昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

運が悪いことから全てが始まった(69)貿易会社(27)

2013-12-21 04:54:26 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 結局この神奈川県警にココム違反で検挙された事件は、会社に対し罰金1000万円、岩田専務が懲役1年2か月、執行猶予2年の刑で幕が引かれた。
 ダニチ課長が実刑に処されることもなかった。
 高木機械2課長は退社したが、新聞の一面を飾った事件も半年を経過すると、会社は何事もなかったように回転していた。
 
 ほどなく復帰した岩田専務は、事件に関わった通産省の役人を機械部の営業部長に据え、ソ連からの信頼もさらに増すことになり意気軒昂だった。
 今日も通訳で同行する村田に、ストッキング、トランジスタラジオ、タバコ、時計など定番の手土産を大きな旅行鞄に詰め込ませていた。
 
    
 今や、外交官VIP並みにソ連の税関はフリーパスだと噂されていた。
 そして、以前は吉原専務が使っていた社用車のデボネアカスタムに乗り込んで颯爽とソ連に向かった。
 

「司くん、岩田専務のパルプセイゾウゾウチの担当をしてもらうことになったから・・・」
 そしてボクは、岩田専務が契約してきたソ連向けパルプ製造装置の担当グループの一員として、山川課長から任命を言い渡された。

 ─続く─

 中国・四国地方のNHK各局が、<瀬戸内海>をテーマに小中高生から募集した歌詞をもとに特集番組<海と生きる>のイメージソングが生まれた。
 応募作品676から選ばれた3つの最優秀作品を平原綾香さんがアレンジして歌う。
 
 
 <僕らの青>
 奏でる波は涙の音
 僕と君を今日と明日を渡る
 潮の香ほのかに朝を告げる
 煌めくときは強く僕を抱いて
 そう悲しよとか苦しいよとか
 繰り返しては消えていく
 またいつか会うときは
 夢を叶えた僕がいるきっと


運が悪いことから全てが始まった(68)貿易会社(26)

2013-12-20 05:49:23 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 機械3課にはぽっかりと空白ができている。
 機械2課には課長も係長もいなくて、野川がひとり机の上を整理している。
 目が赤い。
 いつも偉そうな高木課長に指示されながらも笑顔で仕事をしていたのが印象的だった彼女。
 
 ぼくの目を意識したのか、彼女はさっと立ち上がって部屋を出て行った。
 
「野川さんがトイレで泣いていたわよ・・・」
 席に戻ってきた永野がボクの耳もとでつぶやいた。
 ・・・大崎が言っていたことは本当だったのだろうか。野川が泣いていたというのは高木課長に関してなのだろうか・・・
 その後高木課長を見かけることはなかった。

「警察ってところは凄いとこだね!」
 一週間ぶりで戻ってきたダニチ課長が語った。
「むかし、放置自転車の件で職務質問されたことがあったんだが、その件が蒸し返されて逮捕されちゃったんだ」
 屈託のないいつもの笑顔だ。
「別件逮捕ってやつか・・・」
 
 佐賀係長がつぶやいた。

 ─続く─

 プレゼントの時期が近づいてきた。
 我々の時代には想像もつかなかったアメージングな<おもちゃ>。

 ロボットがパトカーに変身する<トランスフォーマー>
  
 世界最小のリ<モコンヘリ>
 
 ぶるぶる動き、犬小屋にも出入りする<じゃれ犬>
 
 綿菓子をつくれる<わた菓子器>
 
 (フジテレビ・オージャパンダフルから)

 
 
 
 

運が悪いことから全てが始まった(67)貿易会社(25)

2013-12-19 04:34:14 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「何となく危険な物件だというのはみんな感じていたんだ。・・・おそらく内部告発があったんだろうな」
「内部告発?」
「でなきゃ警察だって調べようがないんだ」
 大崎はボクを見て、そうだろうがという顔をした。
「誰が垂れ込んだんですかね?」
「岩田さんと仲の悪い奴だよ」
 大崎は室内を見回して言った。
 あちこちで仕事にならない連中がかたまりを作ってしゃべっている。

「誰なんですかね・・・」
 ボクも辺りを見回し、大崎に訊いてみた。
「そんなこと自分で想像してみろよ!」
 中野学校出身の彼は軽蔑したようにボクを見ると、その場を去って行った。
 ・・・機械2課の高木課長かも・・・
 課長が専務室(当時は常務室だったが・・・)で岩田としゃべっているのを見たことがある。
 
 常務室は営業部に隣接していて、ガラス戸越しに営業部を見渡せるようになっている。
 常務の要求で仕切り壁を取り払ってガラス張りに張り替えたのだ。
 ワンマン常務と対等にしゃべれるのが高木課長だ。
 年齢が同じだと聞いたことがある。
 課長は常務の座っているデスクに腰を乗せて何かいちゃもんをつけるようにしゃべっていたのを見たことがある。
 頭越しに部下を叱咤する常務も、高木課長だけは苦手にしているようだった。

 ・・・社内から常務を告発するとすれば高木課長しか考えられない。

 ─続く─

 テレビ東京に<YOUは何しに日本へ>という番組がある。
 先日ポーランドから来た男に密着取材していた。
 
 日本の歴史に関心があり、今回は古戦場めぐりに来たのだという。
 以前、かの有名なCIAのメンバーも修行に訪れることがあるという<武神館>で修業したことがあるとのことで、早速忍者スタイルに変身。
 
 伊賀、甲賀や戸隠の里を訪れる一方、古戦場を求めて、川中島、そしてついには夜を徹して山中を登り、高台から早朝の関ヶ原の古戦場の絶景を眺め感激していた。
 
 
 
 世界にはこんな<やる男>がいるんだ。


運が悪いことから全てが始まった(66)貿易会社(24)

2013-12-18 05:25:21 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 入社早々予期せぬ事件に翻弄されながらも、担当となったソ連向けタンカーの艤装品輸入の仕事は順調に運び、吉原専務のお供で進水式にも出席できるという幸運もあった。
 
 その後吉原専務は年齢を理由に勇退され、岩田常務が専務の地位についた。
 ・・・そのうちキミと一緒に仕事をしようや・・・
 岩田専務はその言葉通り、新たなソ連向け<パルプ製造プラント>の仕事にボクを関わらせてくれることになり、ボクの先行きは順風満帆に思えた。

 しかし、入社して3年目の秋、あの衝撃的な事件が起きた。
 いつもの通り会社に出社すると、会社の前は異様な雰囲気だ。
 パトカーが赤色灯を点滅させ、警官もいる。
 
「どうしたんですか?」
 呆然と立ちすくんでいる大崎に会ったので訊いてみた。
「例のヤツが摘発されたんだ・・・」
「例のヤツ?」
「ダニチさんのヤツがココム違反で」
「えっ? あの中国向けのプラントですか?」
「いや、実際は中国向けじゃなくてソ連向けだったんだ」

 機械2課の高木課長が、・・・お前、担当にならなくてよかったな・・・と言っていたヤツだ。
「ダニチさんと岩田専務が逮捕されちゃったよ・・・」
 岩田専務はこのプラントの輸出で会社に膨大な利益を与えた功績が評価されて専務になった、と噂されていた。
 その件が今回、神奈川県警からココム違反疑惑で摘発されたのだ。

「垂れ込んだヤツがいるな」
 大崎は腕を組んでつぶやいた。
「垂れ込み?」

 ─続く─

 昨日のブログで書いたように世界農業遺産の五分の一、つまり25の内5つ日本から選ばれている。
 自然と共生する幸せな日本を現している。
 一方、世界には自然を食いつぶして生活せざるを得ない国もある。
 <世界で最も乾いた大地・アタカマ砂漠>のチリだ。
 
 そこを流れるロア川の流域のオアシスに、世界で最大の露天掘りの銅山の開発で潤うカラマという街がある。
 
 
 
 雨が40年で3回しか降らないというこの不毛の土地に唯一水を供給しているのはロア川だ。
 その畔で細々と農業に携わってきた老人は語る。
「雨なんて、50年このかた見たこともないよ。それでも昔はロア川の水を引いてトウモロコシやニンジンが採れたんだ。今では雑草しか採れない。その雑草をヤギに喰わして生計を立てているんだ」
「今日は息子が銅山の仕事の休みで帰ってきて雑草取りを手伝ってくれたけど」
 ロア川の水量はどんどん少なくなっている。
 銅山の精錬のため大量の水が必要なので、巨大なパイプラインでロア川から引いているからだ。
「チリは銅山で食いつないでいるんだからしょうがないんだけど・・・」
 息子はオヤジの顔を見ながら言った。
 (NHKテレビ<地球イチバン>から)
  
 

金沢便り(44)世界農業遺産・輪島白米千枚田

2013-12-17 03:36:29 | 金沢便り
 <金澤の山ちゃんのフォト便り>

 輪島白米千枚田 ーあぜの万燈ー

 世界農業遺産に登録され、その一部の千枚田稲刈りが終わったこの日に三百人のボランティアが畦道に蝋燭立ての筒に一本一本蝋燭を立て点灯した。
 
 

 大勢の観客に見守られ、幽玄の世界を醸し出した
 

 津軽三味線の演奏に観客も大満足だった。
 
 (能登半島 輪島千枚田にて)

 <世界農業遺産>は2002年、食糧の安定供給を目指す国際組織「国際連合食糧農業機関」(本部イタリア・ローマ)によって開始されたプロジェクト。
 創設の背景には、近代農業の行き過ぎた生産性への偏重が、世界各地で森林伐採や水質汚染などの環境問題を引き起こし、さらに地域固有の文化や景観、生物多様性などの消失を招いてきたことが挙げられます。
 認定地域は世界各国に広がり、2013年5月現在25サイト。

 日本では上記<能登の里山里海>の他、下記が認定されています。
 <トキと共生する佐渡の里山>(新潟県佐渡市)
 
 <静岡の茶草場農法>(静岡県)
 

 <阿蘇の草原の維持と持続的農業>(熊本県)
 
 
 <クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産環境>(大分県)
 

 

三鷹通信(79)三鷹三田会年忘れの会

2013-12-16 04:52:09 | 三鷹通信
 今年の三鷹三田会年忘れの会は例年の通り吉祥寺の東急インで、73名を集めて行われた。
 
 向井百重会長の挨拶の後、慶応義塾塾員センター、蠣崎元章部長から塾の現況についてお話をいただいた。
 特筆すべきは、今年の司法試験で慶大は合格者201名で全体の10%、合格率も56.8%と、共に第一位だったそうだ。
 また、三田会は日本及び世界各地に広がり、865団体、約28万人の塾員が所属している。
 
 
 そして我が向井百重会長は全国でも二人の貴重な女性会長だ。
 
 さらに三鷹三田会の会員で清原慶子三鷹市長、元金融担当大臣、現自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長及び国際局長の伊藤達也衆議院議員の御挨拶を頂く。
 アトラクションとして、女講談師、竹林舎青玉さんから、忠臣蔵討ち入りの日に因んで「赤垣源蔵 徳利の分かれ」が力強く演じられた。
 
 三鷹は分科会活動が盛んだ。
 麻雀、テニス、名誉教授を囲むサロン、囲碁、そば打ち、ハイキング、ゴルフ、釣り、グルメの会などの紹介があった。
 最後に応援歌<若き血>および<丘の上>を共に肩を組み斉唱。

 宝くじの入った福袋を頂いてお開きとなったが、会食をしながらの楽しい集いだった。

 三鷹市は文学に関わりの多い街である。
 先月<ちいさい秋みつけた>を作曲した中田喜直の歌譜碑が井の頭公園内で除幕された。
 他にも太宰治を始め、森鴎外、山本有三、国木田独歩、三木露風などの文学碑がたくさんある。
 
  
 
 
 
 
 

 
 

運が悪いことから全てが始まった(65)貿易会社(23)

2013-12-15 05:17:15 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「電話よ!」
 エコーサウンダー事件も無事解決して三日後、永野から電話を渡された。
「どこから?」
 彼女は返事しないでぷいっと横を向いた。
「司さん?」
 聞いたことのない女性の声だ。

「どちらさまでしょうか?」
 不機嫌な顔でタイプを打つ永野の顔を窺いながら訊いた。
 
「あら、ダルタニアンの幸子よ」
 思い出した。少し東北訛りがある。
 M造船の松島輸出課長の接待で、山川課長に連れて行ってもらったとき知り合った。
 
 場違いな高級クラブで腰が落ち着かなかったボクのとなりに座った女性だ。

「わたしまだ入ったばかりなの。よろしく・・・」
 松島課長を中心にやり手ママたち、ベテラン美人軍団に囲まれて盛り上がっている<おとな>たちの片隅でボクたちはこそこそと話し合った。
 
「内緒なんだけど、わたしまだ19才なの。来月の3日がお誕生日でやっとはたち・・・」
「へえ、そうなんだ。ボクも会社に入ったばかりの新米で、こきつかわれているんだ・・・」
「じゃあ、新米同士なんだ!」
 彼女はそっとボクの手を握った。
 ボクは舞い上がって、・・・お祝いしなきゃね・・・なんて言ったかもしれない。

 しかし、今はまずい。
 急ぎの仕事を永野と分け合って作業中なのだ。
「今、急ぎの仕事があって出れないんだ・・・」
 永野を意識してぼそぼそと小さな声で言った。
「う~ん、いいの。近くまで来たついでだからお電話してみたの。またお店の方へいらっしゃってね」
 彼女の声にはなんのわだかまりもなかった。

 ─続く─

 先月の27日、向井千瑛五段が謝依旻女流三冠王から女流本因坊を3対2で奪取した。
 
 謝さんは、3年前、わが吉原由香里5段(当時は梅沢姓)が三連覇中の女流棋聖を奪取して以来三冠をほぼ独占してきた強者である。
 
 (この写真はボクが由香里さんの6段昇段祝いの際に撮ったものです。エッセイ163をご覧ください)

  

エッセイ(187)張成沢処刑<落語談義>

2013-12-14 05:35:04 | エッセイ
 <落語談義10>

 熊さん:北朝鮮のナンバー2が処刑されましたね! 死刑ですよ!
 ご隠居:まさにビックリだね。逮捕され、裁判、即処刑だからね!
 
 熊さん:張さんって、飯島元首相補佐官やアントニオ猪木議員なんかとも会っていて日本にもなじみがあったんですがね。
 ご隠居:日本の貴重な情報源を失っちゃったな・・・。
 熊さん:彼はどんな悪いことをしたってんですかね?
 ご隠居:報道によればクーデターを企てたって説もあるな。少なくとも、金正恩首領の伯父さんとしての地位を利用して、いろいろやり過ぎちゃって目障りになったんだろうね。
 熊さん:感情的なもんだと言うんですかい?
 ご隠居:まだ未熟な首領の後見人としての意識が高じて、経済問題とかで首領自身にも小賢しく指導するような意見を吐いたり・・・。
 
 熊さん:ジョンウン! って呼び捨てにすることもあったとか。
 ご隠居:張氏は中国首脳からの後ろ盾もあって、改革開放路線を推し進めていて、北朝鮮の小平を目指していたらしいし。
 熊さん:金正恩自身、三男のくせに子どもの時から兄貴たちをリードする自信満々のお坊ちゃまだったらしいですね? 
  
 ご隠居:その性格の強さが父親の金正日に評価されて後継者に選ばれたんだが、このところの伯父さんのおごりが彼の鼻についてきたんだろうね。
 熊さん:放っておいたら危ないですぜ、中国のポチになっちゃいますぜ! なんてことを言う取り巻きもいたんでしょうね?
 ご隠居:最近は祖父を真似した髪型をしたり、父親はやらなかった演説をぶったり、金正恩も自立意識が芽生えてきたんだろう。独裁的な権限を強化するには上層部の解任、粛清は欠かせないんだよ。
 
 熊さん:あの軍事パレードを度々見せつけられちゃ、その気になっちゃいますもんね。
  
 ご隠居:さて、形としての独裁体制は強固になったようだが、これからは金正恩自身の力量が問われることになる。第二次大戦の末期の日本のように、自らの選んだ若い指導部の強硬路線に引きずられて、破滅の道へと行かなければいいが・・・。
 

運が悪いことから全てが始まった(64)貿易会社(22)

2013-12-13 04:15:51 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 ともかくその日はホテルに泊まって結果を待つことにした。
 
 シャワーを浴びてくつろいでいると電話が鳴った。
「明日荷揚げできることになったから」
 Y汽船のあの若い男からだ。
「えっ! ほんとうですか? ありがとうございました」
 ボクは電話に向かってただただ頭を下げるだけだった。

「というわけで、エコーサウンダーは明日無事陸揚げできることになりました!」
 意気揚々と会社に報告を入れた。
「ゴクロウサン! じゃあ、コンバンジュウに帰るように」
 まだ会社にいた山川課長は何でもないように応えた。
 
 ・・・今日中に? 新居浜の時と同じだ。やさしい言葉づかいの割に人使いが荒い。

「ヤッパリ、キミをハケンシテよかったよ。キミの大学のイリョクダナ!」
 
 翌朝、思いっきりふてくされてブスッとしているボクを前に、課長は笑顔で勘違いなことを言った。
 勘違いと言えば、この件を解決したのはY汽船のあの若い男ではなかった。
 夕刊に「神戸の沖仲士のスト解決」と小さく記事が載っていた。
 たまたまタイミングよくストが解決したに過ぎなかったのだ。

「司くん、今晩M造船のユシュツカチョウを接待するんだけど、キミ来るかね?」
 あいかわらずブスッとして仕事をしているボクに課長が声をかけてきた。

 ─続く─

 徳間書店のファッション誌「LARME」が即日完売、重版で定期化決定。
 その若き女編集長がNHKテレビの「サラメシ」に出ていた。
 

 編集の仕事は、時間とクオリティのせめぎ合い。
 握り飯をほうばりながら仕事する。
 食べるときはいつもひとり。
 「この!は全角でね!」
 一字一句、デザイン、色、すべてに細かくチェック。
 真剣勝負。最後は朝5時まで仕事。
 仕上がった翌日はタガが外れたように食べる食べる。
 麻婆豆腐にうなぎ・・・。
 ガス抜きはいろんなことを分かち合えるネールサロン経営者としゃべりながら食事。
 大半は自分のグチですけどね。
 
 そして1週間の食事をNHKがまとめてくれました。
 
  
 

運が悪いことから全てが始まった(63)貿易会社(21)

2013-12-12 04:25:19 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「ともかくそういうわけですからよろしくお願いします・・・」
 Y汽船の応接間で、現れた若い男にボクは深々と頭を下げた。
「沖仲士っていうのはやくざな連中なんですよ・・・」
 
 若い男はボクをバカにしたような目で見た。
「・・・」
「やつらを仕切っているのはY組だよ?」
「Y組?」
 
 その名を耳にするだけで震えがくるという暴力団Y組?
「あなた、交渉に行ってみますか?」

 一瞬、自分が行かなくてはならないのかと思ったが、・・・バカなことを考えるんじゃないよ。先輩の会長がいるY汽船にひたすらオネガイシナサイ!・・・と言っている山川課長の顔が浮かんだ。
「いえ、いえ私なんぞはとても・・・。そちらさまでよろしくおねがいします」
 ボクはひたすら平身低頭でその若い男に頭を下げた。
「一応お願いしてみるけど、どうなるかわかんないよ・・・」
 男はY組の一員みたいにそっくり返って応えた。

 ─続く─

 パリで一流テーラーの地位を獲得した鈴木健次郎氏。
 
「電車に乗ってもぼくのそばに人は寄ってこないんです。お店に行っても相手にされないし。いろいろと嫌がらせもされて・・・」
 修行時代は人種差別をいやというほど感じたそうだ。
 モデリスト養成学校AICPを主席で卒業、いろいろな店での修行を経て、超一流テーラー、スマルトに採用され、日本人初のチーフカッターに就任する。
 その間、なかなかカッターとして採用されない時期があった。
「キミのような外人がカッターをやっていると知ったらお客が来ないだろう」と言うのだ。
 そんな彼も9年後には独立。
 ・・・採寸、型紙づくり、裁断、仮縫い、縫製、仕上げまですべてやります・・・
 今では超一流の客を相手に活躍している。
 彼の考えるプロフェッショナルとは「自分の世界観を持って、実現に向けて努力する」だ。(NHKテレビより)