無意識日記
宇多田光 word:i_
 



今日1日Bunkamura Studioの余韻で過ごしてしまった気がする…。ホント、狭っ苦しい、なんてことない空間なんだけど、観光旅行で文豪の生家とか訪ねるじゃないですか。あの感覚と大体一緒なのよね。兵共が夢の跡ではないですけれど、あたしたちの人生を劇的に彩ってくれている名曲の数々がここで生まれて世界へと旅立っていったかと思うとねぇ…って、いつまで言ってるんだお前はって言われそうだけど、ここ以上の「聖地」って最早「宇多田ヒカルの自宅・生家」くらいしかないからね。それらが現在保存されてる保証も無いしな…。


こほん。ちょっと気を取り直そうか。昨日、『Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー(Sci-Fi Edit)』の先行配信が告知された。またも裏をかかれたというか盲点を突かれたというか、次に配信になるのは『Electricity』か、はたまた新録3曲のどれなんだろうかとか思っていたら、まさかの「[Bonus Track]」とクレジットされた楽曲がシングル曲として先行リリースされるとはね…! 全く考えていなかったよ。

試みにプレオーダーしてみると、ふむ、単曲配信で、よくある「アルバムの一部を先取りして配信」の形態ではない。もっとも、Appleでは後にその単曲配信をアルバム曲に変更することも出来るようにはなってるっぽいが。

実は当初の私、「初のベスト・アルバム『SCIENCE FICTION』を折角CDでもリリースするのだから、[CD Only Bonus Track]を収録すりゃいいのに」と思っていたのだ。前例があるからね。2007年の1月初頭に配信が爆発的に売れ、その約2ヶ月後の2月末にリリースされた『Flavor Of Life』のCDシングル盤だ。そこでは、[CD Only Bonus Track]として『Flavor Of Life - Antidote Mix - 』が収録されていた。あれと同じような感じに、となってたらこのマルセイユのエディットが候補となってたろうにな。高い金出してフィジカルを手に入れるのだから、シリアル以外にも何か特別な事すりゃいいのに、とそう私は思っていた。

真逆だったね。こうやって、とっととエディットを先行シングルカットしてしまうとはな。確かに、2022年の『BADモード』が英欧米で好評だったのもマルセイユの好評価による所が大きかった。あとFloating Pointsの知名度(これは私、未だによく知らない)。それを思い出すと、これって「満を持して漸く」Utada Hikaruの話題のあの曲が、全世界に向けてアピールされるってことでもある。

確かに、この曲は『BADモード』からのシングルカットのタイミングを失していたからねぇ。今回のこの措置は、リベンジとまでは言わないまでも、捲土重来の意味合いも結構あったのではないか。それと共に、この曲の知名度で英欧米での『SCIENCE FICTION』への注目度を上げようという意図も窺える。今更と言われてしまいそうだが、最早Utada Hikaruは何語で歌を歌おうと、日本語圏以外でのプロモーションを視野に入れるのが前提となってるのよね。マルセイユの先行シングルカットは、そういうグローバルな視野をアピールする為でもあったのだろう。

となると、だ。一体この[Bonus Track]という表記は何なのかという疑問に戻ってくる。CD Onlyでもないし、本編外のオマケかと思いきや、寧ろアルバムの顔として扱われる「アルバム発売直前シングルカット曲」。このポジションの曲って、アルバム『BADモード』にとっての『BADモード』、アルバム『初恋』にとっての『初恋』、『Fantôme』にとっての『道』&『二時間だけのバカンス』なのだ。どんだけ本筋として期待されとんねんて。どこらへんがBonus〜「おまけ」なのか。「思いもよらない贈り物」ってんなら、まぁそうかもしれないけどさ…。

何とか考えられるのは、「制作体制の違い」である。新録3曲のレコーディングとも、旧曲のリミックスとも異なるタイミング、異なるスタッフ、異なるスタジオで生み出されたからひとつだけサウンドの感触が浮いてるのかもしれない。海外では散々アルバム『BADモード』に収録された『Face My Fears』が「オーソドックスなEDMで、場違いだ』と非難されてたみたいだけど(あたしゃうまいこと違和感無くアルバムリマスタリングされてると思ってるけどね)、つまり、それと似たような感じで少々「本来のアルバムの文脈から外れている」ということなのかもしれない。

或いは、「他の収録曲は“今までにヒットした宇多田ヒカルの楽曲”だけど、このSci-Fiエディットだけは“これから未来にヒットする宇多田ヒカルの楽曲だ」という主張が込められているのかもしれない。だとするとちょっとばかし心憎いし、未来に言及する態度がどこかそこはかとなくサイエンス・フィクション風味にも感じられて面白いかも。わかんないけどねっ。


という訳で、ますます切れ目無くなってきた4月10日発売の『SCIENCE FICTION』のプロモーション体制。これ、こちらが思ってるよりずっとアルバムがヒットしちゃったら、ツアーのシリアル申込の競争率が上がっちゃうよ⁉︎ 痛し痒しな、ここ最近の @Hikki_Staffの有能ぶりなのでした。まったく、やれやれだぜ!(笑)

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てことで、昨日の日記でもちらっと記したけれど、まもなく閉じられる筈の渋谷文化村スタジオ(Bunkamura Studio)に行ってきた。展示会の開催を教えてくれたNanashiさんとHironには感謝しかない。

渋谷文化村スタジオというのは、宇多田ヒカルがずっとレコーディングとミックスを行ってきた場所である。総てではなく一部ではあるものの、かつて宇多田ヒカルが実際に歌った場所が、昨年4月10日から営業を休止していて、文化村全体の再開発を待つ状態になって一年が経過しているところに、サウンドアーティストevala氏がアート作品を9日間(2024年3月24日日曜日まで)展示中なのだ。要は跡地利用の展示会開催ってことだね。

文化村全体の再開発の完成は2028年を目処にしているということで、いつ渋谷bunkamuraスタジオが取り壊されるかはわからない。もしかしたらそのまま残るかもしれないし、一部増築改築などで終わるかもしれない。そこの詳しいことはわからないが、「一般人が中を見れる最後の機会になる可能性はある」ことだけは言っておく。

行くべきだ。確かに、evala氏のアートと共鳴しない人は、行ってもつまらないだろう。ただの薄暗い空間がそこにあるだけだ。特に何で遊べるわけでもないし、アミューズメント施設でも何でもない。しかし、このスタジオで収録されミックスダウンされた楽曲に思い入れがあり、「ここであの曲が生まれたんだ…」と想像力を働かせて感動するタイプの人であれば、必ず行くべきだ。

例えば、さっき慌てて出掛ける前に枕元に放り出してあった『Passion』のシングル盤の裏ジャケのクレジットを見てみたのだけれど、収録の一部とミックスダウンは、この渋谷bunkamuraスタジオで行われている。この曲が特別だと思う人、いらっしゃいますよね? 例えば「キングダムハーツ2」のエンディングで『Passion ~after the battle~』が流れてきて感動した皆さん、ここであの名曲が生まれたんですよ? 一目、見てみたい、いな、その中に入って何かを感じられるかもしれないとは思いませんか。

それで思い出したのだけど、そういえばその『Passion ~after the battle~』を歌って配信したネット動画企画『'05以上'06未満』の収録もここだったわね。すっかり忘れてたわ(毎度ながらテキトーだなーもー)。そうよね、ヒカルさんがしっかと地下一階の大地を踏み締めて、マイクに声を吹き込み続けたのがここなのよね。ゴロゴロと寝転がってたのがここなのよね。パジャマで徘徊して辿り着いて、今や巨匠になった小森雅仁氏に対して「小森くん酒買ってきて」ってパシらせてたのもここなのよね。宇多田ヒカルの歴史が詰まってるなぁ。

こんなところを読んでる貴方だったら、「私の人生を変えてくれた宇多田ヒカルの一曲」があったりするかもしれない。そんな人は今すぐにでもそのCDを手に取って、ちっちゃな字でクレジットに「Bunkamura Studio」の文字があるか無いかを確認して欲しい。「Recorded at」や「Mixed at」の行にある可能性が高い。そしてその歌を聴き返して、貴方自身がその歌とどんな関係だったかを思い返して、その生まれた場所を知りたいと思ったならば、どうか後悔だけはなさいませんように。本当に、これが最後かもしれないからね。

ビートルズファンはアビーロードスタジオのコントロールルームには入れないだろうけど(そんな時期もあるんだろうか?よく知らない)、宇多田ヒカルファンは渋谷Bunkamuraスタジオに入る期間を得たのだから、これは物凄い僥倖なのですよ、えぇ。あなたに「思い入れと想像力」があるのなら、ね。

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