博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『大明風華』その4

2021年06月27日 | 中国歴史ドラマ
『大明風華』第23~32話まで見ました。


これまで永楽帝のブレーンとして登場した姚広孝、人生最大のチャレンジを披露して退場。


永楽帝は都を南京から順天府、現在の北京へと遷し、落成したばかりの紫禁城にて朱瞻基が正式に太孫に冊封されます。そして孫若微が太孫嬪に、漢王の推薦を得た胡善祥が太孫妃に封じられます。

この前後に永楽帝によるオイラート親征の準備を着々と進めます。太子は親征をやめるよう諫言しますが、聞き入れられることはなく、後方からの支援を任されることに。
で、漢王、趙王と太孫を伴って遠征開始。オイラート側はタタール部など他のモンゴル諸部族と同盟して迎え撃ちます。


于謙は前線勤務に回されてましたが、親身になって世話を焼いてくれた投降モンゴル人の上司が実はオイラートのマフムード・ハンで、自らスパイとして長年明軍に潜り込んでいたという衝撃の事実が判明したりします。


これと前後してその孫にあたる若き日のエセンも登場。明朝にとっては後に因縁の相手となる人物です。

前線では明側が苦戦を強いられ、永楽帝が病となります。後方は後方で元々病弱だった太子が重篤に陥ります。前線と後方でそれぞれ皇位継承を巡る思惑が交錯し、永楽帝は自分の死後靖難の変の二の舞となることを恐れ、太子を廃して漢王を後継に据えようと考えるようになります。

当然太孫はそれに不満で、永楽帝が陣中で病没するとその死を漢王、趙王に秘匿し、秘密を知る文官の楊士奇を味方につけます。そして密かに前線から抜け出して北京へと舞い戻り、父母にも決意を迫ります。


自分自身も明日をも知れぬ状態ということで、当初は永楽帝の思し召し通り漢王に皇位を譲ろうとした太子も翻意して即位。これが洪熙帝となります。

そして父帝即位という既成事実を作り上げた太孫は前線に戻り、漢王、趙王らに永楽帝の死を公表。不満の2人を屈服させ……というあたりで次回へ。
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『御賜小仵作』その5

2021年06月27日 | 中国歴史ドラマ
『御賜小仵作』第25~30話まで見ました。

楚楚、蕭瑾瑜は黔州刺史の李璋とともに、偽金作りのアジトらしき鉱山を捜査しますが、実は当の李璋が偽金作りを取り仕切っていたのでした。李璋によって鉱山に閉じ込められた2人ですが、その間に互いの愛を確認し、楚楚は遂に蕭瑾瑜の告白を受け入れます。前回彼女が告白を拒否したのは、仵作の身分の低さというか、死体を扱う職業という穢れ意識みたいなものがネックになっていた模様。

そして2人は蕭瑾璃らによって救出され、李璋の背後に武宗の遺児とされる昌王が存在することを確信。


そして冷月の祖父の冷沛山も黒幕のひとりではないかいうことで、一行は表敬がてら彼の軍営を探訪し、留まることに。


以前から祖父に不信感を抱いていた冷月は、いよいよ祖父との対峙を迫られ、覚悟のヤケ酒 (^_^;)

軍中では兵士が幻覚を見て自害するという怪死事件が相次いでましたが、冷沛山の片腕侯斌将軍も犠牲に。また一兵卒に扮して兵営に潜り込んだ景翊も幻覚を見て暴れる所を取り押さえられます。更には冷沛山も奇病に冒されており、自分の寿命が長くないと自覚しているようなのですが……

実のところ怪死事件は軍中の文官の呉琛が仕込んだ毒が原因であり、冷沛山の奇病も彼が与えた薬に仕込まれた丹砂が原因なのでした。しかし気付いた時には彼は井戸より死体で発見されます。冷沛山のもうひとりの片腕趙捷がすべての黒幕で、彼は昌王の配下としてクーデターを図っていたことが判明。

クーデターは未然に防がれ、結局冷沛山はシロということに。

一方、長安では秦欒が蕭兄弟の出生に不審点があることを嗅ぎつけます。どうやら兄弟のうちどちらかが謀反人とされた剣南節度使陳瓔の子であるようなのですが……?それとともに秦欒は昌王側からのオファーを受け、彼らと結託することを決意。というあたりで最終ターンへ。
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『御賜小仵作』その4

2021年06月21日 | 中国歴史ドラマ
『御賜小仵作』第19~24話まで見ました。

許如帰を逃したのは案の定楚河だった模様…… で、2人を追っていたのは秦欒の放った刺客であったと。一方、都では楚楚の身元が謀反人の子孫、「逆党遺後」ではないかと問題になります。


黔州では、蕭恒=巫医大叔は現地にいるのではないかということになり、蕭瑾瑜らは鳳凰山を捜索。そして沼地より父親の遺体を発見。

残されていた書き付けの暗号を解読し、剣南節度使と蕭恒は現地で共同作戦を執行する手はずとなっていたが、秦欒の陰謀により剣南節度使が謀反人に仕立て上げられたこと、蕭恒も謀反人として追われたが、崖落ちして巫医に助けられ、以後巫医として身を隠していたこと、蕭恒の身柄を確保できない秦欒は、彼を謀反を討伐する側ということにして、彼を顕彰するとして都におびき出そうとしていたことなどが明らかとなります。

沼地に沈んだのは他殺ではなく自害だったわけですが、謀反人として追わされている最中に敵兵に足を折られたのを満足に治療できず、そこから雑菌などが入ってしまって取り返しの付かない状態になったという事情の模様。そしてこういった事情により、楚楚の父親が謀反人の一味というのは冤罪であり、彼女は「逆党遺後」などではないということが明らかとなったわけです。


しかしそんな事情を知らない宣宗は、楚楚を捕らえようと現地に黔州刺史の李璋、そして蕭瑾瑜にとっては師にあたる薛汝成を派遣。実はこの薛汝成の正体が昌王なわけで、李璋ともつるんでいるようなのですが…… 蕭瑾瑜は2人の追求をやり過ごしつつ楚楚に告白しますが、彼女には困惑だけされて交わされるという結果に (^_^;)

一方、宣宗は更に蕭瑾瑜に現地の偽金の件を調査せよという命令を下し、鳳凰山にて偽金作りのアジトらしき場所を発見しますが……
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『御賜小仵作』その3

2021年06月14日 | 中国歴史ドラマ
『御賜小仵作』第13~18話まで見ました。


宮廷では高官たちの間で武宗の太子であった昌王が実は生きているという噂が流れ、宣宗は神経を尖らせます。そしてどこかに隠れ住んでいるらしい昌王が登場します。宣宗より若いと思っていたのですが、思ったよりおっさんです。というかどこかで見たような顔ですが……?

さて、黔州の楚楚は、今まで適当に受け流されてきた仵作の再試験の結果について合格ということで正式に蕭瑾瑜のもとで働くことに。2人は楚楚の母親許小三の遺体を掘り出して調査し、彼女が自殺ではなく他殺されたと確信します。


楚楚は母親の遺骨から生前の容貌を復元して塑像を作り、父親に関する手掛かりを得ようとしますが、街中で許如帰に攫われてしまいます。彼は長安の酒楼如帰楼の店主でしたが、その実体は秦欒の配下。蕭瑾瑜に追い詰められると逃亡し、その後も黔州入りしようとする彼ら一行を襲撃したりしています。

そして許如帰の正体が楚楚の母親の兄、許宗方であることが明らかとなります。許小三の夫、すなわち楚楚の父親は謀反を起こした剣南節度使の配下の武将雲易で、謀反の鎮圧に来た蕭瑾瑜の父親蕭恒の殺害を図ったとのこと。すなわち蕭瑾瑜と楚楚は敵同士の関係となるわけです。許如帰は、許小三を殺害したのは謀反の一味とされることを恐れた彼の妻が示唆したこと、蕭瑾瑜はお前を殺そうとするだろうということで楚楚を引き留めようとしますが、彼女は当然許如帰の言うことを信用しません。

そうこうしているうちに蕭瑾瑜らが救出にやって来て許如帰の方が楚家に監禁されることになります。しかしこれまた謎の刺客が潜入し、重症を負わされた許如帰は逃亡。


ついでに許如帰に唆されていた楚楚の兄楚河も逃亡。刺客に追われて川に飛び込んだ所を楚楚によって救出。その楚楚を助けようと蕭瑾瑜も川に飛び込み……というあたりで次回へ。
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『大明風華』その3

2021年06月13日 | 中国歴史ドラマ
1年以上放置していた『大明風華』ですが、視聴を再開。この間にWOWOWで『大明皇妃』の邦題で日本語版が放映されました。今回は第11~22話まで鑑賞。

永楽帝の命の恩人ということで孫若微は傷の療養がてら客人として宮中に滞在することに。建文帝の遺臣にあたる徐浜も永楽帝に出仕することとなります。建文帝といえば、永楽帝は甥がもし生きておれば和解をしたいと思っているようなのですが……


ということで密かに生き延びていた建文帝 (^_^;) 出家してます。伝国の玉璽を永楽帝に引き渡し、叔父甥の和解を果たします。そして「靖難遺孤」を罪に問わないという誓いを立てることに。


このあたりで永楽帝は漢王・趙王を伴って北方への親征を決意。これまで次男の漢王を監国の地位に就けていましたが、太子を監国に戻し、親征の準備を始めます。相変わらず仲良く喧嘩してる太子・漢王・趙王の三兄弟ですが、こういう面白カットも。

一方、胡善祥は太子妃のお付きに出世し、更に太孫(朱瞻基)の選秀に応じ、太孫妃の地位を窺います。そんな中、彼女は孫若微が幼い頃に生き別れとなった姉であると気づき、姉妹の名乗りを挙げることに。彼女は若微にも選秀に応じるよう薦めますが、太孫妃となって跡継ぎを生み、権力を得ることで両親の仇討ちをしたいという思いがある模様……


そして若微の身元を整えるために敢えて死を選ぶ養父の孫愚……


この前後に科挙に登第した若き日の于謙が登場。酔い潰れた状態で永楽帝と謁見し、北方親征への批判を口にしてしまいますが……

で、いよいよ選秀。朱瞻基は本音では若微を妃としたいところですが、政治的判断により漢王の推薦を得た善祥を太孫妃に選び…… ということでヒロイン周りよりおっさんズを見てる方が楽しいドラマですw
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『覚醒年代』その4(完)

2021年06月09日 | 中国近現代ドラマ
『覚醒年代』第34~最終43話まで見ました。

陳独秀、李大釗は学生たちだけでなく自分たちも茶館でのビラ配りと演説などで山東問題について訴えようとしますが、瞬く間に警察の手が入り、逃げ遅れたというか逃げるつもりすらなかった陳独秀が捕縛されて投獄。五四運動については結局中国側がヴェルサイユ条約調印を拒否するという形で決着するのですが……

しかし南方政府(広東政府)からの要求により、中華民国大総統徐世昌は陳独秀を釈放せざるを得なくなります。蔡元培の差配により、以前より南方政府は陳独秀を教育部の次長として招聘して西南大学の設立準備に当たらせようとしていたのでした。


釈放を記念して宴が開かれ、陳独秀は蔡元培や李大釗らと熱い抱擁を交わします。このドラマ、やたらとこういうおっさん同志の抱擁とか、絆を深め合うためにみんなで輪になって手を繋ぎ合うとか、そういう描写が目に付くんですよね……

そして陳独秀は北京大学教授の職を辞し、南方政府の招聘に応じることを決意。善後策のために上海に赴いたり北京に戻ったりしていますが、行動が逐一警察にマークされているということで、本格的に南方への移住をすることに。李大釗に伴われて密かに天津へと向かい、天津から上海へと入ることになります。


二人は北京から天津に向かう途中で難民たちの集落を目の当たりにします。そして老人から「こんな国家に救いようはあるのか?」と問われたことに衝撃を受け、マルクス主義による政党を設立し、世を救うことを決意。そこからそういう発想に持っていくのはかなり強引なような気がしますが、この台詞は却って我々日本人に突き刺さります。


そうこうしているうちに北京の李大釗、上海の陳独秀のもとにコミンテルンからの使者ヴォイチンスキー到来。ソヴィエト・ロシアの協力によるマルクス主義政党の設立を促されます。そして陳独秀に抱擁を求めるヴォイチンスキーですが、陳独秀は「抱擁は中国の伝統において合体の意味がある」抱擁に対するポリシーを披露し、抱擁は拒否して握手で済ませます。


で、党名が中国共産党と定められ、上海、北京、長沙など中国各地、そしてパリなど海外でも小組が結成され、上海で第1回全国代表大会が開催されるはこびとなり……というあたりで物語は幕を閉じます。

【総括】
新文化運動、五四運動、そして中国共産党結成と歴史的な事件を追いつつ、陳独秀、李大釗、胡適、魯迅、毛沢東といった多くの人々の動向を追う群像劇として成立しています。新文化運動がテーマということで、『新青年』の発行、文学革命、学生運動など文化的側面の描写に力を入れている点もポイントが高いでしょう。普通に近代史劇として優れた作品なんで、NHKかWOWOWあたりで日本語版を流す価値があると思います。

主役の陳独秀については抱擁に一家言のあるおじさんという間違ったイメージを植え付けられるというか、とにかく面倒くさい人間として描写されています (^_^;)
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『御賜小仵作』その2

2021年06月08日 | 中国歴史ドラマ
『御賜小仵作』第7~12話まで見ました。


チーム三法司の一員で長期出張中だった冷月が帰還。黔中節度使の娘で、宣宗のお気に入りでもあります。どうやら出張のついでに蕭瑾瑜の意を受けて楚楚の身元も探っていた模様。


ついでに第1話から登場している景翊。高官の息子で大理寺少卿として蕭瑾瑜をサポート。冷月を憎からず思っているようですが、彼の母は冷月を蕭瑾瑜とくっつけようと動いているようで……


さて、楚楚は何か事あるたびに蕭瑾瑜らに伝説の仵作「玉面判官」の教えを披露するのですが、それが蕭瑾瑜の父・蕭恒の残した教えとそっくりで、彼女に「玉面判官」のことを伝えたという「巫医大叔」が死んだはずの蕭恒ではないかという疑惑が持ち上がります。


蕭瑾瑜は黔州で開元通宝の偽物が流通していることもあり、一同を伴って楚楚の故郷の黔州へと赴き、偽金と父親の件を探ることに。黔州入りした途端に刺客にお剃られますが、そこへ助けに駆けつけたのが蕭瑾瑜の双子の兄・蕭瑾璃。王位を弟に譲って自分は武官の道を歩んでいる模様。

蕭瑾璃も護衛として一向に加わり、楚家へと向かいます。楚家の人間、楚楚の祖父・父・兄は楚楚の出生を探られるのを警戒している様子。これまでの調査でも彼女が生まれたのが楚家の母親の死後であるといったことが明らかとなっていたのですが……

諸々調査の結果、「巫医大叔」がかつて宦官に命を狙われ、返り討ちにしたらしいこと(かつて彼が住んでいた所からその宦官のミイラ化した遺体が出てきた)、そして楚家の祖父と父親の口から、地元の許氏の女性が自害した際に身ごもっており、彼女の遺体から密かに取り出して楚家で養育したのが楚楚であることが明らかにされます。となると、あとは母親が自害した事情と、父親は誰なのかが問題となるわけですが……
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『御賜小仵作』その1

2021年06月03日 | 中国歴史ドラマ
かなり評判のいい作品ということで、『御賜小仵作』を見てみることに。全36話の作品で今回は第1~6話まで鑑賞。


時は唐の宣宗の時代。唐の後半の諸帝の中では名君として知られる人物ですが、この時代の唐王朝は宦官が大きな力を持っており、彼も宦官によって皇帝に擁立されました。


物語はヒロインの楚楚が仵作の試験を受けるために上京してきたところから始まります。仵作というのは検屍官を指しますが、死体を解剖したりするということで人々から忌み嫌われる職務でもあるようです。


彼女の力を見出したのが三法司のボス、安郡王の蕭瑾瑜。未解決事件の被害者の遺体を試験の材料とし、検屍させたところ楚楚がたちどころに的確な分析を見せたのを評価し、取り敢えず自分の王府に居候させて自分の捜査チームに加えることに。蕭瑾瑜の幼馴染みで高官の息子の景翊、武官の呉江とともに捜査に従事することとなります。

蕭瑾瑜の母は文宗の娘の西平公主。皇室の血を引くエリートですが、彼の父蕭恒は彼の出生を待たずして外地で死んだということになっています。しかし母の公主は蕭恒が実は密かに生きているのではないかと疑っています。そして楚楚が蕭恒の遺品となる石製の飾りと瓜二つの飾りを持っていたことで、蕭瑾瑜は彼女が父親と関わりがあるのではないかと、その身元を疑います。

で、今回は兵部尚書の馮玠ら高官の急死事件を追っていたところ、犯行の関係者が蕭恒が生存しているかどうか探りを入れていたことが明らかとなり……というあたりまで。


犯人の黒幕は宣宗を支える宦官のトップ秦欒の模様。宣宗にペコペコする一方で、武官を動員したりと朝廷で大きな影響力を行使していますが、暇さえあればこんな具合に衣冠を解いて付け髭を付けたり外したりしています。宦官ということで髭がコンプレックスになっているということでしょうか……

法医学物ということで何となく『大宋提刑官』のようなノリになっています。『大宋提刑官』の方は終盤へと進むに連れて色々大変な展開になりましたが、こちらはどうなるでしょうか?
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2021年5月に読んだ本

2021年06月01日 | 読書メーター
万暦十五年―1587「文明」の悲劇万暦十五年―1587「文明」の悲劇感想
為政者たる万暦帝、官僚の申時行、海瑞、軍人の戚継光、思想家の李贄、そして彼らの背後で存在感を示す張居正。万暦十五年(1587年)当時の政官軍学の代表である彼らの動きを通して、伝統中国の政治・社会にそびえる「徳治主義」の壁を描き出す。本書の内容を現在に引きつけて見ることに、自序に否定的な文言があるが、やはり現在の日本を含めて「失敗」を迎えつつある社会に対して鑑となるのではないか。
読了日:05月01日 著者:黄 仁宇

明末清初中国と東アジア近世明末清初中国と東アジア近世感想
「近世」を中心とする時代区分論に関係する議論+中国像・国家観をめぐる議論+経済史に関係する議論という構成。中国史の時代区分は結局のところ日本史との調整を図るか、世界史との調整を図るかで揺れてきたということになるのだろうか。「中国」という呼称について、梁啓超が「吾国に国名なし」と評価したのは、中国の歴史に対する過度の単純化ではないかという批判が面白い。
読了日:05月07日 著者:岸本 美緒

近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ)近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ)感想
幕末から三島由紀夫まで、近代日本の陽明学的心性、あるいは水戸学の系譜を追っていく。両者は一見無関係のキリスト教や社会主義の受容にも大きく影響していく。そして水戸あるいは水戸学を媒介に三島由紀夫と山川菊栄とがつながっていく。特に水戸学は今年の大河の重要な要素にもなっており、陽明学・水戸学のサガは出版から15年を経てなお過去のものとはなっていないようである。
読了日:05月09日 著者:小島 毅

血の日本思想史 ――穢れから生命力の象徴へ (ちくま新書)血の日本思想史 ――穢れから生命力の象徴へ (ちくま新書)感想
「血筋」「血縁」「血統」という文脈での「血」という表現が生まれるまでの流れと、生まれてからの展開。単なる思想のうえでの問題にとどまらず、「輸血」「混血」など医学上、生物学上の問題にまで発展していく。ただ、親子関係を判別するための「血合わせ」を江戸時代に日本で生まれた俗信としているが、中国時代劇でもこの種の風習が頻出するところを見ると、おそらくは中国に由来するものではないか。
読了日:05月12日 著者:西田 知己

実力も運のうち 能力主義は正義か?実力も運のうち 能力主義は正義か?感想
学歴社会の問題を中心に、メリトクラシーは果たして正当なものと言えるのかという疑問をつきつける。実は今のアメリカはヨーロッパや中国と比べて社会的流動性が低くチャンスに恵まれないという話が面白い。アメリカの状況は、程度の違いはあっても日本の問題でもある。本書で議論されているのは地域、時代(中国の科挙など)を越えた普遍的な問題と見るべきである。著者が提示する大学入試をめぐる解決案は、古代ギリシアの公職抽選制を連想させる。議論の前提として「選別」をめぐる世界史も整理されるべきだろう。
読了日:05月13日 著者:マイケル サンデル

陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)感想
『新青年』と北京大学時代、五四運動、中国共産党建党、トロツキー派への転向、晩年、そしてその時々の交友関係、近年の再評価と、知りたいポイントはあらかた押さえられている。また新文化運動についての簡潔なまとめともなっている。
読了日:05月14日 著者:長堀 祐造

中国の歴史11 巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平 (講談社学術文庫)中国の歴史11 巨龍の胎動 毛沢東vs.鄧小平 (講談社学術文庫)感想
軍事芸術家としての毛沢東と政治芸術家としての鄧小平との対比を軸に描く中国現代史。毛沢東の「三つの世界論」、中国は28の国に分かれているという地方分権論的な発想など、毛沢東の世界観に触れるような議論が面白い。第9章でハードカバー版刊行後の状況を加筆し、第10章は完全書き下ろし。毛沢東への回帰を目指す習近平時代について描く。「毛沢東vs.鄧小平」を副題とする本書としてはそれなりにオチがついたということになるだろうか。
読了日:05月17日 著者:天児 慧

中国vs.世界 呑まれる国、抗う国 (PHP新書)中国vs.世界 呑まれる国、抗う国 (PHP新書)感想
イスラエル、ナイジェリア、カザフスタン等々、各国の対中諸相。中国側から見てみると、アフリカ地域への関心の高さや「巴鉄」ことパキスタンとの堅い結びつきなど変わらない部分もあれば、「諍友」オーストラリアへの態度の変化のように変わってしまった部分もあり。そこから変わらない中国、変わった中国の姿が見えてくる。マライ・メントライン氏とのインタビューで現代中国とナチスとの比較が話題に上っているが、その前段となるドイツ帝国との類似性にはたと膝を打った。
読了日:05月19日 著者:安田 峰俊

「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本感想
東アジア規模での巨大な合成の誤謬と評価する技能実習生、偽装留学生などの「低度」外国人材問題。自分が被害者となれば、力を尽くして対抗手段を取ろうとする中国人に対して、本書で取り上げられているベトナム人女性の例などはどうしょうもないという印象を抱いてしまうが、我々日本人が労働問題で困難に陥った時には中国人よりベトナム人女性のような態度を取ってしまうのではないかとも思う。ダメな点も込みで日本人的に感情移入しやすいのは、案外彼女のような存在ではないか。
読了日:05月21日 著者:安田 峰俊

〈武家の王〉足利氏: 戦国大名と足利的秩序〈武家の王〉足利氏: 戦国大名と足利的秩序感想
山田康弘『戦国時代の足利将軍』への批判という側面が強く、同書が否定的に評価した足利氏の将軍権威、共通価値に着目。足利氏と同様に権威を確立し、数百年存続しながらも滅亡した王家は世界史上に数多く、それらと比較するのも一興だろう。最後に日本史の時代区分について言及するが、「足利時代」なる呼称を採用するなら、いっそ「足利朝」、すなわち王朝として評価した方がよいのではないか。
読了日:05月25日 著者:谷口 雄太

三体3 死神永生 上三体3 死神永生 上感想
上下巻通しての感想。時系列的には第2部の「面壁計画」と同じ頃から始まり、これと並行して「階梯計画」が進められていたことが語られるが、そこから目まぐるしく時が過ぎ去り、何度も舞台が変化していく。そして最後には…… 第1部が文革から始まったことを思うと途方もない所まで行き着いたなという感想しかない。全作中今作が最もSFらしいと言えるかもしれない。第1部、第2部、第3部とそれぞれ異なった顔を持つ作品。
読了日:05月28日 著者:劉 慈欣

チャリティの帝国――もうひとつのイギリス近現代史 (岩波新書, 新赤版 1880)チャリティの帝国――もうひとつのイギリス近現代史 (岩波新書, 新赤版 1880)感想
昨今の日本でもよく見られる「本当に困っている人だけ助けたい」という発想が近代イギリスでも見られたこと、それが「無用な弱者」撲滅という発想につながっていったこと、チャリティの受給者を決めるための選挙が存在したこと、そして特に海外へのチャリティ活動が、奴隷貿易、植民地での先住民の虐待など、大英帝国が引き起こした問題への対応策という性質を持っていたことなど、近代イギリスのチャリティの裏面史を描く。「善意」という側面からの大英帝国史として読むと面白い。
読了日:05月30日 著者:金澤 周作

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