昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

有名人(31)女の魅力(28)

2009-12-31 06:43:59 | 女の魅力
 <女の魅力28>

 昨日、いつもの通り、食事をしながら何となくテレビを眺めていた。
「女はバーゲン、バーゲン、何でもかんでもバーゲン、バーゲン・・・」
 

 舞台の上で金髪のオバサンがピアノを弾きながら、がなるように歌っている。
 バックで揃いのユニフォームを着た30人ほどのコーラス隊が呼応する。
 よく見るといずれもオバサンたちだ。
 

 観客席は超満員、しかもオバサンであふれている。

 歌っている方も聞いている方もノリノリでからだを揺すっている。
 たいへんな迫力だ。
「あなたがだいすき、だいすき、言えないけど・・・あなたがだいきらい、だいきらい、ちょっとだけうそだけど・・・」
 
 そのうち千人近い観客が立ち上がってじゃんけんを始める。
 勝ち残った人を相手にピアノのおばさんがインタビュー。
「ふん、ふん、家事、子育てたいへんだよね・・・だんなは文句言うわけじゃないけど、褒められたこともない・・・」
 聞いた内容を即興で歌にしてサービスする。
「ここまで生きてきてよかった。あなたが居てくれてよかった。そりゃいろいろあったわよ。皺の数だけ・・・」
 
 コンサートが終って、コーラスに参加したひとりがインタビューされている。
「主人にも聞いてもらいたかったので見てもらいました・・・」
 歌で伝える妻の気持ちに、旦那も「よかったです・・・」と感動している。
 そして夫婦で涙ぐんでいる。 ・・・いいね。

 ピアノのオバサンは今年52才のピアニスト秦万里子。
 ぼくは今までまったく知らなかった。
 今日も<秦万里子のコンサート>で全国各地を歩く。

 

 何がここまで世のオバサンたちを惹きつけるのか。
 コンサートの地元のオバサンたち30人ほどでそのとき限りのコーラス隊を結成して、彼女らに思いの丈を吐き出させるのもユニークだ。
 主婦の本音、涙ぐむほどのたくさんある愚痴を聞いてあげて、歌にして、「そうなのよね、そうなんだ・・・」とお互いに共鳴し合う。
「体験したことだからこそ、心の底から感銘できるのね・・・」
 
 秦万里子は国立音楽大学でピアノを専攻、アメリカのバークリー音楽学院に留学、帰国後結婚、双子の女の子を出産、子どもを育てながら音楽活動していた。
 その後、主婦の視点から作詞、作曲、弾き語りのスタイルでコンサート活動。
「今日は3時半に起きて、洗濯など主婦業をやってきたの・・・」
 忙しい活動の中でもちゃんと主婦している。
 主婦の半径5メートル以内の日常を取り上げ、これが主婦たちに受けて今年大ブレークした。

 彼女には、従来のプロ歌手に期待する<歌声とか、姿・形に魅力を感じる>というより別な魅力を感じる。
 つまり、<地に足のついたエネルギーいっぱいのパワー>と言ったらいいのか。
 <女キミマロ>と言われているようだが・・・。

 ただ、全国を一回りして中高年女性に一通りお目見えした後、今のままの<ありふれた日常の語り口>だけではどうかな?

 今年も今日で終わりです。
 ほぼ毎日このブログをアップできたことに感謝です。
 来年もまた、よろしく。

金沢便り(19)金澤城石川門

2009-12-27 06:34:06 | 金沢便り
 金沢の山ちゃんからの<金沢フォト便り>

 金澤城から庭園の兼六園への搦め手門、石川門櫓へは年に数回、一般公開される。
 ここから眺めると観光のシンボル写真とはちょっと異なった趣がある。

 石川門と櫓
 

 石川門櫓から三の丸広場と菱櫓
 

 石川門櫓 櫓の窓から
 

 石川門櫓塀の紅葉
 

 金澤城 城内散策
 聞き慣れない会話が飛び交う
 東洋からの観光客なのだろう
 近年 西洋からも多くなった

 白川郷から兼六園・金澤城は人気コースのひとつだと言う
 お城の建物は海外の人でも日本の人でも郷愁を感じる

 続櫓 橋爪門 観賞客
 

 続櫓 広場の桜葉紅葉
 

 菱櫓五十間長屋 観賞客
 

 続櫓 丸窓から もみじ
 

 金澤城内にある階段ですが、一段の高さが異なる
 昇ったところは三十三間長屋と呼ばれる武器倉庫
 敵が攻め込んできたら、一気に駆け上れない工夫と言うが・・・
 本当だろうか?

 段違い階段・三十三間長屋前
 

 ・・・金澤城って、門だけじゃん。
 平板な石川門の姿だけしかぼくの思い出には残っていなかった。
 しかし、こうしていろいろな角度から紹介してもらうと、訪ねてみたい奥深さを感じる・・・
 


三鷹通信(2)囲碁入門教室

2009-12-13 06:19:56 | 三鷹通信
 おかげさまでこのブログを開設して、今日で600日目を迎えました。
 みなさんから「見てるよ」とか、「面白かったよ」とか声をかけられ、コメントを頂き、また毎日の訪問者がえっ?こんなにという数字を示されると、ついつい脅迫観念のように今日もアップしなければと思いながら今日に至りました。

 なかなかテーマを探すのが至難ですが、それでも書き終えるとホッとして生きがいを感じる毎日です。
 
 今日は、最近とても感銘を受けた行事に参加いたしましたので、これを<みたか、見たか、三鷹>の<三鷹通信>として書いてみたいと思います。

 「今度三鷹第一小学校で子供たちの囲碁入門教室を開くことになったのでご協力願えませんでしょうか?」
 ・・・シニアの地域ビジネス参加のプラットフォーム・・・<シニアSOHO普及サロン・三鷹>でご一緒したAさんから声がかかりました。
 

 

 小松藤夫8段や大矢浩一9段の有名プロも参加されると言うので、どちらかというと興味本位で、人を教えるほどの棋力があるわけでもないのにぼくは補助指導員として参加しました。

 Aさんは、従来から第4小学校で<囲碁将棋オセロ>クラブ活動のお世話をされていらっしゃいます。
 また第1小学校では安全推進委員として地元小学校への支援活動をされていらっしゃいます。
 今回、第4小学校の校長が第1小学校の校長に転任されてきたのが縁で、第1小学校でも<囲碁クラブ>をということになったのだそうです。

 校長がPTA幹部、副校長など学内の意思統一を、Aさんがたまたまクルージングの旅で知り合った小松8段から紹介された日本棋院の普及事業部と交渉された結果、文化庁支援事業があることを知り、今回の実現に至ったとのことです。

 そして課外事業のクラブ活動を取り仕切る<スマイルクラブ>が事務的処理を担当、日本棋院からは小松8段と大矢9段を派遣頂き、ガイドブックや教材の提供も受け、Aさんほか計4名の補助指導員とともに開催の運びとなりました。

 当日は4年生から5年生まで、参加してみたいという生徒33人が集まりました。
 
「こんにちは!」
 思いのほかみんな礼儀正しく我々に挨拶すると、あっという間にみんな男女の区別なく自然の流れで席に着きそれぞれじゃれあったりしています。
 これだけの子どもたちに囲まれるとそのエネルギーに圧倒されそうです。

「近頃の子どもたちは飽きっぽいから大丈夫かな?」
「ほとんど囲碁なんか初めての子どもたちだし・・・」
 
 

 そんな心配もありましたが、「囲碁は簡単です。すぐ覚えられるゲームです」と真面目な小松プロ、「囲碁をやると頭がよくなりますよ」という明るい大矢プロの軽妙な掛け合い授業に子どもたちは引き込まれていきました。

 そして実際の対局は9路盤を使った簡易盤でしたが、次々と相手を代えて、喜々として打ち込んでいます。
 放課後の2時間以上脱落するものもなく、先生の講義そして実際の対局経験と、みんな生き生きとした姿に、プロの先生も予想外だったとおっしゃるほどでした。
 
「楽しい会をありがとうございました。これからも続けていきましょう」
 事務を担当された<スマイルクラブ>の会長でもある、まだ若くて明るく、魅力的なおかあさんPTA会長が挨拶されました。

「中国などは国家が後押ししていてすごいんです」とプロが言っていましたが、これを機会に日本も囲碁の裾野が広がるとうれしいな、そんな感動の一日でした。

 

金沢便り(18)日本元気劇場

2009-12-10 06:00:06 | 金沢便り
 何年ぶりかで従兄弟がやってきた。
「某メーカーの知的財産に対する目を見開かせてやって喜ばれているよ」
 もう退職して何年にもなるが、いまでも弁理士の仕事を依頼されて特許出願のお手伝いを何件も行ってると意気軒昂だ。

 そのうちNHKのスペシャルドラマ<坂の上の雲>が話題になる。
 

「今ごろ何でなんだ?」
 彼が言った。

 そこでぼくは持論を述べた。
「戦争に敗れ60年以上経つが、日本は物質的には平穏、豊かな生活を享受してきた。しかし、精神的には自虐的な、しかもアメリカのポチと揶揄される屈辱的な思いもしてきた」
「・・・」
「ところが、今年それが解き放たれる可能性が出てきたのだ・・・」
「・・・?」
「つまりアメリカのブッシュ前大統領が<力の論理>による世界政治のコントロールに失敗して、<調和>を訴えるオバマ新大統領が登場する画期的な出来事があった」
「・・・」
「まさに日本が登場すべき舞台が設えられたとも言える」
「・・・」
「歴史的に見て聖徳太子の<和の精神>にも見るごとく、日本は<調和>をもって旨とする国民なんだ」
「・・・」
「<坂の上の雲>は3年も前の企画だそうだから、そこを意識したものじゃないかも知れないが、まさに今こそ戦後自信を失っている日本人を蘇らせるピッタリのタイミングなんだよ」
「・・・」

 たまたま、金沢の山ちゃんからこのドラマのロケが行われたという加賀市の<日本元気劇場>の戦艦三笠の写真が送られてきた。
 ・・・こんな所がふるさとに存在していたなんて知らなかった・・・

 今から105年前、無名の小国であった日本を世界に知らしめ、近代国家として認めさせた日本海海戦。
 当時世界最大最強と言われたロシアバルチック艦隊を撃破した東郷船隊は日本の植民地化を阻止するとともに文明開化を急ぐ日本人に大きな自信と元気を与えてくれました。
 三笠は大日本帝国海軍の戦艦で、明治37年(1904)からの日露戦争では東郷平八郎連合艦隊司令官の旗艦を務めた・・・この地でロケが行われた。

 

 戦艦三笠、正面

 

 主砲(30センチ)

 

 甲板上の鎖

 

 甲板上の碇

 ・・・だからと言って武器を持って立ち上がれというわけではない・・・

 同じ山ちゃんから<動画で清水寺にエア参拝>というコンテンツを紹介いただきました。

 

 手を洗って、お賽銭をあげ、清水の舞台から平和な京都の絶景を楽しみましょう。 必見の価値あり。http://air-sampai.jp/



中欧旅行(32)

2009-12-09 05:49:13 | 中欧旅行
 コンサートを終えてホテルへ戻るバスの中、仏ちゃんはみんなにメモを配った。
 A4の用紙にぎっしりと蟻んこのような小さな文字が埋まっている。
 真ん中に<中欧5カ国満喫8日間(参加者38名様)>とある。
 8日間の旅日記が日ごとに囲われ、ちょっとしたイラストや花文字入りだ。

「へえ、すごい・・・」
「やるわね。よく書けてる・・・」
 あちこちから声が上がった。

「みなさんにはご配慮をいただきほんとうにありがとうございます。運転手さんともども感謝申しあげます」
 仏ちゃんはまず例の件に触れた。
「今日ですべての観光は終わり、明日は帰国するだけです。8日間で5カ国を周るという強行軍でお疲れでしょう。今晩と明日でゆっくりとお休みください」
 彼女は感傷を込めることなくさらっと言った。

「ところで、最後なのでお約束通りわたしのことを明かします。ツアーディレクター経験2年の25歳です。今回がヨーロッパ初体験です」
 みんなからえっ?うそ!ヨーロッパ初めて?と言われる。
 道を案内して先導する様子は自信満々で、とても彼女にとって始めての場所とは思えなかった。
 よほど事前の勉強あるいはチェックが出来ていたのだろう。
 みかけはさっぱりしてあっけらかんとしているようで、裏ではけっこう努力家なんだ。
 それは配布された旅日記を見ても分かる。

 占いによれば来年結婚するらしいです、と旅日記の最後に書いてあった。
 仏ちゃん、おめでとう。

 帰りの機内で仏ちゃんへの配慮をした築地オヤジと同席になった。
 彼は現役時代、お得意さま招待ツアーの案内役を仰せつかってツアー・ディレクターの大変さを身をもって体験したという。
 それに現在の彼女らの待遇面のことを知っているのでああいう提案をさせていただきましたとしみじみとした口調で語ってくれた。
 

 最後に余談をひとつ。
 最終日、ウイーン空港内でかなり時間があるので喫茶コーナーへ入った時のことだ。
 
 

 ユーロの残金と壁の料金表とにらめっこする。
 一番安いエスプレッソを二つ頼んだ。

 ところが、請求された料金は予定の倍。もちろん足りない。
「だってダブルと言ったでしょ?」
 受け付けた女の子の眉間にしわが寄っている。
 量をダブルにして二人分入れちゃったのだ。

「お金ないんです・・・」
 でも相手は両手を広げて処置なしという顔だ。

「日本円でもいいかしら」妻の機転で千円でOKになったが。
 ・・・たしかに、エスプレッソ・シングルでは何ほどもないよな・・・
 ぼくはコーヒーを前にしてつぶやいた。
 
 今回のいきあたりばったり、最後の最後までまで<赤ゲットの旅>だったことをを象徴するエピソードだった。

 ─了─ 
 
  

中欧旅行(31)

2009-12-08 05:00:54 | 中欧旅行
 夕食後コンサートホールへ。
 クロークへコートを預けて、らせん階段を上る。
 

 200人ほど収容のこじんまりしたホールだ。
 我々は後ろの席を指定され、2列に並んで座る。
 隣に中国人だろうか、別のツアーの一団が席を占める。

 前の席も地元客で徐々に埋まり、いよいよ開幕。
 司会者が口上を述べたあと、ピアノの女性を先頭に、ベース、チェロ、バイオリンが3人、クラリネットにフルートのメンバーが登場。

 

 室内管弦楽団だ。

 ゆったりと心に沁みるような弦の響きが会場を包み込む。
 8日間のあわただしい旅の疲れが癒されるようだ。
 眠気を誘われる。

 ぼくは高樹のぶ子さんとコンサートについてコメントを交わしたことを思い出していた。
「音楽を伴奏にして、譜めくりの美しい女性に気をとられていました・・・」
 ぼくのコメントに高樹さんはこう返してくれた。

「ピアノの楽譜をめくる若い女性に心を躍らせながら聴くピアノは、かしこまって拝聴するクラシックよりずっとカラダに染み込むと思います。聴覚だけでなく五感?で味わっているんですものね」と。
 そして、「わたしの最高の贅沢は、素晴らしい生演奏を聴きながらうたたねすることです!!」と。

 突然、めちゃかわいいバレリーナが登場、男性とカップルでバレーが披露される。
 そして貫禄十分なマダムのソプラノ、なんといっても細身だが野性味あふれる男性歌手のバリトンは圧巻だった。
(撮影禁止が残念だったが・・・)
 眠気なんか吹っ飛んでしまった。

 40分40分の開演の合間にロビーに出てワインやソフトドリンクを楽しむのも贅沢な趣向だった。
 
 ─続く─

中欧旅行(30)

2009-12-07 06:04:50 | 中欧旅行
 ザッハーの女性店員に聞いたら、トイレは外だと言う。
 外へ出たら左へ真っ直ぐ行って左へ曲がったら公衆トイレがあると言う。
 入り口にはまた行列ができていた。
 服部克久似のおじさんのカップルも並んでいる。
 あらっと目を交わし、会話もそこそこに外へ出る。

 ところがそれらしき所が見当たらない。
 ぼくが入ったのは?と探すが分からない。
 大型ブティックや、ホテルへ入ってみるがトイレの在り処が分からない。
 業を煮やして、妻が通りがかりの二人連れの女性に声をかけた。

「パブリック・トイレ?」
「そこを真っ直ぐ行って、右へ曲がるとUマークの標識があるからそこを降りるとトイレがありますよ」と答が返ってきた。
 Uマークは地下鉄の標識だった。
 
 

 下へ降りてWCの標識を見つける。
 中におばさんが座っているのが見える。
「有料だわ、いくらかしら?」
「20かそこらの小銭を出せばいいんじゃない」
 実際は50セントを取って、おばさんはドアまで親切に案内してくれたそうだ。

 地下鉄を出て、周囲を見ると改築中のシュテファン大聖堂の塔が見える。
 こんな所まで来たんだ。
 ちょうど手ごろな時間になったのでまたオペラ座のほうへ向う。
 ちょうど集合30分前、誰かがいるだろうと思っていたがまだ誰も戻ってきていない。
「時間を間違えたかな?」
「いや、そんなことない」
 石のブロックに座る。冷え込んできた。寒い。
 10分ほどしたらおばさんたちの一団が戻ってきた。
「私たちもザッハーで時間をつぶしていたのよ」
 仏ちゃん組もシュテファン大聖堂を見学したあと、我々と同じルートを辿って、
 ザッハーで仏ちゃんと分かれたという。

「一旦、ホテルへ戻って食事をした後、今回のツアー最後のハイライト、ウイーンコンサートがあります。ドレスアップの必要はありません。かえって浮いてしまいますから・・・」
 みんなが戻ってきたことを確認して仏ちゃんが演説した。

 

 ホテルの新しく与えられた部屋へ入ると、大きな果物籠が置いてある。
 リンゴ、オレンジ、ぶどう、キューイなど、With Compliments のカードとともに。

 ─続く─
 

中欧旅行(29)

2009-12-06 06:53:57 | 中欧旅行
 何とか、公衆トイレを探さねば。
 ウインドーショッピングする妻の後について行きながら、ぼくの目はあらぬ方を放浪していた。
 突然、目の前に青地にWCの字を記した標識が目に留まった。
 これだ!。
 
 

 その下に東京新橋の地下鉄の入り口のような口が開いている。

「ちょっとオシッコしてくる・・・」
 ぼくはその階段を降りかけた。
「大丈夫、そんなところ? 気をつけてよ!」
 妻が声をかけてきた。
 無料の公衆トイレだった。
 
 ぼくはやっと晴々した気持ちになり、絵葉書や民芸品を売っているお店のマダムをひやかして歩い。
 焼き栗を売っていたので買う。
 
 

 天津甘栗みたいに甘くはないが、イタリアのかたいやつより柔らかくて甘みがある。
 しかし、まだ2時間近く時間がある。
 通りの中央に置かれた円形の大きなベンチに座って焼き栗を食べながらいろんな人種の通行人を眺めていた。
 いつまでもそうしているわけにもいかないので、集合場所のオペラ座へは回り道となる方向へ歩き出した。

 観光馬車がたくさん屯している王宮の所へ通りかかった。
 
 

 13世紀以来いくたびの増改築が繰り返され、ハプスブルグ家の盛衰を見つめてきた威風堂々としたたたずまいだ。
 現在では多くの博物館が入っているという。
 ぼくたちには、最後に行こうと思っているカフェ<ザッハー>の分しか手持ち金が残っていないのでその前を素通りする。

 ぐるっと回ってオペラ座近くの、目指す<ザッハー>の前にたどり着いた。
 
 女学生らしき3人の白人が並んで待っている。
 彼女たちが入った後、高い椅子席にまたがる。
 

 となりの席で彼女たちがおいしそうなケーキを前に目を輝かせている。

 手持ちのユーロが少ない。ケーキ分は間に合いそうもないので、カフェラッテだけ頼む。

 

「ザッツオール?」と言われる。
 後で仏ちゃんから「えっ? ケーキ食べなかったんですか?あそこケーキで有名なのに・・・」と言われてしまった。

 しばらく時間をつぶしたら、今度は妻がオシッコをしたいと言い出した。

 ─続く─

 

中欧旅行(28)

2009-12-05 05:10:40 | 中欧旅行
 「みなさんにお願いがあるんですが・・・」
 築地オジサンがよく通る落ちついた声で再び言った。
「ツアーディレクターのHさんは若いながらもこれまでよくやっていただいていると思います。私もこの業界のことは聞いておりますが、思ったより給料とか、日当とか安くて、大変なんですね」
「・・・」
 何となく彼の言わんとしていることが分かってきた。
「それでいろいろお世話になったHさんに報いるため、みなさんにお志をいただければと思いまして。ユーロでも、円でもいくらでも結構です。もちろんされなくても結構です。後でバスの中で袋を回しますのでよろしくお願いします」

 なかなか手慣れたもんだ。街の世話役でもやってられるのだろうか。
 以前、イタリア旅行の時に、上野だったか商店街の江戸っ子おやじ連から同様の提案があったことを思い出した。
 中には出しゃばったことをと批判する向きもあるが、いかにも日本的な助け合いの精神が今でも生きているんだ。

 午後は自由行動でウイーン市内見物だ。
 もちろん事前準備なんかいっさいしていなかったぼくは仏ちゃんが引率するグループに参加するつもりだった。
 オペラ座を見学するコースもあったが、前に体験していたので選ばなかった。

 しかし、「じゃあ、適当にでかけましょう」という妻に引っ張られてのフリータイムとなった。
 今回は最初から最後まで妻主導だ。
「ともかく、シュテファン大聖堂目がけていきましょう」
 また戻ってくる国立オペラ座から歩行者専用道路のケルントナー通りを北へ向って歩き出す。
 

 

 ウイーン一の華やかなショッピング通りだ。
 人通りが多い。中でも乳母車を引いたり子ども連れが多い。
 白人や黒人、東洋人など観光客らしき人も多い。
 ブティックや、アクセサリーの店などを覗き、カラフルなナプキンやブックマークなどの小物を買う。

 シュテファン大聖堂は14世紀にハプスブルグ家のルドルフ4世によって、従来あったロマネスク様式の小さな寺院をゴシック様式の壮大な教会に建て替えられた。モザイク屋根が特徴的だ。
 
 

 高さ39メートルある。
 我々は外観だけ見てぶらぶらと歩いていたら、どこを歩いているのか分からなくなってきた。
 まだフリータイムの三分の一しか消化していない。

 急にオシッコがしたくなってきた。
 中華料理店でしてくればよかったと、観光よりそっちの方が気になりだす。
 
 ─続く─
   

中欧旅行(27)

2009-12-04 06:39:14 | 中欧旅行
「では、これからウイーンのトラム乗車を楽しみましょう」
 我々は黒ちゃんに別れを告げた後、仏ちゃんに連れられてぞろぞろと街中を歩く。
「あっ! ちょうど来ました」
 停留所に電車が近づいてくる。

 

 ひとりひとり手渡された切符を車内の刻印機に通してぞろぞろと乗り込む。
 我々が乗り込むと超満員状態になった。
 外もよく楽しめないまま、1区間か、2区間、日本で満員バスに乗っている感覚そのまま、あっという間に初のヨーロッパトラム試乗は終ってしまった。

 市立公園に入りバイオリンを弾くヨハンシュトラウスの金色の像の前で交互に記念撮影をする。

 

「今日の昼食は中華料理ですって」
 今まで、ずっと野菜スープと肉とジャガイモに辟易としていたので、みんな歓声を上げる。
 どこのツアーも最後は中華と決めている理由が分かる。

 

「このツアーに決めたのは歴史の好きなうちの奥さんのセレクトなんですよ」
 沼津から見えたおじさんの所もうちと同じだ。
「私も今回のツアーで歴史に興味を持ちました。ハプスブルグ家の政略結婚による領地拡大政策なんて興味津々ですよね。それにマリア・テレジアみたいにいずこも奥方が強いですな」 
 おじさんはハッハと笑う。
「私が歴史に興味を持ったのは中学の歴史の先生のおかげなんですよ」
 奥方がからだを乗り出してきた。
「親鸞をお勉強した時、ほら、親鸞って字がむずかしいでしょう。鸞という字は糸しい糸しいと言う鳥と覚えなさいなんて、教え方がユニークなんです・・・」

 おじさんは退職後大きな庭で菜園を楽しんでいるそうだ。
 すべて奥方の差配の下自分は労働者ですなんて言いながら結構楽しそう。

 中華慮李も最後の杏仁豆腐が出て、終わりに近づいてきた。
 新婚カップルが午後の自由行動に向けて腰を上げた。
 すると、築地オヤジも立ち上がり、彼らと話し合って向き直ると言った。

「実はみなさんにご相談があるんですが・・・」

 ─続く─