帝国の崩壊 上: 歴史上の超大国はなぜ滅びたのかの
感想上巻は地中海周辺地域の古代帝国滅亡編ということになるだろうか。面白かったのは大村幸弘氏による第3章のヒッタイト編。地道な発掘作業と研究を積み重ねることで、ヒッタイトの滅亡について従来と全く異なる、小麦の生育不良による食料不足に原因があったのではないかという見解に至ったという。他の章も「海の民」の実像、アケメネス朝を征服したというより乗っ取ったという方がふさわしいアレクサンドロスなど、新たな知見が紹介されている。
読了日:07月02日 著者:
鈴木 董,近藤 二郎,土居 通正,大村 幸弘,山田 重郎,春田 晴郎,森谷 公俊,倉橋 良伸歴史像を伝える: 「歴史叙述」と「歴史実践」 (岩波新書 新赤版 1918)の
感想歴史叙述=テキストをいかに歴史実践=授業に落とし込むかを論じる第1部と、歴史総合の三つの核、すなわち「近代化」「大衆化」「グローバル化」に関係する多様な史資料を提示し、そこから読み取れるものについて論じる第2部から成る。第1部で、その時々の授業実践が(その当時の)現在の問題意識と結びついているのを面白く読んだ。教科の枠組みは変わってもそこは今も昔も変わらない。
読了日:07月07日 著者:
成田 龍一ドリフターズとその時代 (文春新書 1364)の
感想まだ後の主要メンバーが加入していなかった結成時から、『全員集合』の全盛期、『全員集合』終了以降のことまで、ドリフターズの歴史をまとめる。各メンバーの生い立ち、背景やバンドとしての活動、クレイジー・キャッツやコント55号、『ひょうきん族』などライバルたちとの視聴率争い、アメリカのショービジネスやディズニーランドのアトラクションなどの要素を貪欲に取り入れたこと、いかりやと志村の確執など、読み応えがある論評となっている。
読了日:07月11日 著者:
笹山 敬輔インド大反乱一八五七年 (ちくま学芸文庫)の
感想反乱の起こりとシパーヒーたちの背景、デリーの旧支配者層、特にムガル皇帝の動き、ラクシュミー・バーイーら著名な指導者を中心とするの動きなど地方での反乱といった、インド大反乱の流れと、イギリス側も含めて反乱に加わった様々な人々、階層の動きと思惑、そして反乱の限界をまとめている。当時の社会背景にもある程度目を配っている所と、日本の幕末の尊皇攘夷との比較が面白い。
読了日:07月15日 著者:
長崎 暢子平安貴族サバイバルの
感想平安時代の物語や女性によるエッセイ・日記類(枕草子、紫式部日記等)を、結婚後の女性の自己実現、平安時代の女性にシスターフッドはあったか、稚児との恋愛にあるいはクィアな欲望が見出せるのではないか等々、現代的な視点から読み解く。大塚ひかりの高級版という感じで通り一遍の解説より面白い。
読了日:07月19日 著者:
木村 朗子明代とは何か―「危機」の世界史と東アジア―の
感想漢・唐とともに中国史理解の基本となる時代であり、かつ「つまらない時代」と目されてきた明代。「皇帝による天下の私物化」をキーワードに政治・社会経済・思想文化など明代の諸方面を概観する。読みどころが多いが、太祖の粛清のねらい、明朝独自の朝貢一元体制、皇帝・士大夫とともに逸脱した人物が目立った時代、実は似た者同士の内閣大学士と太監、陽明学左派に端を発する清朝考証学、明は一見北宋の繰り返しのように見えるが……といったあたりを面白く読んだ。繰り返しと言えば、現代日本も明の政治のコピーに見えるのが不気味だが。
読了日:07月20日 著者:
岡本 隆司平氏―公家の盛衰、武家の興亡 (中公新書, 2705)の
感想公家としては、少なくとも賜姓された初代は大臣にまで昇ることが多かった源氏とは異なり、天皇との血筋の遠さから初代からして官職地位のうえで部が悪かったものの、末流は摂関家の家司、「日記の家」として生き残った平氏。その平氏の中でも桓武平氏高棟流と高望流を中心に扱い、かつこの二流、すなわち公家平氏と武家平氏との邂逅と位置づけるなど、ストーリー性が同氏の『公家源氏』より明確で読みやすい。
読了日:07月23日 著者:
倉本 一宏曾国藩 「英雄」と中国史 (岩波新書 新赤版1936)の
感想誰でも到達できる聖人にして儒将の実像とは?同じ曾国藩の評伝でも、清水稔氏による山川世界史リブレットのものとはかなり読後感が異なる。内容的には太平天国の乱の鎮圧が主であるが、個別の戦闘の指揮能力はからっきしで、その方面の能力は弟曾国荃や弟子の李鴻章より劣ったとのこと。また曾国荃の略奪癖に悩まされ、それが彼自身の悪評につながったとのこと。弟子たちによる死後の顕彰は彼らの身のスネの傷を覆う狙いがあったとのことだが、何やら昨今の元首相の顕彰を連想するような話である。
読了日:07月25日 著者:
岡本 隆司鎌倉幕府抗争史 (光文社新書 1211)の
感想この著者にしては珍しく、落ち着いた筆致で十三人合議制の成立から伊賀氏の変までの幕府御家人間の抗争を概述。こうしてまとめられると、日本にも族滅を伴う激しい抗争が存在したのだと実感する。「日本にも」と言えば、中国史など世界史での位置づけを意識したような記述が多いのも本書の特徴。コラム3の日本中世の国家論の話で、権門体制論を支持する理屈は明快で説得力がある。
読了日:07月29日 著者:
細川 重男