朝から雨が降っている。だんだんひどくなる。
今日はママは会社を休んで、愛を連れて市役所へ手続きに行っている。
「こんな雨の中を自転車で行ったけど、愛はだいじょうぶかしら?」
おばあさんが窓の外を見ながら言っている。
しばらくしてママから電話があった。
「えっ! なんですって? 愛のチューブが抜けちゃったの? どうして?」
おばあさんの声が上ずっている。
「チューブを留めている絆創膏が雨に濡れて、愛がごしごししたもんだからはがれちゃって、おまけにチューブを引き抜いちゃったんだって・・・」
「チューブが外れちゃった?」
「一人じゃムリだから来てくれって。おじいさん、車出して!」
おばあさんはおじいさんとママの家へ向かった。
ママが馬乗りになって愛を押さえ込み、鼻にチューブを差し込んでいる。
愛のほっぺがゆがんで、目の端から涙が溢れている。
顔を左右に動かすものだからチューブがなかなか入らない。
おばあさんも愛の頭を押さえて協力する。
愛はますます泣き叫ぶ。
ヒイヒイという声が大人たちの胸をえぐる。
いつもは病院で手慣れた看護師が交換してくれるが、ママは今日が初めてだ。
「こんなことが起きるたびに病院へ行くわけにもいかないし・・・。わたしも出来るようにしておかなければ・・・」
「・・・」
「・・・」
「あら、血が付いちゃった。愛、ごめんね。もうちょっとだからね・・・」
入れやすいようにチューブの先は少し尖っている。
それを鼻から胃まで通すのだが、手加減が微妙なのだ。
鼻孔の粘膜を傷つけてしまったかもしれない。
ママは新しいチューブに変えて試みるが、なかなかスムースに入らない。
「この際、チューブなしでミルクを口から飲ませたらどうだろう・・・」
見るに見かねておじいさんが横から口を出した。
「ダメ! 誤嚥したらどうするの! 肺炎になっちゃう・・・」
ママが即座に拒否した。
「無責任なことを言わないで!」
おばあさんもおじいさんを睨みつけた。
「ほんとうはそうしたいのはやまやまだけど・・・。もう一度やろう!」
ママはおじいさんが信じられないほど強く、冷静に、泣き叫ぶわが子を押さえ込んだ。
「あ、入った・・・」
別な鼻の孔にトライして3度目にようやく入った。
ママの額に汗の玉が浮かんでいた。
─続く─
今日はママは会社を休んで、愛を連れて市役所へ手続きに行っている。
「こんな雨の中を自転車で行ったけど、愛はだいじょうぶかしら?」
おばあさんが窓の外を見ながら言っている。
しばらくしてママから電話があった。
「えっ! なんですって? 愛のチューブが抜けちゃったの? どうして?」
おばあさんの声が上ずっている。
「チューブを留めている絆創膏が雨に濡れて、愛がごしごししたもんだからはがれちゃって、おまけにチューブを引き抜いちゃったんだって・・・」
「チューブが外れちゃった?」
「一人じゃムリだから来てくれって。おじいさん、車出して!」
おばあさんはおじいさんとママの家へ向かった。
ママが馬乗りになって愛を押さえ込み、鼻にチューブを差し込んでいる。
愛のほっぺがゆがんで、目の端から涙が溢れている。
顔を左右に動かすものだからチューブがなかなか入らない。
おばあさんも愛の頭を押さえて協力する。
愛はますます泣き叫ぶ。
ヒイヒイという声が大人たちの胸をえぐる。
いつもは病院で手慣れた看護師が交換してくれるが、ママは今日が初めてだ。
「こんなことが起きるたびに病院へ行くわけにもいかないし・・・。わたしも出来るようにしておかなければ・・・」
「・・・」
「・・・」
「あら、血が付いちゃった。愛、ごめんね。もうちょっとだからね・・・」
入れやすいようにチューブの先は少し尖っている。
それを鼻から胃まで通すのだが、手加減が微妙なのだ。
鼻孔の粘膜を傷つけてしまったかもしれない。
ママは新しいチューブに変えて試みるが、なかなかスムースに入らない。
「この際、チューブなしでミルクを口から飲ませたらどうだろう・・・」
見るに見かねておじいさんが横から口を出した。
「ダメ! 誤嚥したらどうするの! 肺炎になっちゃう・・・」
ママが即座に拒否した。
「無責任なことを言わないで!」
おばあさんもおじいさんを睨みつけた。
「ほんとうはそうしたいのはやまやまだけど・・・。もう一度やろう!」
ママはおじいさんが信じられないほど強く、冷静に、泣き叫ぶわが子を押さえ込んだ。
「あ、入った・・・」
別な鼻の孔にトライして3度目にようやく入った。
ママの額に汗の玉が浮かんでいた。
─続く─