昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

運が悪いことから全てが始まった(65)貿易会社(23)

2013-12-15 05:17:15 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「電話よ!」
 エコーサウンダー事件も無事解決して三日後、永野から電話を渡された。
「どこから?」
 彼女は返事しないでぷいっと横を向いた。
「司さん?」
 聞いたことのない女性の声だ。

「どちらさまでしょうか?」
 不機嫌な顔でタイプを打つ永野の顔を窺いながら訊いた。
 
「あら、ダルタニアンの幸子よ」
 思い出した。少し東北訛りがある。
 M造船の松島輸出課長の接待で、山川課長に連れて行ってもらったとき知り合った。
 
 場違いな高級クラブで腰が落ち着かなかったボクのとなりに座った女性だ。

「わたしまだ入ったばかりなの。よろしく・・・」
 松島課長を中心にやり手ママたち、ベテラン美人軍団に囲まれて盛り上がっている<おとな>たちの片隅でボクたちはこそこそと話し合った。
 
「内緒なんだけど、わたしまだ19才なの。来月の3日がお誕生日でやっとはたち・・・」
「へえ、そうなんだ。ボクも会社に入ったばかりの新米で、こきつかわれているんだ・・・」
「じゃあ、新米同士なんだ!」
 彼女はそっとボクの手を握った。
 ボクは舞い上がって、・・・お祝いしなきゃね・・・なんて言ったかもしれない。

 しかし、今はまずい。
 急ぎの仕事を永野と分け合って作業中なのだ。
「今、急ぎの仕事があって出れないんだ・・・」
 永野を意識してぼそぼそと小さな声で言った。
「う~ん、いいの。近くまで来たついでだからお電話してみたの。またお店の方へいらっしゃってね」
 彼女の声にはなんのわだかまりもなかった。

 ─続く─

 先月の27日、向井千瑛五段が謝依旻女流三冠王から女流本因坊を3対2で奪取した。
 
 謝さんは、3年前、わが吉原由香里5段(当時は梅沢姓)が三連覇中の女流棋聖を奪取して以来三冠をほぼ独占してきた強者である。
 
 (この写真はボクが由香里さんの6段昇段祝いの際に撮ったものです。エッセイ163をご覧ください)