昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「ショック」(3)

2019-05-12 03:21:43 | 小説「ショック」
 「小説「ショック」

 これまでの2回、登場人物の名前と写真がゴチャゴチャで分かりにくい。
 ここに改めて書き直しをお許しください。

 舞台は公園である。
 賭け事に失敗したノブは、期待してくれた富豪の叔父ガイからも見放され、今や文無しでこの公園にやってきた。
 
 すると、さらに落ちぶれたスタイルの浮浪者が、何か書類を持ってノブに近づいてきた。
 
 「おれはいま、とても一人っきりじゃいられねえんだ。おっかなくて、おっかなくて・・・」と。
 「何がそんなにおっかねえんだい?」ノブは聞いた。
 「実は、おれはドーマというんだが、明日になれば3億円の財産相続人になるんだ。そういう書類をサライ弁護士事務所からもらったんだ」
 「けっこうなことじゃねえか」
 「これまでは明日の飯が食えるあてもねえのに、悠然とこの公園で暮らしていたのに、大金が入るとなると、こうやって十二時間待つってのがやりきれなくって・・・」

 「まあ、サンドイッチでも食って、落ち着きな」ノブは昔のなじみのホテルのバーから仕入れてきたサンドイッチを彼に食わした。
 
 「朝にならねえうちに、何かがおれの身に起こるような気がしておそろしくてならねえんだ・・・」
 ドーマはまだ震えていたが、腹が満ちたら落ち着いてきたようだ。
「今夜はあんたに世話になった。おれが復帰したら、お前の就職先も叔父に書かせるよ」
 調子のいいことも言えるようになった。

 翌朝、彼らはサライ弁護士事務所を訪れた。
 
 時間が近づくと、ドーマはますますひどくおののき始めた。
 サライ弁護士が出てきて、彼らを見た。
 「ドーマさん、昨夜あなたのご住所に二度目の手紙を出したのですが」と弁護士は言った。
「実はガイさん(富豪の叔父)はあなたへの財産相続人資格を取り消すことになったのです」
 するとドーマのふるえが急に止まった。
 
 顔色もまともになり、目も輝きを取り戻した。そしてせせら笑った。
「ガイじいさんに、おまえなんかくたばってしまえと言ってくれ」
 そう言うと、ドーマはしっかりとした足取りで事務所を出て行った。

「ノブさん、あなたはいいところへきてくれましたね」
「・・・?」
「叔父さんが短気を起こされて起こした今回の事件ですが、万事元通りということで・・・」

 
 「水を一杯もってきてくれ! ノブさんが気絶されたんだ」
 弁護士は大きな声で秘書を呼んだ。

 ─了─

  ・・・人の運って、何なんでしょうかね・・




小説「ショック」(1)

2019-05-10 11:29:38 | 小説「ショック」
 小説「ショック」      
 ・・・公園を個人用のアパートとして使ている浮浪者にも階級がある・・・
 
 これまでの貴族階級からなり下がった伸晃は、いずれそう思うことになる。
 公園に来てみると、若々しい五月が、芽をふきはじめた木々の間から昔の女学生のようにういういしく、ひんやりと息づいていた。
 
 いろいろと事業に、というより賭け事に手を出して、ついに文無しとなった彼は、今まで住んでいたアパートをこの朝、いさぎよく捨てて出てきたのだ。
 家具は借金のかたにとられてしまっていた。

 いまこうしてベンチに腰を下ろしている彼には、友達にでもたかるか、詐欺でもやらないかぎり、町じゅうどこにも、ベッド一つ、アジの塩焼き一匹、電車の切符一枚、ボタン穴にさすカーネーション一輪ありはしないのだ。そんなわけで彼は公園を選んだのである。
 それというのも、彼が叔父に勘当され、これまでたんまりもらっていた手当てが全然もらえなくなってしまったからなのだ。
 そしてそうなったのも、甥である伸晃が、あの娘のことで叔父の意見に従わなかったからなのだ。

 しかし断っておきたいのは、これからの話が、その娘のことではないことだ。
 ところで伸晃とは家系の違う別の甥がもう一人いた。
 かつて、この甥は未来の後継者として叔父の寵愛をうけていた。
 ところがこの男は、それほど長所もないし先行きの見込みもないところから、ずっと以前に落ちぶれて、どこかへ姿を消してしまっていた。

 伸晃はもう一度その男を探し出してきて、もとの位置にもどしてやろうという気になったのだ。
 そこで彼は、この小さな公園の、ぼろをまとった亡者どもの仲間入りをすることとなったのである。
 かたいベンチに腰を下ろしていた彼は、人生のあらゆる絆を一挙に断ち切ることができたので、むしろ、わくわくするような解放感を味わい、よろこびに胸が高まるのを覚えた。
 気球乗りが係留索を断ち切って気球を浮遊させたときの興奮そのままだった。
 
 
 ─ 続く ─