髙村薫「土の記」(下)読了
伊佐夫の農作業を中心とした毎日が綿々と綴られていきます。田んぼの見回り、畑の世話、墓の掃除…。
しかし米を作るという作業は大変なものですね。本書を読んでその苦労を始めて知りました。育苗を入れる箱に新聞紙を敷き、深さ15mmの床土を入れる、種籾は比重1.13の塩水で洗って浮いた籾を取り除き、ネットに入れて水温10℃の用水路に7日間浸す、それを催芽のために30℃の風呂の残り湯に1日浸し、ゴザの上に広げて1日乾燥させる、これを手動式の播種機に入れ、籾が床土の上に均等に落ちるように播いていく。これがまず苗床作りということのようです。そこから出た芽というか苗を田に植え直して(田植えです)、成長させていくという、なんだかとほうもない作業ですね、これは。
まぁそれはともかく、淡々とした毎日でも小さなイベントがちょいちょいあります。墓石を買ってきて(石板のようなもの)ドリルで奥さんと自分の名前を彫って墓場に据え付けたり、娘の陽子が孫の彩子と仕事のため渡米し、そのまま住みつき、そこで知り合った開業医の獣医と結婚したり、自分の認知症の程度が強くなり、1週間入院したりと…。
妻の昭代の事故は本当のところどうだったのか、はっきりとは書かれてはいませんが、昭代が浮気をしていたと匂わせるようなところがあり、伊佐夫もそれを半分認めたようなかっこうになっています。そして一番最後のところ、伊佐夫は心の中で叫びます。
<みんな知っていたんだろう!うちの昭代が半坂へ通っているのを陰で見ていたんだろう!気の毒な亭主だと憐れんでいたんだろう!それだけではない、みんな昭代の事故は自殺だと知っていたんだろう!知っていて黙っていたんだろう!>
しかし真実は闇の中です。
そしてまた一番最後の1ページで愕然としました。あぁこういう終わり方なのかと。
ここは多分賛否別れるところでしょうね。自分としてはもう少し書いてほしかった。しかし、普段読むことのない作家に触れることができ、深い感動を得ることができました。「ラジオ深夜便」の書評氏に感謝です。
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