無意識日記
宇多田光 word:i_
 



『SCIENCE FICTION』のCDが出荷25万枚を突破して無事プラチナ・ディスクに認定された模様。
https://www.riaj.or.jp/f/data/cert/gd.html

昔に比べれば少ないものだが現在のご時世を考えるとえらい売れたもんだ。なお20年以上前の基準だとゴールドが20万枚、プラチナが40万枚だったようで。まぁそんなに変わらんか。

面白いのはダウンロード部門だと更に売れてる事よね。来週5週連続1位を目指すんだそうな。凄いね。
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/137481/2
売上数3桁の数字で何を語るんだと言われそうだけども、ストリーミングですぐ聴けるサブスクと、フィジカルとしての所有欲を満たしてくれるCDの狭間で利用されるダウンロード購入という部門、誰がどういう目的で利用しているのかというところは踏まえておきたい。

一言で言えば、「専用プレイヤーでの再生用」だろう。ハイレゾ等々をはじめとした高音質の音源を、スマートフォン以外の機器でも再生する為に購入する。宇多田ヒカルがこのダウンロード部門で他の部門に比べて相対的に強いのは、それだけ音質に拘る層に訴求しているからだと思われる。

実際、ご存知の方も多いかと思うが、いざ新しく高音質の規格なり機器なりが登場したときの試聴音源として宇多田ヒカルが選ばれるケースはかなり多い。それだけ、有名アーティストの中でも特に音質に拘った存在だと認知されているのだろう。あと、今ではかなり世代を経たがアルバム『First Love』を持ってる人の数が物凄く多いというのは大きい。なんっても歴代一位の売上だからね。つまり、新世代高音質をアピールする場合に、聴いて比較する為の「従前の音質」を、皆既に持っている可能性が最も高いアーティストなのだ宇多田ヒカルは。

高音質というのは得てして相対的なものでね。単独で聴いて良い音だと認識するより、昔の音と並べて聴き比べた方がその良さがハッキリと分かりやすい。なので、『First Love』なら皆持ってるよね、聴き比べて今回の新技術や新機器の良さを理解してねということでしょうね。

あと、やっぱり歌が異様に上手い上に唱法が繊細だというのもあるのかもな。高音質をアピールするときに歯擦音(サ行の音)やハイハットシンバルの音質の違いを取り上げる事がよくある。圧縮音源だと特にこういった音が潰れてよく聞こえないからだ。宇多田ヒカルの、特に若い頃の歌唱はこういう高周波成分が多かったのかもしれないね。平たく言えば「高音質であればあるほど映える歌声」であったのかもしれない。そんなことも想像しつつ。

ただ、この好況に水を差すようなことを敢えて言わせて貰えれば、『SCIENCE FICTION』のサウンド・メイキングで特徴的なのは全体的にドルビー・アトモス即ち立体音響に適したミックスとマスタリングなのだ。ところが、CDが売れてもダウンロード購入が盛んでも、そのどちらにもドルビー・アトモス版の音源は入っていない。もしかして、今のところ、Apple Musicのストリーミング音源だけになるのかな? これがなんとも勿体無い気がしている。わざわざ立体音響で聴こうという音質に敏感な人なら、それをフィジカルやローカルで持っていたいと思いたがる比率も高い気がするのでね。オーディオCDでは無理かもしれないが、DVD-ROM…なんて最近は売ってないか…うーん、Blu-ray Audioもそこまで普及してないし、実際のところフィジカルで売る販路がない現況なのでどうにもならないのかもしれないが、そろそろどこかでハイレゾ版と立体音響版のフィジカル販売・購入がそれなりの販路を通して実現しないかなと。

ダウンロード版って、ちょっと怖いのよね。例えば今でもmoraってダウンロード回数が10回までだったりする? 実際10回もダウンロードすることはないとはいえ、「制限がある」という事自体が利用を躊躇わせる。ストリーミングとの差異はその「保有感・所有感」にあるのだから、もっと何とかならないもんかね。なのでハイレゾ版や立体音響版もフィジカルで欲しかったりするのですよ、えぇ。


色々と書いてきたけど、

「ヒカルパイセンが現在Airpodsを利用しているのなら
 ドルビーアトモス版を楽しんでる可能性も結構あるんだよ?」

ということを最後にアピールして締めくくっておきたく思う。ヒカルが立体音響を気に入れば、ますます今後の制作音源では立体音響を意識したアレンジとコーラスワークが導入されていく公算が高い。興味のある人は積極的に試してみておくのもいいんじゃないかな。

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『SCIENCE FICTION』の好評の要因の一つに、一昨年から続く『First Love』のリバイバルがあると思うのだが、同曲を記事に取り上げてくれる時に「今でも色褪せない名曲」と紹介される度に、モヤる。そもそも曲って色褪せることあんの?

もともと「色褪せる」ってのは、絵や写真が経年劣化で見た目の彩度を落とす事が由来だろう。本が日焼けするとかもそうだよね。でも、音楽って基本蓄音機が出来た時以降、その時の録音のクォリティでずっと残ってるもので、例えばテープやアナログレコードが経年劣化したらまともに再生できないだけなので色が褪せるとか、ない。流行していたその時の音質で今でも再生できる。というか、再生機器の発達やアップグレード技術によって当時よりいい音で再生できることもあるくらい。つまり、音は色褪せたりなんかしないのよ。

なのにこう言われてしまうのはなぜかっていえば、「その時々で人々が勝手に色をつけてるから」でしょう。流行ってる時に本来曲にはない色をつけて、或いは色眼鏡を通して見てたものが、流行から外れて以降はそれがなくなって、素の音源に、元々の姿にやっと戻れているというだけで。

同じく「今聴いても古臭くない」もモヤる。褒め言葉のつもりなのだろうから個別に誰がいつ言ったとかは興味ないけど、古臭いのってよくないことか? ビンテージとかクラシックってこったろ? その年月だけ生き残ったってこったろ? ビートルズもピンク・フロイドも凄く古臭いですよ。如何にもそれぞれ60年代らしい、70年代らしい音で鳴ってる。そもそも彼らがその60年代らしさ70年代らしさを作り出した/定義づけた張本人の方なので当たり前っちゃ当たり前なんだけど、凄くその時代の空気が濃密に込められていて、如何にも古い。そしてそれが大きな大きな魅力だ。

細かい事を言えば、『First Love』だって古臭い。今では配信で2018年版リマスターとか2022年版ミックスとかが聴けるのでそれほどでもないけれど、1999年に出たCDの音は今聴いたらきっちり25年前の音だもの。そしてそれは特にネガティヴな意味を持たない。

あれですね、新しい世代の流行を仕掛ける度に一つ前の流行に対して「◯◯はもう古い」っていちいち言って切り離してるからですかね。その度に本来の音楽にない色を勝手に彩色して、時期が過ぎたらその色眼鏡を取り外して色褪せたって言ってるそのサイクルが、「色褪せない名曲」というフレーズを生んでるのかな。いい曲は生まれた時点でいい曲だし、それはどれだけ時を経ても変わらない。録音されたデータは、特に今はデジタルだから何も変わらないんだもの。絵画や写真とはそこが全然違うのですよ、繰り返し言うようだけど。

音楽はその時々の記憶を鮮やかに甦らせてくれるものだから、年月を経れば経るほどその鮮やかさは確かに増す。でもそうなれるのは、こちらが勝手に忘れてるだけで音楽の方は変わらないからだよね。色褪せないとか古臭くないとかいうフレーズを言うのは、お前が勝手にただ痩せたってだけなのに「あなた太ったよね?」ってこっちに言ってくるようなもんなのですよ。こっちと関係ないわお前が痩せようがどうしようが!(笑)

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