、文字通り古代エジプト文明史だった。通史的な面もあるものの、アマルナ時代、ラメセス2世の時代といった具合に特定の時期をピックアップするという方式で、文明のあり方や文明の伝播に多く紙幅を割いている。文明の伝播に絡めてアレクサンドロス大王を大きく取り上げるというのは古代エジプト史としてはちょっと変わってるかもしれない。アレクサンドロス以後の時代だけで本編9章分のうち3章分を占めている。それでもポンペイの遺物からエジプトの要素を見出す話なんかは面白い。
読了日:03月03日 著者:大城 道則

比較神話学 (角川ソフィア文庫)比較神話学 (角川ソフィア文庫)感想
言語学から神話の成立を探る試みということになるだろうか。本書を読んで、昔日本神話の概説書(確か上田正昭『日本神話』だったと思う)で、神話そのものの分析・考察ではなく神々の名前に込められた意味をひたすら探っているのにうんざりした記憶があるが、ああいう研究の発想の源はここにあったのかと納得した。松村一男氏による解説はその後の神話学や宗教学などの展開をまとめていて有用。
読了日:03月05日 著者:フリードリヒ・マックス・ミュラー

近世日本の支配思想: 兵学と朱子学・蘭学・国学 (982) (平凡社ライブラリー 982)近世日本の支配思想: 兵学と朱子学・蘭学・国学 (982) (平凡社ライブラリー 982)感想
朱子学が江戸幕府の官学となったのは寛政異学の禁以後であり、「兵営国家」日本を支えた思想は兵学であったという。その兵学の中心となる『孫子』の注釈は多く儒者によって書かれた。朱子学においても、古賀侗庵の思想からは婦人の再婚を認め、殉死に反対し、特に武家の蓄妾を批判するなど、女性解放の思想が見られという指摘や、蘭学者の国家意識や「国益」をめぐる議論を面白く読んだ。しかし自由闊達な源内からも中国に対する蔑視が見て取れるのにはうんざりしてしまうが。
読了日:03月08日 著者:前田 勉

ファラオ ――古代エジプト王権の形成 (ちくま新書 1849)ファラオ ――古代エジプト王権の形成 (ちくま新書 1849)感想
1月刊行の大城道則『古代エジプト文明』と内容が重複する部分もあるが、あちらが通史を核とした概説的な内容だったのに対して本書は王権論を核とした各論となっている。著者の個人的な体験が盛り込まれていたり、ミイラやピラミッドの専論的な章節もある。ピラミッドを王墓とした大城書に対し、本書では一部のピラミッドは王墓と言えるかもしれなが、現在の状況ではすべてのピラミッドが王墓と断言するのは難しいという立場を取る。
読了日:03月13日 著者:馬場 匡浩

古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)古代中国の裏社会: 伝説の任俠と路地裏の物語 (1078) (平凡社新書 1078)感想
『史記』游侠列伝で取り上げられている侠客・郭解の半生をたどりつつ当時の文化や社会、歴史を紹介するという趣向。前著『古代中国の24時間』とは打って変わって刺客による暗殺だとかニセ金造りだとか何やらきな臭い話題が中心。ニセ金造りで捕まった人が国家による銭の鋳造に従事させられていたという話が面白い。著者の『史記』の読み込みぶりも読み所となっている。終盤では郭解の生涯と関連付ける形で刺客と游侠の違い、そして現代のネットによる私的制裁へと話が広がっていく。
読了日:03月16日 著者:柿沼 陽平

東南アジアの華人廟と文化交渉 (関西大学東西学術研究所研究叢刊60)東南アジアの華人廟と文化交渉 (関西大学東西学術研究所研究叢刊60)感想
フィリピンの廟でサント・ニーニョ(聖嬰=少年イエス)が玉皇三太子として祀られていたり、シンガポールの廟でガネーシャが祀られていたりといった習合ぶりを見てると、日本の神仏習合もアジアとしては当たり前と思えてくる。シンガポール最古の仏教寺院で祀られている華光像が宇治の萬福寺の華光像と酷似しているというのには何だか胸が熱くなる。
読了日:03月18日 著者:二階堂 善弘

古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ)古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ)感想
アレクサンドロス大王以前の状況と、大王の死後の状況をまとめる。マケドニア史にはマケドニア人自身の手による史料が不足しているということだが、それでもこれだけのものが書けるのだなという印象。マケドニア王国の成立から扱っているが、分量としてはフィリッポス2世に関する内容がかなりを占める。フィリッポスが学者たち、特に歴史家を動員して自己宣伝に努めたり、征服地に自分の名を冠した都市名を着けるといったことが息子に受け継がれたなど、息子の先蹤としての事跡が目立つ。
読了日:03月19日 著者:澤田 典子

『史記』はいかにして編まれたか: 蘇秦・張儀・孟嘗君列伝の成立 (プリミエ・コレクション 135)『史記』はいかにして編まれたか: 蘇秦・張儀・孟嘗君列伝の成立 (プリミエ・コレクション 135)感想
蘇秦列伝、孟嘗君列伝、張儀列伝の分析を通して、蘇秦・張儀と合従連衡策が結びつけられたのが武帝期まで下ること、司馬遷の編纂意図に沿わない材料であってもなるべく保存しようとしたことなどを議論する。本書に言うように、戦国の「縦横家」の活躍が前漢時代のそれの投影であり、司馬遷自身が彼らと交流があったとすれば、『史記』の編纂を越えて彼らの活躍を前提とした戦国史、あるいは彼らの存在が意識されていなかった前漢史認識も問題になってくるのではないか。そういった文脈で今後の研究の可能性を提示した書と言えるだろう。
読了日:03月21日 著者:斎藤 賢

歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)歴史のなかの貨幣 銅銭がつないだ東アジア (岩波新書 新赤版 2057)感想
貨幣が必ずしも額面通りの価値で流通しなかった時代の話。中国銭が中国本土や日本以外にもベトナムで流通していたということや、ピカピカの貨幣より青錆の見える古色がかった銅銭が日本で珍重されたこと、南宋時代の紙幣の流通が日本への宋銭の渡来に関係したこと、日本で銅銭が大仏などの材料として用いられたことなどが印象に残った。中国王朝が基層社会での少額の通貨の十分な流通を重視したことは、あるいは現代中国で100元札以上の紙幣が存在しないことと関係しているかもしれない。
読了日:03月23日 著者:黒田 明伸

史学の近代中国  顧頡剛と胡適・傅斯年の思想と行動史学の近代中国  顧頡剛と胡適・傅斯年の思想と行動感想
第2章で議論されている胡適と顧頡剛が崔述を「再発見」したことと顧のいわゆる加上説が日本の影響によるものとは必ずしも言えないのではないかという点が一番の注目ポイントか。従来一緒くたに扱われがちだった顧頡剛と傅斯年の関係を再検証しているのも読み所。一方で顧・胡・傅の三者に注目すると言いつつも、当時の古史や考古学の学術史をこの3人だけで語りきれるはずもなく、第6章で郭沫若が唯物史観に依拠したことについて、従来のように否定的に扱っていない点も評価できる。
読了日:03月27日 著者:竹元 規人

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2025年2月に読んだ本

2025年03月01日 | 読書メーター
ダーウィンの呪い (講談社現代新書 2727)ダーウィンの呪い (講談社現代新書 2727)感想
ダーウィンの進化論、進化学から遺伝学、そしてそれらの闇の側面としての優生学の展開をたどる。自然科学としての進化論と社会進化論との関係に興味があって読んだが、社会進化論についても言及されていたものの、優生学の母胎になったということで進化論そのもの、あるいはダーウィンその人の発想にも問題の芽があったことを知る。科学は価値中立的でも科学を扱う人間は果たしてどうだろう?ということを考えさせられる。
読了日:02月01日 著者:千葉 聡

大地からの中国史 史料に語らせよう (東方選書64)大地からの中国史 史料に語らせよう (東方選書64)感想
農業史の概説ということだが、作物の品種改良から農機具の問題、食物、養蚕と被服、そして肥料と思ったより話題が広範。議論に関係して特定の文章の引用関係など、意外にも文献学に関係するような議論もある。こういうことは何を研究するにしてもつきまとう問題ということだろう。カブラなどアブラナ科の作物の時代ごとの描かれ方に注目したりなど図像学的なアプローチもあり、また著者の前著『妻と娘の唐宋時代』と同様、小説も史料として積極的に使用しており、小説を史料とする際のよい手本となる。
読了日:02月06日 著者:大澤正昭

イスラームからお金を考える (ちくまプリマー新書 476)イスラームからお金を考える (ちくまプリマー新書 476)感想
イスラーム圏で行われてきたムダーラバという商売、投資の方法、そしてそれを応用した無利子銀行など、資本主義経済のアンチテーゼとしてイスラーム経済を解説していく。どこかで見たような方法だなと思ったら、終盤で西欧もイスラーム経済の発想を取り入れていたことや、本邦の頼母子講がムダーラバの発想に類似していることが指摘される。「国家の体制や社会が異なる」なんてことは言わず、我々とは違う経済のあり方にも注目していくべきと思わせられる。
読了日:02月07日 著者:長岡 慎介

民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ, 832)民族がわかれば中国がわかる-帝国化する大国の実像 (中公新書ラクレ, 832)感想
近年動向が注目されるチベット族やウイグル族だけでなく、朝鮮族や日本人になじみのない回族やチワン族、更に漢族内のグループである客家や、中国の民族の総体とも言うべき中華民族も取り上げている。かつての漢人八旗なども含まれているという満族のあり方からは民族の内実の曖昧さがうかがえる。回族について漢人と回民の共存・反目の歴史を取り上げるなど、歴史性に着目するのは本書の特徴だろう。客家について巷間言われてることに実は根拠が薄いということや、民族服との絡みで漢服ブームについても取り上げられている。
読了日:02月12日 著者:安田 峰俊

漢字はこうして始まった: 族徽(ぞくき)の世界 (ハヤカワ新書)漢字はこうして始まった: 族徽(ぞくき)の世界 (ハヤカワ新書)感想
商標などの意匠としても使われることがある青銅器の族徽から殷周時代の文化や文字の展開をたどるという趣旨。メインの章が設問形式になっているのが楽しい。序章と終章の総論、章と章の間のコラムも読み応えがある。ただ、族徽の形や成り立ちからその氏族の職掌を探るというのは、著者が批判する白川文字学のあり方、古文字の字形や成り立ちから中国古代の文化を探るというのと方法として変わらないのではないかと思うが……
読了日:02月13日 著者:落合 淳思

同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)感想
『戦争は女の顔をしていない』の個別のエピソードを深掘りしたような話だなと思ったら最後にオチが着いていた。クリミア併合など布石となる事件があったとはいえ、原著がウクライナ戦争以前に書かれていたというのには驚かされる。それで著者も苦労したようだが。
読了日:02月15日 著者:逢坂 冬馬

異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ)異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ)感想
「背教者」ユリアヌスが信仰したことでも知られるミトラス教。「はしがき」を読むとミトラス教研究の第一人者であるキュモンの学説の検討を中心にミトラス教の実像に迫るのかと思いきや、それももちろんあるのだが、ミトラス教やキリスト教も含めたローマ帝国の神々、宗教について検討した本だった。しかし考古史料も駆使しつつミトラス教が東方のミトラス神の信仰を承けつつローマで誕生したこと、主要な信者の身分、教義など、随分細かい所まで検討が可能なのだなと感心した。
読了日:02月17日 著者:井上 文則

倭寇とは何か:中華を揺さぶる「海賊」の正体 (新潮選書)倭寇とは何か:中華を揺さぶる「海賊」の正体 (新潮選書)感想
倭寇そのものに関する議論もあるが、どちらかというと倭寇が出没した時代以後の海の視点からの中国史というか、倭寇概念、倭寇性に着目した中国史という感じ。「倭寇」の「倭」の部分に着目したら前期倭寇と後期倭寇との区分はナンセンスだが、「寇」の部分に着目すると区分する意味が出てくるという話や、洋務運動から辛亥革命までの四象限の図式などは面白い。ちょっと議論が無理やり気味かなと思いつつも康有為や孫文の出身地、香港と台湾という地点など倭寇との符合に注目する所などはグイグイ読まされてしまった。
読了日:02月21日 著者:岡本 隆司

近代日本の対中国感情-なぜ民衆は嫌悪していったか (中公新書, 2842)近代日本の対中国感情-なぜ民衆は嫌悪していったか (中公新書, 2842)感想
日清戦争前夜から日中戦争の頃までの対中感情の推移を、特に子ども向けの雑誌の記事やイラストを中心にたどる。同時代の中国(人)に対して一貫して侮蔑や嫌悪、憎悪の感情が見い出せる反面、孔子や関羽など古典世界の偉人は一貫してリスペクトされているという、現実世界と古典世界との対応の乖離は、著者も指摘するように現代でもそう変わらない。「しかしよくもまあ」と当時の表現の数々に呆れるとともに、このことに対する反省なくして今の中国(人)の諸問題を批判するのは態度として不当ではないかと感じさせられた。
読了日:02月23日 著者:金山 泰志
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最近見てるドラマ(2025年2月)

2025年02月10日 | 読書メーター
『国色芳華』
『珠簾玉幕』『蜀錦人家』に続く唐代文化細腕繁盛記シリーズ第三弾。こちらは楊紫&李現主演。三作それぞれビジュアルにこだわりがありますが、本作が一番映像が綺麗ですね。内容は夫と義父母に愛想を尽かした牡丹こと何惟芳が離縁し、皇帝お気に入りの貪官・蒋長揚をスポンサーとし、気の合う女性たちと牡丹専門の花屋を開くという話です。で、仲間には自分と同じく夫に虐げられた者あり、義侠心に富んだ女侠あり、そして前二作と同じく崔十九のようなライバル的存在もありといった感じです。前二作ではいまいち弱かったシスターフッドを強調した展開となりそうです。

『異人之下之決戦!碧遊村』
哪都通の地区責任者の廖忠が臨時工の陳朶によって殺害され、本社では臨時工そのものの扱いが問題に。張楚嵐は同じく臨時工の扱いの馮宝宝、そして他地区の臨時工たちとともに陳朶の行方を追って碧遊村まで辿り着く。村では村長の馬仙洪以下、異人速成機で培養されたらしい異人たち手ぐすねを引いて待ち構えており…… 『異人之下』の続編というか番外編のような位置づけ。雰囲気もコメディタッチな前作からスリラー調に変わってます。本社に馮宝宝の身元を探られたくない張楚嵐が、同情の余地のありそうな陳朶と戦わざるを得ないという展開は深みがありそうなのですが、全13話の短編ということで掘り起こす前に話が終わってしまったという感じ。

『五福臨門』
母1人、娘5人の雌虎一家と恐れられてる酈家が范家に嫁いだ二娘を頼って洛陽から開封にお引っ越し。開封では新婦の方が相当額の婚資を用意する必要があるということで、金策のために一家で茶店を開くことにするが、范家の姻戚で三娘を目の敵とする名門の柴安も茶店の向かいに酒楼を構え…… ということで久々の于正プロデュース作。コメディということですが、人情喜劇ということなのか笑いのキレはイマイチ……
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2025年1月に読んだ本

2025年02月01日 | 読書メーター
近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)近代日本の中国学: その光と影 (アジア遊学 299)感想
近代中国と関わった漢学者ないしは「支那学」者、画家、探検家、ジャーナリストと五つの区分に分けた論集で、「支那通」に割かれた部分は最後の第Ⅴ部ぐらいであるが、その実全編を通して当時の中国学の裏面とともに学者と「支那通」との相克がテーマになっているように思う。2000年代からこの方、中国学では研究者も専門に引きこもっているのではなく現実の中国を知らなければという空気が強くなっているが、戦前から同じようなことを繰り返しているのかもしれない。
読了日:01月02日 著者:朱琳,渡辺健哉

世界は説話にみちている 東アジア説話文学論世界は説話にみちている 東アジア説話文学論感想
説話学というより説話を題材にした図像に対する図像学的な議論が多い。対象とする地域も東アジアに限らず、特に第Ⅲ部は釈迦の母の摩耶の授乳とマリアの授乳を比較したりイソップ物語の東アジアへの伝来を扱ったりと世界規模になっている。第6章の鬼に関する議論は『怪異から妖怪へ』の鬼の章と併せ読むと面白い。こちらは仏教医学へと思わぬ方向への展望が示されている。『三国志平話』冒頭の裁判説話と本邦の幸若舞曲などとの距離が近いという指摘も面白い。
読了日:01月04日 著者:小峯 和明

824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊824人の四次元事件簿 : 「清明上河図」密碼(なぞとき)第1冊感想
ドラマ版が良かったので取り敢えず第1巻をと思って手に取ったが、ドラマ版が原作のエッセンスを汲み取ってうまく話を組み立てているのがわかった。原作もミステリーとしての面白さはあるものの、ドラマ版の方に軍配を揚げたい。翻訳としては台詞の文体などに問題があり、AIに翻訳させたのかと思ってしまう。はっきり言って商業出版できたのが不思議なレベル。物語の方はぶつ切りで終わってます。原作は全6巻構成のようなので、2巻でワンセットということかもしれないが。
読了日:01月07日 著者:冶 文彪

新編 書論の文化史新編 書論の文化史感想
書作品自体ではなく歴代の書論でたどる、少し変わったアプローチ(だと思う)の書道史。関連する書作品の図版やその訳文が豊富なのも良い。第14章の、「菩薩処胎経」が六朝の墨跡を伝える資料として近代の日中の文人たちから珍重され、高く評価されながらも、六朝の資料も含んだ敦煌文献が発見された途端に顧みられなくなったという話を興味深く読んだ。ただ、著者には申し訳ないが第一部の内容は同意できない部分が多く、ない方がよいのではないかと思う。
読了日:01月09日 著者:松宮貴之

西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)西遊記事変 (ハヤカワ・ミステリ)感想
西天取経の旅に出た玄奘一行に八十一難が課されることになり、李長庚こと太白金星は道門代表として釈門代表の観音菩薩とともにその企画立案を担当することになるが、諸方面の横槍もあり計画通りに事が運ばず、次から次へと予想外のトラブルに見舞われることに…… 『西遊記』の舞台裏というか八百長西遊記、「八百長三国志」こと陳舜臣『秘本三国志』の西遊記版という趣き。著者の『西遊記』の読み込みぶりが伝わってきて『西遊記』ファンも大満足なのではないか。それとともに官界や大企業で生きていく機微、世知辛さも伝わってくる。
読了日:01月11日 著者:馬伯庸

近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)近代日本の中国認識 ――徳川期儒学から東亜協同体論まで (ちくま学芸文庫マ-58-1)感想
江戸中期から日中戦争期までの中国認識の変遷を概観する。中国認識はアジア認識、西洋認識、ひいては自国認識の問題とも深く関係することに気付かされる。本書で指摘されている、日清戦争以来の中国を軽蔑することで中国を理解したつもりになるというのは、現在まで引き継がれている悪弊であろう。山東出兵を背景に、吉野作造によるもし日本が中国から自国民の保護を口実に攻め込まれたらどう思うか?という問いかけや、日本の民族主義を誇るなら中国の民族主義も正当に評価せよという三木清の言葉も、現在の中国理解に通じる考え方である。
読了日:01月15日 著者:松本 三之介

遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)遊牧王朝興亡史 モンゴル高原の5000年 (講談社選書メチエ)感想
遊牧のはじまり、騎乗の開始から匈奴の民族構成(西ユーラシア人も含まれていたとのこと)、遊牧民と鉄、近年「天子単于~」の銘文を有する瓦当が出土したことで話題になった龍城、これまた最近話題になった鐙の使用開始等々、著者の専門の(だと思う)モンゴル時代のことよりも古い時代に関する内容を興味深く読んだ。柔然、ウイグルなど類書であまり取り上げられていない勢力についても紙幅を割いている。考古学の視点から探る遊牧王朝史の良書。
読了日:01月19日 著者:白石典之

孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)孝経 儒教の歴史二千年の旅 (岩波新書 新赤版 2050)感想
新書にありがちなサブタイトルとメインタイトルを逆にすべき例。『孝経』を中心にして見る儒学学術史であり、儒学経典史といった趣。最後の章で鄭注に沿った経文全文の翻訳があるほかは『孝経』の内容そのものはあまり問題にしていないが面白い。今文・古文の対立の図式は清末の政治・学術状況を漢代に投影したものであるとか、鄭玄と王粛の学術上の位置づけの話、特に王粛の議論が意外と穏当であり、だからこそ漢代以来の礼制を受け継ぐ南朝で受け入れられたとか、孔伝が実は『管子』を多く利用しているといった指摘が刺激的。

読了日:01月21日 著者:橋本 秀美

恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)恋する仏教 アジア諸国の文学を育てた教え (集英社新書)感想
アジアの文学と仏教の関係に注目。日本と中国はともかくインド、韓国、ベトナムも取り上げているのは珍しいのではないか。作品と仏教、あるいは出典とされるものの結びつけが強引かなという箇所があるのが玉に瑕。しかし日本人の本来の心情が反映されているとされがちな『万葉集』にも仏教的な要素が見て取れるという指摘は面白い。また、インドの説話で最後を仏教的な教訓で締めくくっていればどんなことを語っても許されるというのは、中国で抗日ドラマの体裁を取っていれば多少の無茶は許されるというのを連想させる。
読了日:01月22日 著者:石井 公成

歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)歴史的に考えること──過去と対話し、未来をつくる (岩波ジュニア新書 994)感想
中国・韓国との徴用工・従軍慰安婦問題など歴史認識に関わる問題、あるいは「処理水」問題など現代の問題、沖縄の置かれた立場、ウクライナ戦争などを、「さかのぼる」「比較する」「往還する」の3つの手法により歴史的経緯や事実を概観しつつ、日本政府の対応や我々日本人の態度が適切なものであったのかを検討する。こういうのも「役に立つ」歴史学のひとつのあり方だろう。本書では昨今話題の「台湾有事」については触れられていないが、これは本書の手法を踏まえたうえでの読者に残された宿題ということだろう。
読了日:01月24日 著者:宇田川 幸大

ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)ユダヤ人の歴史 古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで (中公新書)感想
高校世界史では古代と近代のシオニズム以降しか取り上げられないユダヤ人の歴史を通史として提示する。著者は近現代史専門ということだが、「選民思想」「一神教」の解説など、その他の時代についてもしっかりした内容となっている。ユダヤ人が常に組み合わさる相手を求めていたこと、そしてそのことが時としてユダヤ人に対する偏見や迫害につながるという構造、ユダヤ人が宗教集団などではなく「ネーション」として意識されるようになったのはシオニズム以降であるといったことを興味深く読んだ。
読了日:01月27日 著者:鶴見太郎

東アジア現代史 (ちくま新書 1839)東アジア現代史 (ちくま新書 1839)感想
「現代史」とあるが、19世紀の「西洋の衝撃」以後の近代史の内容も扱う。個別の内容には食い足りない部分もあるが、触れなければいけない事項は一通り揃っており、日本も含めた東アジア地域の近現代史を概観し、歴史認識問題、台湾問題などについて考えるうえでの土台とするには充分だろう。歴史認識問題は通史部分で経過を押さえるほか、終盤で改めて議論されている。各国の人口問題や格差問題にも紙幅を割いているのが特徴か。
読了日:01月28日 著者:家近 亮子

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最近見てるドラマ(2025年1月)

2025年01月09日 | 読書メーター
『大奉打更人』
お調子者のクズ系リーマン楊淩は架空世界大奉に転生し、しがない捕快の許七安となり、いきなり投獄されている所で目を覚ます。どうやら同居の叔父が任務中のミスで罪に問われたことから連座で投獄されたようだが…… ということで年末年始期待の新作ですが、漢詩の暗誦で名声を得るとか『慶余年』の焼き直しのような話が続きます。男主が加わる組織「打更人」が銅鑼→銀鑼→金鑼の階級制になっており、最上級の金鑼が全部で12人という設定はどう見ても聖闘士星矢ですし。ヤンキー版『慶余年』という感じです。テンポだけはやたらいいので、その程度のお話だと思って見るのがいいのかもしれません。『永夜星河』とともに頭を空っぽにして見れる作品です。

『私たちの東京ストーリー』
20年ほど前に好評を博した中国人留学生のドキュメンタリーが企画のベースで、ドキュンタリーと同様に大富が制作に関わっているということでTverで見てみることに。時は1989年、大学生の林凜は日本留学のチャンスを国歌から与えられ、日本語がまったくわからないまま来日し、まずは大学受験資格取得をめざして日本語学校に通うことに……という筋ですが、中国人留学生が粗大ゴミのテレビを勝手に拾って帰るのは違法じゃないと言い出したり、1989年の話のはずなのに東京メトロの案内版が映ってたりと毎回のようにツッコミ所があります (^_^;) 残留孤児の子孫が反グレ化していたり留学生の不法滞在問題を扱ったりと深刻な話題も随所に盛り込まれている作品なんですが、それとともにテレビの件など日本人が違和感を持ちそうな描写がしれっと出てくるのも見所かもしれません。
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2024年12月に読んだ本

2025年01月01日 | 読書メーター
少年の君 (新潮文庫 シ 44-1)少年の君 (新潮文庫 シ 44-1)感想
タイトルから青春小説だと思って読み進めていたら、気がついたらサスペンスになっていたという、ある意味不思議な小説。いじめのような社会問題も取り上げられていて凄惨な展開ではあるものの、これまで日本で翻訳されてきた中国小説と比べると、それほど強い政治性は感じられない。こういうものが翻訳されるようになってきたということで受け手の側の日本も変わってきたのかなと感じさせられた。
読了日:12月01日 著者:玖月晞

盗墓筆記2 青銅の神樹盗墓筆記2 青銅の神樹感想
三叔の行方や阿寧の身元、悶油瓶の謎など、1巻から引っ張った気になる要素は放置したままにして新たな冒険へ。1巻とおんなじような話が続くのかと思いきや意外性のあるラストだった。今回は1巻のように「帛書の拓本」など、パッと見レベルではおかしな要素はない。
読了日:12月03日 著者:南派 三叔

現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)現代日本人の法意識 (講談社現代新書 2758)感想
離婚の際に立場の弱い女性が不利益を被りがちなことや、一旦成立したきまりをとにかく絶対視する態度、冤罪が発生しやすい構造、司法やマスコミが政権と癒着しやすいこと、日本で未だに死刑が廃止されず、肯定視されがちなこと等々、裁判や法制にかかわる諸問題の根底には日本人に近代的法意識が欠如しているという問題があり、それは法律や制度は近代化したものの、法意識が江戸時代の感覚を多分に引きずっていることによるものだという内容。司法に興味はなくても社会・政治問題に関心のある向きは一読すべき。
読了日:12月08日 著者:瀬木 比呂志

〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)〈ロシア〉が変えた江戸時代: 世界認識の転換と近代の序章 (歴史文化ライブラリー 613)感想
ラクスマン来航以来のロシアとの接触が江戸日本の地理認識や文明観を変えたという議論。西洋世界に対する認知がそれまでは暦のための天文学程度にしか利用されていなかった科学・技術の重要性に対する認識を生じさせ、それらを生み出せなかった中国に対する蔑視や文明国が未開の地域を支配するという植民地主義的な見方を内面化させることとなった。また武士たちの蘭学の興味は外国への脅威への対応の模索と表裏一体であった。江戸幕府の意外な外交・危機対処能力とともに日本の近代化が持つ危うさや歪みを考えさせられる内容となっている。
読了日:12月10日 著者:岩﨑 奈緒子

四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)四字熟語で始める漢文入門 (ちくまプリマー新書 473)感想
細かいアラはありそうだが、漢文入門として取っつきがよい。関係する文献の一部分、一文だけ取り上げているのもミソで、全体を通して読もうとする気にさせてくれる。四字熟語の出典は書名だけでなく篇名まで挙げてくれるとなお良かったが。
読了日:12月12日 著者:円満字 二郎

中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)中国目録学 (ちくま学芸文庫シ-47-1)感想
特に本編はそう長くはない文章ながら目録学の基本的な流れに加えて、営利出版と非営利出版との傾向の違い、印刷術の発明によって最初に印刷に賦された書物の種類、朝鮮で活版が盛行した事情といった話題、そして蔵書家のあり方や類書、輯佚、校勘など関連する事項の解説などが詰め込まれており、目録学を中心として様々なことに目配りがきいた本となっている。
読了日:12月13日 著者:清水 茂

教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)教員不足──誰が子どもを支えるのか (岩波新書 新赤版 2041)感想
小泉時代の行政改革と第一次安倍政権時の教員免許更新制の導入により悪化した公立学校の教員不足。妊娠や病気など何らかの事情により欠員が出れば同じ校内の教員に皺寄せが行きがちとなるが、その実態は文科省等の統計からは見えない。そして教員の激務ぶりが知られるにつれ就職の選択肢として教員が敬遠されるようになり、ますます状況が悪化する。現場からの生々しい報告もあるが、メインは教員不足が発生する構造の分析が中心。参考事例としてのアメリカの教員不足の状況も興味深い。 
読了日:12月15日 著者:佐久間 亜紀

日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)日本の漢字 (岩波新書 新赤版 991)感想
日本独自の漢字・異体字・読みなど歴代の漢字の諸相、幽霊文字、地名などの形で特定の地域で使われている漢字、自衛隊、学生運動、メディアなど特定の文脈での漢字の略記、映画の字幕の事情、作家が生み出した漢字等々、日本の漢字使用の状況総ざらい的な内容となっている。中国や韓国など漢字文化圏に属する外国との比較がなされているのもよい。
読了日:12月17日 著者:笹原 宏之

三体0【ゼロ】 球状閃電三体0【ゼロ】 球状閃電感想
『三体』の前日譚ということだが、終盤の衝撃的というか唐突な展開にはこれで本当に『三体』とつながるの?という感じ(これについては一応「訳者あとがき」に説明がある)。面白いと思ったのは、球電に伴って発生する怪奇現象の種明かし。夢というかロマンを感じる。若い女性の描き方は相変わらずだなと思ったが。
読了日:12月20日 著者:劉 慈欣

死者の結婚 (法蔵館文庫)死者の結婚 (法蔵館文庫)感想
死者を擬制的・象徴的に結婚させることで供養するというムカサリ絵馬などの風習が古くからのものというわけでもなく、意外と現代的なものであるという議論が面白い。沖縄や中国の冥婚など、類似(するように見える)の風習との比較も行っているが、アフリカでの亡霊結婚が結婚の一形態と評価出来るのと比べて東アジアのそれはあくまで葬祭儀礼であるという話には納得。文庫版で追加された補論はそれはそれでいいという内容だが、死霊婚と直接関係するものではなく場違い感を抱いた。

読了日:12月22日 著者:櫻井義秀

「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろう「史料学」講義: 歴史は何から分かるのだろう感想
日本史に関するもののみとなるが、歴史学において史料にはどんなものがあるのかというより、どういうものが史料になるのかを議論した本ということになるだろうか。この種の本には珍しく文字史料に関する議論の比重が比較的低く、絵画史料や考古学史料を含めたフィールドの史料に関する議論が占める比重が高い。今時の概説ということでジェンダーについても言及されている。史料の文字情報だけでなく物情報、伝来情報、機能情報についても議論している点は昨今の中国簡牘学の論調と共通している。
読了日:12月24日 著者:小島 道裕

ヤンキーと地元 (単行本)ヤンキーと地元 (単行本)感想
沖縄のゴーパチに集うヤンキーたちの生活誌。『ハマータウンの夜郎ども』の日本版・沖縄版というか『ちむどんどん』のにーにーの世界というかそんな感じ。参与観察で出会ったヤンキーたちの暮らしぶりや彼らとの会話が中心なので、もう少し分析的な話も読みたかった気がする。安田峰俊のルポと雰囲気が似ている。安田氏の場合は社会学を意識しているわけではないと思うが、取り上げられる人々の世界観が共通しているからだろうか。
読了日:12月27日 著者:打越 正行

怪異から妖怪へ怪異から妖怪へ感想
「怪異」「神」「妖怪」といったキーワードに対する概説と、「鬼」「天狗」「河童」など個別の妖怪についての議論からなる二部構成。今回はそれぞれもともと祥瑞などの怪異だったものが時を経て妖怪と見なされるようになった経緯に着目。化野燐による怪異や妖怪は本当に怖いものなのか?という問いかけ、そして京極夏彦による妖怪をチョコレート、怪異を菓子に例えた議論が面白い。
読了日:12月29日 著者:大江 篤,久禮 旦雄,化野 燐,榎村 寛之,佐々木 聡,久留島 元,木場 貴俊,村上 紀夫,佐野 誠子,南郷 晃子,笹方 政紀,陳 宣聿,京極 夏彦

熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)熱狂する明代 中国「四大奇書」の誕生 (角川選書 675)感想
白話小説を軸にして見る明代史。モンゴル時代に白話文が書記言語となった経緯から、明代にかけて知識人を中心に人々が「楽しみのための読書」を受容するようになり、知識人を書き手として四大奇書を中心とする白話小説が出版される過程を描く。平民の気質を持った激情的な明朝皇帝、清代以後ネガティブに評価された明代の学問、武官的な資質を備えた明朝の文官と文官的な資質を備えた明朝の武官、目的は手段を正当化すると信じた胡宗憲や張居正ら等々、様々な面で明代史の再評価を行っている。
読了日:12月30日 著者:小松 謙
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2024年11月に読んだ本

2024年12月01日 | 読書メーター
盗墓筆記1 地下迷宮と七つの棺/怒れる海に眠る墓盗墓筆記1 地下迷宮と七つの棺/怒れる海に眠る墓感想
帛書の拓本をとるなど一部意味のわからない記述が出てくる(翻訳ではなく原著自体に問題があるらしい)のがたまに瑕だが、伝説上の人物汪蔵海など独自の考古的世界観による冒険小説と思えば楽しめる。本巻収録の第1部、第2部の両方ともあとを引くような締め方になっているのも映画なんかではよくあるといえばよくあるパターン。
読了日:11月03日 著者:南派 三叔

現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)現代を生きる日本史 (岩波現代文庫 学術457)感想
縄文時代の歴史は「日本史」なのか?という問いからはじまり、日本史の中の暴力を問題にしたり、民衆のふるまいや鉄火起請、闘茶などの風俗習慣を取り上げたりと少し変わった日本史講座。本書を読むと武士という存在がかなり異様に見えてくる。また闘茶の席で参加者が平等な立場で楽しめるように工夫がこらされたという話も面白い。「現代」の視点で歴史を見るとはこういうことなのかと気付かされる本。
読了日:11月04日 著者:須田 努,清水 克行

若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)若草物語 (新潮文庫 オ 1-1)感想
今回の新訳で改めて読み直してみて本当に美しい物語だなと思った。比べるのはナンだが、同じ時期の南部を舞台にした『風と共に去りぬ』と落差がありすぎる。ジョーがプラムフィールドを「お墓みたいに陽気な場所」と評しているのには笑ってしまったが。
読了日:11月07日 著者:ルイーザ・メイ・オルコット

中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)中国ミステリー探訪 千年の事件簿から (潮文庫)感想
六朝志怪小説から唐代伝奇、三言二拍、公案小説などを経て新中国成立あたりまでの中国のミステリーの系譜を辿る。ミステリーもほかの伝統文芸と同様、先行作品による典故の積み重ねで成立している。近代になると西洋のミステリーの翻訳も行われるが、ホームズの翻訳などは日本よりも早かったという。しかし武侠小説まで扱ったなら現代の古龍作品も扱ってほしかった。末尾の21世紀の程小青・孫了紅誕生の予言は実現しているが、著者は亡くなる前にそれを知っていたのだろうか?
読了日:11月09日 著者:井波 律子

南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)南北戦争英雄伝-分断のアメリカを戦った男たち (中公新書ラクレ, 825)感想
南北戦争対比列伝、ないしは南北戦争名将珍将列伝といった趣。もともと軍人ではなく民間で発明家稼業をしていたバーンサイドなど、個々の将軍・提督たちの列伝はもちろん面白いのだが、リンカーンが当時周囲からどのような大統領だと思われていたのかとか、アメリカ連合国が成り立ちからして分権的であったとか、歴史的な意義についてもちゃんと解説しているのがよい。しかしシャーマンが配下に食糧の現地調達をさせ、民間人からの略奪も辞さなかったというのは中国史でもよく見るやり方で、こういうのを果たして「総力戦」と呼ぶのかという疑問も。
読了日:11月11日 著者:小川 寛大

日本漢字全史 (ちくま新書 1825)日本漢字全史 (ちくま新書 1825)感想
漢字伝来からJIS漢字まで、漢字の字形、字音、(特に日本での)字義、漢語、漢文等の文体、訓読、部首、仮名、印刷、辞書等々の変化や展開をたどる。通常あまり詳しく触れられない唐音や唐話についても詳しい。教科書・便覧的な使い方もできそう。近現代、特に戦後の状況が駆け足気味なのは少々残念だが、それでも要点はちゃんと押さえてある。
読了日:11月14日 著者:沖森 卓也
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力 (講談社学術文庫)感想
第Ⅰ部では銀雀山漢簡本の位置づけ、伝統中国や日本での『孫子』の扱いの変化、西洋での翻訳の問題と『孫子』に対する問題意識の変化等々読みどころとなる論点が多い。本書によって『孫子』だけでなく漢籍そのものに対する理解も深まるだろう。第Ⅱ部の「作品世界を読む」でも『群書治要』での摘録や西夏語訳など、ほかの『孫子』本ではまず取り上げられないテキストを紹介している。
読了日:11月20日 著者:平田 昌司

ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫う-48-1)感想
世界中のカルト団体が進出し、受け入れられているアフリカ諸国の実相を描き出す。宗教に対する我々とアフリカ人(こうまとめると主語が大きすぎるかもしれないが)との感覚の違いに驚かされる。真摯な態度で真理を求めるかと思えば団体から支給される奨学金目当てで入信するなど、ただ現世利益を求めるだけという態度も見られる。また、統一協会にしても国の経済水準が違えば対応が異なり、霊感商法や多額の献金など日本で起こるようなトラブルは起こらないというのも印象的だった。
読了日:11月22日 著者:上野 庸平

ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」ロベスピエール:民主主義を信じた「独裁者」感想
ロベスピエールの生涯と思想。どちらかというと彼の事跡よりは著述や演説などからその思想をたどることの方が主となっている。ルソーに対する思い入れや女性の権利に対する見方などはなかなか面白い。副題にもあるようなロベスピエールが独裁者だったかという問いには本書は否定的である。サン・ジュストのようなシンパが存在しなければ政治家としてかなり違った生涯を送ったのではないかと思わせられる。また、時代背景としてフランス革命期には様々な陰謀論やデマが飛び交いっていたというのは、何やら昨今の政治状況とも重なるように思われる。
読了日:11月26日 著者:髙山 裕二

赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)赤毛のアン論 八つの扉 (文春新書)感想
少女小説と思われがちだが、実はその範疇を超えるものであるという『赤毛のアン』。日本初という全訳者による『赤毛のアン』の文化的、文学的、歴史的、政治的背景に関する解説。正直『赤毛のアン』を読んでないとしんどい内容で、これを読んでアンに興味を持つというものではないように思う。最終章で触れられている翻訳の経緯や苦労は、デジタルデータベース黎明期の話もあったりしてなかなか面白い。
読了日:11月28日 著者:松本 侑子

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2024年10月に読んだ本

2024年11月01日 | 読書メーター
/>検察官の遺言 (ハヤカワ・ミステリ文庫)検察官の遺言 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
『バッド・キッズ』の作者による官場ミステリー。弁護士による交友関係のもつれかと思われた殺人事件。しかし背後関係を探っていくうちに十数年前の不可解な事件に辿り着き……という筋。中国では力がある者のみが義や侠を実行することができる。さもなくば自分や身内が破滅に追い込まれるという話を思い起こさせるような展開が続く。何かモデルなった事件があるのかと思いきや、解説によると周永康事件を意識して書かれたとのこと。
読了日:10月01日 著者:紫金陳

桃源亭へようこそ 中国料理店店主・陶展文の事件簿 (徳間文庫)桃源亭へようこそ 中国料理店店主・陶展文の事件簿 (徳間文庫)感想
神戸を舞台にした在日華人連作ミステリー。本作収録のむ諸篇では陶展文の料理人、拳法家、漢方医という盛りに盛った設定がいまひとつ生かされていないのではという気もしないではない。戦時中の台湾人に対する扱いが鍵となる「軌跡は消えず」、歴史や考古ネタ満載の「王直の財宝」(水中考古学の話題もあり!)を面白く読んだ。最後の一篇は陶展文が登場しない別物の作品だが、戦争を挟んだ時期の華人社会の模様が描かれていてこれも面白い。
読了日:10月02日 著者:陳舜臣

創価学会 現代日本の模倣国家 (講談社選書メチエ 811)創価学会 現代日本の模倣国家 (講談社選書メチエ 811)感想
「模倣国家」としての創価学会、牧口・戸田・池田の三代の会長の事跡、学会における女性の扱いと彼女たちが果たした役割等々話題は多岐にのぼるが、最も印象的なのは会員に読書に試験、そして丸暗記を含めた学習が求められることである。特に読書は『人間革命』など学会の出版物だけでなく、『三国志』や『巌窟王』など池田大作の愛読書についても求められることがあるらしく、他の宗教団体と比べても出色ではないかと思う。思わぬ形で読書と学習の効用を思い知らされた。その他生々しい参与観察の成果も読みどころ。
読了日:10月05日 著者:レヴィ・マクローリン

198Xのファミコン狂騒曲198Xのファミコン狂騒曲感想
ファミ通元編集長東府屋ファミ坊の回顧録。話としては編集長から編集人に昇格したあたりまででアスキーを辞めてアクセラを立ちあげる話はなし。組織としては長らくファミ通独自の編集部を持てなかったこと、雑誌としては後発で売り上げに苦しんだ話や、元職も含めて他誌の編集者から雑誌作りの技術を学んだこと、後発ゆえに一般誌にあってゲーム雑誌にはない要素を取り入れていったことなどが印象的。『オホーツクに消ゆ』など、自身が関わったゲーム制作の話の占める比重が思ったより多い。後任の編集長浜村氏の回顧録も読んでみたい。
読了日:10月07日 著者:塩崎剛三

犬は「びよ」と鳴いていた: 日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書 56)犬は「びよ」と鳴いていた: 日本語は擬音語・擬態語が面白い (光文社新書 56)感想
日本語の擬音語・擬態語の変遷。前半では多くの表現が消えていったようで、その実形を変えつつ現代まで生き残ったものも多いという議論が展開される。あとは「チウき殺す」→「突き殺す」、「モウぎう」→『蒙求』といったように、動物の鳴き声などを掛詞として使用する例も多かったとのこと。これは忘れられた伝統として今こそ日本語表現に復興させるべきではないかと思う。タイトルにある犬の鳴き声「びよ」が「わん」へと変遷していった背景として、野犬と飼い犬の鳴き声の違いを挙げているのは面白い。
読了日:10月09日 著者:山口 仲美

愛と欲望のナチズム (講談社学術文庫 2838)愛と欲望のナチズム (講談社学術文庫 2838)感想
旧来の健全な道徳を標榜しつつも、ゲルマン民族の「健康的な肉体」をアピールし、「産めよ殖やせよ」を推進せざるを得ないという都合から、夫婦以外の形も含めた男女の性的関係を肯定せざるを得ないという矛盾を抱えていたナチ政権下の性をめぐるあれこれ。街中にヌード誌が氾濫し、前線の兵士が女性を求めるのと同時に銃後の女性たちも行きずりの相手を求め、少女も含めた青少年の性的非行も横行していた。同じ同盟国側ながら同時代の日本国内の状況と随分違うが、あるいは日本でも知られていないだけでそういう動きが見られたのだろうか?
読了日:10月12日 著者:田野 大輔

中国の思想 (ちくま学芸文庫ム-14-1)中国の思想 (ちくま学芸文庫ム-14-1)感想
先秦から新中国成立までの中国思想史の展開をわかりやすい語り口で辿る。諸子の成立年代をとかく引き下げがちだったり、『周礼』『左伝』を前漢末の儒者の創作としたりと、先秦の部分に関してはさすがに古さが目立つが、それでも『孟子』の性善説と『荀子』の性悪説を対比し、人性論において実は根本的な対立はないのではないかという疑問を提示したり、名家には論理的錯誤を利用して説を立てるのに強い関心があり、彼らのそうした詭弁的な側面が他の学派からの反論を招いたのではないかとする点など、なかなか面白い評価が多い。
読了日:10月14日 著者:村山 吉廣

ゼロからの著作権──学校・社会・SNSの情報ルール (岩波ジュニア新書 990)ゼロからの著作権──学校・社会・SNSの情報ルール (岩波ジュニア新書 990)感想
中高生が手に取るという想定からか、教員が授業で作文を読み上げる行為や、図工の時間に作った粘土細工に手を加えて出展する行為に問題はないか?クラスのみんなで作詩作曲した歌をネットにアップする際の注意点は?他人の文章を引用する際のルールは?など学校生活に即した問題が多く取り上げられている。ただ、本の表紙をネットにアップすることについては昔講演で専門家からまったく逆の見解を聞いたのだが……
読了日:10月15日 著者:宮武 久佳

加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書 2828)感想
加耶ないしは任那について、戦前の学説から近年の見解までよく整理されていると思う。『日本書紀』分注に引かれる百済三書の史料的性格についての議論や、いわゆる任那日本府が倭国の統制下にはない、独立的な性格を持った現地で土着した反百済・親加耶の倭系の人々の総称であり、百済の倭系官僚の裏返しのような存在で、その捉え方は倭国と百済とで相違があったという議論を面白く読んだ。これは言い換えれば倭と加耶、百済間のマージナルな存在であり、後の時代の倭寇のマージナル性とも通じるのではないか。
読了日:10月23日 著者:仁藤 敦史

就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差 (中公新書 2825)感想
統計から読み解く氷河期世代の就職状況と経済、家族。氷河期世代として色々身につまされる指摘や論点が満載だが、印象に残ったのは氷河期世代もさることながら、その直後のポスト氷河期世代も当時「売り手市場」などと言われながらも実は就職状況は氷河期前半と同水準だったということと、世間的な論調とは逆に氷河期世代以降の女性の高学歴化が少子化に影響を与えたという事実は読み取れず、むしろ高卒女性より大卒女性の方が結婚と出産をする可能性が高くなっていること、また直前の段階ジュニア世代より子どもの数が多いという指摘である。
読了日:10月24日 著者:近藤 絢子

女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年 (中公新書 2829)女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年 (中公新書 2829)感想
道長の時代から承久の乱あたりまで。道長の前後から登場する女院を軸に、彼女たちのサロンに出入りした女房歌人、斎王、天皇の乳母など、前著に引き続き女性たちの動きや彼女たちのもとに集積された荘園などの財、人材を辿る。その絡みで女院たちに仕えた武人貴族の動きや、武士の起こり問題についても言及がある。女性を中心に見ていくと、政治にしろ人間関係にろ平安時代の見え方が随分変わってくるんだなと感じる。
読了日:10月27日 著者:榎村 寛之

出雲神話 (講談社学術文庫)出雲神話 (講談社学術文庫)感想
出雲と大和を対立する勢力として見ないというのが新鮮。国譲り神話が出雲国内の状況の反映で、元々の伝承は大社の鎮座縁起であるというのも面白い。ただ、出雲が「宗教王国」であるというの議論はいまひとつピンと来ないが、あの時代の倭に中国でいえば三国志に出てくる張魯の五斗米道のような勢力があったのだろうか?また神話上で不本意な書かれ方を押しつけられたアメノホヒの後裔を称する出雲国造氏らはそれで納得したのだろうか?
読了日:10月28日 著者:松前 健

風呂と愛国: 「清潔な国民」はいかに生まれたか (NHK出版新書 729)風呂と愛国: 「清潔な国民」はいかに生まれたか (NHK出版新書 729)感想
江戸時代の入浴習慣が近代になってから西洋的な「清潔」の観念から評価されるようになり、外国人と比較のうえで「日本人は入浴好きである」と国民性と結びつけられ、修身の授業や家庭教育を通じて子どもたちやアイヌ、沖縄といった外地の人々にも入浴習慣を徹底するに至る過程を描く。戦前・戦中までは清潔さが国家によって押しつけられたということになりそうだが、昨今は逆に精神的不潔さというか悪どさのようなものが押しつけられがちに見えるのが何とも皮肉なことである。
読了日:10月30日 著者:川端 美季

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2024年9月に読んだ本

2024年10月01日 | 読書メーター
安田峰俊『中国ぎらいのための中国史』についてはこちらにレビューを書きました。

紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たち紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たち感想日中戦争を承けての北京から上海、そこから更に武漢、重慶、楽山、宝鶏などへの故宮の文物の疎開作業と関係者について。特に当時の故宮博物院院長にして古文字学者としても著名な馬衡や、後に台湾に渡ることになる荘厳、那志良らの生涯について詳述している。日本軍の爆撃以外にも現地での思わぬトラブル、船や自動車などの運搬上の問題、関係人員や文物を避難させた土地の地元民による問題、避難所での湿気や害虫の存在、火災の危険性、日本軍に見つかりやすい目立つ屋根といった、関係者が見舞われた様々な苦難を描き出す。読了日:09月01日 著者:アダム・ブルックス

出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書)感想日本近代文学に見える男と女のすれ違い。『三四郎』『金色夜叉』『友情』『野菊の墓』『不如帰』『真珠夫人』など有名作品が中心。印象づけられるのは身勝手さや鈍感さにより、女性と向き合わない近代の男たちの姿、そしてそんな男たちと作者の都合により翻弄される女性たちの姿である。山本有三は時代が変わったということで戦後は『路傍の石』の続きを書こうとしなかったということだが、こちらも取り上げられてる小説の男たちには感情移入できそうにない。と言いつつ『真珠夫人』など、読んでみたい気にさせられる作品もあったが。読了日:09月02日 著者:斎藤 美奈子

笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで (星海社新書 306)感想「笑い」を基調とした歴史学雑誌で有名になった著者による歴史学本。タイトルにある「笑い」による歴史学よりは、大学教員の仕事、学会の業務、学会誌の査読など、その前提となるアカデミズムとしての歴史学回りの話が読みどころ。アマチュアが歴史家として活動する方法も紹介されているので、歴史学に限らず人文系の分野で何かしら学術に関することで関わりたいアマチュアは参考になることが多いのではないかと思う。「笑い」については、決して賛同はしないが、著者の「やじ」に対する偏愛ぶりは伝わる。読了日:09月04日 著者:池田 さなえ

成瀬は信じた道をいく成瀬は信じた道をいく感想大学生となり、地元の観光大使にもなった成瀬。ノリは前作と変わらず楽しいが、前作の登場人物が島崎以外はあまり絡んでこず、寂しい気も。観光大使の相方篠原は母世代と同じく成瀬と長い付き合いになるんだろうか?成瀬の話は今回でひとまず幕ということになりそうだが、彼女が就職(あるいは進学後)どうマイペースを保ちながら地元愛を貫徹していくのか気になる。読了日:09月05日 著者:宮島 未奈

増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)増補 日本霊異記の世界 (角川ソフィア文庫)感想記紀神話と『今昔物語集』など中世説話をつなぐ存在として『日本霊異記』を読み解く。一連の動物報恩譚から、動物の恩返しを語る説話が日本人の心の優しさを示すというような言説を否定し、そういったものが現れてくるのは仏教の伝来や流布によるものであると再三にわたって論じている。また、討債鬼説話など、中国の説話の影響を受けたものも結構存在するようだ。『今昔物語集』なんかと比べると影が薄い文献だが、手軽な形での訳本が読みたくなってくる。読了日:09月07日 著者:三浦 佑之

ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う (集英社新書)感想特に国語科の学習指導要領の改定と大学入試改革を承けての東大文学部の教員による議論。ネットでもよく取り沙汰される読解力の定義の問題、『論語』から孔子の対人配慮が読み取れるという議論、昨今流行りの古典の複合問題が、複合的な材料を用いるということ自体が目的化しているという批判、文学とそうでないものとを区別したがる人は文学が怖いのではないかという指摘など、話題は多岐に渡っている。一時期話題になった古典不要論とも通じそうな議論もある。論理や実用にこだわる向きには一読されたい。読了日:09月08日 著者:阿部 公彦,沼野 充義,納富 信留,大西 克也,安藤 宏,東京大学文学部広報委員会

沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)沖縄について私たちが知っておきたいこと (ちくまプリマー新書 457)感想沖縄の近現代史や基地問題など、「構造的差別」につながるトピックをわかりやすく簡潔にまとめている。沖縄が米軍基地に経済的に依存しているといったよまあるデマについても反論がなされている。明治期には尖閣諸島も含めた宮古・八重島が切り離し可能な領土とされていたこと、終戦交渉時には沖縄全体が日本の「固有本土」とされていなかったことについてや、最後の対談では沖縄好きの本土人によるコロニアリズムの問題についても言及されている。読了日:09月09日 著者:高橋 哲哉

歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)歴史学はこう考える (ちくま新書 1815)感想著者の専門である日本近代史を中心として、著者の論文、あるいは政治史・経済史・社会史の一定の定評のある論文を素材に、論文の書かれ方、読み方を解説することで、歴史研究とはどういう営みなのかを説く。それに付随して史料批判の実際、時代区分の問題などについても言及している。とにかく具体的なので、従来の歴史学入門や史学概論が雲を掴むような話でよくわからないという人にも有用かもしれない。歴史はともすると「使えてしまう」危険な存在、文書館を利用するのは研究者だけではないという話が印象に残った。読了日:09月12日 著者:松沢 裕作

中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書63)感想金元の曲や元の雑劇から元明の白話小説が生まれ、四大奇書が白話を用いつつも知識人によって洗練され、『紅楼夢』の段階で近代文学を受け入れる素地が整うまでの展開を描く。小説などの文章の引用を織り交ぜつつ、四大奇書をはじめとする当時の代表的な作品の新しさと魅力、そしてその時々の出版文化などについても解説している。『三国』『水滸伝』や『金瓶梅』の背景にある政治性の話が面白い。読了日:09月15日 著者:小松謙

張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)張騫 シルクロードの開拓者 (講談社学術文庫)感想張騫の生涯だけでなく、広くその後人たちの事跡や漢の西域経営についてまとめる。著者がNHKの『シルクロード』のチーフディレクターということで、所々で現地の体験についても触れられるが、本編よりそちらの方がおもしろい。後人たちについては烏孫公主、解憂公主など女性たちの活躍についても紹介されている。
読了日:09月20日 著者:田川 純三

『韓非子』入門『韓非子』入門感想入門書として面白みもないかわりにそう変なことも書いていない。割とオーソドックスな概説だと思う。著者の特色が現れているのは終章の秦以後の法思想の展開、中国の律令が儒家思想を法源とするに至るまでを述べた部分ということになるか。読了日:09月21日 著者:渡邉義浩

レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書, 2820)感想実は19世紀にスペインの国民統合のために創られた神話だというレコンキスタ。その実情はといえば、キリスト教徒、ムスリムといった宗教勢力ごとにまとまっているわけでもなく、それぞれ内部で対立を繰り返し、ムスリム勢力がキリスト教勢力と同盟を結び、エル・シッドのようにキリスト教徒がムスリム勢力に仕えるというのもしばしば見られた。よく言われるこの地域での信仰の寛容さはといえば、これも寛容とも言えるし不寛容とも言えるといった具合。期待した大航海時代に絡めた記述はないこともないという程度。読了日:09月23日 著者:黒田 祐我

女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)女の氏名誕生 ――人名へのこだわりはいかにして生まれたのか (ちくま新書 1818)感想『氏名の誕生』の姉妹編で、前著で描ききれなかった女性の氏名について。「お」のつく名前と近代の「~子」との関係、表記の揺れ社会的身分の変化に伴う改名、苗字をつけないものとされていた女性の名前、そして近代以後の氏名政策と氏名の混乱のはじまりといった話題を扱う。しかし実際のところ、本書は女性の氏名にとどまらず、男性の氏名も含めた印鑑の問題、近代以後の漢字表記の問題、姓名判断の流行など、幅広い内容を扱っている。漢字表記の問題に関心のある向きも読んで損はないだろう。読了日:09月28日 著者:尾脇 秀和
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2024年8月に読んだ本

2024年09月01日 | 読書メーター
その悩み、古典が解決します。その悩み、古典が解決します。感想
自己啓発本の体裁をとった古典入門(でいいんですよね?)参照されている古典は江戸時代のものというのが珍しいかもしれない。西鶴、近松、『雨月物語』といったメジャー名作品もあるかと思えば本草書もあり。作品は時によって作者の意図を超えた所に面白さがあるだとか、古典の世界は先行作品を踏まえてなんぼだとか、文学・古典理解に資するような解説もある。
読了日:08月01日 著者:菱岡憲司

日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)感想
8/8のソ連参戦から9月上旬までのソ連との戦争について。満洲の状況だけでなく南樺太や千島列島の状況にも紙幅を割いている。日本側の満洲からの引き上げの苦労ばかり語られがちだが、ソ連軍は軍紀は緩かったが情報業務を重視したとか、日本側が中国人に対しては身に覚えがあったので報復を警戒していたが、ソ連に対しては全く警戒していなかったこと、満洲国の崩壊が日本の敗北と直結していたことが国家としての本質を示しているという指摘、シベリア抑留でのソ連兵の「恩義」を感じさせる話などを面白く読んだ。
読了日:08月03日 著者:麻田 雅文

読めない文字に挑んだ人々: ヒエログリフ解読1600年史読めない文字に挑んだ人々: ヒエログリフ解読1600年史感想
前半がヒエログリフなど古代エジプト文字の基礎知識、後半が古代ギリシア・ローマから現代までの研究者列伝という構成。シャンポリオン以前の古代・中世の学者もコプト語との関係に注目するなど、後につながる研究をしていたりしてなかなかバカにしたものではないと感じる。また近世以後の西欧の学者に中国語の研究もしている人が目立つ(ほかならぬシャンポリオンもそうである)。ギーニュは中国文明起源説で知られるが、フン=匈奴同一説も提唱していたことは本書によってはじめて知った。
読了日:08月05日 著者:宮川 創

講義 宗教の「戦争」論: 不殺生と殺人肯定の論理講義 宗教の「戦争」論: 不殺生と殺人肯定の論理感想
世界の宗教は戦争、そしてその前提となる不殺生戒についてどのように議論してきたかをそれぞれの専門家が講義する。総じて当初教義レベルでは殺人を禁じ、戦争には否定的だが、国家とつながりを持つことで戦争を正当化するようになるという流れはおおむね共通しているようだ。徹底的な不殺生を説くジャイナ教が戦争については微妙な態度を採っていること、正教会の教権と俗権の一致の伝統がウクライナ戦争での教会の態度に影響を及ぼしていること、儒教の正戦論が戦前・戦中の日本の戦争観に大きな影響を与えているといったあたりが注目ポイント。
読了日:08月07日 著者:

成瀬は天下を取りにいく成瀬は天下を取りにいく感想
変人優等生・成瀬と凡人の島崎、あるいはぬっきーとの友情物語プラスアルファという感じ。取り敢えず予想とは少し違う話だった。タクローをめぐる話など、成瀬たちの親世代の大人の物語も盛り込まれてるのもよい。個人的に私もその世代なんで、むしろそっちの方に感情移入したぐらい。氷河期世代の読者だとそういう人も多いのではないか?
読了日:08月08日 著者:宮島 未奈

中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)中国共産党vsフェミニズム (ちくま新書 1812)感想
一読して、中国共産党がフェミニズムを槍玉に挙げているというより、習近平政権が社会運動全体を警戒しており、その中にフェミニズムも含まれているだけのことではないかという印象を抱いた(無論それはそれで問題なのだが)。最後の天安門事件の指導者王丹が性加害で告発されたことを取り上げ、彼を含む民連が家父長制的な感覚を持っているということでは共産党と何ら変わりないという指摘は興味深く読んだ。近年中国ドラマでは現代劇も時代劇もフェミニズムが底流にある作品が主流となっているが、それについて全く言及されていないのも不満。
読了日:08月09日 著者:中澤 穣

ヨーロッパ近世史 (ちくま新書 1811)ヨーロッパ近世史 (ちくま新書 1811)感想
複合国家論(あるいは複合君主政論)から見るヨーロッパ近世史。従来中央集権敵性格が強いとされてきたスペインやフランスも実は複合国家としての性質を備えていたこと、複合国家が王権や議会を統合の紐帯とし、その過程で各国でユダヤ人やカトリック教徒などの異分子を排除してきたこと、アメリカ合衆国も州を単位とした複合国家であるといった指摘が面白い。そして各国とも複合国家としての性質を現在も引き継いでおり、それがEUをめぐる問題など現在の欧州地域の問題にも影響しているのである。
読了日:08月12日 著者:岩井 淳

モノからみた中国古代文化 衣食住行から科学芸術まで (東方学術翻訳叢書)モノからみた中国古代文化 衣食住行から科学芸術まで (東方学術翻訳叢書)感想
先秦時代から明清時代までの中国社会生活史、工業史のよい概説。農業、食、服装、建築、家具等々の各方面についての知識と考古学的発見がまとめられている。古文字の解説など所々にアラが見えるものの、春秋時代の餛飩の出土例が存在するとか、胡服の実際、東西の古代の車馬には繋駕法に大きな違いがあること、中国で船の舵が発意されたのは漢代であること、金縷玉衣はあくまで棺の一種であって衣服ではないといった知識が得られる。
読了日:08月19日 著者:孫機

世界の歴史〈10〉フランス革命とナポレオン (中公文庫)世界の歴史〈10〉フランス革命とナポレオン (中公文庫)感想
革命の前段階から革命の展開、そしてナポレオンの登場から退場までをバランスよくまとめている。フランス革命が世界に与えた影響、日本への影響についても紙幅を割いている。革命にはフランス革命的要素とナポレオン的要素とがあり、日本の場合は明治維新以来ナポレオン的要素が先行し、フランス革命的要素は後から着いてくる形になったという。新中国に対する展望があるのも面白い。
読了日:08月20日 著者:桑原 武夫

アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)アメリカ革命-独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで (中公新書 2817)感想
独立革命時に13州側にも英国王に愛着を抱く人が大半であったこと、「代表なくして課税なし」の実相、異論百出して「妥協の産物」として制定された連邦憲法、それが一旦世に出ると制定会議で異論を唱えた者も憲法を擁護したり拠り所としたこと、建国初期から「帝国」の様相を呈していた合衆国など、最新の研究に沿って独立の前後から南北戦争の頃までのアメリカについて新しい気付きを与えてくれる。
読了日:08月22日 著者:上村 剛

妖怪を名づける: 鬼魅の名は (607) (歴史文化ライブラリー 607)妖怪を名づける: 鬼魅の名は (607) (歴史文化ライブラリー 607)感想
江戸時代の妖怪の(認知と命名の)急増は、江戸幕府がそれまでの政府と違って危機管理としての怪異には関知しないという方針を採ったことや怪異が知的好奇心の対象となったことが影響し、とりわけ俳人が大きな役割を担ったことを指摘する。松尾芭蕉や西鶴、蕪村ら著名な俳人も妖怪の命名に関わり、芭蕉をモデルとしたと見られる妖怪も存在するという。怪異論として意外背生のある議論になっているが、俳諧論としても意外であることだろう。江戸時代の俳諧を研究している人の評価も聞きたいところ。
読了日:08月24日 著者:香川 雅信

物語フランス革命: バスチ-ユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書 1963)物語フランス革命: バスチ-ユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書 1963)感想
フランス革命の背景、展開、ポイントなどを要領よくまとめている。改革派の国王だったルイ16世、「合法性の人」ロベスピエールといった革命の主役たちに新たな光を当て、特にルイ16世に対しては肯定的再評価を行っている。テロワーニュ・ド・メリクール、ロラン夫人、王妹エリザベトといった、今まで知られていなかった人々も含めて女性たちの動きや役割を重点的に紹介しているのも特徴。もちろん日本の明治維新との対比や、革命の日本への影響についても触れられている。
読了日:08月26日 著者:安達 正勝

王の逃亡:フランス革命を変えた夏王の逃亡:フランス革命を変えた夏感想
フランス革命の展開に決定的な影響を与えたヴァレンヌ逃亡事件の経過と、関係者の述懐、諸派の議員たちや国民の反応、その後の展開を追う。逃亡の失敗により、国王に対する国民の敬愛や信頼が失われ、また国王の存在を前提としていた革命後の政治体制や憲法のあり方に疑念が突き付けられ、フランスは君主制から共和制へと向かうことになる。その様子も丁寧に描き出している。真に問うべきは国王がなぜ逃亡に失敗したかではなく、なぜあわや成功しそうになったかであるという視点が面白い。
読了日:08月29日 著者:ティモシー・タケット

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