昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「レロレロ姫の警告」改定版(10)誕生(6)雨

2018-01-16 05:59:12 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 朝から雨が降っている。だんだんひどくなる。
 
 今日はママは会社を休んで、愛を連れて市役所へ手続きに行っている。
「こんな雨の中を自転車で行ったけど、愛はだいじょうぶかしら?」
 おばあさんが窓の外を見ながら言っている。       

 しばらくしてママから電話があった。
「えっ! なんですって? 愛のチューブが抜けちゃったの? どうして?」
 おばあさんの声が上ずっている。
「チューブを留めている絆創膏が雨に濡れて、愛がごしごししたもんだからはがれちゃって、おまけにチューブを引き抜いちゃったんだって・・・」
「チューブが外れちゃった?」
「一人じゃムリだから来てくれって。おじいさん、車出して!」
 
 おばあさんはおじいさんとママの家へ向かった。
 ママが馬乗りになって愛を押さえ込み、鼻にチューブを差し込んでいる。
 
 愛のほっぺがゆがんで、目の端から涙が溢れている。
 顔を左右に動かすものだからチューブがなかなか入らない。
 おばあさんも愛の頭を押さえて協力する。
 愛はますます泣き叫ぶ。
 ヒイヒイという声が大人たちの胸をえぐる。
 いつもは病院で手慣れた看護師が交換してくれるが、ママは今日が初めてだ。

「こんなことが起きるたびに病院へ行くわけにもいかないし・・・。わたしも出来るようにしておかなければ・・・」
「・・・」
「・・・」
「あら、血が付いちゃった。愛、ごめんね。もうちょっとだからね・・・」
 入れやすいようにチューブの先は少し尖っている。
 それを鼻から胃まで通すのだが、手加減が微妙なのだ。
 鼻孔の粘膜を傷つけてしまったかもしれない。
 ママは新しいチューブに変えて試みるが、なかなかスムースに入らない。

「この際、チューブなしでミルクを口から飲ませたらどうだろう・・・」
 見るに見かねておじいさんが横から口を出した。
「ダメ! 誤嚥したらどうするの! 肺炎になっちゃう・・・」
 ママが即座に拒否した。
「無責任なことを言わないで!」
 おばあさんもおじいさんを睨みつけた。

「ほんとうはそうしたいのはやまやまだけど・・・。もう一度やろう!」
 ママはおじいさんが信じられないほど強く、冷静に、泣き叫ぶわが子を押さえ込んだ。
「あ、入った・・・」
 別な鼻の孔にトライして3度目にようやく入った。
 
 ママの額に汗の玉が浮かんでいた。

 ─続く─
  



小説「レロレロ姫の警告」改定版(9)誕生(5)

2018-01-14 04:54:07 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 4月になってようやく愛の状態が安定し退院できることになった。
「あれ? 愛がいないよ。また検査かしら」
 おばあさんが眉をひそめた。
 いつもの病室をのぞいたら愛のベッドは空だ。
 玩具など、身の回りのものも見当たらない。

 ナース室に行ったら、そこに愛はいた。
 看護師さんに囲まれて、順繰りに抱きしめられニッと笑っている。
 ママもおじいさんもおばあさんも幸せいっぱいの顏になった。
 ママの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「愛ちゃんは頑張ったものね・・・」
 5,6人もの看護師さんが集まってきた。
 

「本当なら、ママが付きっきりで愛の世話をしなければならないところよ・・・」
「そうなんだけど、家を買ったばかりで、パパのお給料だけではとてもローンを払いきれないの。いつまでも会社を休むわけにもいかないし。おかあさんご協力よろしくお願い致します」
 というわけで、愛はおじいさんのマンションに預けられることになった。
 
 リース会社から大きな柵付きのベッドを借りて、おばあさんが面倒を見ることになった。
 まだひ弱い愛を一般の託児所に預けるのはムリだった。

「ひよこがね、・・・」
 おばあさんは歌が上手だ。
 歌うと愛はおばあさんの顔をじっと見ている。
「よいしょ、よいしょ、芋ほりよいしょ・・・」
 
 ご本をよんでもらうのもとても好きだ。
 たまにニーッと笑う。

 しかし、まだ歩けないし言葉も出ない。
 時間が来ると。ベッドに寝かして点滴装置で鼻に注入してあるチューブから栄養液を注入する。
 
 たまに哺乳瓶でミルクを口から飲ます訓練をしたり、ウエハースをしゃぶらせたりしてみるが、咳き込んだりしてはかばかしくはいかない。

 ─続く─
         




 

小説「レロレロ姫の警告」改定版(8)誕生(4)

2018-01-12 06:53:05 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 「もう、これしかないだろう。愛だ!」
 あかちゃんの名前はパパのこの一言で決まった。

 32歳を過ぎて初めて授かった待望のあかちゃんは、パパにとって「愛こそ命」だった。
 生まれた病院を2週間ほどで退院して自宅でしばらくパパとママと一緒に過ごした。
 しかし、しょっちゅう熱を出すし、夜は無呼吸になってチアノーゼになるし、危険な状態も度々だったので、院長先生から紹介された小児科専門病院に入院することになった。
 ここでは経管栄養のための管だけではなく、頭から検査のための線がいっぱい取り付けられ、愛は恐怖で泣きづめだった。
 

 ベッドから転げ落ちる恐れがあるということで、檻のような柵の中に入れられていた。
 お見舞いに行ったおじいさんとおばあさんが思わず涙ぐんでしまうほどだった。
 パパやママが愛をすぐこの病院に入院させなかったのはこんなことになるのを恐れていたのかもしれない。
 
 最初のうちはママが会社を休んで付き添う必要があった。

 3か月ほど経過して状態が安定したので一度自宅に戻ったことがあった。
「自宅にいる間だって、経管栄養のためのリンゲル装置や、無呼吸対策の酸素ボンベ付きだもんね・・・。ひと晩でまた病院に戻っちゃったわよ」
 お見舞いに行ってきたおばあさんがおじいさんに言った。

「プチあーちゃんはどうしているかしら? 今日は時間が出来たからおじいさんも一緒に病院に行かない?」
 おばあさんはテレビのカワイイあかちゃんに目をとめて、きょうもおじいさんに声をかけた。
「おととい行ったばかりじゃないか・・・」
 カワイイ赤ちゃんばかりでなく、おばあさんは何にでも愛に結びつけようとする。
「ねえ、この仏様の横顔を見てごらん! 何か愛の横顔に似ていると思わない?」
 先日も奈良のお寺巡りのテレビ番組で、薬師寺金堂の薬師如来三像の一つ、月光菩薩に目をとめておばあさんがおじいさんの肩をたたいた。

 
「そう言えば、ふっくらとした頬がそっくりだな・・・。愛は仏様の生まれ変わりかもしれんぞ・・・」
 おじいさんも思わずうなずいてしまった。
 以前に比べればこのところふっくらとしてきた愛の写真を見ながら、ママはおばあさんとふたりで言い合っている。
「かわいいね。他の人が見てもカワイイヨね。親ばかじゃないよね・・・」
    
 ─続く─






小説「レロレロ姫の警告」改定版(7)誕生(3)

2018-01-10 04:52:48 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
「わざわざお呼び立てして申し訳ありません。お子さんの今後に関わることなので、関係するみなさんに聞いていただいた方がいいと思いまして・・・」
 温和な顔の院長は眉毛を下げ、ちょっと頭を下げた。
「お子さんははっきりとしたことは検査してみないと分かりませんが・・・」
 そう言って言葉を切った。
「症状、外観から特定の病名を設定することもできるのですが・・・、遺伝子の異常があるかもしれません。・・・詳しいことは染色体分析や遺伝子学的検査が必要となりますので、その上で・・・」と病院長はまた言葉を濁ませた。
「・・・」
「・・・」
 遺伝子の異常などという言葉を聞いては、誰だってひと言も言葉を発することなどできない。
  
「現状では、気道と食道へのルートを分ける咽頭蓋に異常があるので、自力でおっぱいやミルクが飲めない状態です。とりあえず経管栄養摂取が必要になります」
「・・・」
 
「人によって差がありますが、成長が著しく遅れる場合があります」
「・・・」
「呼吸器感染を繰り返す恐れがあるので、しばらくは入院した方がいいでしょうね」
「・・・」
「近くに子どもの特殊な病気に対する専門病院がありますので、そちらにお願いするのがいいでしょう」

 いずれにしてもこのあかちゃんは普通ではないという事実がみんなの心に重くのしかかった。
 院長室を辞した4人は集中治療室へ寄って、あかちゃんを改めて眺めた。
「このあかちゃんに見つめられると、何かを訴えられているようで、ドキッとするんですよ。そう思いません?」
 とつぜん背後から若くて明るい看護師が近づいてきて、4人の沈んだ気持ちを吹き飛ばすように言った。

 ・・・たしかに、人の心を見通すような澄んだ瞳をしている・・・
 
 看護師さんの言う通りだとおじいさんは思った。


 ─続く─


小説「レロレロ姫の警告」改定版(6)誕生(2)

2018-01-09 07:17:14 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 翌日、おじいさんとおばあさんが病院に行くと、あかちゃんは未熟児のための集中治療室に、他の赤ちゃんと一緒に保育器に入れられていた。
 
 窓の外から眺めると、ひときわ手足が細くてたよりない。
「あらまあ、管をいっぱい付けられて、だいじょうぶかしら・・・」
 おばあさんが心配そうにのぞき込んで言った。
「呼吸も弱いし、おっぱいも自力で吸えないし、しばらくは保育器のお世話にならないといけないみたい・・・」
 まだ病室にいるママに訊くと、普通のあかちゃんとかなり違うようだ。

「なに、最近の医療は進んでいるから、虚弱に生まれてもすぐ追いつくさ・・・」
 おじいさんは楽観的なことを言っていたが・・・。
 その一週間後、
「おじいさんも一緒に院長先生のお話を聞いてほしいんですって・・・」
 おばあさんから言われておじいさんも一緒に病院へ向かった。
「なんで私たちも呼ばれたのかしら? 電話してきた勝さんの声が上ずって変だったの・・・」
 
 勝さんというのはあかちゃんのパパのことだ。

 ・・・明らかにあかちゃんは異常な状態なのだ・・・
 おじいさんの中に葛藤が生じていた。
「すいません。お呼び立てして・・・。先生が身近な方にも聞いてもらう方がいいからと、おっしゃるものですから」
 ママもパパの後ろで申し訳なさそうに頭を下げている。
 看護師さんに従って院長室に入ると、4人は肩を寄せるようにして、椅子をがたがた言わせながら座り、何か書き物をしている院長先生の後ろ姿を見つめた。
 
 院長先生は、回転いすをぎしっと言わせて向きを変えると、ちょっとおでこに手を当てて一瞬顔を引き締めると、憂いを帯びた目をした。

 ─続く─  
         
 「もう終わりにしよう!」
 
 ゴールデングラブ賞、ハリウッドのセクハラにブラックで抗議!
 



小説「レロレロ姫の警告」改定版(5)誕生(1)

2018-01-08 06:49:12 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 あの子が生まれたのは、東京の西北に位置する五日街道沿いの産婦人科病院だった。
 今から10年前の3月11日、風が時々強く吹いて病院の裏手の竹藪がざわざわと音を立てている、春まだ浅くうすら寒い日だった。
 
 
「もうすぐ生まれそうよ・・・」
 前日、夜遅く、おばあさんから連絡を受けたおじいさんは車で病院へ向かった。
 正面玄関は閉じられていたので裏門に回った。
 呼び鈴が目に入った。
 
 下に「御用の方はこのボタンを押してください」というメモが貼ってあった。
 押し続けるが応答がない。
 腕時計を見ると10時をまわっている。

 とつぜん、「ハイ・・・」という太い声が目の前の箱の網目から飛び出してきた。
「孫が生まれるということで・・・」
 おじいさんは訪問の目的を告げた。
「あっ、石田さんとこのね・・・」
 しばらくするとドアが押し開けられて中年の男が眠そうな顔を覗かせた。
「そこの階段を上がると、待合の席があるからそこで呼ばれるまでお待ちください」
 それだけ言うと、もう自分の用は終わったとばかり、右手の奥へその男は背中を見せてさっさと消えていった。

 二階に上がると、しーんと静まり返った廊下の片隅のベンチにおばあさんがひとりぽつんと座っていた。
「一時間以上待っているのにまだ生まれないのよ・・・」
 おばあさんの声には疲労がにじんでいた。
 おじいさんはそっとおばあさんの横に座った。

 「おかしいのよ。看護婦さんが何回も出たり入ったりしていて、もう生まれてもいい頃なのに・・・」
 「・・・」
「出てきたくないのかねなんて言ってるの。ちょっと心配ね・・・」
「じゃあ、また改めて、なんてことになるんじゃないのかな。明日とか・・・」
 おじいさんがおばあさんの不安を打ち消すように言った言葉が天井に低くひびいた。
「そんなわけないわよ。さっき男の先生が入って行ったからもうすぐかもよ・・・」
 おばあさんが口を尖らせた。

 それからまた一時間以上が経過した。
 もう二人には新しい命の誕生を待ち望む気持ちも消え失せようとしていた時だった。
 分娩室の中からあわただしい物音が聞こえてきた。
 
「いよいよよ!」
 おばあさんが腰を浮かせた。
 おじいさんも一緒に分娩室のドアの前にたたずんだ。
「ミャー、ミャー」
 かすかな泣き声が聞こえた。
「生まれたみたい・・・」
 ふたりは顔を見合わせた。

 それから何分かいらいらさせる時間が経過したが、とつぜんドアがさっと開いて、ミニガウンの若い女性の看護師さんが出て来た。
「おかあさん似かしら・・・。鼻筋の通ったかわいい女の子ですよ。母子ともにご健全です。どうぞお入りください・・・」
 なるほど、ママに抱かれたあかちゃんは、口もともかわいく、目も切れ長で、頭髪も黒々としている。
 
「いやあ、へその緒をつけてころっと出て来たときは感動して思わず涙が出ました」
 最初いやがっていたのに看護師さんの強引な勧めで出産に立ち会ったという、からだの大きなパパがそんなに大きくない目をいっぱいに見開いて顔を赤くしている。
 
「よかったね、よかったね・・・」
 おばあさんとパパが手を取り合わんばかりに興奮している。
 何十億何千万人目の新しい命が誕生したのだ。
「おめでたいことだ。これで日本も安泰じゃ・・・」
 日ごろ少子化を憂いているおじいさんが腕を腰に当てて、からだを反らせて言った。
「何それ! おとうさん、・・・もうおじいちゃんか・・・。おじいちゃんは大げさなんだから」
 ベッドの上で新しい命を抱いたママが顔をほころばせてあかちゃんに語りかけている。

「でもね、ちょっと泣き声がか弱いんだよね・・・」
 みんなの興奮が収まったところでパパがちょっと心配そうな言い方をした。
「だって、長いこと頑張ったから疲れちゃったんだよね・・・」
 おばあさんがあかちゃんの顔に覆いかぶさるようにして言った。

 ─続く─  
  
 昨日は三鷹三田会の幹事会でした。
 
 事前に東工大生の<早慶戦>に関する卒論のためのインタビューを受けたということで、その時銀座での祝賀パレードに使用した貴重な提灯をご披露頂きました。
 なお、朝日新聞の<みちものがたり>ランキングで日吉キャンパスの銀杏並木が第一位に輝いてことを、A.Tさんからお聞きしましたのでこれもここにご披露申し上げます。
 



小説「レロレロ姫の警告」改定版(4)変身(4)

2018-01-07 04:08:55 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
「愛!」
「愛がいない。愛はどこ?」
 二人は立ち上がり、竹藪の中で必死に叫んでいる。

「パパ、ママ!」
 わたしは竹藪の外へ出て二人に声をかけ、彼らがあたふたと竹藪の中から出て来るのを見ていた。
「愛、愛!」
 パパが出て来るなりわたしをきつく抱きしめた。
「だいじょうぶ? 愛?」
 ママが泣きそうな顔をしている。

 
「だいじょうぶ? 見れば分かるでしょう!」
 わたしは二人を見すえて言った。
「愛がしゃべった!」
 パパがわたしから手を離し、驚いた顔で言った。
「いつもと、違う! ・・・なんかしゃきっとしている!」
 ママが声をとぎらせて目を見開きつぶやいた。
「目つきも違う。たれ目がすきっと目じりが上がっている!」
 いつも細いパパの目が丸く見開いて大きくなった。
 パパもママも天地が引っくり返ったように驚いた顔だ。
 むしろ化け物を見ている顔だ。

「何を驚いているの? 今まで通りじゃない」
 
 わたしは彼らには今まで通りではないことを承知の上で言ってみた。
「そんな・・・。今まではパパとママの他はレロレロしか言わなかったのに・・・」
 パパが呻くように言った。
「いいえ、パパもママもレロレロの中身を聞き取れていなかっただけなのよ。今の地震のショックで聞き取れるようになったのかな?」
 わたしは、しれっと言ってやった。

「地震のショック? そうか、そう言えば得体のしれない稲妻も光ったな。それによって愛の脳の中枢神経が刺激されて正常に動き出したのか・・・」
 パパはまだ興奮冷めやらない赤い顔で、独自の判断をしている。
「その刺激によって、正常に戻ったのね・・・」
 ママも納得して頷いている。

 ─続く─

 「今度はコミックにしたらいいかもね・・・」
 先輩から言われたが・・・。
  




小説「レロレロ姫の警告」改定版」(3)変身(3)

2018-01-06 06:15:47 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 ・・・今日は金曜日だからパパもママも出勤日で、本来なら会社に行っているはずだし、わたしも特別支援学校に行っているか、おじいさんの家でおばあさんのお世話になっているはずなのにいったい3人でどこへ向かおうとしているのかしら?・・・
 ・・・ああそうか、今日はわたしの誕生日だからパパとママはわざわざ会社を休んでわたしのためにサプライズを考えているのかもしれない・・・
 
 だいたいうちは共働きだから休日は朝寝をする。だから、10時過ぎに朝昼兼用となる。
「おっ! ここはつけ麺が美味しいので評判らしい。行ってみよう」
 
 パパはネットで次々と新しいお食事処を開拓するのが得意だ。
 ・・・わたしの大好きな<ちゅるちゅる>のお店かもしれない・・・
 なんて思っていたら、突然、脳の中枢神経に強烈な刺激を感じた。
 ・・・ひょっとしたら・・・
 
 わたしはあわててパパのシートに蹴りを入れた。
 
 何回も入れた。
「パパ、愛がおかしいわよ! 車を止めて!」
 ママが後部座席のわたしを見て叫んだ。
「何だよ、なんだよ・・・」
 パパは車を路肩に停めて、外へ出てわたしのドアを開けた。
「おしっこかしら? そんなのお知らせしたことがないのに・・・」
 ママも外へ出た。
 パパがわたしのシートベルトを外し、抱えて外に出た途端に、地面が強烈に揺れた。

「地震だ!」
 パパはあわてて揺れる車からわたしを遠ざけた。
 わたしはパパの手をすり抜けると、ひょこひょこといつものペンギン歩きだったけれど、わたしなりに一生懸命目指す竹藪めがけて走った。
「ここって、愛が生まれた病院じゃない! 愛!どこへ行くの!」
 ママが絶叫した。
 パパがあわててつまづいた。
「パパ、だいじょうぶ?」
 ママがパパに気を取られている間に、わたしは病院の裏手に密生している竹藪の中へ入って行った。

「愛! 待ちなさい!」
「愛! どうしたの? 待ちなさい!」
 二人でわたしを追って竹藪に入ってきた時、また地面も竹藪も揺れた。

 ・・・これよりミッション電磁波を送る・・・
 無機質な声がわたしの脳に飛び込んできた。
 その時、空は晴れているのに稲妻が走った!
 
「きゃーっ!」
 パパとママが光を遮るように手をかざし、竹藪の中で二人とも腰砕けになって坐りこむのが見えた。

 ─続く─
  
 昨日、茨城と富山で同時に地震が発生した。
 
 今日も二か所
 
 
 
 今年は地球自転速度の変化により、世界各地で大地震が頻発する可能性が高いという。

        




小説「レロレロ姫の警告」改定版(2)変身(2)

2018-01-05 06:48:58 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 しかたがないから、今日もされるままにベルトで縛られて身動きできない状態で窓の外を眺めていた。
 
 とつぜん、排気パイプを両側に二本づつ付けた大型バイクが車の前を斜めにするするっと横切った。
 パパがあわてて急ブレーキを踏んだものだから、私は思わずのけぞった。
「バッキャロ! 危ないじゃないか!」
 パパがいつものわたしに対するのとは別な人格を丸出しにして怒鳴った。
 おかしな頭でっかちな仮面が後ろを振り返り、無機質な面から覗いた生きた目がニヤリとすると、ひとをバカにするようにバイクのお尻を振って走り去っていった。

「ザケンジャネエヨ!」
 我慢しきれないようにいつもとは別のパパが唸った。
「カッカしないの!」
 ママが宥めている。
 ・・・いつだったか、甲州街道でやはりお尻を振って走っていたバイクが、目の前ですっ転んで、あやうくパパの車が轢きそうになって冷や汗をかいたことがあった・・・
 
 ・・・なんで人はこんな挑発的な行動をするんだろう・・・
 ・・・自分の能力を超えた武器を手に入れると、余計な邪心が生まれるんだ・・・

「もたもたしてんじゃねえよ!」
 パパが車をスローダウンさせたら、今度は運転席の窓をわざわざ開けてキツネみたいな顔をした若い男が捨てぜりふを投げて、スポーツタイプの外車が走り去っていった。
 

 ・・・いったいみんな何をあくせくと急いでいるのかしら? 競争するように走るから気が立って、イライラして怒鳴りたくなるんじゃない? そして事故につながる・・・
 ・・・競争するなら専用のレーシングサーキットというのがあるんでしょう? そこでやればいいのに・・・
 
 ・・・ルールに則って、それが欲望を押さえきれない人間の知恵と言うもんじゃない?・・・
 ・・・普通の道路で競争なんかしないでほしいわ・・・

「最近の若い奴らはマナーがなってない!」
 パパが急にアクセルを踏み込んだ。
 パパの気持ちはまだ収まっていないようだ。
「ゆっくり行きましょう・・・」
 ママがいつものようにゆっくり、ふんわりと言った。

 ─続く─        

 北朝鮮問題、最悪の事態回避へ動く。

 ・・・五輪中の演習は見送りで韓米合意・・・
 
 ・・・板門店チャンネル再開・・・
 
 



小説「レロレロ姫の警告」改定版

2018-01-04 06:10:37 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
 「身勝手な人類は自然界の癌よ!」
 
 3年前、自然界からの目線で「レロレロ姫の警告」という本を出版させていただいた。
 しかるに、人類の身勝手さは留まるところをしらない。
 ここに改めて内容を精査し、加筆し、グレードアップする必要を感じた次第です。
 皆さまの率直なご批判を賜ればと思います。      


 「レロレロ姫の警告・改訂版」
 
 (1)変身

 わたしが生まれてちょうど10年目の、3月11日の午後2時半を過ぎたころ、パパの車でママも一緒に五日市街道を走っていた。
 いつものように後部座席にベルトで縛り付けられて・・・。
 
 最初の内はこうされることが理解できなかった。
 赤ちゃんの時は揺れに対応できないからチャイルドシートなるものにはめ込まれて身動きできないのもやむを得ないと思うけれど、10歳にもなってスイカじゃあるまいし、いくら動きの鈍い私だって少々の動きに座席から落ちないように対応できるわよと、いやがってもがいていたら、「ほら、じっとしていなさい! 急停車したら反動でシートから転げ落ちるでしょう! 特にあなたは普通の子じゃないんだから・・・」
 ・・・普通の子と違う・・・
 この言葉はわたしの自尊心をいちばん傷つける。
 
 たしかにわたしは10歳になっても、歩きはペンギンみたいによちよち歩きだし、言葉だって満足にしゃべれない。
 ・・・レロレロ・・・と口がもつれたような言葉を発するだけだ。
 まだオムツをしているし、見かけからすれば普通の子の2歳にも劣るぐらいの重度の障碍者だ。
 でも、自尊心は成長しているのだ。
 その思いを言葉で表現できないことにイライラする。
 ・・・言葉が使えないということは、人間として認められず、犬や猫並みにしか扱われない・・・
 
 
「もし衝突事故に遭ったりしたら、フロントガラスを突き破って外に放り出されて死んじゃうんだから」
 なんて言いながらママはわたしをむりやりベルトで縛り付けちゃう。
「あなただけじゃなくて、ママもパパも車に乗るときはシートベルトをすることが法律で定められているんだから・・・」
 ・・・だったら、そんなにスピードを出さなければいいじゃない。ゆっくり走ればわたしだって転がり落ちたり外へ放り出されたりすることもないでしょう。むしろ法律で定めるなら、車のスピードを低く抑えるべきなんじゃないの?・・・
 
 わたしはそう言ったつもりだったのに、ママには・・・レロレロ・・・だけしか聞こえなかったみたい。
「いつものことだけど、レロレロしか言わないんだから・・・」とぶつぶつ言っただけだった。

 ─続く─