博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『天命と青銅器』

2006年08月24日 | 中国学書籍
小南一郎『古代中国 天命と青銅器』(京都大学学術出版会、2006年8月)

金文と『尚書』『詩経』『儀礼』などの文献を用いて西周王朝の統治理念を考察しており、小南氏の金文研究の集大成とも言える書です。本書の指摘で特に面白いと感じたのは以下の二点です。

○祭器として用いられる青銅器は持ち主である貴族がくらす土地と強く結びついており、その領域の外には持ち出せないとされていた。そもそも祭祀用の青銅器は普段から宗廟の近辺の地中に埋蔵されており、祭祀を行うたびに地中から掘り出されて使用された。陝西省で多く発見されている青銅器の窖蔵はこのような当時の青銅器保管所が現代まで残されたものであると思われる。

……青銅器の窖蔵については、従来は周の東遷の際に貴族達が運搬に不便な青銅器を慌てて隠したものとされていましたが、個人的に何となくこのような説明は眉唾だと感じていました。しかしこの考え方に従えば青銅器の窖蔵が多く残されている理由を説明することができ、たいへん面白い発想だと思います。

○西周期に盛んに行われた冊命儀礼のように、周王が「命」を諸侯に与えるという儀礼は春秋時代にも残存した。『春秋左氏伝』には周王が諸侯に「命」を賜るという記述が何箇所かに見られる。周王は諸侯に「命」を与え、覇者などに任命することによって再び諸侯を周の統治体制に組み込もうとしたのである。この周王による「命」による統治体制に替わるものが、秦漢による郡県制である。

……西周金文に見える儀礼と文献資料に見える儀礼とのつながりを考えるうえで、たいへん重要な指摘だと思います。

ついで本書を読んで感じた疑問点について。

○貴族の官職は基本的に世襲によって受け継がれ、冊命儀礼を通して祖先以来の職務の世襲が認められた。

……これについては、冊命によって祖先と同じ官職・職務を与えられる事例は確かに存在するが、それが圧倒的多数を占めるというわけでもなく、貴族達は特定の官職・職務ではなく、官職・職務を保有するような地位が世襲されていたという吉本道雅氏の見解の方が適切だと思います。

○禹の事績を記述した西周金文を資料として引用していることについて。

……この金文がどうも怪しいことについては「北京旅行記 その4」で触れた通りです。本書のあとがきで金文の弁偽の重要性を主張しておきながら、これについては何とも……

嫌事も書いてしまいましたが(^^;)、全体的には啓発される所が多い本でした。あと、末尾に金文研究の基本となる工具書や入門書を紹介している点は大いに評価できます。
コメント (3)
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