無意識日記
宇多田光 word:i_
 



毎度溜め息を吐いてる気がするが、アメリカのチャートが羨ましい。私好みの音楽性を持つアーティストはひとつも入ってないし、売上だって昔に較べれば落ちているのだが、それでも元気だ。ひとつひとつの曲が「ヒットを目指して」作られている事がよくわかる。故に私好みの音楽性なんて無いのだが、昔のまんまの活気と活況があって、ビルボードでの枚数というかポイントはそんなでもないのにこれは未だに「ヒット・チャート」である。市場って、規模の大小とそんなに関係ないのかもな。

で、今のビルボードに入っている曲はアレンジがシンプルで、歌声が非常にクリアーに録音・加工されていて、非常に聞きやすい。やたら音を詰める傾向のある今の邦楽(ってどこらへんを指すんだろ)とは対照的である。ヒットチャートは大衆に阿りまくって故にラップ/ヒップホップにメイン・ストリームは収束していったのだろうが、ここまで徹底されていると天晴れである。

UtadaがThis Is The Oneをリリースしたのはもう6年も前の話だ。私は詳しくないので触れないが、きっともうサウンドの流行も移り変わっているのだろう。EDMなんてポップスのジャンルも無かった頃だ。それでも、そのサウンドは、ややシンプルで、ボーカルをクリアーに録音する手法も交えて、今のヒット・チャートにも通じれるサウンドを出せてたと思う。確かに、それを実現させたプロダクション・チームStargateは今年も元気にチャートにヒット・ソングを送り込んでいる。

つまり、何が言いたいかといえば、当時のHikaruの人選も方向性の選択も、米国で活動していくには間違ってなかったのだろうな、という事だ。当時もそれでいいんじゃないかと思っていたし(当時の日記にそう書いてある)、今振り返ってみてもそれでよかったんだと思う。ただ、その先を中断したというだけだ。

だから、恐らく、今Hikaruが復帰して米国で活動を始めても違和感はきっとないのだろう。ツアーから数えてももう5年半も経っているけれど、市場の空気を読む能力がそのブランクで衰えているとは思えない。寧ろ問題は、いつもの通り、Hikaruが米国で大ヒットを出したいとかそういう風な気になるかどうかだ。それ次第、という状況は、もう10年以上変わってないだろう。

EXODUSはプロモーションの事をまるで考えていないアーティスティックなアルバムだった。私はこのアルバムを当時「一曲々々はアルバムを200万枚クラスの大ヒットに導くだけの力を持っている」と表現した。しかし、それと同時に、どのマーケットに対してもプロモーションが困難だとも言及した。

アルバムが本当にヒットするには2曲連続でシングルがヒットしなければならない。Easy Breezyは素晴らしいポップ・ソングであり、実際日本のFM局で驚異的なオンエアを叩き出したが、じゃあそれに続く“同系統の”ポップソングがアルバムに入っているかというと、無い。Kremlin Duskの様式美は衝撃的だが、ではあの路線の曲がアルバムにあるかというと、無い。確かに、これではどのマーケットでも売りにくい。

余談だが、EXODUSがプロモーションされなかったのは同時のUMGのCEOの交代劇の他に、制作費が高騰しなかった為日本での売上だけでペイできてしまい(何しろ100万枚以上である)リスクをおかして予算をかけて宣伝するモチベーションが生まれなかったのでは、という仮説を昔立てたな。いや本当に余談じゃんこれ。

This Is The OneはEXODUSの反省の上に作られ、iTunes全米総合チャート18位という記録まで作った(瞬間風速だけどな)。次にHikaruがやる時はもっとうまくやれる。まだまだ今をときめいているStargateと再コラボレーションするのもアリだろう。あとはそれをHikaruがしたいかどうかだけだ。こればっかりは、本人に実際に訊いてみないと、わからない。松浦さんに頼んどけば訊いてくれるのだろうか。悩ましい。

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海外進出、という事を盛んに言われたUtadaだったが、基本的には全米デビューという事で、「もうひとつの母国での国内デビュー」という解釈も出来なくはなかった。寧ろ、翌年のMercuryからの英欧デビューの方が海外進出というに相応しかったのかもしれない。

そして今。ロンドン在住というのなら英国でのリリースもまた「国内発売」という感覚もあるかもしれない。婚家のあるイタリアとなれば、居住していない分また別かもしれないが。

ここらへんまでくると、Hikaruは大体“自分の国”からのリリースという事になるか。感覚的な話ね。日英米3ヶ国でリリースしてもドメスティック。

それはまた、どの国でもアウトサイダーな感覚が拭えない裏返しとなるかもしれないが、10代の頃ならともかくバツイチ再婚子持ちの30代おっかさんともなればそんな細かい事は…いや、本人は大丈夫でもこどもの方は気にするかな。それはあるかもな。

うまくいけばどこでもドメスティック・サクセス、うまくいかなければ多国籍進出失敗、みたいな風に、結果はどうとでも解釈できる。意味がないとはいえないが、色々遊べてしまうという事で意義は薄い。

iTunes Storeも現在のところ「各国版」であり、アメリカでなら買えるアイテムも日本では買えない、みたいな事態が存在していて、そうシンプルにはいかない。世界のどこからでも買えるようになるのが理想だとは思うんだけれども。

Hikaruには力まずに、ただリスナーの居る所で頑張ってくれれば、と思う。国籍や人種を問わずにファンを集める事が出来る能力は、In The Flesh 2010で見られる通りだ。

しかし、今までは、日本での圧倒的なセールスを背景にしてレコード会社に対する発言力を確保してきた。日本を重視すべきなのはそういった観点からなのだが、もし仮にHikaruがそんな発言力は不要だと言うのなら、日本にこだわる必要はなくなる。ファンは全世界的に平等だ。日本だけ特別という事はない。今まではそうだったかもしれないが、これからもそうである必然性はない。Hikaruも、そっちの方が気楽なんじゃねーの。気楽である事に価値を見いだすかどうかは、わかんないけどね。

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