トシの読書日記

読書備忘録

妄想・共犯者・疑似家族

2019-07-02 15:17:39 | さ行の作家



先週は更新をさぼってしまいました。昼過ぎに映画を見に行って、そのまま飲んで帰って来てしまいました。「エリカ38」というのを観てきたんですが、まぁ観なくてもよかったですかねぇ。浅田美代子主演、樹木希林プロデュースという触れ込みだったのでちょっと興味があって、足が向いたんですが、浅田美代子が生き生きと悪事を重ねて動き回るところは、もっと若作りのメイキャップにし、捕まったあとは、ぐっと老け込む感じの雰囲気にするなどしてもっとメリハリを利かせないと面白くないんじゃないですかね。タイだかフィリピンだかの若い男に貢ぐところなども、なんだか必然性が感じられませんでした。


全く違う映画なんですが、もう少し前に観たクリントイーストウッドの「運び屋」。これはよかったです。



それはともかく…



ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子訳「最初の悪い男」読了



本書は平成30年に新潮クレストブックより発刊されたものです。ミランダ、初の長編小説とのことです。


以前、同作家の「いちばんここに似合う人」を読んでこの人面白い!と思った記憶があるんですが、今、自分のブログをひっくり返してみたら、なんと7年も前に読んでるんですね。たしか、洗面器一杯の水で老人に水泳を教える女の子の話とか、そんなのがあったような。「孤独」というテーマで、なんとも切なく、そして温かい世界を作り上げていた作品という記憶があります。


さて本書です。


主人公はシェリル・グリッグマンという43才の独身女性。これがミランダ・ジュライの得意とするキャラクターで、シェリルが9才の時にクベルコ・ボンディという赤ちゃんに出会い、この子が自分の運命の子供だと信じ込み(実は全く赤の他人)、街で見かける赤ちゃんに誰彼構わず話しかけ(脳内会話)、その子がクベルコ・ボンディかそうでないか見分ける、とまあほかにもいろいろな妄想癖があるわけですね。このシェリルが同じ職場の65才の男に片想いするんですが、このあたりのくだり、さすがミランダ・ジュライという筆致でユーモアたっぷりに描かれていきます。


そしてある日、職場の上司夫妻の娘、20才のクリーを預かることになるんですが、ここから話は大きく展開していきます。クリーは超のつく美人、巨乳の持ち主なんですが、衛生観念ゼロ、家は散らかし放題、おまけに凄まじい足の臭いもあり、シェリルは閉口します。クリーは、シェリルの築いた、家で快適に過ごす「システム」をいともたやすく壊していきます。


かなり話を端折ってしまうと、しかし、やがて二人は最後にはレズビアンの関係になってしまうんですが、ここにも二人の孤独、というものが浮き彫りになっているわけです。


そしてクリーは父親の分からない子供を身ごもり、シェリルの家で出産します。クリーは子供を残して他のアパートに移り、シェリルはクリーの子供を育て始めます。ここでシェリルは母性にも目覚めるんですね。


最後の方はそれまでにまき散らかしたエピソードの回収にかかるわけですが、このあたりのちょっと取って付けた感、少し興ざめでした。


全体にどうなんでしょうか、感動の大巨編というほどでもないんですが、「いちばんここに似合う人」同様、都会に住む孤独を抱える人達の悲しくもおかしい物語と、なんだか紋切り型の表現になってしまいましたが、とにかくミランダ・ジュライの独特な世界をたっぷり味わうことができ、読後感は悪くなかったです。


蛇足ですが、「エピローグ」はそれこそ蛇足だったかな、と思いました。

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