昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

悪いことから全てが始まった(62)貿易会社(20)

2013-12-11 05:58:34 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「エコーサウンダーが神戸で荷揚げできないんだって!」
 いつもボクの前では余裕たっぷりの永野が、両腕を机に突っ張らせて声も上ずっている。
「神戸に着いたって知らせはあったよね?」
 ボクは冷静に訊き返した。
「もたもたしていると、広船のタンカーの進水式に間に合わなくなるわよ!」
 永野の眉が吊り上った。
 
 エコウサウンダーは船底に装着するので、進水式の前に片づけておかなければならない。
 進水式に支障をきたすとなったら一大事だ。
「ステベがストをやってるんだ」
 山川課長が口を挟んだ。
「ステベがスト?」
 どうも課長の話は変な日本語の上に英語が混じるからよく分からない。
「ステベは沖仲士のことよ。神戸の沖仲士がストをやっていて、エコーサウンダーは沖に着いているんだけど荷揚げができないのよ」
 
 永野の説明で状況は把握できた。

「どうすればいいんですか?」
 課長に訊ねた。
「ともかくキミは神戸のY汽船に飛んでくれ」
 
 課長は何でもないような顔で言った。
 ・・・え? 今度は神戸かよ・・・
 新居浜のことを思い出した。
「ステベを管理しているY汽船に行って、マズジョウキョウヲキキダス。もしストが長引くようだったら、モノのトクシュセイを説明して、コトはコクエキにかかわるとか言って、なんとかエコーサウンダーだけでも陸揚げできるようにステベにコウショウしてもらいなさい!」
「ボクがですか?」
「Y汽船の会長はキミの大学の先輩だよ! なんでもハーバードも出てるラシイヨ・・・」
 課長はうっとりした目を宙に浮かべた。
 ・・・そんなこと関係ないだろう。永野も苦笑いしてるじゃないか・・・
「トモカク、至急トンデクレ!」

 ─続く─

 チェコのプラハで開かれたワールドユース囲碁選手権で、関航太郎くん(11才)が日本人として初めて優勝した。
 今まで中国と韓国の選手に独占されていたのだ。
 ここで優勝した選手は例外なく囲碁界で活躍しているという。
 中国と韓国に牛耳られている囲碁国際戦の壁に風穴が開けられるかもしれない。
 関くんの不敵な面構え。
 
 優勝戦では勝利を確信した彼は立ち上がり、屈辱的な顔で盤面を見つめる中国選手を見下し、扇子で顔を扇いでいた。
 日本囲碁界に待望の若者が誕生した。