昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

スペイン旅行記23

2009-08-20 05:01:39 | スペイン旅行
 23.蛙女さん、ありがとう

 乗り継ぎのため、アムステルダム空港で通関チェックを受ける。
 空港を出ることのない単なるトランジットなので、普通問題ないはずだったが、元自衛隊員のデカ男がワインを没収された。
 
 

 ぼくたちはノーチェックだったが、彼だけ荷物を全開させられた。
「お酒というより、液体に神経を尖らしているのよ・・・」
「飛行機に乗る前は、乗り継ぎとはいえ、その都度危険物のチェックをするんだ」
「たぶん、彼の目つきが鋭いから目をつけられたんじゃない?」
「お酒が大好きな人だったのに、運が悪かったのよ。かわいそうね・・・」
 ぼくたちはうわさしあった。

 蛙女は懸命に係員に抗議したがワインは戻ってこなかった。
 空港内で買ったものだが、所定のシールが貼ってなかったから没収されたという。
 お酒を購入する時は「シールをはってあるかどうか確認しなさい」という注意の言葉は蛙女から事前になかった。
 しかし、今のぼくは彼女を非難する気にはならなかった。
 彼女に対するぼくの気持ちはすっかり変わっていた。

 成田行きの航空機はJALだった。
 JAL機の日本人キャビンアテンダントは優しい。

 

 JALのうすいブルーの紙コップの色のようだ。
 機内は空いていて、一人で十分二人分の席が確保できる。
 ウオーキングウーマンが三人席をひとりじめして横になっている。
 素足が魅力的だ。
 マンガのような顔で、のべつまくなしにしゃべっていた茨城弁のおばさんが、枯れてしまったようなうつろな表情で固まっている。
 エネルギーを失ったのか、それとも目覚めたときに備えて蓄えているのだろうか。

 ゆったりとした気分で十分寝ることができて、疲れも取れた。
 無事通関を終えて、蛙女に挨拶した。

 

「ありがとう・・・」
「お疲れさまでした・・・」
 にこにこと返す笑顔は、よく見ると目が大きくてなかなかかわいい。
 ・・・蛙女なんて言ってゴメンネ・・・
 ぼくは心の中でつぶやいた。

 ─了─

 長い間ご愛読ありがとうございました。
 次回からは小説「平取締役」を連載します。
 




スペイン旅行記22

2009-08-18 06:48:00 | スペイン旅行
 22.遅すぎた郵便投函

 

 朝食後、ホテルに隣接するチャマルティン駅の構内を歩き、郵便局を見つけ、留守宅への郵便を投函した。

 ミハスで蛙女に郵便局があるか聞いたとき、「今日は日曜日だから開いてませんよ」と素っ気なく言われた。
 毎日の記録を絵葉書に書いて送ることにしている。
 それまで投函する機会に恵まれず、ホテルでも受け付けてもらえなくて最終日まで持ち歩いてしまった。

 「駅の中に郵便局があるはずですよ・・・」
 昨日、蛙女がそばへわざわざ寄って来て言ってくれた。
 彼女は覚えていてくれていたのだ。

 だいたい初対面から彼女に対するぼくの印象はよくなかった。
 ・・・70を越えたこんな年寄りが、しかも足も悪そうだし、この長距離バスでしかも歩きの多いツアーに耐えられるかしら・・・
 その冷たい目つきから、彼女がぼくをそう見ていると勝手に思い込んでいた。

 ・・・ゴルフのキャディと同じだ・・・
 調子が悪くなって、手間がかかりそうになると、鼻もひっかけてくれない。
 ぼくは彼女に<蛙女>なんて失礼なあだ名をつけて憂さを晴らしていた。

 アルハンブラの上がり下がりの多い行程や、コルドバの長時間の徒歩観光などを文句を言わず、遅れることもなく、もくもくとツアー最年長の年寄りはこなしていった。
 すると、ツアーも最終段階を迎えるあたりからぼくに向ける彼女の目つきが優しくなった。
 そして昨日、初めて親しげに声をかけてくれた。

 そのひと言でぼくの彼女に対する気持ちがくるりと反転した。
  そんなぼくの一人がってな、子どもみたいな心の内が正直恥ずかしかった。

 

 もう我々の方が早く到着して手紙の役目は果たさないが、それでもやっぱり、郵便局の列に並んで投函した。
 そして何か清々しい気持ちになった。
 
 ─続く─ 


 

スペイン旅行記21

2009-08-16 07:44:11 | スペイン旅行
 21.セルフ食堂で最後の晩餐

 お昼はコシード・マドレーニョ、マドリード風豚の煮込み。
 スープが美味しい。
 
 

 午後はオプションでトレドを訪ねる。
 1493年に完成したスペイン・カトリックの総本山、カテドラル、そしてサント・トメ教会を徒歩で見学。
 高台から眺めるトレドの街並みは、まさにエル・グレコを魅了した古都だ。
 
 

 夕食はフリー。
 スペイン広場の近くに行けばいろいろなレストランがありますよ、と蛙女が列挙していたが、わざわざ出かけていくのも億劫なので聞いていなかった。

 ホテルの隣にFRESCOというセルフサービスレストランがあるのを見ていたのでそこにする。
 30人ぐらい入れるのではという大きなスペースに客が4,5人ぱらぱらと入っているだけだった。
 レストランというより食堂という雰囲気だ。

「あら、おたくも? そうよねえ、出かけるのも面倒だもんね・・・」
 ウチのと適当にたべものや飲み物を運んできてテーブルに置いたところで、神田の野村さちよ風オバサンとスポーツウーマンのカップルが寄ってきた。
「あなたたちもこちらへいらっしゃいよ」
 目ざとく、別なテーブルにいた熊本のひょろり夫婦にも声をかけて、さちよ風マダムは積極的だ。
 仲間がひとかたまりになって、みんなほっとした笑顔を交わした。

「みなさん、枕銭って、どうされています?」
 ひとしきり食べるものも食べて、ビールやコーヒーになったころを見計らって、ひょろり奥さんが話を切り出した。
「マクラセン? ああチップね。そんなもの置くわけないわよ・・・」
 さっそく、さちよ風マダムが反応した。
「ただね、ニューヨークで二泊したとき、いつものように置かなかったのよ。そしたら、ゴミは捨ててないし、コースターなんてぶん投げ状態なの。だから続けて泊まるときは仕方がないから百円相当ぐらい置くことにしたの。今回はここが初めての二泊だから置いたわよ・・・」

「ウチはイヌ飼っているから、旅行する時たいへんなのよね。だれかに頼まなきゃいけないから・・・」
 相方のペースになりそうだと懸念したのかどうか、スポーツウーマンが話題を変えた。
 するとやっぱり相方が反応してきた。
「ウチにもいっぴき大きなのがいるけど、自分で食べることが出来るから問題ないけどね・・・」
 そう混ぜ返すとかっかと大口を開けて笑う。
 放ってきた旦那のことだとみんなすぐ分かった。

「コルドバでしたっけ、オレンジがいっぱい成っていて、先生が関心を示していらっしゃいましたね?」 

 

 ぼくは、おとなしい生物教師ひょろり旦那に話を振った。
「メスキータとかユダヤ人街でもいっぱいぶら下がっていましたね」
 ウチのがフォローした。
「いや、あれはほとんど観賞用なんです。中には食べられるものもあります。へたのところで分かるんですが・・・」
 
 マドリードの繁華街で素晴らしいスペイン料理を賞味できなかったが、こんなセルフ食堂で大したものを食べたわけではないが、「楽しかった・・・」とみんな満足そうだった。

 ─続く─
 
 

スペイン旅行記20

2009-08-15 05:54:43 | スペイン旅行
 20.プラド美術館

 8時朝食。初めて松本のデカオッサンと同席。
 元自衛隊員とか、50代だろうか、いい体格をしている。
 一人旅だそうだ。
 朝からワインを飲んでいる。
 成田からの便で、黙々とビールを飲んでいた大きな背中を思い出した。
「今回の目的の一つでしたから・・・」
 午後のフリータイムにはレアルマドリードのサッカー競技場を見学に行くと言う。
 試合があるわけではないが、どうしても見たかったのだと言う。
 ぼくは希望者が募られた時、競技場を見るだけじゃ、と断っていた。

 午前中は標高600メートル、人口370万の首都マドリード市街を観光。
 気温6℃、晴れ、スペイン晴れとでもいうのだろうか、真青な澄んだ空、あまり寒さは感じない。
 高級ブティックの店が並ぶセラノ通り、アルカラ門を経てスペイン広場へ。
 スペイン広場というと、ローマを思い出すが、こちらが本場だ。

 

 作者のセルバンテスに見下ろされて、ドンキホーテが騎馬姿でサンチョ・パンサを従えて誇らしげだ。
 
 

 世界三大美術館の一つであるプラド美術館では二組に分かれて解説者付で観賞。
 エル・グレコの描く絵画像の特に細い手が印象的。

 

「普通の画家は手、特に指などに神経を使うのを嫌うんです。けっこう手間がかかるんです。その点グレコは指を入念に丁寧に描きました」
 ベテラン解説者Tさんの視点はユニークで興味深い。

 ベラスケスの<ラスメニーナス(女官たち)>、<プレダの開場>、ゴヤの<裸のマヤ>、<着衣のマヤ>、<カルロス4世の家族図>などなど、見るべき展示作品があまりにも多い。
 しかし、残念ながらお目当てのピカソの<ゲルニカ>は貸し出し中とかで見れなかった。

「どちらのご出身ですか?」
 美術館を出た所でウチのがTさんに語りかけている。
「滋賀県です」
「ああ、やっぱり・・・大阪弁とは違うな、イントネーションがって思ったんです。・・・わたし、彦根です」
「ぼくは安土です」
 意気投合して盛り上っている。

 ─続く─
 

スペイン旅行記19

2009-08-14 09:26:06 | スペイン旅行
 19.マドリード着

 19時半。さすがこの時間になると薄暗くなってきた。
 かすかに<京城酒家>と読み取れる今日の夕食所が見えてきた。
 今日は中華料理だ。

 

 福島のころころ夫婦と同席になる。
 二人とも小太りの体型で、あまり目立たないおとなしいタイプだ。
 何を話題にするか迷っていたら、顎鬚をはやした旦那のほうから話しかけてきた。
「実は、この指が曲がらないんですよ・・・」
 テーブルの下から左腕を引き出してきて見せた。
 ぼくの足が悪いことを気にしていたのだろうか。
「オートバイが趣味なんですが、事故っちゃって障害が残っちゃったんです」 
 一見むくつけき顔だが、目が優しい。
「さっき入って来た時、先に入っていた団体からハッピーニューイヤーって声かけられましたよね・・・」
 日本人のツアー客かと思ったら、香港からだと言っていた。
 そういえば今日は旧正月だ。

「どれも美味しいですね・・・」
「ほんと、やっぱり中華は口に合いますね」
 奥さんとウチのがにこにこと話し合っている。
 スープ、チャーハン、豚の角煮、はくさい、牛肉とたけのこ、マーボ豆腐、どれも美味しい。
 ホッとする味だ。

 夕食に満足した我々は、駅に隣接するウサ・チャマルカンホテルに入った。
 大きなホテルだ。

 

 4階の部屋に入ると、今まで長距離バスの連続で溜まった疲労がどっと出てきた。
 でも、あとここの二晩を残すだけでスペインともお別れだと思うと寂しくもある。

 どっこいしょ、と腰を上げてトイレを使おうとしたら水が出ない。
 早速蛙女に連絡すると、係りがやってきた。
 直りましたと言われたが、やはり水の出がよくない。
 ふたたび蛙女を煩わして、交渉してもらい8階の部屋に変更してもらった。

「やった、窓の外の眺めがばっちりじゃない・・・」
 喜んだのも束の間、隣の声は聞こえるし、上階から水の音まで聞こえる。
 シャワーヘッドも固定式だし、A級ホテルだと言われ期待していたのにがっかりだ。

 ─続く─

スペイン旅行記18

2009-08-13 06:02:35 | スペイン旅行
 18.コンスエグラの風車

「さあ、もうすぐコンスエグラです。風車が見えてきますよ・・・」
 蛙女の声に静かだったバスの車内がざわざわと動き出した。
 バスは静かな街並みを横目に丘を登り始めた。
「たぶん、我々のバスを見かけた風車の持ち主が慌てて、車ですっ飛んで行ったでしょう」
「・・・」
「風車って言ったって、今では粉なんか挽いていませんからね。中身はおみやげやですから、今ごろおやじが開店準備をしているでしょう」

 

 バスから降りると、白い小屋に黒い羽をつけた風車が5、6基丘の上に広がっている。
 中でも大きい風車の前でオヤジが仁王立ちになって叫んでいる。
「ミナサン、ヨウコソ、フウシャミテネ、オミヤゲモイロイロアルヨ・・・」
 日本語だ。
 
 オヤジの声に引っ張られるように1ユーロ払って風車の中の階段を上った。
 動いていない大きな石臼があるだけじゃないか。

 損した気分で降りていくと、オヤジが絵葉書やバッチなどの小物を並べて、群がっている日本のおばさんやおねえさん相手に商売している。
「モウカッタ。アナタハビジン。オオサカジンハケチネ・・・」
 オヤジは我々の観光バスを見てすっ飛んできたのだろう。
 日ごろは空家の風車で商売できて満足そうな顔をしていた。
 みんなの撮影要求にもニコニコと応じていた。
 
 

「お姑さん付きの村って言われているんですよ・・・」
 バスに乗り込んでから蛙女が村のことを説明していたら誰かが窓の外を見て叫んだ。
「あっ! お姑さんが歩いている・・・」
 大きな洗濯かごを下げたおばあさんがゆっくり歩いていた。
 
 見かけたのはこのおばあさんと、あのうるさいオジサンの二人だけの風化したような町を我々のバスは静かに通り抜けていった。
 風車は11基観光用に残されているが、いずれも本来の機能は果たしていない。

 マドリードまでの127キロの道中、丘の稜線に現代の風車が列を成していた。

 

 夕方だというのにまだ明るい。
 スペインの朝は遅いが、暮れるのも遅い。

 ─続く─

 


 

スペイン旅行記17

2009-08-11 05:42:21 | スペイン旅行
 17.牛の巨大看板

 コルドバの街を歩き疲れて、遅い食事はいかの墨煮。
 ビールが美味しい。
 
 

 神田の生きのいい野村さちよ風オバサンと色黒のスマートなスポーツウーマンのカップルと同席になる。
 歳は20歳以上離れているが親子ではないという。
「近所に住んでいるんだけど、タイプが違うから気があうのよ。だからこうして時々二人で旅行したりするの。お互いの旦那は放っておいてね・・・・」
 さちよ風オバサンは大口を開いてかっかと笑い飛ばす。
「こんなの食べたらお歯黒になっちゃうじゃないの」
 しかめっ面のオバサンに相方はニコニコと笑い返すだけ、寡黙だ。

 コルドバを発って、280キロ先のコンスエグラへ風車見学に。
 またバスだ。
 
 

 途中、真っ黒な牛や、ソンブレロを被ったビンの巨大看板をいくつも目にする。
「広告主はシェリー酒のメーカーなんですが、高速道路にお酒の広告はまずいでしょう!と政府の命令で会社名は外されちゃったんです・・・」
「もったいない投資をしたもんだ・・・」
 蛙女の説明にオジサンが反応する。

 

「もうすでに有名なメーカーだから、あの看板を見ればみんな分かるんです。・・・名前が付いてなくったってね。日本の麒麟みたいに」
 蛙女が混ぜ返す。

「キリンって言ったらキリンの川島くんよね?」
 三人組ギャルの一人が言った。

 

 ─続く─

スペイン旅行16

2009-08-09 06:43:37 | スペイン旅行
 16.石畳を闊歩するギャル三人組

 「あらっ!かわいい。似合ってるわ・・・」
 ミハスのエニェで買ったTシャツを着て朝食に行ったら、黒地に赤いハイヒールとシャボン玉が飛んでいるユニークな柄に目を留めたライオン女から声がかかった。

 バスでセビリアから139キロ先のコルドバに到着。
「これから花の小路などを約2時間徒歩で市内観光します。霧のような小雨が降っていて石畳は滑りやすいですから、くれぐれも歩きやすい履物でお願いします」
 蛙女からあらかじめ注意があった。
 バスを降りて川の辺を歩く。
 霧が濃い。20メートル先は見えない。

 ところが、ツアー最年少、ギャル三人組は忠告もものかわ、石畳にカツカツとハイヒールを響かせ颯爽と歩く。
 渋草色の皮ジャンに花柄の薄いスカートに黒タイツ。
 白のミニスカートに黒タイツ、黒の半コート、ハイヒールには飾り帯が付いている。
 もうひとりは黒の長いコートに赤いバッグが印象的。
 いずれもハイヒールだ。
 三人三様のスタイルでなかなか格好いい。
 
 

 そういえば、ミハスのスペイン一小さい闘牛場の前で、彼女らが一番人気の被写体だった。

 メスキータの前で今日の女性ガイドを迎え、蛙女がめずらしく緊張した面持ちで挨拶している。
 スペインのガイドを指導してもらった先生で、美智子妃や浩之宮のガイドをしたこともあるガイド業界の女ボス、イザベラですと紹介があった。
 ゆったりとした穏やかな顔つきの貫禄十分なマダムだ。

 

 彼女のガイドでメスキータの中を見学。
 785年、イスラム教のモスクとして建設され、その後、キリスト教が権力を握った13世紀前半から内部に礼拝堂やカテドラルが新設されたが、モスクに敬意を表して「円柱の森」などはそのまま残され、二つの宗教が同居する珍しい建築である。

 

 ここにも白壁にはさまれた細かい迷路のような路地が続くユダヤ人街があった。
 たくさんの花の小鉢を白壁に飾っていて、<花の小路>と呼ばれている。
 メスキータの尖塔が覗いている。

 セビリアのユダヤ人街にも同じ写真を間違えて掲載しました。お許し下さい。

 ─続く─
 
 
 
 
 

スペイン旅行15

2009-08-08 05:34:40 | スペイン旅行
 15.セビリアのフラメンコショー

 カテドラルを見た後、ユダヤ人街の軒を接するような狭い道を歩いた。

 

 スペインにもユダヤ人のゲットーが、時の為政者に一箇所に隔離されたのか、それとも華僑のように類を頼んで寄り集まったのか知らないが、中国人街が雑然とした中にも、明るく開放的で心が湧き上がるのに、ユダヤ人街を歩くと、花の小鉢が飾ってある清潔な白壁の家々からは人がざわめく気配もなく、気持ちが沈静していく。
 
 

 夜はエル・パラシオ・アンダルス劇場でフラメンコショー。
 かぶりつきは個人用で、我々団体客は少し下がった後方に位置取りされている。
 ぼくたちは団体席一番前の席を、ライオン夫婦と一緒にゲットした。
 今回はぼくが意識したわけでなく自然とそうなった。

「写真をいかがですか?」
 バニーガールのような格好をした若い女性のカメラマンに釣られてぼくたちは4人一緒に写真を撮ってもらった。
 
「自分は写真を撮られるのが嫌いなんです・・・」
 旦那が言った。
 彼が奥さんばかり撮っていた理由がやっと分かった。
 出来上がってきた写真を見ると、たしかに実物より悪く写っている。
 トカゲみたいな顔だ。
 彼は写真を受け取ると、奥さんがしっかり見終わらないうちにバッグの奥へしまってしまった。
 奥さんはいつものことだから、というようにちらっと写真を見ただけで、ぼくの方を向いて口元を少し歪めて笑った。

 ツナサラダに魚のスープ、ポークに野菜など食べながら、日劇ミュージックホールのような舞台で繰り広げられるフラメンコショーを観賞した。

 

「やっぱりフラメンコはジプシー女の飛び散る汗を受け、しゃがれたおやじの声の振動を感じながら観賞するものですね。・・・放浪するジプシー一家の今日も無事過ごせたという喜びの踊りですよ」
 昨夜のオプションのグラナダの洞窟のフラメンコの体験談を旦那は熱く語った。
 ・・・ぼくも行くべきだった。

 ─続く─
 

 

スペイン旅行記14

2009-08-06 06:19:03 | スペイン旅行
 14.セビリアの大聖堂とイケメン

 ミハスからさらにバスで230キロ走って、セビリアに到着。
 セビリアの案内人はイケメンのザビエル君。
 すらっとした長身で小顔、ブーツを履いて、腕に魔女が持つような大きな傘をかけている。
 まだ若い。30才そこそこだろうか。
 女性たちの目が生き生きしてきた。
 老いも若きも、彼と一緒に写真を撮ってもらおうとあたふたしている。

「さあ、観光を始めますよ・・・」
 ひとしきりそんな騒ぎを放置していた蛙女が大声を出した。
 
 

 先ずはセビリアの大聖堂、カテドラル。
 しかし、日曜日なの礼拝が行われていてで中へは入れない。
 
 「外観だけか・・・」
 みんなが正門を通り過ぎようとしたその時、日曜礼拝が終ったのか、正門が開いて、紳士淑女がぞろぞろと出てきた。
「入ろう、入ろう・・・」
 とつぜんザビエル君がみんなを手招きした。
「チャンス、チャンス・・・」
 蛙女も手を振って後押しした。



「ローマのサン・ピエトロ寺院、ロンドンのセント・ポール寺院に継いで世界で3番目の大きさを誇るカトリック寺院です・・・」
 中に入ると、ザビエル君は意気揚々と説明を始めた。
 みんなも彼の機転で思わぬ僥倖に恵まれたと、圧倒するようなカテドラルのゴシック建築について説明する彼を仰ぎ見た。

 終って、外へ出たとき、彼は顔見知りと思われる若い女性に目を見張ると、ひと目もはばからず抱擁した。
「あら、あら、・・・いいこと。彼女かしら・・・」
 おばさんたちが囁きあっている。
 彼女と別れて、晴々としているザビエル君にぼくは言ってやった。
「カテドラルを見ることができてぼくたちはラッキーだったけど、君も彼女に会えてラッキーだったね・・・」
 彼は破顔一笑した。

「ザビエル君に何て言ったの?」
 茨城のおばさんが寄って来てぼくに聞いた。
 ぼくも思わず笑顔になった。

 ─続く─