昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(227)ガーデニングフェスタ2017

2017-10-30 06:04:53 | 三鷹通信
 ボクの撮った緑のお気に入りスポット
 
 三鷹市「花と緑のまちづくり」ガーデニングフェスタ2017に応募しました。
  
 元気創造プラザにパネル展示されました。
  
 
 立派な掲載冊子
 
 
 記念プレート
 
 そして造園用手袋を頂きました。    
 

 昨夜夢枕に、ボクの大好きなおばあちゃんが現れて言いました。
 
「あなたの好きなことは何でも一生懸命やりなさい!」と。




三鷹通信(226)第25回読書ミーティング(7)

2017-10-29 04:31:57 | 三鷹通信
 最後に、H氏推薦の有本香「小池劇場が日本を滅ぼす」
 
 豊洲移転問題、東京五輪パラリンピック見直し、内実のない小池劇場・・・。
 ないない尽くしのワイドショー政治、パフォーマンスの女王小池百合子と日本は心中するのか?
 ・・・ビジョン・政策がなく、正当な手続きがなく、ファクトに基くロジックがない。
 推薦者H氏は元お役人だっただけに、小池百合子都知事の無策ぶりに我慢ができないようだ。

 緑の党立ち上げのキーマンだった若狭勝氏が小池さんの地盤から立候補して落選したのは、今回の総選挙「希望の党」の象徴的出来事だった。
 
 小池さんが新進党の前原代表をたぶらかして<希望の党>に囲い込むところまではよかった。
 が、彼女がなまじ<政策の踏み絵>なんか作って、一部の人を<排除>したのがまずかった。  
 総選挙の結果は、排除した仲間が立ち上げた<立憲民主党>に足元をすくわれる結果となり、惨敗。
 
 ご本人は結果を見届ける前にフランス、パリへ逃亡。
 
 
 国際会議で元ケネディ駐日大使やパリ市長と「鉄の天井がありました・・・」なんて語り合っている。
 たしかに、外国の首脳と丁々発止と会話できる発信力は彼女の魅力ではあるが・・・。

 帰国後の<希望の党>両院懇談会では引責辞任を求める声も多かったが、ご本人は創業の責任があると、代表の地位にはとどまるつもりのようだ。
 
 圧勝した自民党の安倍総理は会見で<謙虚>という言葉を繰り返し使っている。
  
 
 聖書の中に「高ぶるものは退けられ、へりくだる者に恵みが注がれる」とある。
 小池都知事には日本を代表する女性政治家の資質はあると思う。
 今回の結果を重大に受け止め、自身に足らざるものを自覚し、反省の日々を送り、都政に専念されることを願うものである。

 昨日は第17回多摩碁慶会が三鷹市駅前コミセンで開催され、A組10名B組10名、計20名で3回勝負で争われました。
 
 幸いにも小生はB組の第2位となり、オーストラリアワインを頂きました。

 

三鷹通信(225)市民大学・哲学コース(23)

2017-10-28 06:35:31 | 三鷹通信
 昨日の講演は元武蔵野大学教授、小松奈美子さんの「生命倫理について考える─私自身の体験に基づいて」
  
 何しろ、ご自身の体験をもとにされた講義は圧巻でした。
 *<長男の入院体験>
  1987年4月長男(16歳、高校2年生)の突如の大吐血。
  内科に入院。付きっきりで看護、病院から何の説明もなし。
  たまたまその蒼白な患者の状態を目にした外科医の進言で外科に。
  重体が判明、直ちに手術。       
  3~4時間の手術ということだったが、実際は8時間かかって、膿盆のなかの大量の内臓に驚愕!
  十二指腸潰瘍との診断。
  事前に保護者の承認なしに、癌でもないのに再発の恐れがあるということで、胃の3分の2を切除。
  2か月の入院、退院後は予後の悪さとの戦いでした。
  
 ご本人は1966年お茶の水女子大学哲学科卒業後、一時高校教師となったが、育児のために10年間専業主婦生活。
 1980年には非常勤の高校教師となる。1987年に筑波大学院に進学。当時、長男は高校2年、娘は中学3年だった。
 そして1年後長男の大量吐血事件。
 さらに、夫がうつ病になる。
 娘は誰からも愛されていないと家庭内暴力を振るうようになる。
 (患者や家族の気持ちを分かってほしい、患者に真実を知らせてほしい、と痛切に感じた)
 
 *<夫の死>
  ご自身は退院予後の長男、そしてうつ病の夫の面倒を見ながらも、筑波大学院修了後看護専門学校・看護大学等の非常勤講師などを経て、2004年東日本国際大学教授となる。
 2007年1月初旬、大学教師で69歳になった夫はストレスによるうつ病のため「死にたい」と切望、2回首つり自殺を試みるも未遂。
 某精神病院に入院。2008年8月に転院、抗精神病薬の過剰投与、重症の誤嚥性肺炎となり、一般病院の内科に緊急搬送。
 ICUに1か月、点滴による栄養補給。一般病棟に移って胃ろうを勧められる。
 寝たきり、オムツ、認知症の傾向があり身体拘束、認知症の重症化。
 2009年4月、特別養護老人ホームに入所。ほとんどベッド上で過ごす。発語の極端な現象、体力低下、頻繁な誤嚥により入院。
 2013年11月在宅介護開始。
 「コーヒーが飲みたい、うま~い」「カステラが食べたい」
 日経新聞を住みから隅まで読んでコメントを出すまでになる。
 翌年1月8日頃より身体的衰弱が顕著になり、呼吸が浅くなる。
 2014年1月15日、自宅にて逝去。79歳9か月で老衰。
 (死の直前は目を輝かせて上の方に向かって手両手を大きく伸ばした。クリスチャンだったので<神>を意識したのかも)
  ご自身はその間も2008年~2013年武蔵野大学教授として定年まで勤め上げた。

 *<娘の死>
  2014年5月末に、夫の死後の諸手続きが終えたころ、既に結婚していた娘から「とても体調が悪いので来てほしい」との電話。
  すっかりやせ細った娘の姿。直ちに某病院へ入院。
  41歳、スキルス胃がん・末期がんの告知。
  6月7日本人が在宅を希望。7月1日から13日まで在宅介護。
  7月3日キリスト教に病床洗礼。
  7月13日に本人の希望で某ホスピスに入所。8月15日10時半ごろモルヒネ投与、11時半ごろ呼吸停止。
  (42歳1か月、遺児長女2歳10か月、次女1歳5が月)

  ご本人は壮絶な人生を送るうちに、病院の現状、介護の現状、医療倫理、生命倫理に思いを馳せ、幼い孫たちの面倒を見ながらも著作に、講演にと今も活躍されている。
 
 
 さらに、日本では初めての<がん告知>で有名になったテレビアナウンサー<逸見政孝氏のDVD)の映像を使って今回の講演をドラマチックに盛り上げた。
 
   
 「1993年9月6日「わたしが今冒されている病気の名前は癌です」とテレビで告知。
 生命倫理の発祥地、アメリカでは1970年代の半ばには、がん告知、インフォームドコンセントは100%行われていたが、日本ではこの会見は衝撃的だった。
 「戦いに行ってきます」「生還して来ましたと言えればいいな」と言っていたが遂に12月25日48歳の命を閉じた。

 さらに、感銘を受けた作品を挙げられた。
 1920年石飛幸三「平穏死のすすめ」
 
 中村仁一「大往生したけりゃ医療とかかわるな」
 
 萬田緑平「穏やかな死に医療はいらない」
 
 これらの著作に出会って、ご自身の医療に関して対応すべきものが見えた。
 また、
 遠藤周作「人生に何ひとつ無駄なものはない」
 
 五木寛之「ただ生きていく、それだけでスバラシイ」 
 
 これらの著作からは生きていくための指針、キリスト教とか仏教とかの宗教の力を感じさせられた。

 ボクは敢えて質問させていただいた。
「ご自身のご体験に基づくお話は、ボク自身、父母、そして難病を抱えて生まれた孫娘のことも重ね合わせ涙しました。
ボクはかなり著名な外科医と懇意にしていて、本音を聞くことがある。『70歳を超えたら手術はできるだけ控えた方がいいね』と、『薬はできるだけ飲まない方がいい』と、本音では人間の自然治癒力とか倫理的な思考をお持ちなのだが、やってることは手術、手術と違う方向を向いている。
 話を拡大して恐縮ですが、現代の医療などの発達は、科学の力、経済の力に負うところが多い。ところが男主導で進んできた現代社会にどうもひずみが出ているようだ。
 イケイケドンドンで進歩してきた科学は人類を滅ぼしかねない核兵器を開発してしまったし、グローバリズムという賭博的経済により国家財政が危機に瀕している。医療でも遺伝子治療、人工臓器など最先端医療が倫理に叶うか問題となっている。
 もともと人類歴史学的に見ると、<男は女の走り使いでしかなく>、イケイケドンドンでその役割を果たしてきた男の弊害のツケこのところがあからさまになってきたのでは?
 政治にその弊害を取り除く役割があるのだが、自分ファーストのトランプ、習近平、プーチンなどの指導者を見ていると危険極まりない。
 そろそろ政治のリーダーを男から母性の女性に変えるべき時が来たのでは?
 特に先の大戦の反省から平和な世界を目指している日本の役割が期待される。適切な女性リーダーを育てなければ」と。

 先生曰く「たしかに男は格好良く力強いようだが、もろくもある。一旦事が起きると頭だけで考えるから右往左往してしまう。
 頭で考えるだけで足が地に着いていない。一方女性はどんと踏ん張れるという特徴がありますね」と。
 みなさん、いかがお考えですか?

 
 
 
   



三鷹通信(224)第25回読書ミーティング(6)

2017-10-27 03:28:03 | 三鷹通信
 Aさんの推薦本は、ご自身の「チャレンジ・鉄道一人旅」
 
 <Aさんの自己紹介>
 *旅行専門誌『トラベルジャーナル』元記者
 *鉄道ライター『JR全駅・全車両基地』『日本全国! 新幹線をとことん楽しむ本』など
 *IGR銀河ファンクラブ事務局
 *江東区文化観光ガイド
 *女性の鉄道ファン「鉄子}

 推薦本(夏コミケで配ったもの)をテキストに「自由旅行を自分で作って旅立とう」の講座を開く。
  ・・・鉄道主体の旅行を、自分で計画・手配・実行できるようになること・・・
  ・・・初心者は驚くべきところでつまづいている・・・
 <集合場所だけに行くツアー>なんてのがあるのだ!
 
 クラブツーリズムの一人旅シリーズで4900円。
 (一人旅はしたいが、このレベルの人が多い)

 <講座>
 第1回 ①一人旅は何が不安?(迷う、分からない要因を出し、潰していく)
    ②PC・スマホを利用しよう。(重い時刻表、ガイド本いらず、旅のお守りとなる)        
 第2回③旅の方向性を決め、下調べ。(どこへ、どう行く? 具体的な旅プラン)
    ④切符の手配。(買う場所、買い方から)
 第3回⑤列車に乗る。乗り換える。(乗り換えできる=一人旅できるということ)
    ⑥現地の歩き方と乗り物(都市とは違う、地方の歩き方のコツ)
 第4回⑦宿の取り方(初心者「あの宿ステキ」で選ぶ罠)
    ⑧荷物のパッキング、便利グッズ。
    (初心者「車付きカート」がダメなわけ)
 第5回⑨トラブル対処、そして質疑応答。

 各回後半では旅の実例から学ぶ。講師の旅行体験を紹介。
 *18きっぷの旅
  
  (幼い頃の夏休みを思い出す旅)
 *観光列車の旅(関東の気楽な観光列車を楽しむ)
 *新幹線+都市旅(無予定で都会の気まま散歩)
 *フリーきっぷの旅
  
  (広域で愉しめるお得な旅)
 *地方私鉄の旅(通勤用路線でぶら~り旅)
 *聖地巡礼、パワースポットの旅など
  
 
  旅は楽しい想い出づくり。ひとりでも出かけよう!



三鷹通信(223)読書ミーティング(5)

2017-10-26 06:22:45 | 三鷹通信
 今回はボクが推薦した 佐伯啓思「貨幣と欲望」
  2000年、リーマンショックより8年前に、世界経済、特に金融経済の破綻を予見するかのように出された名著。
 それに現在のグローバリズムの潮流を批判する補論をつけて2013年文庫化された。

 <欲望と貨幣の変化>
 本来、<欲望>は衣食住が足りることであった。物々交換に始まり、遠隔地の人々とのモノやサービスとの交換の便宜などのために<貨幣>が開発された。<貨幣>は手段に過ぎなかった。
 ところが、現在は限りない<欲望>を充たすために、<貨幣>自身が価値を上げさせたり、資産を産み増やす仕組みが生まれた。
 
 (為替、株トレード、金融商品など)
 生産やサービスの代価であった<貨幣>が独り歩きし出し、それ自体を扱うヘッジファンドなどの投資家が国境を越えて、しかもAIを駆使したロボットトレーダーを活用して金儲けする時代に経済が変質している。
 
 結果として4%の人たちに地上の大半の富が偏在する事態となっている。
 
 おまけにそれら富裕層は活動を国の規制を超えてグローバルに展開、納税の義務を回避する手段を講じている。
 
 その<貨幣>は政治にも影響を与えている。
 
 グローバリズム、資本主義、民主主義が人間を幸福にするという神話が崩壊しつつある。

 哲学者ハイデッカーは、<大地>と<世界>という言葉を使って象徴的に現代を説明する。
 
 「<大地>は<世界>という空け開いたものを欠くことはできない。他方もし、<世界>が全ての本質的な命運を主催している広がりの軌跡として、自ら決定されたものの上に創基すべきであるならば、<世界>は<大地>を離れて浮動することはできない」
 我々人類は、限りない<欲望>をもとに果てしなく進化する道を歩み続けているが、それはあくまでも限られた<大地>、つまり地球という自然に逆らうことはできないんだよ、ということだ。
 
 今日の資本主義の内的危機とは、分裂症的な方向へなだれを打つかのように向かっている点にある。
 ハイデッカーによれば、
「<世界>は<大地>の上に自らを空け開くことによって、それは<大地>と抗争するのであるということであり、それを指し示すのが<芸術作品>に他ならない」
 
 つまり、我々社会の基層をなす<文化>についての共通了解と、それに基づく政治的構想力こそが今求められている。

 ボク自身のわずかな余生を考えた場合、未来を引き継ぐ少年少女のためにそのことを伝える義務があると痛感しているこの頃である。
 具体的には「レロレロ姫の警告」の続編を世に出すことである。

 
  

  
       









三鷹通信(222)第25回読書ミーティング(4)

2017-10-25 04:19:12 | 三鷹通信
  「カズオ・イシグロの作品」(3)
 「忘れられた巨人」
  
 時代は、ブリトン人を率いてサクソン人の侵攻を撃退した伝説の人「アーサー王」が亡くなってから少し経つ、5~6世紀のことで、舞台はブリテン島である。
  
 物忘れの霧と噂される奇妙な霧がその島を覆いつくしていた。
 その霧は雌竜が吐く息らしく、その霧のせいで島の人々は過去のことを断片的にしか覚えていなかったり、思い出せないでいた。
 ブリトン人の老夫婦アクセルとベアトリクスも例外ではなかった。
 なぜ息子が出て行ってしまったのか、どこで暮らしているのかもよく思い出せないまま息子を訪ねる旅に出る。
 途中、サクソン人の若い戦士や竜退治を唱えるアーサー王の老騎士、高徳の僧・・・様々な人に出会い、時には命の危機にさらされながらも老夫婦は互いを気づかい進んでいく。
 最後に霧が晴れ、記憶が蘇り、ベアトリクスが不実な行いをした過去が明かされ、その影響で息子は家を出て、その後流行病ですでに亡くなっていることも明かされる。
 最後は、これは老夫婦の死への旅路だったことを暗示して物語は終わる。

 <産経新聞の書評>
「どんな国の歴史にも光り輝く思い出と一緒に、<忘れ去られた巨人>が埋まっている。日本も含めて世界各地で、いま巨人が動き出しているのではないか。現実と重ねずにはいられない生々しいことがある」

 *「カズオ・イシグロ作品の名翻訳家・土屋政雄」
  <日の名残り>、<わたしを離さないで>。そして<忘れられた巨人>は土屋政雄の名訳と言われている。
  彼がイシグロ作品に出合ったのには意外なエピソードがあった。
   
 (講演会でのイシグロ氏と土屋氏)
  1989年、土屋さんは知人のパーティーの福引で偶然フィンランド旅行の機会を得た。
  そのフィンランドで、当時の日本では手に入らなかった無修正の<PLAYBOY>を買い求めようとして・・・、最後の瞬間に恥ずかしくなって、思わず隣にならんでいた<NewsWeek>を買ってしまった。たまたまその号の書評に<日の名残り>が載っていたんです。その書評を読んで、私もいつかはこういう本を翻訳してみたいなと思いましたね。・・・旅行から帰って数日後、中央公論社からそのオファーの電話があったときは、何か運命的なものを感じました。・・・たまたま予定していた飛田茂雄さんの都合が悪くて自分にまわってきたというわけで・・・」

 ・・・土屋さんの翻訳文はすっと頭の中に日本語が入り、情景がうかんでくるキレイな文章である。・・・
   





 

三鷹通信(221)第25回読書ミーティング(3)

2017-10-24 04:59:05 | 三鷹通信
 「カズオ・イシグロの作品」(2)

 2005年世界のベストセラーになった代表作「わたしを離さないで」
 
 自他ともに認める優秀な介護人キャシーは、提供者と呼ばれる人々を世話している。
 彼女の育ったヘールシャムの仲間も提供者だ。
 共に青春の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。
 図画工作に極端に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度。
 そしてキャシーと愛する人々がたどった数奇で皮肉な運命。
 彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく。       
 英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作「日の名残り」を凌駕すると評されたイシグロ文学の最高到達点。

 
 田園の中にひっそりとたたずむこの施設・学校で3人は育った。
 何故この学校にいるかも知らず・・・。
 「本校の生徒は特別です!」
 「あなたたちの人生は決められています!」
 「ある(目的)のために生まれたのです!」
 その運命は見知らぬ誰かのために自らの臓器を提供すること。
 摘出手術が終われば死ぬだけのクローンなのだ。
 18歳になって、彼らは恋に落ちる。
 それが本物の恋ならば、わずかな間だが外出する特別許可が下りる。
 その結末は・・・。
「あなたたちに心があるなんて・・・」

 世界と繋がっているという幻想に隠された深淵を、偉大な感情力で明るみにしたイシグロの一連の小説を体現する代表作。

 生物学者、福岡伸一氏がこの作品に関して興味深い解説をされているので紹介します。
「ここでは生命操作の問題を取り上げているが、近代科学のことを批判することではなく、他のイシグロの作品と同様、ここで扱われるのは<記憶>の問題です」
「アイデンティティとして私たちを支え、私を私たらしめているのは<記憶>だとはいえないでしょうか」
 
「もちろん<記憶>も時間とともに変化します。私たちの体が最終的にはエントロピー増大の法則に屈し、崩壊せざるを得ないように<記憶>も儚いものです。そのつど更新され、変容していきます。けれど、人が亡くなったとき、その<記憶>はちりじりになって別の人々の<記憶>のなかに宿り、時を超えて生き続けていくことができる・・・」
「その不確かさにもかかわらず、ときには何にも増してそれが人を支えるということを、イシグロは巧みに物語にしてみせるのです」

 福岡氏は日本でイシグロ氏と面会したことがあるそうです。
「<記憶>を問う私に、イシグロ氏はこの小説を執筆中にジョージ・ガーシュインの曲を思い出したことぉ話してくれました」
 
 ・・・誰もそれを私から奪い去ることはできない・・・
「そうしてこう言ったのです。<記憶>は、<死>に対する部分的な勝利なのです」と。

 
 ─続く─






三鷹通信(220)第25回読書ミーティング(2)

2017-10-23 05:20:55 | 三鷹通信
 「カズオ・イシグロの作品」

 デビュー作「遠い山なみの光」
  
 故国を去り英国に住む悦子は、娘の自殺に直面し、喪失感のなかで自らの来し方に想いを馳せる。
 戦後間もない長崎で悦子はある母娘に会った。あてにならない男に未来を託そうとする母親と、不気味な幻影に怯える娘は悦子の不安をかきたてた。
 だが、あの頃は誰もが傷つき、何とか立ち上がろうと懸命だったのだ。
 淡く微かな光を求めて生きる人々の姿を端正に描くデビュー作。
 (王立文学協会賞受賞作)
 *戦後間もない長崎の日常風景が、小津映画を観るように淡々と描かれている。
 *来年こそは日本に帰ると言われ続け、ついに叶うことのなかったという記憶が書かせた作品。

 カズオ・イシグロ作品の特徴は<記憶>
 この作品のなかでも「記憶というものは、たしかに当てにならないものだ。思い出すときの事情しだいで、ひどく彩が変わってしまう事は珍しくなくて、わたしが語ってきた思い出の中にも、そういうところがあるあるにちがいない」と書いていて、<記憶>というものの頼りなさ、曖昧さを明示している。
 悦子がなぜ英国に行く決心をしたのか、おそらくその原因だった前夫との別れ、さらに日本で産み自殺した娘と自分の関係、これらが描かれていない。
 描かれているのは、英国に住む今の悦子と長崎で出合った佐知子母娘との想い出のみ。
 ただ、自身の娘の自殺がそこに重くのしかかったことで、悦子は長崎の想い出に浸ることになる。
 しかし、佐知子の存在が<対表現>としての悦子だったのかもしれない。
 (悦子の想いはイシグロの想いそのままかもしれない・・・)
 既にこの作品に彼の描こうとしているテーマ<記憶>が現れている。

 「日の名残り」 
 品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。
 美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。
 長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々── 
 過ぎ去りし思い出は輝きを増して胸の中で生き続ける。 
 失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ。
 (英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作)

 作家、丸谷才一氏は「イギリスの挽歌」と題して、イシグロは大英帝国の栄光が失せた今日のイギリスを風刺している。ただし、温和に優しく、静かな、それは過去のイギリスの讃嘆ではないかと思われるほどだ、と評している。
  
 *ボクは、マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」を思い出した。

  南北戦争という風と共に、当時絶頂にあったアメリカ南部白人貴族文化社会が消え去った。・・・。
  主人公スカーレット・オハラの想いが、「日の名残り」の執事の想いに重なる。


  ─続く─
 

     







三鷹通信(219)第25回読書ミーティング(1)

2017-10-22 05:48:06 | 三鷹通信
 現役編集者が主宰する第25回読書ミーティングが、昨日三鷹市民協働センターで開催された。
 冷たい雨の降る中、10人が集まった。9か月の身重のKさんが参加されたのには感激した。

 最初は講師推薦のベストセラーとして、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロが採り上げられた。
 
 1954年長崎県で生まれた日系イギリス人の小説家でロンドン在住。
 5歳まで長崎市に住まい、当時幼稚園の担任田中さんによれば、絵本をよく読んでいたのが特に印象に残っているそうだ。
 1960年、父親石黒鎭雄さんが英国立海洋研究所所長ジョージ・ディーコンの招きで渡英、北海で油田調査をすることになり、一家でサリー州ギルフォードに移住、現地の小学校に通う。
 1978年にケント大学英文科、1980年にはイースト・アングリア大学大学院創作学科にて作家マルカム・ブラッドベリの指導を受け、小説を書き始めた。
 卒業後に一時ミュージシャンを目指すも、文学者に進路を転じた。

 1982年に「遠い山なみの光」でデビュー。
 1989年に長編小説「日の名残り」でイギリス最高の文学賞ブッカー賞を受賞している。
 
 そして今回ノーベル文学賞を受賞した。
 
 <早川書房が邦訳独占契約>
 「遠い山なみの光」「日の名残り」の文庫化から早川書房が邦訳独占契約をすることになった。
 二代目の早川浩さんが創業社長の命で、翻訳したい有望作家の発掘のために米英を訪問。カズオ・イシグロを発見した。
 
 個人的な親交も深く、2015年ロンドンで専門演劇を専攻した息子、三代目の仲人をカズオ・イシグロ氏に頼んでいる。
 今回のノーベル文学賞の受賞には涙したそうだ。
 
 なお、「わたしを離さないで」は2014年ホリプロの企画制作で舞台化。
 
 2016年1月TBS{金曜ドラマ」で主演綾瀬はるかでドラマ化されている。
 
 いずれも、ボクはカズオ・イシグロの名前も知らなかった。
 それに引き換え、S講師は当初から彼に着目、イシグロの作品を数冊も持参。さすが、と敬意!
 
 ノーベル財団は、公式には出生地で分類する方針を採っているので、カズオ。イシグロへの授賞は川端康成、大江健三郎に次ぐ三人目の日本作家への栄誉として記録される。
 受賞直後のインタビューで彼は語っている。
「私はイギリス育ちだが、物の見方、芸術的な感性はやはり日本が影響している。親は日本人で、家では日本語が話されていた。誰もがそうであるように、親の目を通して世界を見ていた」
「川端さん、大江さんの足跡に連なることに感謝している」

 そして「偉大な作家に思いを馳せれば、真っ先に村上春樹さんが浮かんでくる」とも語っている。
 (早川浩氏から早川書房の地下にあるレストランで二人は個人的に紹介され、意気投合し、ジャズやジョギングの話で盛り上がった仲の村上春樹氏に先んじて受賞したことを気遣っての発言だろうか・・・)
「村上春樹さんも大好きだが、イシグロは我々英国人にとって偉大な作家」というのが、イギリスの本好きの多数意見であることが新聞で紹介されている。
 
 いつも有力候補になる村上春樹が<別格>の理由は?
 英国圏のみならず50数ヵ国語に翻訳されている村上春樹は「自分のことが書かれている」と世界中に評価される特別の作家であることは間違いない。
 しかし、普遍性はあるが個別の問題を突き詰めないところがノーベル賞に向かないのだろうか?

 明日はカズオ・イシグロの主要作品について・・・
 
  
  






三鷹通信(218)米朝戦争は起こるか?(Fサロン)

2017-10-21 10:01:19 | 三鷹通信
 昨日はFサロンに元共同通信論説副委員長の伊藤力司氏を講師にお迎えして、「米朝戦争は起こるか? 多分起こるまい」と題した講演を拝聴した。
 
 トランプと金正恩は凄まじい口喧嘩の「チキンレース」をしているが、双方とも実戦の覚悟はない。
 トランプの主要スタッフはいずれも退役将校で、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争など不名誉な戦争に参加した悲痛な体験者である。
 核戦争になりかねない米朝戦争をやる気はない。
 金正恩も戦争になったら北朝鮮が破滅することを十分承知している。
 北の核兵器はせいぜい20~30発。対する米は3000発以上。差は赤ん坊と大人の差があることを金正恩もわきまえている。
 米のシンクタンク「38ノース」によれば、 
 北との境界線から韓国人口の大半が住むソウルまで50kmあまり、境界線上に設置された数千台の長距離砲によって「火の海」になり、100万人単位の犠牲者の恐れがある。
 米朝間には軍事ホットラインがないので、偶発衝突が誤解を拡大する恐れがあるが・・・と。

 しかし、ボクが思うに、仮に偶発事故が起きたとしても双方とも大戦に拡大させることはしないと思う。
 今、最大の危機は金正恩の頭の内である。
 仮に中国やロシアが徹底的に圧力をかけることになったら、北の国民生活が破綻し国内をまとめ切れないだろうことは予測に難くない。
 先に述べたようにロシアに縋ることにならざるを得ないかもしれない。
 問題は中国の対応である。ロシアの意のままにさせることを見過ごすわけがない。
 現在は国境に朝鮮族が生活していて、彼らがなにがしかの物資の流通している現状を見逃しているはずだ。
 今まで、中国共産党大会を控えて抑制気味だった中国がこれからどう出るかがカギとなるはずだ。

 <好奇心コーナー> 
 
 中国の共産党大会が開幕した。
 
 習近平は自身が主導する「新時代の特色ある中国の社会主義思想」を高らかに宣言した。
 
 
 国有企業や国民の貧富の格差など問題点は多々あるが、経済改革などの面で目を見張る成果を挙げている点に着目しなければならない。
   
 新しい経済システムへの投資が、若い世代を巻き込んで着実に伸びているのだ。

 習近平は「欧米や日本の先進国家では統制の効かない<民主主義>が破綻している。今こそ我らが<改革社会主義の新モデル>を見せつけなければならない」と豪語している。
 周辺のアジア小国に少なからず影響を与えかねない。
 中国と決別したはずの北朝鮮の金正恩も、中国共産党大会に祝電を送っている。
 
 北にとって中国は相変わらず無視できない隣国の大国なのだ。

 「習近平思想」を築く。
 
 「デジタル・レーニン主義」
 ネットを使って共産党一党支配。しかも、これまでの集団指導体制ではなく一人の指導者が支配。
 当面は後継者も置かない。今後5年間でさらに習体制を固め、さらにその先「新時代の強国中国」の完成を目指す。
 バブリーな経済政策によって、国内の不平分子も懐柔出来るとみている。